弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人岩沢誠、同橘精三の上告理由について。
 記録上認められるところによれば、被上告人らは、原審において、本件土地が登
記簿上訴外Dの所有名義とされたことは上告人と同訴外人との間の通謀による虚偽
の意思表示に基づくものであるから、上告人において、その無効であることを善意
の譲受人である被上告人B1および同B2に対抗しえないものである旨の抗弁を提
出したところ、第二回差戻前の原審の判決は、上告人と同訴外人との間に譲渡を仮
装した事実が認められないとして、右抗弁を排斥したが、第二回上告審判決は、原
判決の認定した事実によれば、民法九四条二項の法意に照らし、上告人は同訴外人
が本件土地の所有権を取得しなかつたことをもつて善意の第三者に対抗しえないも
のと解すべきであるから、被上告人B1および同B2が右にいわゆる善意の第三者
にあたるか否かを審理判断することなく被上告人らの右抗弁を排斥したことは違法
であると判示して、原判決を破棄し、事件を原審に差し戻したものである。しかる
に、差戻後の原審は、上告人の代理人である訴外Dが本人のためにすることを示さ
ないで自己を買主として訴外Eと売買契約を締結したため自ら本件土地の所有権を
取得したのであるから、右訴外Dの相続人である被上告人B3が、上告人にこれを
移転すべき義務を履行することなく、被上告人B1に本件土地を売り渡してその登
記を経由した結果は、二重売買における第二の買主に所有権移転登記がなされた場
合と同一の法理により、上告人は所有権の取得をもつて被上告人B1および同B2
に対抗しえなくなつたものである旨、また、上告人主張の時効取得も登記なくして
右被上告人らに対抗しえないものである旨を判示し、通謀虚偽表示を主張する前示
被上告人らの抗弁については判断することなく、上告人の請求を棄却すべきものと
したのである。
 かかる場合に、右上告審判決の判断が差戻を受けた原裁判所を拘束する効力は、
右の破棄の理由となつた範囲でのみ、すなわち、同一の確定事実を前提とするかぎ
り、被上告人B1および同B2が善意であることが認められるならば、民法九四条
二項の類推適用を否定することは許されないという限度でのみ、生ずるものと解す
べきである。したがつて、差戻後の原裁判所は、差戻前の審理に引続いてなお事件
全般にわたつて事実の審理をなしうることは当然であるが、上告審判決が破棄理由
の基礎として用いた確定事実関係についても、その事実の確定自体の当否は上告審
の判断を経ているものではなく、また、訴の本案たる事実に関する判断が民訴法四
〇七条二項但書にいう「事実上の判断」に含まれるものともいえない(当裁判所昭
和三五年(オ)第五七一号同三六年一一月二八日第三小法廷判決、民集一五巻一〇
号二五九三頁参照)ため、何ら拘束力は生じていないと解されるのであるから、原
審が再度の審理によつて差戻前と異なる事実を認定することを妨げられるものでは
なく、その場合には、上告審の破棄理由たる判断と異なる法規の適用を行なう結果
となつても、違法とされるものではない。
 さらに、右のとおり、上告審の破棄理由たる判断は、同一確定事実については民
法九四条二項の類推適用を否定しえないという限度でのみ拘束力を有するのである
から、差戻前の原判決と同一の認定事実を前提としても、右法条の適用のほかに、
別個の法律的見解が成り立ちうる場合には、差戻後の原審が、右法条の適用を主張
する前示被上告人らの抗弁について判断を示すことなく、他の法律上の見解に立つ
て、上告人の請求を棄却することも許されるものと解するのが相当である。したが
つて、右抗弁について判断せず、前記のような判断によつて結局上告人の請求を棄
却した原判決の措置が、上告審判決の右拘束力に違反したものとはいえない。
 以上の次第で、原判決には何ら所論の違法はなく、論旨は採用することができな
い。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美

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