弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人大滝亀代司、同福間豊吉の上告理由について。
 論旨は、要するに、原判決の以下の判断は憲法二九条三項の解釈を誤つたものと
いう。すなわち、原判決は、まず、前段において、平和条約により日本国が連合国
に対する賠償義務を承認し、本来ならば私有財産不可侵の原則により原所有者に返
還されるべき在外資産を右賠償に充当することに対して国として何ら異議を唱える
ことなく、これを承認したことは、国が戦争損害の賠償義務履行という公共の目的
のために自らこれを処分したのと結果において何ら異なるところがなく、したがつ
て、国は、かくして在外資産を喪失せしめられた国民に対し、平和条約自体に補償
条項がなくとも、国内的には、憲法二九条三項の規定の趣旨に照らし、正当な補償
をなすべき責務を有するものであるとして、その補償義務を肯認しながら、その後
段において、憲法の右規定は、国が国民の財産権を保障し、これを公共の用に供す
る場合には正当な補償をなすべきであるとの一般的原則ないし方針を明らかにした
にとどまり、直接同条項により具体的な補償請求をなしうることを定めたものと解
することはできないから、補償に関する法律の制定されていない現在、具体的な補
償請求は禾だこれをなし得ない、と判断している。しかし、原審の右後段の判断は、
憲法二九条三項の解釈を誤つたものであり、よつて、憲法の違背があるというので
ある。
 よつて按ずるに、当裁判所としては、原判決がその前段において肯認し、上告理
由においても当然の前提として主張するところの、在外資産の喪失に対しては、国
において補償をなすべきものとする前提そのものを認めることができず、したがつ
て、憲法二九条三項の趣旨について判断するまでもなく、上告人の主張は、その前
提を欠くものとして、排斥を免れず、原審の判断は、結局、その結論において、正
当として支持すべきものとする。その理由は、次のとおりである。
 (1) わが国は、敗戦に伴い、ポツダム宣言を受諾し、降伏文書に調印し、連合
国の占領管理に服することとなり、わが国の主権は、不可避的に連合軍総司令部の
完全な支配の下におかれざるを得なかつた。わが国は、いわゆる平和条約の締結に
よつて、この状態から脱却して、その主権の回復を図ることになつたのであるが、
同条約は、当時未だ連合軍総司令部の完全な支配下にあつて、わが国の主権が回復
されるかどうかが正に同条約の成否にかかつていたという特殊異例の状態のもとに
締結されたものであり、同条約の内容についても、日本国政府は、連合国政府と実
質的に対等の立場において自由に折衝し、連合国政府の要求をむげに拒否すること
ができるような立場にはなかつたのみならず、右のような敗戦国の立場上、平和条
約の締結にあたつて、やむを得ない場合には憲法の枠外で問題の解決を図ることも
避けがたいところであつたのである。在外資産の賠償への充当ということも、この
ような経緯で締結された平和条約の一条項に基づくものにほかならないのである。
 ところで、戦争中から戦後占領時代にかけての国の存亡にかかわる非常事態にあ
つては、国民のすべてが、多かれ少なかれ、その生命・身体・財産の犠牲を堪え忍
ぶべく余儀なくされていたのであつて、これらの犠牲は、いずれも、戦争犠牲また
は戦争損害として、国民のひとしく受忍しなければならなかつたところであり、右
の在外資産の賠償への充当による損害のごときも、一種の戦争損害として、これに
対する補償は、憲法の全く予想しないところというべきである。
 (2) 平和条約一四条(a)頃は、わが国の賠償義務について、いわゆる役務賠
償のほか、在外資産の処分をあげているが、これらの在外資産の処分については、
イタリア平和条約等に見られるような敗戦国において補償すべき旨の規定または補
償するよう配慮すべき旨の規定を設けていない。その趣旨とするところは、補償問
題については、少なくとも国際的に、日本国を拘束する必要はなく、日本国が国内
問題として適当に処理するところに委ねようとするにあり、したがつて、平和条約
上、国の補償義務の生ずる余地はないといわなければならない。
 ところで、平和条約一四条(a)項2(1)には、各連合国は、日本国民の在外資
産を「差し押え、留置し、清算し、その他何らかの方法で処分する権利を有する」
旨規定している。この規定の趣旨とするところは、もともと外国の主権に基づき当
該国の法制の支配下におかれ、戦争中から戦後にかけて敵産として接収管理されて
きたわが国民の所有に寓する在外資産を右規定に基づいて当該国が処分し得べきも
のとするにあつて、さきに述べた平和条約締結の経緯からいつて、わが国が自主的
な公権力の行使に基づいて、日本国民の所有に属する在外資産を戦争賠償に充当す
る処分をしたものということはできず、この場合、わが国は、日本国民の右資産が
当該外国において不利益を取扱いを受けないようにするために有するいわゆる異議
権ないし外交保護権を行使しないことを約せしめられたにすぎないものといわなけ
ればならない。平和条約は、もとより、日本国政府の責任において締結したもので
はあるが、同条約中の右条項のごときは、上述の経緯に基づき不可避的に承認ぜざ
るを得なかつたところであつて、その結果として上告人らが被つた在外資産の喪失
による損害も、敗戦という事実に基づいて生じた一種の戦争損害とみるほかはない
のである。
 これを要するに、このような戦争損害は、他の種々の戦争損害と同様、多かれ少
なかれ、国民のひとしく堪え忍ばなければならないやむを得ない犠牲なのであつて、
その補償のごときは、さきに説示したように、憲法二九条山三項の全く予想しない
ところで、同条項の適用の余地のない問題といわなければならない。したがつて、
これら在外資産の喪失による損害に対し、国が、政策的に何らかの配慮をするかど
うかは別問題として、憲法二九条三項を適用してその補償を求める所論主張は、そ
の前提を欠くに帰するものであつて、所論の憲法二九条三項の意義・性質等につい
て判断するまでもなく、本件上告は排斥を免れない。
 よつて、民訴法四〇一条、三九六条、三八四条二項、九五条、八九条、九三条に
従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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