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令和2年8月19日判決言渡同日判決原本交付裁判所書記官
平成30年(行ウ)第79号公立小中学校における喀痰吸引に必要な器具の確保
処分義務付け等請求事件
口頭弁論終結日令和2年3月18日
判決5
(削除)
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由10
第1請求
1被告は,電動式吸引器ほか別紙物件目録記載の喀痰吸引に必要な器具を取得
し,その器具を使用に供し得る状態で維持,保管及び整備をせよ。
2被告は,原告ら各自に対し,110万円及びこれに対する平成30年7月2
9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。15
第2事案の概要
原告A(以下「原告子」という。)は,父である原告B(以下「原告父」と
いう。)及び母である原告C(以下「原告母」という。)の長男である。原告
子は,声門下狭窄症にり患し,気管カニューレ又はTチューブ(以下,両者を
併せて「カニューレ等」という。)を挿管している。20
本件は,原告らが,⑴原告子が中学校において教育を受けるためには喀痰吸
引のための器具(以下「喀痰吸引器具」という。)が必要であり,被告には障
害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下「障害者差別解消法」と
いう。)7条2項の規定する合理的な配慮として原告子のために喀痰吸引器具
を取得し,これを維持,保管及び整備する義務があると主張して,行政事件訴25
訟法(以下「行訴法」という。)4条後段の当事者訴訟として,障害者差別解
消法7条2項に基づき,別紙物件目録記載の喀痰吸引器具を取得し,その器具
を使用に供し得る状態で維持,保管及び整備することを請求するとともに,⑵
原告子が甲町立乙小学校(以下「乙小学校」という。)に在学中,①甲町教育
委員会(以下「町教委」という。)が原告子の登校の条件として,喀痰吸引器
具の準備及びその費用を原告父母(原告父又は原告母の一方又は双方をいう。5
以下同じ。)の負担とするとともに,原告父母に原告子の登校日に喀痰吸引器
具等を持参するよう求めたこと,②乙小学校校長らが,⒜原告子の校外学習に
原告父母の付添いを要求したこと,⒝原告子が原告父母の付添いなく通学団に
参加することができるよう通学団に属する児童の保護者(以下「通学団の保護
者」という。)に働き掛けを行わなかったこと,⒞原告子を水泳の授業に参加10
させず,又は水泳の授業に高学年用プールを使用しなかったことが障害者基本
法4条及び障害者差別解消法7条に違反するなどとして,被告に対し,国家賠
償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき,それぞれ,損害賠償金(慰
謝料及び弁護士費用)110万円及びこれに対する不法行為の日の後の日であ
る平成30年7月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅15
延損害金の支払を求める事案である。
1関係法令の定め
⑴障害者基本法4条は,1項において,何人も障害者に対して障害を理由と
して差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない旨規
定し,2項において,社会的障壁(障害がある者にとって日常生活又は社会20
生活を営む上で障壁となるような社会における事物,制度,慣行,観念その
他一切のもの。以下同じ。)の除去は,それを必要としている障害者が現に
存し,かつ,その実施に伴う負担が過重でないときは,それを怠ることによ
って前項の規定に違反することとならないよう,その実施について必要かつ
合理的な配慮がされなければならない旨規定する。25
⑵障害者差別解消法7条は,1項において,行政機関等は,その事務又は事
業を行うに当たり,障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱い
をすることにより障害者の権利利益を侵害してはならない旨規定する。また,
同条は,2項において,行政機関等は,その事務又は事業を行うに当たり,
障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があっ
た場合において,その実施に伴う負担が過重でないときは,障害者の権利利5
益を侵害することとならないよう,当該障害者の性別,年齢及び障害の状態
に応じて,社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなけ
ればならない旨規定する。
⑶学校保健安全法27条は,学校においては,児童生徒等の安全の確保を図
るため,当該学校の施設及び設備の安全点検,児童生徒等に対する通学を含10
めた学校生活その他の日常生活における安全に関する指導,職員の研修その
他学校における安全に関する事項について計画を策定し,これを実施しなけ
ればならない旨規定する。
2前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実等。以下,書証番号は,特記しない限り全ての枝番15
を含む。)
⑴当事者
原告子(生。男児)は,原告父母の子である。原告
子は,保育園を卒園した後,平成●年4月から平成●年3月までの間,乙小
学校に通学し,同年4月,被告の設置する甲町の中学校に進学した。(弁論20
の全趣旨)
⑵原告子の障害の内容等
ア原告子は,出生後間もなく声門下狭窄症にり患し,気管切開を受けて気
管カニューレを挿管した。その後,原告子は,平成●年8月(乙小学校2
年次。以下,特に断らない限り,年次は,原告子の乙小学校のものである。),25
気管閉塞部を切開してTチューブを挿入した。(甲2,乙12〔64・6
5・82・89頁〕,弁論の全趣旨)
イ原告子は,カニューレ等が挿管されているため,日常生活上,必要に応
じて喀痰吸引を行うことが必要である。また,カニューレ等が外れた場合
には次第に呼吸ができなくなるのでカニューレ等が外れないように注意を
要する。さらに,カニューレ等が留置されている気管切開部から水を吸い5
込んだ場合には直ちに肺に水が入ることになり,生命に関わる危険な状態
となる。(甲22,乙12〔19・65・80・82・83・147頁〕,
25,弁論の全趣旨)
⑶本件訴えの提起
原告らは,平成30年7月14日,本件訴えを提起した。(顕著な事実)10
3争点
⑴行訴法4条に基づく喀痰吸引器具の取得等の請求に関する争点
原告らが障害者差別解消法7条2項に基づき喀痰吸引器具を取得し,維持,
保管及び整備することを請求し得るか(争点1)
⑵国家賠償請求に関する争点15
ア町教委が原告子の登校の条件として喀痰吸引器具の準備及び経費を原告
父母の負担とするとともに,原告父母に喀痰吸引器具及び連絡票を原告子
の登校日に持参するよう求めたことが国賠法上違法といえるか(争点2)
イ乙小学校校長らが原告子の校外学習に原告父母の付添いを求めたことが
国賠法上違法といえるか(争点3)20
ウ乙小学校校長らにおいて原告子が原告父母の付添いなく通学団に参加す
ることができるよう通学団の保護者に働き掛けを行わなかったことが国賠
法上違法といえるか(争点4)
エ乙小学校校長らが原告子を水泳の授業に参加させず,又は原告子の水泳
の授業に高学年用プールを使用しなかったことが国賠法上違法といえるか25
(争点5)
オ原告らの損害の有無及びその額(争点6)
カ消滅時効の成否(争点7)
4争点に関する当事者の主張の要旨
⑴争点1(原告らが障害者差別解消法7条2項に基づき喀痰吸引器具を取得
し,維持,保管及び整備することを請求し得るか)5
(原告らの主張の要旨)
原告子が被告の設置する中学校に通学していることから原告らと被告との
間には在学関係ともいうべき公法上の法律関係が存在しており,この公法上
の法律関係においては,被告は,原告らに対し,障害者差別解消法7条2項
に基づいて合理的配慮を提供する義務を負っている。したがって,原告らは,10
被告に対し,同項に基づき,喀痰吸引器具を取得し,その器具を使用に供し
得る状態で維持,保管及び整備することを請求することができるというべき
である。
(被告の主張の要旨)
障害者差別解消法7条2項には合理的配慮の具体的な内容は規定されてお15
らず,合理的配慮としていかなる措置を講ずるかは行政機関等の裁量的な判
断に委ねられているというべきである。したがって,同項の規定から具体的
な施策や備品の購入等について地方公共団体に対する住民の具体的請求権が
直ちに発生するものではなく,原告らが,被告に対し,同項に基づいて喀痰
吸引器具の取得等を請求することはできないというべきである。20
⑵争点2(町教委が原告子の登校の条件として喀痰吸引器具の準備及びその
経費を原告父母の負担とするとともに,原告父母に喀痰吸引器具及び連絡票
を原告子の登校日に持参するよう求めたことが国賠法上違法といえるか)
(原告らの主張の要旨)
ア町教委が原告子の登校の条件として喀痰吸引器具の準備及びその経費を25
原告父母の負担としたことの違法性
被告は,原告子が乙小学校に入学して以降,現在に至るまで喀痰吸引器
具を取得しておらず,他方,町教委は,平成25年1月24日に「甲町立
小中学校における医療的ケア実施要綱」(以下「本件要綱」という。)及
びその細目的事項を定めた「甲町立小中学校医療的ケア実施要項」(以下
「本件要項」といい,本件要綱と併せて「本件要綱等」という。)を定め,5
それらの中で,保護者は医療的ケアの実施に必要な医療器具等を準備する
ものとした上,保護者は,医療的ケアを実施するための器具等を保護者に
おいて負担する旨を記載した確認書を提出するものとしている。原告子が
学校生活を送るためには喀痰吸引が必要なのであるから,前記のような本
件要綱等の定めは,原告子の登校の条件として原告父母にその負担で喀痰10
吸引器具を取得することを求めるものであり,これらの定めにより,原告
父母は原告子を乙小学校に登校させるために喀痰吸引器具を取得せざるを
得なかったのである。
憲法26条1項及び教育基本法4条により,原告子には教育を受ける権
利が保障され,原告父母には原告子を乙小学校に通学させる権利が保障さ15
れている。そうであるところ,カニューレ等が挿管された原告子が乙小学
校で就学するためには,定期的に喀痰を吸引することが医学上必要であり,
町教委が原告子に対する喀痰吸引の条件として喀痰吸引器具を原告父母の
負担で取得するよう求めることは,原告子に対して他の児童には付されて
いない条件を付すものであるから,障害を理由に原告らを不当に差別する20
ものであって,障害者基本法4条1項及び障害者差別解消法7条1項に反
する行為である。
また,原告父母は,町教委及び乙小学校に対して喀痰吸引器具を取得す
るよう求めており,これが障害者差別解消法7条2項の社会的障壁の除去
を必要としている旨の意思表明に当たることは明らかである。そして,被25
告が一旦喀痰吸引器具を取得すれば,原告子に限らず,将来入学するであ
ろう同様の医療的ケアを要する児童においても利用できるようになるし,
原告子に必要な喀痰吸引器具の価格は約4万円であり,同器具はおおむね
30㎝四方で重量も約2㎏程度のものであるからその保管場所にも問題は
生じず,被告において喀痰吸引器具を取得して保管することが,過重な負
担となるものではない。そうすると,被告は,障害者基本法4条2項又は5
障害者差別解消法7条2項に基づき,合理的な配慮として,喀痰吸引器具
を取得する義務があったというべきであり,町教委が喀痰吸引器具を原告
父母の負担で取得させることは前記各規定に反するものである。
被告は,原告父母に喀痰吸引器具の取得を求める理由として,被告が原
告子についてのみ喀痰吸引器具を取得することは公平性に問題があること10
や,被告が取得すべき器具等の範囲が不明確であることなどを挙げるが,
このような一般的抽象的な理由をもって障害を理由とする差別的取扱いや
合理的配慮の不提供が正当化されるとすることは,障害者基本法や障害者
差別解消法の趣旨に反するものである。
以上によれば,町教委が原告子の登校の条件として喀痰吸引器具の準備15
及び経費を原告父母の負担としたことは,障害者基本法4条,障害者差別
解消法7条等に反するものであり,国賠法上違法というべきである。
イ町教委が原告子の登校の条件として原告父母に対し喀痰吸引器具及び連
絡票を持参するよう求めたことの違法性
町教委が定めた本件要綱等は,保護者が医療的ケア実施日当日に医療的20
ケアの実施に必要な器具と児童の健康状態等を記載した連絡票を学校に持
参するものとした上,保護者は,医療的ケアを実施するための器具を持参
せず,又は連絡票を提出できないときは,医療的ケアの実施を依頼しない
旨を記載した確認書を提出するものとしている。原告子が学校生活を送る
ためには喀痰吸引が必要なのであるから,前記のような本件要綱等の定め25
は,原告子の登校の条件として原告父母に喀痰吸引器具及び連絡票の持参
を求めるものであり,これらの定めにより,原告父母は,原告子が乙小学
校に入学した平成●年4月から平成●年12月頃まで,原告子の登校日に
喀痰吸引器具及び連絡票を学校に持参したのである。
前記アのとおり,原告子には教育を受ける権利が保障され,原告父母に
は原告子を乙小学校に通学させる権利が保障されているところ,喀痰吸引5
を必要とする原告子の登校の条件として原告父母に原告子の毎登校日に喀
痰吸引器具及び連絡票の持参を要求することは,原告子に対し他の児童に
は付されていない条件を付すものであるから,障害を理由に原告らを不当
に差別するものであり,障害者基本法4条1項及び障害者差別解消法7条
1項に反する行為である。10
被告は,連絡票の持参につき,原告父母と教員や支援員が連絡票を直に
やり取りすることで,毎日の原告子の状況を的確に把握し,原告子に対す
る医療的ケアを適切に実施することができる状況を確保するためであると
主張する。
しかしながら,原告父母とのやり取りを通じて原告子に対する医療的ケ15
アを適切に実施することができる状況を確保するためであれば,連絡票の
持参を原告子の健康状態等に変化があるときに限定したり,連絡票を持参
しない方法により原告子に関する情報を共有したりすることが可能である
から,被告の主張する理由をもって,原告父母に連絡票の持参を求めるこ
とが正当化されるものではない。20
以上のことからすれば,町教委が原告子の登校の条件として原告父母が
喀痰吸引器具及び連絡票を持参することを求めたことは,障害者基本法4
条1項,障害者差別解消法7条1項等に反するものであり,国賠法上違法
というべきである。
(被告の主張の要旨)25
ア町教委が原告父母に喀痰吸引器具を取得することを求めたことが違法で
ないこと
喀痰吸引器具は原告子が日常生活を送るために不可欠なものであるから
乙小学校にいる間も必要となるものであって,原告子が乙小学校において
学習するために必要となるものではない。このような器具を被告が取得す
ることは公平性の観点から疑問の余地がある上,町教委が保有するデータ5
によれば,喀痰吸引器具を学校又は市町村が取得している事例はわずか3
例にとどまり,喀痰吸引器具を学校又は市町村において取得すべきである
という社会的コンセンサスは形成されていない。また,障害を有する児童
が日常生活において必要とする器具等を学校側が取得すべき範囲を明示し
た国の指針等は存在しておらず,かえって,文部科学省初等中央教育局長10
が発出した平成31年3月20日付け「学校における医療的ケアの今後の
対応について(通知)」には,保護者の役割として「医療的ケアに必要な
医療器具等の準備」が明示されており,医療器具等は保護者において負担
すべきことが明示されている。さらに,喀痰吸引器具については,原告子
の入学以前から,厚生労働省による小児慢性特定疾患児日常生活用具給付15
事業により,購入代金の全部又は一部につき自己負担を免れ得るのである
から,原告らにとってその取得が過大な負担となることもない。
以上の諸点に照らすと,町教委が原告父母に喀痰吸引器具の取得を求め
たことは,障害者基本法4条,障害者差別解消法7条等に反するものでな
く,国賠法上違法ということはできない。20
イ町教委が原告父母に喀痰吸引器具及び連絡票を原告子の登校日に持参す
ることを求めたことが違法でないこと
前記アのとおり,被告には原告子の使用する喀痰吸引器具を取得する義
務はないのであるから,その持参についての協力を保護者である原告父母
に求めることはやむを得ないものである。また,原告子に喀痰吸引の必要25
性が生じた場合,これを即時に支障なく実施することができるように,原
告子の近辺に喀痰吸引器具を準備しておく必要があり,このことは原告子
の登下校時においても同様である。そして,原告子が乙小学校まで徒歩で
通学した場合の所要時間はおおむね30分程度であり,原告子が乙小学校
に入学した当時は約1時間に1回程度の喀痰吸引が必要であったことから
すると,原告子の登下校時に喀痰吸引が必要となることも十分あり得たの5
である。以上のことからすれば,原告父母に対して喀痰吸引器具を持参し,
これを持ち帰ってもらうことは合理的な措置であったということができる。
また,原告父母に連絡票の持参を求めたことについても,原告父母と学校
関係者が連絡票を直にやり取りすることで,毎日の原告子の状況を的確に
把握し,原告子に対する医療的ケアを適切に実施することができる状況を10
確保することを主眼とするものであり,このような措置も合理的なものと
いうことができる。
以上によれば,町教委が原告父母に喀痰吸引器具及び連絡票を原告子の
登校日に持参することを求めたことは,障害者基本法4条,障害者差別解
消法7条等に反するものでなく,国賠法上違法ということはできない。15
⑶争点3(乙小学校校長らが原告子の校外学習に原告父母の付添いを求めた
ことが国賠法上違法といえるか)
(原告らの主張の要旨)
ア乙小学校校長らは,1年次から5年次までの間,原告子の校外学習に際
して原告父母の付添いを要求したが,校外学習に保護者が付き添うことを20
要求することは,障害のない他の児童及びその保護者に対して求めていな
い事項を原告子の障害を理由に原告父母にのみ求めるものであり,障害を
理由とする不当な差別的取扱いに当たるとともに,保護者に付添いを求め
ることなく原告子に対する医療的ケアの実施を保障することが合理的配慮
の提供であるから,原告子の校外学習に原告父母の付添いを要求すること25
は,合理的配慮の不提供に当たるというべきである。そして,原告父母に
対する付添いの要求は,乙小学校校長らにより行われたものであり,原告
父母が拒否することは困難である上,その要求の際には,原告子の校外学
習の際に原告父母の付添いがなければ原告子は校外学習に参加できない旨
が告げられていることからすれば,原告子の校外学習に際して原告父母の
付添いを要求する行為の違法性は強いものである。5
イ被告は,原告子の校外学習に原告父母の付添いを要求した理由として,
1年次には支援員(本件要綱等において医療的ケアの実施等を行うものと
されている者。以下同じ。)との雇用契約上の就業範囲に町外が含まれて
おらず,2年次以降は1人の支援員では支援員が高齢であることなどから
適時かつ適切な医療的ケアを実施できない可能性があることなどを主張し10
ている。
しかしながら,支援員の雇用契約書をみてもその就業範囲が町内に限ら
れる旨の記載はなく,現に2年次からは支援員は町外の校外学習に同行し
ているし,1人の支援員では適時かつ適切な医療的ケアを実施できない可
能性も単なる抽象的な可能性にとどまるものである。保護者の付添いは,15
児童の自立を促す観点からも真に必要と考えられる場合に限られるべきで
あり,前記のような抽象的な可能性を理由に障害を理由とする差別的取扱
いや合理的配慮の不提供が正当化されるものではなく,1人の支援員で適
時かつ適切な医療的ケアを実施することができないのであれば,複数人の
支援員を確保すべきであり,支援員に看護師資格を要することから複数人20
の支援員を確保することができないのであれば,保健センターの職員を代
替要員としたり,介護福祉士に依頼したり,教員に医療的ケアの実施に関
する研修を受講させたりするなどの手段を講ずるべきであって,現に原告
父母が付添いを拒否した校外学習においては,町教委の職員等の付添いに
より校外学習を実施しているのである。25
ウ以上のことからすれば,乙小学校校長らが原告子の校外学習に原告父母
の付添いを求めたことは,障害者基本法4条及び障害者差別解消法7条に
反するものであり,国賠法上違法なものというべきである。
(被告の主張の要旨)
町教委は,平成●年4月,原告子の入学に当たり,被告独自の予算により,
原告子に対する医療的ケアに対応可能な看護師1人を原告子の専任の支援員5
として雇用し,乙小学校に配置した。しかしながら,原告子が在校中常時待
機することができる看護師を見付けることは,給与等の勤務条件から容易な
ことではなく,支援員としては定年後の看護師経験者しか雇用することがで
きなかった。そのため,支援員が高齢のために校外学習に付き添う際には休
憩を取る必要があること,1人の支援員では医療的ケアを的確かつ即時に実10
施することができない可能性があること,原告子が落ち着きがなく突発的な
行動に出ることなどから,1年次から5年次までの校外学習のうち,移動が
貸切りバスではない校外学習(1年次の春と秋,2年次の春と秋,3年次の
春,4年次の春)や宿泊を伴う5年次の夏の野外学習については,喀痰吸引
を行うことができる原告母に校外学習への付添いを要請したのである。そし15
て,2年次の秋の校外学習を除いては原告母から付添いを断られたものの,
その際には,いずれも町教委の職員等が支援員に同行することで校外学習を
実施している。その上,6年次には支援員を常時2人とし,修学旅行時は支
援員3人を確保するなどして原告子の校外学習に対応しており,原告母に付
添いを要請していない。20
以上のとおり,乙小学校校長らが原告母に原告子の校外学習への付添いを
要請したことは相当な理由がある。原告父母は,原告子の入学に際し,学校
側から医療的ケアに対応できない場合があることの説明を受けて,学校から
の要請があるときは直ちに来校する旨の確認書を提出しているし,この点を
措いても,親権者は,児童に対する監護及び教育の権利と義務を負っており,25
これは,児童が学校の管理下にある場合にも排除されるわけではないのであ
るから,学校側が合理的配慮を尽くしてもなお児童の安全に懸念があれば,
障害を有する児童の保護者に付添いを要請することは許されるものというべ
きである。
したがって,乙小学校校長らが原告子の校外学習に際して原告父母に付添
いを求めたことは,障害者基本法4条及び障害者差別解消法7条に反するも5
のではなく,国賠法上違法であるということはできない。
⑷争点4(乙小学校校長らにおいて原告子が原告父母の付添いなく通学団に
参加することができるよう通学団の保護者に働き掛けを行わなかったこと
が国賠法上違法といえるか)
(原告らの主張の要旨)10
ア被告は,学校保健安全法27条により,児童の登下校時の安全を確保す
る義務を負っており,児童の登下校の安全確保の一環として集団登下校を
実施しているのであるから,通学団の保護者が正当な理由なく原告子を通
学団から排除する場合には,同条に基づき,原告子が通学団に参加できな
いことで原告子の登校時の安全確保が不十分とならないよう,通学団の保15
護者に対する適切な働き掛けを行う義務がある。
通学団の保護者は,原告子の乙小学校入学前から,原告子に障害がある
ことによる抽象的な不安感のみに基づいて,原告子が通学団に入るに際し
て原告父母が通学時に付き添うことを求め,原告父母の付添いがないとし
て原告子を通学団から排除しており,通学団の保護者が原告子を通学団に20
入れないことに正当な理由はなかった。ところが,乙小学校校長らは,そ
のことを認識しながら,何らの正当な理由なく,通学団の保護者が原告子
を通学団に入れない事態を放置し,かえって,原告父母と通学団の保護者
との話合いに同席することを拒むなど,通学団に原告子を参加させるか否
かの問題には関知しないとの態度を取ったばかりでなく,登下校時に医療25
に関わる事態があった場合に対応できるのは保護者しかいないから保護者
の付添いを求めても障害者差別ではないとの認識を示すなどして,通学団
の保護者による差別を助長し,固定化した。
イこの点につき,被告は,①登下校中にカニューレ等が外れる危険がある
ことや②原告子に落ち着きがなく,突発的な行動に出るおそれがあること
から,通学団の保護者が原告父母に付添いを求めることにも合理的な理由5
があるなどと主張する。
しかしながら,通学団の保護者による差別的取扱いが許されるのは,正
当な理由がある場合に限られ,しかも,子の自立を促す観点からすると保
護者の付添いを求めることは真に必要と考えられる場合に限られる。そう
であるところ,カニューレ等が外れる危険については,①カニューレ等に10
は外れることを防ぐための留め具があり,そこに紐を通して固定すること
により容易に外れない仕組みとなっており,原告子の日常生活においてカ
ニューレ等が外れることは容易に想定し難いこと,②万一カニューレ等が
外れたとしても,原告子と共にいる児童が原告母の携帯電話に架電したり
救急車を呼んだりすれば問題はないこと,③原告子の乙小学校入学当初に15
おいてすら,喀痰吸引が必要となる間隔は1時間以上であったため,片道
30分以内の登下校の間に喀痰吸引が必要となる可能性は低いことなどか
らすれば,カニューレ等が外れる危険をもって保護者の付添いが真に必要
であるということはできない。また,原告子に落ち着きがなく,突発的な
行動に出るおそれについても,原告子に,他の児童と大きく異なる落ち着20
きのなさや突発的な行動は見受けられない。
したがって,被告の主張する前記事情をもって,乙小学校校長らにおい
て通学団の保護者による差別的取扱いを放置し,助長することが正当化さ
れるものではない。
(被告の主張の要旨)25
ア学校保健安全法は,学校における教育活動が安全な環境において実施さ
れ,児童生徒等の安全の確保が図られるよう,学校における安全管理に関
し必要な事項を定め,学校教育の円滑な実施とその成果の確保に資するこ
となどを目的とするものであり,同法27条は,学校における安全に関す
る事項についての計画を策定・実施することを一般的な責務として規定し
ているものであるから,同条をもって児童の登下校を学校が管理すべき根5
拠となるものではなく,他に児童の登下校が学校の管理下にあることを根
拠付ける法律上の規定は見当たらない。そうすると,学校は,登下校の方
式や通学路の選定等を指示・強制することはできないのであり,地域で自
主的に運営されている通学団についても,学校が管理監督する権限はない。
したがって,通学団の保護者が原告子が通学団に参加するために原告父母10
の付添いを要求したことについて,被告が何らかの責任を負う理由はない。
イまた,通学団の制度は,低学年から高学年までの,参加する全ての児童
が安心・安全に登下校するための方策であり,基本的には高学年児童がリ
ーダーとなって児童をまとめて登下校し,保護者等は付き添わない。その
ため,登下校中に原告子のカニューレ等が外れた場合には,他の児童では15
適切な対応ができない可能性があるだけでなく,混乱が生じて他の児童の
事故につながる可能性もある。また,原告子には,入学前から,落ち着き
がなく,突発的な行動が見受けられており,原告子の通学路には,信号機
を伴う横断歩道など,特に交通事故に注意が必要な箇所が数か所あるため,
不測の緊急事態が生ずる可能性があり,その場合には通学団の児童だけで20
的確な対応を取ることが困難であるとともに,通学団の他の児童に混乱が
生ずる可能性もある。これらの事情に照らせば,通学団の保護者が,原告
子が保護者の付添いがない状態で通学団に入ることに不安を抱くことはや
むを得ないものであり,原告父母に原告子への付添いを求めることも非難
されるべきものとはいえない。他方,通学団の保護者としても,原告父母25
が原告子への付添いをしなければならない分,原告父母については,保護
者が交替で担当することとなっている交通当番の負担を免除して原告父母
の付添いによる負担に配慮していたのであり,単に原告子を通学団から排
除する方向で対応していたものではなかったのである。以上のことからす
ると,通学団の保護者が原告父母に原告子に付き添うことを要求すること
が直ちに不当な差別的取扱いとなるものではない。5
ウ乙小学校校長らとしては,通学団の保護者の前記の不安や懸念が一定程
度理解できるものであったことなどから,原告父母が原告子に付き添って
原告子が通学団に参加し,実績を積み重ねて他の児童や保護者の安心感を
醸成していき,その間に原告子の成長にも応じて,自然な形で通学団への
参加を実現していくことが適切であると考えていたものである。そして,10
乙小学校校長らは,4年次において,原告父母の要望を受け,通学団の保
護者との話合いの場を設定し,原告子の通学団への参加を協議した。そし
て,その協議の結果,原告子は,4年次の3月から通学団に参加するよう
になり,以後,乙小学校を卒業するまで通学団に参加して登校していたの
である。15
エ以上のとおり,乙小学校は,児童の登下校を管理すべき立場にはない上,
通学団の保護者が原告父母の付添いを求めたことにも一定の合理的な理由
があったことから,双方の信頼関係の醸成等を通じて原告子が通学団に参
加できるようになることを期待し,4年次からは原告子が通学団に参加す
るようになったのであり,通学団の保護者が原告父母に付添いを求めたこ20
とにつき,被告が国賠法上の責任を負うものということはできない。
⑸争点5(乙小学校校長らが原告子を水泳の授業に参加させず,又は水泳の
授業に高学年用プールを使用しなかったことが国賠法上違法といえるか)
(原告らの主張の要旨)
ア乙小学校は,1年次及び2年次において,医師や専門家の意見を聴くこ25
ともせず,また,原告父母がプールでの活動を試行するよう求めたにもか
かわらず,これを拒否した上,単に気管切開部に水が入ると危険であるな
どとして,原告子を水泳の授業に一切参加させなかった。また,3年次に
は,原告子の主治医が,他校で行われた水泳の授業を撮影した動画を見て,
原告子についても同様に行えばよいとの見解を示したが,乙小学校は,医
学的な問題はクリアしたとしながら,①プールの中で突然踊り出す可能性5
があること,②教員の指示を1回で行動に移せない可能性があること,③
3年生の児童95人が一斉にプールに入ると水面が上がったり波が立った
りしてプールの水が首の辺りまで押し寄せて気管切開部から水が入る可能
性があることを理由に,原告子を水泳の授業に参加させなかった。
イその後,4年次からは,原告子が水泳の授業に参加することができるよ10
うになったものの,身長が132㎝であったのに水深65㎝の低学年用プ
ールで水泳の授業を受けさせられ,原告父母は,5年次には高学年用プー
ルで水泳の授業に参加することができるよう要望したが,①原告子が他の
児童とプールで交錯する,②他の児童が泳ぐことで安全に活動することが
できない程の波が立つことを理由に5年次も低学年用プールで水泳の授業15
に参加することとなった。そして,その後,原告父母が何度も抗議したと
ころ,5年次の途中から他の児童がプールから出た後などの一部の時間の
み高学年用プールで水泳の授業を受けることになったが,6年次は,再び
当初から低学年用プールで水泳の授業を受けることになった。その後,原
告父母が,乙小学校校長らに対して,身長に合わない低学年用プールで水20
泳の授業を行うことの危険性を訴えたところ,原告子は高学年用プールで
水泳の授業を受けることになり,以後,高学年用プールで水泳の授業を受
けた。
ウしかしながら,気管切開部に水が入ると危険であるとの点については,
原告子のカニューレ等は,故意に水をかけたり,水に沈むなどしない限り,25
気管切開部に水が入る可能性は非常に低いし,仮に1学年の95人の児童
全員が頭まで水に潜ったとしても,計算上,水面は約1㎝高くなる程度で
あるから,そのことにより気管切開部に水が入る可能性が高いとはいえな
い。気管切開部に水が入る危険は,医師等の意見を聴いたものでもなく,
プールでの活動を試行したことによるものでもないのであり,かえって,
気管切開の専門医の意見には,Tチューブが留置されている喉の部位が水5
中に入ることがないように注意すれば医学上プールでの運動が一切禁忌と
されているということはないとするものがあり,現に名古屋市のある小学
校では,気管切開を受けている児童が水泳の授業に参加している。これら
のことからすると,気管切開部に水が入ることは原告子に水泳の授業を受
けさせない正当な理由となるものではない。10
また,原告子には突然踊り出したり指示を1回で行動に移せなかったり
するようなことは見受けられないのであり,このことは,3年次において
行われたプールでの活動の試行で原告子にそのような行動がなかったこと
からも明らかである。
さらに,何らの体制の変更がないにもかかわらず,原告子が5年次の途15
中から高学年用プールで水泳の授業を受けていることからすると,乙小学
校が4年次から6年次の途中まで高学年用プールで水泳の授業を受けさせ
なかったことに正当な理由があるということはできない。
エ以上のとおり,乙小学校校長らは,正当な理由がないのに,原告子を水
泳の授業に参加させず,又は高学年用プールで水泳の授業を受けさせなか20
ったのであり,このような措置は,障害者基本法4条1項又は障害者差別
解消法7条1項に反する不当な差別的取扱いであるとともに,障害者基本
法4条1項又は障害者差別解消法7条2項に反する合理的な配慮の不提供
であったというほかなく,国賠法上違法である。
(被告の主張の要旨)25
ア原告父母は,原告子の日常の状況等に関し,カニューレ等が外れると次
第に呼吸できなくなる旨やカニューレ等に水などが入ったときはすぐに喀
痰吸引器具でカニューレ等内に入った異物を除去する必要がある旨を報告
しており,これらのことから,カニューレ等に水が入ることは原告子の生
命への具体的危険に直結するものと認められた。また,1年次及び2年次
には,乙小学校の教職員が原告子の行動の特徴等を十分に把握できていな5
かった上,低学年用プールでの学習は水に浸かって遊ぶことであり,児童
同士が水をかけ合うなどの不測の行動に出ることも想定された。さらに,
水泳の授業においては,100人近い児童が一斉にプールに入り,数人の
教師によりこれらの児童の安全を確保する必要があった。これらの事情を
前提とすると原告子を水泳の授業に参加させた場合にその安全を確保する10
ことは困難であったことから,乙小学校校長らは,原告子の安全を優先し,
1年次及び2年次には原告子を水泳の授業に参加させなかったのであり,
このような判断は合理的なものである。
イ3年次には,乙小学校側で原告子の主治医とも面談した結果,原告子が
指示に従って行動できるのであれば,気管切開部に水が入るといった事故15
を回避できるとされ,医学的な見地からの安全性は一応確認できたものの,
原告子には,突然踊り出したり,普段から指示を1回で行動に移せなかっ
たりすることが多く見受けられたことから,原告子が水泳の授業中に指示
に従って行動できるのかについての不安を払拭できなかった。また,学年
児童95人が一斉にプールに入ると,水面が上昇したり,波が立ったりす20
るなどして,事故につながることも考えられた。乙小学校は,このような
事情を踏まえ,3年次についても原告子を水泳の授業に参加させなかった
のであり,このような判断は合理的なものである。
ウ乙小学校では,3年次以降,前記の主治医の見解,他校での見学の結果,
平成●年7月21日にプールでの活動を試行した結果等を踏まえて,原告25
子の水泳の授業の参加について検討を行い,同年8月20日,同年9月以
降,原告子が授業中に指示を1回で行動に移すことができない状況を改善
するための指導の方法を工夫するなどした上で,4年次から水泳指導を開
始することとした。そして,水泳の学習については,泳ぐ能力や水への習
熟度で児童により差が大きく,また,安全面からもそのような部分を考慮
して学習を進めることになるのであり,高学年用プールを使用するか,低5
学年用プールを使用するかは,個々の児童の泳ぐ能力やその時々の児童の
状況を踏まえて適切に判断している。原告子についても,このような見地
から,水泳の授業の進め方に関する方針を検討・修正しながら水泳の授業
を進めており,その結果,4年次は低学年用プールを使用し,その後,高
学年用プールを使用するようになったのである。このように4年次以降に10
高学年用プールを使用しなかったことも合理的なものである。
エ以上のとおり,原告子を水泳の授業に参加させず,又は水泳の授業に高
学年用プールを使用しなかったことに国賠法上の違法はないというべきで
ある。
⑹争点6(原告らの損害の有無及びその額)15
(原告らの主張の要旨)
原告らは,前記⑵から⑸までの原告らの主張に述べた差別的取扱いや合理
的配慮の不提供等の違法行為により,重大な精神的苦痛を受けたのであり,
その慰謝料としては,原告1人当たり100万円が相当である。そして,被
告の違法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,原告1人当たり10万円20
が相当である。
(被告の主張の要旨)
否認ないし争う。
⑺争点7(消滅時効の成否)
(被告の主張の要旨)25
原告らの主張する被告の違法行為に基づく損害賠償請求権のうち,本件訴
訟の提起日から3年を遡る平成27年7月13日以前の行為に基づく損害賠
償請求権は,時効により消滅している。
(原告らの主張の要旨)
町教委や乙小学校校長らによる原告らに対する不当な差別的取扱いや合理
的配慮の不提供は,継続的な一連一体の1つの不法行為を構成し,これによ5
り包括的な1つの損害が発生しているのであるから,これらの違法行為に基
づく損害賠償請求権の消滅時効は,一連一体の行為が終結した時から進行す
るというべきである。そして,喀痰吸引器具が被告により取得されていない
以上,被告の不法行為は継続しているというべきであり,前記の損害賠償請
求権の消滅時効はいまだ進行していないというべきである。10
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実に証拠(主要なものを括弧内に掲記した。)及び弁論の全趣旨を
総合すると,次の各事実が認められる。
⑴原告子の障害の内容,原告子の言動の傾向等15
ア原告子は,に原告父母の長男として出生したが,
出生後間もなく声門下狭窄症にり患して気管切開を受け,気管カニューレ
が挿管された。気管カニューレは,気管が閉塞した状態のままその閉塞部
位の下部に挿入されているため,原告子は,気管カニューレを通じて呼吸
を行うこととなり,口や鼻から呼吸することはできず,発声も困難で会話20
は筆談等で行っていた。その後,原告子は,平成●年8月(2年次)に気
管閉塞部の切開を受け,気管カニューレに代えてTチューブが挿入された。
Tチューブは,気管の閉塞部より上に上端が出るように挿入されているた
め,原告子は,口や鼻から呼吸することができ,発声も可能となった。も
っとも,原告子は,声が小さく,具体的で分かりやすく短い言葉で話しか25
けることを要するなど,会話能力は必ずしも十分でない。(前記前提事実
⑴,⑵,乙12〔80・146頁〕,乙13〔16頁〕,19)
イ原告子は,カニューレ等が挿入されているため,気管内に喀痰が貯留す
ることがあり,必要に応じて喀痰や分泌物を吸引する必要がある。また,
原告子のカニューレ等は,その一部が前頚部から突出しているため,何か
に引っかかるなどして外れる可能性があり,カニューレ等が外れた場合に5
は次第に呼吸ができなくなるため速やかに気管カニューレを挿入して気道
を確保する必要がある。さらに,カニューレ等が留置されている気管切開
部から水を吸い込んだ場合には直ちに肺に水が入ることになり,生命に関
わる危険な状態となるため,カニューレ等から水が入らないように注意す
る必要がある。(前記前提事実⑵,乙12〔19・80・83・147頁〕)10
ウ原告子の喀痰吸引の頻度は,平成●年の乙小学校入学当初は1~2時間
に1回程度(1日合計5~8回)であったが,3年次で1日3回程度,4
年次で1日2回程度,5年次で1日1回程度と徐々に回数が減り,現在は,
1日に1回に満たない程度となっている。(乙12〔40・44・46・
61・231・246頁〕,原告父本人,弁論の全趣旨)15
エ原告子は,平成●年当時,文字や絵を理解する能力(視覚的認知),
人の話を聞く能力(聴覚的認知),運動能力,記憶能力に特に問題はな
いとされていたが,指示が通りにくく,注意力に欠け,落ち着きのない
点が見受けられた。また,原告子には,乙小学校に入学した後において
も,①授業等の途中に突然立ち歩いたり,踊り出したり,足を踏み鳴ら20
したりする,②集会等においてじっとしていることができず,突然水を
飲みに行くなど自己中心的な行動に出る,③授業等において教師の指示
に従って行動したり,決められた行動をしたりすることができない,④
他の児童の背中を突然押す,他の児童の頭を突然叩く,前に座っている
児童の髪の毛を触るなど,行動に落ち着きがなく,教職員の指示に従っ25
て行動したり,決められた行動をしたりすることができない,突発的・
衝動的な行動に出るなどの傾向が見られた。(乙12〔146頁〕,1
3〔60頁〕,25~28,証人D,証人E,証人F)
原告らは,上記認定に沿う原告子の言動を記載したD(乙小学校元校
長)の陳述書(乙27)の記載及びこれに沿う証人Dの証言を信用でき
ないと主張し,その根拠として,証人Dは原告子の言動を手帳等に控え5
ていた旨証言するが,これを裏付けるものがなく,また,仮に控えてい
たとしてもその目的が明らかではないことなどを指摘している。しかし
ながら,証人Dの前記陳述書の記載は,詳細かつ具体的なものであって,
証人Dが5年以上前の出来事についてこのような詳細かつ具体的な事実
を全て記憶しているとは考え難く,何らかの記録に残していたと考える10
のが自然かつ合理的であるし,手控えをとった目的・意図が判然としな
いとしても,原告子の言動について乙小学校の元校長である証人Dがあ
えて虚偽の事実を手控えに残すなどする動機は見当たらない。したがっ
て,原告らの前記主張は採用することができない。
⑵原告子が乙小学校に入学するに至る経緯等15
ア原告父母は,原告子が気管カニューレを挿管し日常生活において喀痰吸
引を必要とするものの,乙小学校の普通学級に通学させたいとの強い希望
を有しており,原告子が就学前の平成●年5月24日付けで,町教委のF
教育長宛てに就学に関する要望書を提出した。その内容は,要旨,原告子
には喀痰吸引という医療的ケアが必要であり,学校生活において医療的ケ20
アを含む合理的配慮を保障し,保護者の付添い等を求めることなく原告子
を乙小学校の普通学級に入学させるよう求めるものであった。
町教委は,原告子が通園していた保育園から原告子の日常生活の状況を
聴取するなどして原告子の乙小学校への入学を検討し,同年10月1日付
けで,原告父に対し,原告子が乙小学校に就学するに当たっては保護者の25
付添い及び医療的ケアの対応が条件となるとした上で,学校での保護者の
付添い及び医療的ケアの対応ができる可能性がある場合には乙小学校での
就学時健康診断を受けるよう求めた。これに対して,原告父母は,F教育
長宛てに同月16日付けの文書を送付した。その内容は,要旨,就学時健
康診断は,障害のある子を発見して特別支援教育諸学校等への就学を図る
ことを目的とするものであり,原告父母としては,障害のある児童も障害5
のない児童もありのままの状態で学校生活を送ることが自然であると考え
ているので,就学時健康診断を受診しないことを表明し,今後,就学時健
康診断の連絡等は一切してこないよう求めるとともに,就学時健康診断を
受けないことにより就学通知書の発行が遅れるなどの不利益が生じないよ
うにすることを求めるなどというものであった。10
(以上につき,乙13〔7・15・20・24・26頁〕)
イ町教委は,原告子の就学先を乙小学校とすることとし,原告子の医療的
ケアに対応するため,「甲町立小中学校における医療的ケアの実施要綱」
(本件要綱)及びその細目的事項を定めた「甲町立小中学校医療的ケア実
施要項」(本件要項)を策定し,本件要綱等は,平成25年1月24日に15
施行された。
本件要綱は,甲町立小中学校において,医療的ケア(吸引,経管栄養,
導尿その他医療的な生活援助行為)を必要とする児童生徒の自立の促進,
健康の維持・増進等を目的として,学校に配置される支援員により医療的
ケアを実施するものとし,医療的ケアは,保護者から医療的ケアの実施の20
申請があり,教育委員会が医療的ケアの実施を決定した者について行うも
のとしている。そして,本件要綱等では,医療的ケアの実施方法として,
保護者は,医療的ケアを受ける児童生徒の医療的ケアの実施日には,連絡
票に必要事項を記入の上,医療的ケアの実施に必要な器具等とともに,登
校時に支援員に提出するとされ,本件要項では,保護者の義務として,概25
要,①保護者は,医療的ケア実施日当日の児童生徒の健康状態を連絡票で
登校時に学校に知らせること,②保護者は医療的ケアの実施に必要な医療
器具等を準備し,医療的ケア実施当日に学校に持参することなどが定めら
れている。また,本件要項では,教育委員会から医療的ケアを実施する旨
の決定を受けた保護者は,校長に所定の確認書を提出するものとされ,そ
の確認書には,保護者が,医療的ケアの実施に当たって,⒜保護者が連絡5
票を登校時に学校に提出し,連絡票を提出できないときは医療的ケアの実
施を依頼しないこと,⒝保護者は,医療的ケアを実施するための器具等を
負担すること,⒞保護者は,医療的ケア実施日には必要な医療器具等を準
備して学校に持参し,器具等を持参できないときは医療的ケアの実施を依
頼しないことなどを確認した旨が記載されている。10
(以上につき,甲3,4)
ウ町教委は,平成●年1月30日付けで,原告父に対し,原告子の就学先
を乙小学校とする旨の就学通知書を送付した。(乙13〔33頁〕)
エ原告父は,平成●年2月18日,町教委に対し,本件要綱等に関する質
問事項・提案事項として,①支援員の職務内容は何か,②連絡票は普通の15
連絡帳ではいけないのか,③子供が連絡票を持って行って渡してはいけな
いのか,④器具等を小学校に保管し日常的な洗浄等を行ってもらうことは
できないのか,⑤器具等を毎日支援員に手渡ししなければいけないのか,
⑥現在,支援員が1人とのことであるが,その支援員が急に休むことにな
ったときの対応方法はどのように考えているのか,⑦支援員を2人雇用し20
て曜日ごとのシフト制を組むことはできないのかなどを記載した電子メー
ルを送信した。また,原告父母は,F教育長宛てに,同年3月5日付け「合
理的配慮に関する要望書」を送付した。その内容は,乙小学校において医
療的ケアを行う支援員は1人の予定であることについて,交代要員がいな
い場合には原告子は医療的ケアを受けることができず,登校させることが25
できなくなるため,支援員の不在をなくすために交代要員又は補助要員を
配置して,保護者の付添い等を求めることなく,原告子が乙小学校に安心
して通学できるよう求めるというものであった。(乙13〔34・39頁〕)
⑶原告父母と町教委との喀痰吸引器具に関する協議経過
ア町教委は,平成●年4月4日,本件要綱等に基づき,原告父からの申請
を受けて,1人の支援員により原告子に対する喀痰吸引を医療的ケアとし5
て実施することを決定した。また,原告父は,同日付けで,町教委に対し,
本件要項所定の確認書を提出し,その後,原告父は,原告子が進級する平
成●年から平成●年までのそれぞれ3月に,本件要項に基づき,町教委に
対して原告子の喀痰吸引を医療的ケアとして実施することを申請するとと
もに,前記と同内容の確認書を提出し,町教委から喀痰吸引を医療的ケア10
として継続して実施する旨の決定を受けた。(乙12〔47~56・86
~94・139~142・187~190頁〕)
イ原告子は,平成●年4月8日,乙小学校に入学し,同日から喀痰吸引の
医療的ケアを受けた。原告子の喀痰吸引は,電動の喀痰吸引器具を使用し
て実施するものであり,その手順は,概要,カテーテルを電動の喀痰吸引15
器具に接続し,カテーテル洗浄液等でカテーテルを消毒した上,カテーテ
ルを気管孔内に挿入して少しずつ引き上げながら分泌物を吸引瓶に吸引し,
使用後にはカテーテルを洗浄するというものであり,カテーテル及び消毒
洗浄液は毎朝交換するものとされていた。(前記前提事実⑴,甲7,乙1
2〔22・51・88・136・175〕,26)20
ウ原告母は,本件要綱等に従い,原告子の登校日に喀痰吸引器具及び連絡
票を乙小学校に持参し,原告子の帰宅時にそれらを持ち帰ることを続けた。
(原告父本人,原告母本人,弁論の全趣旨)
エ原告父母及びその代理人である原告訴訟代理人は,平成●年9月29日
付けで,町教委に対し,喀痰吸引器具の保管等に関する要望書を提出した。25
その内容は,要旨,本件要綱等では,保護者の負担で医療的ケアに必要な
器具を準備し,その器具及び連絡票を保護者が毎日学校に持ち運び,それ
ができないときには医療的ケアを実施しないものとされているが,それで
は,保護者が学校に行けない場合に児童が医療的ケアを受けることができ
ないことになり,このような取扱いは,障害者差別解消法7条1項の禁止
する不当な差別的取扱いに該当し,同条2項が禁止する合理的配慮の不提5
供に該当するから,本件要綱等を改訂し,①医療的ケアに必要な器具等を
合理的配慮の提供として学校側で準備し,保管及び保守管理を実施するこ
と,②連絡票の持参は,児童生徒本人が連絡票を持ち帰るなど適宜の方法
でよいものとすることなどを定めるよう求めるものであった。
これに対して,町教委は,平成●年10月13日付けで,①喀痰吸引器10
具は,教育用備品ではなく個人が専用で使用するものであり,現時点では
学校が器具を用意することは適切でない,②連絡票の持参については,原
告子の成長に合わせて特別に認める方向で対応したい旨を回答し,その後,
喀痰吸引器具の保管は,乙小学校で行うこととなり,町教委は,同年11
月30日,原告子についての特別の措置として,医療的ケアの実施方法に15
つき,⒜連絡票は,保護者が必要事項を記入した上,児童が支援員に提出
すること,⒝支援員は,児童の登校後の健康状態を確認し,健康状態など
医療的ケアを行う上で異状があると思われる場合は保護者に連絡すること
などを定め,保護者の義務として,⒞保護者は,児童の健康状態を連絡票
に記入して児童が登校時に支援員に提出するようにすること,⒟保護者は,20
医療的ケア実施に必要な医療器具等を準備し,学期初めに学校に持参する
ことなどを定めた。これらを受けて,乙小学校は,同年12月4日以降,
夏季の休業日等を除き,喀痰吸引器具の洗浄,保管等を行った。
(以上につき,乙12〔222頁〕,13〔166・178・192頁〕,
証人F)25
オその後,原告ら訴訟代理人弁護士は,平成●年1月9日付けで,町教委
に対し,引き続き,前記エと同様の本件要綱等の改訂を要求する旨の申入
書を提出し,これに対して,町教委は,同年2月16日付けで,国や愛知
県などの対応状況等から普通学校において学校が器具を用意するには至ら
ないと捉えているので本件要綱等の改訂は行わない考えである旨を回答し
た。(乙13〔195・201頁〕)5
⑷原告子の校外学習の状況等
ア乙小学校における医療的ケアの人的体制等
町教委は,原告子が乙小学校に就学する場合には医療的ケアを実施す
る必要があることから,原告子の入学前である平成●年11月15日,
愛知県教育委員会に対して,国の「医療的ケアのための看護師配置」に10
係る事業を活用して乙小学校に看護師を配置することや愛知県独自の事
業として乙小学校に看護師を配置することを要請したが,いずれも困難
である旨の回答がされた。そのため,原告子に医療的ケアを実施する者
は,被告独自の予算で配置することとなった。(乙13〔28・31・
72・84頁〕,26,証人E,証人F,弁論の全趣旨)15
その後,前記⑵のとおり,町教委は,原告子を乙小学校に就学させる
こととし,本件要綱等を定め,乙小学校に支援員を配置して原告子に対
する医療的ケア(喀痰吸引)を実施することとした。町教委は,喀痰吸
引が医療行為であることから,支援員として看護師資格を有する者を探
したが,①被告において雇用する場合には給与の水準に限界があること,20
②業務の性質上,休憩時間中にも対応する必要があること,③学期中の
平日には在校する必要があること,④支援員は,喀痰吸引以外にも日常
の行動の補助も担当することなどから,現職の看護師を支援員として雇
用することはできず,当時65歳の元看護師を1人確保することができ
たにとどまった(以下,この看護師を「当初支援員」という。)。そし25
て,被告は,平成●年から平成●年まで当初支援員との間において,就
業場所を「甲町教育委員会,乙小学校」,作業内容を「医療的ケアが必
要な児童への対応,個別に支援が必要な児童への補助等」などとする雇
用契約を継続的に締結し,当初支援員が支援員として乙小学校に配置さ
れた。その後,当初支援員が年齢的に支援員を続けることが難しくなっ
たために退職することとなったが,その頃,病院を退職した看護師2人5
を支援員として確保することができたことから,平成●年からは支援員
2人が交替で勤務する体制を執ることができるようになった。(乙21
~24,26,証人E,証人F,弁論の全趣旨)
イ原告父母に対する付添いの依頼の状況等
平成●年度(1年次)について10
a1年次の校外学習は,春と秋の2度行われ,春の校外学習は,甲町
内の学区外の公園への遠足であったが,①原告子が入学して間もない
時期であり,医療的ケアの実施方法や原告子の状況を十分に把握する
ことができていないこと,②原告子にはふらふらと歩いたり,落ち着
かない場面が多く見られたこと,③当初支援員も初めての校外学習で15
あったことなどから,乙小学校校長は,喀痰吸引をすることができる
原告母に付添いを依頼し,その際,原告母が付き添わない場合には,
原告子は乙小学校で特別授業を受けることになる旨を告げた。しかし
ながら,原告母は,乙小学校校長からの前記要請を拒否した上で,原
告父母の付添いを求めることなく原告子を遠足に参加させるように要20
望した。そのため,F教育長は,当初支援員との雇用契約上は就業範
囲が学区内とされていたものの,当初支援員に対して,学区外への遠
足への同行を依頼してその了承を得た上,町教委の職員を現地に派遣
することとし,同職員が当初支援員と共に自動車で遠足の目的地に移
動するとともに乙小学校校長が喀痰吸引器具を持参して目的地まで同25
行することにより春の校外学習が実施された。もっとも,原告母は,
児童らが目的地まで移動する途中は当初支援員がいないことから,そ
の間に喀痰吸引が必要となった場合に対応する必要があると自ら判断
し,原告子の行き帰りを見守ることとした。
秋の校外学習は,名古屋市内の東山動物園への社会見学であったが,
当初支援員との雇用契約上の就業範囲が学区内とされていたため,乙5
小学校校長は,原告母に秋の校外学習に同行することを依頼し,その
際,喀痰吸引を行うことができる者が同行できない場合には原告子は
乙小学校での学習となる旨を告げた。原告母は,前記要請に応じ,秋
の校外学習に同行した。その後,原告父母の要望を踏まえて,町教委
は,当初支援員に対して,翌年度以降の校外学習は学区外であっても10
同行してもらうよう依頼し,当初支援員の了承が得られた。
(以上につき,甲16,17,乙13〔48・70頁〕,26,27,
証人D,証人F,原告母本人)
bこの点に関し,原告らは,当初支援員との雇用契約上,学区外への
同行が雇用契約の内容に含まれていないなどといった事実はなかった15
旨主張し,その根拠として,平成●年度(1年次)には当初支援員が
学区外に同行しており,平成●年度(2年次)の当初支援員との雇用
契約書は平成●年度のものと異ならないことを挙げる。しかしながら,
平成●年度と平成●年度の各雇用契約書には就業範囲として,いずれ
も「甲町教育委員会,乙小学校」と記載されており(乙21,22),20
これらの記載からすれば,雇用契約書上,当初支援員の就業範囲には
学区外が含まれないと解するのが合理的である。そして,平成●年度
の春の校外学習及び平成●年度以降の校外学習については,支援員と
の間で別途口頭により学区外であっても同行する旨が合意されたこと
は前記認定のとおりである。25
したがって,原告らの前記主張は採用することができない。
平成●年度(2年次)について
2年次の校外学習は,春と秋の2度行われ,春の校外学習は,バスで
の移動を伴う戸田川緑地公園への遠足であった。乙小学校校長は,原告
子が低学年であり,高齢の支援員1人が原告子に対応することは負担が
大きいと考えられたため,原告父母に付添いを依頼したが,原告父母か5
らは付添いを断られた。そのため,当初支援員のほかに町教委の職員が
同行して春の校外学習が実施された。
秋の社会見学は,三重県内の輪中の郷公園で行われたところ,乙小学
校校長は,春の校外学習のときと同様の理由から原告父母に付添いを依
頼したが,原告父母からは付添いを断られた。そのため,当初支援員の10
ほかに町教委の職員が同行して秋の社会見学が実施された。
(以上につき,乙27)
平成●年度(3年次)について
3年次の校外学習は,春と秋の2度行われ,春の校外学習は,名古屋
港水族館への遠足であった。乙小学校校長は,春の校外学習が移動に公15
共交通機関を利用するものであったことなどから,高齢の支援員1人が
原告子に対応することは負担が大きいと考えられたため,原告父母に付
添いを依頼し,その際,支援員が参加できない場合には原告父母の付添
いがないと原告子は校外学習に参加できない旨を告げたが,原告父母か
らは付添いを断られた。そのため,当初支援員のほかに町教委の職員が20
同行して春の校外学習が実施された。
秋の校外学習は,日本昭和村の社会見学であったが,移動が乙小学校
から貸切りバスで目的地に移動するものであったため,原告父母に付添
いは依頼せず,乙小学校校長が同行して秋の校外学習が実施された。
(以上につき,乙28)25
平成●年度(4年次)について
4年次の校外学習は,春と秋の2度行われたが,春の校外学習は,名
古屋市科学館への遠足であった。乙小学校校長は,春の校外学習が移動
に公共交通機関を利用するものであったことなどから,高齢の支援員1
人が原告子に対応することは負担が大きいと考えられたため,原告父母
に付添いを依頼したが,原告父母からは付添いを断られた。そのため,5
当初支援員のほかに町教委の職員が同行して春の校外学習が実施された。
秋の校外学習は,アクア・トトぎふの社会見学であったが,移動が乙
小学校から貸切りバスで目的地に移動するものであったため,原告父母
に付添いは依頼せず,乙小学校校長が同行して秋の校外学習が実施され
た。10
(以上につき,乙28)
平成●年度(5年次)について
平成●年度は,校外学習として,平成●年6月21日から同月22日
にかけて宿泊付きの愛知県豊田市内での野外学習(キャンプ)が予定さ
れており,甲町保健センターの臨時職員が支援員として派遣されること15
になったため,野外学習については支援員2人の体制で行うこととなっ
た。もっとも,この野外学習が初めての宿泊行事であること,野外学習
の場所が学校から遠距離に位置することから,乙小学校校長は,同年4
月19日,原告父母に対し,2人の支援員のいずれかが当日急に参加す
ることができなくなった場合には原告父母が付き添うよう依頼し,その20
際,原告父母が付添いを拒否した場合には原告子を学校で待機させるか,
自宅学習とする旨を告げた。これに対して,原告父母は,支援員が絶対
に2人いなければならないという体制を再考するよう求め,付添いを断
った。そのため,乙小学校校長は,支援員2人での体制について再検討
したものの,野外学習中の活動時間は1日目の就寝時刻までの間に限っ25
ても14時間以上に及ぶため当初支援員のみに対応を委ねるのは無理で
あるし,原告子の就寝中についても対応が全く不要であるとはいえず,
14時間以上に及ぶ対応をした支援員に夜間の不測の事態にまで対応す
ることを求めるのも無理であるとの結論に至り,同年5月1日,その旨
を文書で原告父母に伝えた。そして,乙小学校校長は,同月22日,原
告父母に対し,保護者の付添いなく原告子が野外学習に参加することが5
できるように支援員2人で対応する計画を進めているものの,2人の支
援員のいずれかが急に当日参加できなくなる場合には,支援員1人で夜
間の不測の事態に対応することは翌日の対応に支障が生ずることなどか
ら,その場合には支援員を夜間に休憩させるため保護者に対して現地に
おいて待機することを依頼した。しかし,原告父母はこの依頼について10
も拒否した。もっとも,結果としては,野外学習には支援員2人が参加
することができたため,原告子も参加して野外学習を実施することがで
きた。その後,乙小学校は,同年10月13日,前記の同年4月19日
の発言(支援員2人のいずれかが参加できない場合には学校で待機させ
るか,自宅学習とする旨の発言)を取り下げた。15
秋の校外学習は,本田技研鈴鹿と鈴鹿サーキットの社会見学であり,
乙小学校から貸切りバスで移動するものであったため,原告父母に付添
いを依頼せず,乙小学校校長が同行して秋の校外学習が実施された。
(以上につき,甲19,53,乙12〔199・205・218頁〕,
22,26,28,証人E,証人F)20
平成●年度(6年次)について
6年次には,平成●年5月21日から同月22日にかけて京都府及び
奈良県への修学旅行(1泊2日)平
成●年度からは当初支援員に代わって2人の支援員を確保することがで
きたことから,この2人の支援員が修学旅行に同行し,2人の支援員の25
いずれかが急に参加できない事態となった場合には当初支援員に同行し
てもらうことが可能となった。そのため,前記の修学旅行については,
原告父母に付添いを依頼することなく実施された。
秋の社会見学は,乙小学校から貸切りバスで移動するものであったた
め,原告父母に付添いを依頼せず,乙小学校校長が同行して秋の社会見
学が実施された。5
(以上につき,甲43,乙26,28,証人E)
⑸原告子が通学団に参加するに至る経過等
ア乙小学校における通学団での登下校
乙小学校においては,児童の安全確保の観点から児童が集団で登校する
ことを保護者に依頼し,一定の地域ごとに保護者及び児童が通学団を組織10
して通学団ごとに登校するものとされている。また,下校時においても,
同様の観点から,全校の児童が一斉に下校する場合(一斉下校)には通学
団ごとに下校するものとされている。この通学団は,保護者及び児童の自
主的な組織であり,乙小学校は,年に5回程度開催される通学団会におい
て登下校の交通安全等の指導を行うにとどまり,その運営には関与してい15
ない。(乙12〔184頁〕,26~28,証人D,証人E,弁論の全趣
旨)
イ原告父母と他の保護者との通学団に関する協議の経過等
原告子の居住する地域の児童及び保護者で組織される通学団(以下,
特に記載しない限り,「通学団」は,この通学団をいう。)の保護者は,20
平成●年2月頃,原告子の行動に落ち着きがなく原告母を蹴ったりする
様子があったことなどから,原告子の入学前である同年3月,原告母に
対し,①原告子が卒業するまでの6年間,通学団に原告父母が責任を持
って付き添うこと,②登下校中の安全管理は保護者の責任とし他の児童
や保護者に責任を問うことはしないこと,③保護者の付添いがないとき25
は通学団での登下校はしないことなどを内容とする誓約書に署名押印す
るよう求めたが,原告母は,これに応じなかった。また,通学団の保護
者らは,原告子の入学後である同年4月,乙小学校校長に対し,医療行
為の必要な原告子を通学団に受け入れて一緒に登下校することはできな
いとして,一斉下校時に高学年児童に原告子を通学団に誘導することは
させないこと,学年下校(同じ方向に帰宅する児童が並んで一緒に下校5
する方法)の際には,原告父母の付添いがない限り,原告子を1年生児
童の中に入れないことを申し入れた。もっとも,乙小学校校長としては,
通学団は保護者及び児童による自主的な組織であることから,保護者同
士の話合いにより解決されるべき事柄であると考え,特段の対応はしな
かった。(甲10,11,乙12〔26頁〕,13〔148頁〕,証人10
D,原告父本人,原告母本人)
前記の経緯から,原告子は,平成●年4月以降,通学団には参加せず,
原告母が付き添って通学団の後方について行くなどの方法で登下校して
いたが,その際,原告子には,急に横断歩道に飛び出したり,途中の家
のチャイムを鳴らしたり,急に人の間に割って入るなどの突発的・衝動15
的な行動が多く見られ,そのため,通学団の保護者は,原告父母の付添
いなく原告子を通学団に参加させることは困難であると判断していた。
(乙26~28,証人D,証人E,弁論の全趣旨)
その後,原告父母及び通学団の保護者のいずれからも,原告子の登下
校に関して乙小学校に対する申入れ等はなく,その間に,原告子は,通20
学団に参加しないで原告父母の付添いなく1人で通学するようになった。
そして,原告父母は,平成●年12月22日(4年次),乙小学校に対
し,「原告子は原告父母の付添いなく登下校しているにもかかわらず,
通学団は障害を理由として原告父母の付添いを求め,役員の判断で保護
者同伴による通学を求めることができること等を内容とする通学団規約25
に同意することを要求するため通学団に参加できていないから,学校の
合理的配慮の実施を求め,学校側の回答を書面で求める」旨の「合理的
配慮を求める意思表明書」を提出した。さらに,原告父母は,同月26
日,乙小学校に対し,教頭が原告父母から通学団の保護者との話合いへ
の同席を求められたのにこれを断ったことは障害を理由とする差別を幇
助するもので障害者差別解消法違反であるなどとしてこれに抗議すると5
ともに,障害を理由に原告子が卒業するまで原告父母の付添いを通学団
に参加する条件とすることは障害者差別ではないかなどを質問する旨の
「抗議及び質問書」を提出した。
これらに対し,乙小学校は,平成●年1月20日(4年次),前記の
「合理的配慮を求める意思表明書」については,乙小学校は通学団の保10
護者に対して指示・命令ができるわけではないが,話し合う場を設定で
きるように働き掛けてみたい旨を回答し,前記の「抗議及び質問書」に
ついては,通学団規約は,通学団の全ての児童が安心して登校できるよ
うにするために地区として決められた決まりであり,その決まりに基づ
いて付添いが必要であると判断されていることは障害者差別ではないと15
思う旨を回答した。
(以上につき,甲12,乙12〔160・162・167・168頁〕)
乙小学校は,原告父母と通学団の保護者とが話し合うことができるよ
う調整を行い,平成●年2月15日(4年次),乙小学校校長及び教頭
の立会いの下,原告父母と通学団の保護者との話合いの場が設けられた。20
同日の話合いにおいて,原告父母は,原告子に付き添う必要がないなど
として原告子を通学団に参加させることを求め,これに対して,通学団
の保護者は,原告子のTチューブが外れるのではないかとの不安がある
上,原告子には他の児童のランドセルを引っ張ったり,枝を持って振り
回したり,商工会の植木を勝手に持ち歩いたりするなどの行動が見られ25
ることなどを指摘し,通学団の児童が原告子と一緒に通学することに不
安を感じないよう,同年3月は原告父母が付き添い,4月以降,児童の
意見を聴いた上で判断することなどを提案した。そして,両者の話合い
の結果,同年3月以降,原告母が付き添う形で原告子が通学団に参加し,
様子を見ながら,付添いの要否について検討していくこととなり,以後,
原告母が付き添う形で原告子が通学団に参加するようになった。(乙15
9,26,28,証人E,弁論の全趣旨)
その後,平成●年4月24日(5年次),再度,乙小学校校長及び教
頭の立会いの下,原告父母と通学団の保護者との間で話合いの場が設け
られた。原告父母は,原告子のTチューブが日中に外れる可能性はほぼ
なく,原告父母が原告子に付き添う必要はないなどと述べ,これに対し10
て,通学団の保護者は,原告子に医療的ケアが必要であることは通学団
の児童も理解しており,原告子を自立させるために通学団に参加させた
い原告父母の気持ちも分からなくはないが,通学団の保護者は不安に感
じており,その不安を緩和する材料を求めているのであって,頑なに付
き添わないというのではなく,どうしたら児童が安心して通学すること15
ができるかを柔軟に考えることが必要ではないかなどの発言がされた。
そして,両者の話合いの結果,原告母が離れた位置から様子を見守るこ
ととなり,以後,原告子は通学団に参加して登下校するようになった。
(乙12〔199頁〕,20,26,28,証人E,弁論の全趣旨)
⑹原告子の水泳の授業への参加に関する経過等20
ア平成●年度(1年次)
原告父母は,平成●年の原告子の入学当初の段階から,他県において気
管切開を受けた児童が1年次から水泳の授業に参加している旨を説明した
上で,原告子を水泳の授業に参加させるよう要望していた。これに対して,
乙小学校は,①気管カニューレに水が入ることは生命の危険に直結すると25
考えられること,②原告子が入学して間もない時期であり,原告子の状況
を十分に把握することができていないこと,③原告子には落ち着きがなく,
指示に従えないことがあり,突発的・衝動的な行動に出ることがあること
などから,原告子を水泳の授業に参加させず,教室で読書や課題をさせる
などした。その際,乙小学校は,原告子の主治医の所見を求めたり,プー
ルでの活動を試行したりすることはなかった。(甲39,証人D,原告母5
本人)
イ平成●年度(2年次)
平成●年度には,原告父母から,原告子を水泳の授業に参加させるよう
求められることはなかったものの,乙小学校は,原告子の行動に落ち着き
がなく,突発的・衝動的な行動に出るなどの様子が見られ,その程度も平10
成●年度よりも増加していたことから,原告子を水泳の授業に参加させず,
教室で読書や課題をさせるなどした。その際,乙小学校は,原告子の主治
医の所見を求めたり,プールでの活動を試行したりすることはなかった。
(乙27,証人D,原告母本人)
ウ平成●年度(3年次)15
乙小学校は,平成●年4月30日に原告父母から原告子を水泳の授業
に参加させるよう求める旨の要望が出されたことから,原告子の水泳の
授業の参加を検討したものの,①気管切開部から水が入ると生命の危険
があること,②原告子は水に沈むことができないため3年生の教育課程
に従った活動ができないことから水泳の授業に参加させないこととし,20
その旨を原告父母に伝えた。これに対して,平成●年5月28日,原告
父母から,⒜実際に他校で気管切開を受けた児童がプールに入っており,
学校において合理的配慮を行えばプールに入ることも可能なはずであっ
て,障害者差別解消法からすれば,学校は保護者が水泳の授業への参加
を希望した場合にはそれを実現するために対応しなければならない,⒝25
児童に障害がある場合には教育課程を障害に合わせるべきであるなどと
して,原告子を水泳の授業に参加させることを求めた。そこで,乙小学
校は,原告子を水泳の授業に参加させる場合の安全面を確認するため,
原告子の主治医の意見を求めることとした。(乙12〔99,103頁〕,
28,弁論の全趣旨)
平成●年6月18日,乙小学校校長らと原告父母は,原告子の主治医5
である小児科の医師Gと面談した。同日の面談において,学校側は,原
告子には,教室や集会で突然立ち上がったり,ドンドンと足を踏み鳴ら
したりする,授業中に踊り出すことが頻繁にある,集会の時に静止して
いない,教職員の話が聞けず,指示も一度で聞くことができないなどの
行動が見受けられることを指摘し,水泳の授業に参加させた場合にはT10
チューブから水が入る危険があり,安全面に不安がある旨を述べた。こ
れに対して,原告父母は,①入浴ができていることや原告父母がプール
に連れて行っている時の様子からすると原告子が水泳の授業に参加して
も危険性はないと認識している,②教職員が付いてもらえれば対応でき
るのではないかと考えているし,原告子が突発的な行動に出たときのた15
めに近くに教職員がいる体制を執っているものと思っている,③指示が
聞けないのであれば反省するように促せばよいなどと述べた。もっとも,
医師Gは,原告子が指示に従えず,突発的にTチューブに水が入ってし
まうようなことがなければ問題はないものの,原告子は,通常の3年生
の児童と比較してもなかなか指示に従えない状況にあり,医師G自身の20
考えとして,絶対に大丈夫だとはいえず,乙小学校が原告子の普段の生
活を見ていて安全が確保できないと考えるのであれば,少しでも危険な
ことをするのはどうかと思う旨の意見を述べた。(乙12〔87頁〕,
25)
その後,乙小学校は,原告母と協議の上,平成●年7月3日に気管切25
開を受けた児童が在籍する学校の水泳の授業を見学した。乙小学校は,
この授業の見学により,浮輪を2個付けることで安定することやプール
の中で当該児童(3年次の男児)に付いて指導する指導者と当該児童の
近くのプールサイドで動く補助者が必要であることが確認できたものの,
当該児童は,全体に指示を出す教師の指示に従って行動することができ
ており,自分勝手な行動はしていなかったことから,原告子の水泳の授5
業の参加の可否について参考にすることは難しいと判断した。また,夏
季の休業日である同月21日,原告子のプールでの活動が試行され,原
告子には浮輪を2つ装着して姿勢を安定させ,隣に教師が付き添い,補
助者として校長も原告子の近くのプールサイドで原告子に合わせて動く
などした。プールでの活動の試行は,特段の事故なく無事終了すること10
ができたが,その途中で,原告子に突発的な行動まではなかったものの,
落ち着きのない様子が見受けられ,指導者等から名前を呼ばれて注意喚
起される場面が見られた。(甲22,23,42,45,46,乙12
〔100・115・116頁〕,28,弁論の全趣旨)
乙小学校は,医師Gプールでの活動の試行15
の結果を踏まえて,平成●年8月20日,原告子の水泳の授業に関する
今後の計画を立案したが,その内容は,①同年9月からは,原告子が,
教室で授業中に踊り出したり,授業中に指示を1回で行動に移すことが
できなかったりした状況を,本人への指導や支援の方法を工夫しながら
改善していく,②平成●年度の水泳の授業開始以降には,プールでの活20
動を試行するとともに,4年次の水泳の授業や原告子の泳力の状況を把
握する,③これらの結果を踏まえて,水泳の授業に関するマニュアルを
作成し,このマニュアルに基づいて水泳指導を開始するなどというもの
であった。(乙12〔115・116頁〕,弁論の全趣旨)
これに対して,原告父母は,平成●年2月4日付けで,乙小学校に対25
し,「プール授業に関する要望書」を提出した。その内容は,①障害者
差別解消法によれば,合理的配慮を提供することは公的機関の法的義務
であるところ,原告父母は,原告子の入学直後から水泳の授業に参加す
るための合理的配慮を要求していること,②医師Gとの面談においては,
プールに落ちた場合でも水がすぐには気管切開部から大量に流れ込むわ
けではないことなどの説明がされていること,③平成●年7月21日の5
プールでの活動の試行など
はなく,校長等の指示も聞けていたこと,④原告子の外科の主治医は,
同年12月14日,Tチューブが留置されている喉の部位が水中に入る
ことがないよう,安全配慮を怠らなければ,医学上プールでの運動が一
切禁忌とされることはなく,喉の下の胸部から上部が水中に水没しない10
ように指導者が観察するなどの安全配慮を怠らなければ特別な危険はな
い旨の意見を述べていることなどを指摘した上,原告子を原告父母の付
添いなく4年次の全ての水泳の授業に最初からプールに入る形で参加で
きるようにし,そのための合理的配慮の実施を求めるとともに,水泳の
授業に必要な人員は学校の責任において確保し,保護者に依頼しないよ15
う求めるというものであった。これに対して,乙小学校は,平成●年3
月11日付けの文書で,原告父母に対し,平成●年度のプール開き後す
ぐに,プールでの活動を試行し,水泳の授業を安全に行うことができる
ことを確認した上で,水泳の授業への参加を開始する方針である旨を回
答した。(甲22,乙12〔124・138頁〕)20
エ平成●年度(4年次)
乙小学校は,平成●年5月6日,今後の計画として,①原告子のプール
での活動を試行し,水泳の授業を安全に行うことが確認できれば最初の水
泳の授業から原告子を参加させること,②プールでの活動は低学年用プー
ルにおいて指導者がプールに入って指導を行い,補助者はプールサイドを25
活動場所に合わせて移動することなどを定めた。そして,乙小学校は,前
記計画に従い,原告子のプールでの活動を試行した上,最初の水泳の授業
から原告子を授業に参加させ,その際には指導者・補助者の2人が原告子
の両側に付いて原告子の安全を確保しつつ授業が実施された。また,乙小
学校のプールは,鉄柵を境に水深約65㎝の低学年用プールと水深85㎝
から115㎝までの高学年用プールに分かれており,3年次からは,主と5
して高学年用プールを使用するものとされていたが,原告子の水泳の授業
は,胸より上に水が届かないようにするなどのために低学年用プールを使
用して行われた。(乙12〔104・150・151・157・239頁〕,
28,証人E,弁論の全趣旨)
オ平成●年度(5年次)10
乙小学校は,平成●年度は,最初の水泳の授業から原告子を参加させる
こととし,前年度と同様,指導者・補助者の2人が原告子の両側に付くこ
とにより安全を確保しつつ授業が実施された。また,平成●年度では,最
初の水泳の授業は低学年用プールでのみ行われたものの,その後,高学年
用プールにおいて安全に活動することができることが確認されたことから,15
乙小学校校長らは,原告子の水泳の授業について,高学年用プールでの学
年全体の活動の状況を見て安心して安全に活動できる状況である場合には
高学年用プールを使用することもあるとの方針で臨むこととし,平成●年
6月14日の授業からは,低学年用プールに併せて高学年用プールも使用
するようになった。高学年用プールを使用した際に原告子の安全を確保で20
きない事態は生じなかったものの,①他の児童と同時に活動すると低学年
用プールに比べて波が高くなり,指導者と補助者が両側に位置して波をブ
ロックしても原告子がやりにくさを感じていたこと,②隣のコースから曲
がって進んでくる児童と交錯する可能性があったことなどから,次年度か
らは,あらかじめ学年全体の活動内容を確認し,高学年用プールで他の児25
童と同時に安全に参加することができる場面を検討するものとされた。(乙
12〔215・216頁〕,28)
カ平成●年度(6年次)
乙小学校は,平成●年度も最初の水泳の授業から原告子を参加させるこ
ととし,その際に使用するプールについては,前年度に定められたところ
に従い,低学年用プールから開始し,学年全体の活動の状況を見て安心し5
て安全に活動できる状況である場合には高学年用プールを使用して行うこ
ともあるとの方針で臨むこととしていた。これに対し,原告父母からは,
最初から最後まで高学年用プールで活動させるよう要求されたが,最初の
水泳の授業(平成●年6月12日)において気管切開部に水がかぶりそう
になる場面があったことから,原告父母の要請にもかかわらず上記の方針10
を変更せず対応することとした。そうしたところ,同月13日の水泳の授
業を参観した原告母から,低学年用プールを使用すると体が前のめりにな
って原告子に水がかかり危険である,何かあったら責任を取ってもらうな
どと抗議を受けたことから,学校側で原告子の授業に使用するプールにつ
いて再度検討し,その結果,高学年用プールを使用しても指導者と補助者15
が絶えず原告子の両側に位置して波をブロックして注意しながら進めれば
何とか安全を確保することができると考えられたことから,次の水泳の授
業(同月26日)以降,原告子の水泳の授業を全て高学年用プールで行う
こととした。そして,その際には前記の方法で水泳の授業を行うことによ
り安全を確保できない事態は生じなかった。(乙12〔239~243頁〕,20
28,弁論の全趣旨)
2争点1(原告らが障害者差別解消法7条2項に基づき喀痰吸引器具を取得し,
維持,保管及び整備することを請求し得るか)について
原告らは,障害者差別解消法7条2項に基づき,同項の合理的配慮の提供と
して,被告に対し,喀痰吸引器具等の取得等を請求している。25
しかしながら,同項は,障害者に対して合理的配慮を行うことを公法上の義
務として定めたものであって,個々の障害者に対して合理的配慮を求める請求
権を付与する趣旨の規定ではないと解される上,合理的配慮の内容は個別の事
案に応じた多種多様なものであり,その内容が一義的に定まるものではない。
また,これらの点を措いても,後記3に説示するところによれば,被告が同項
に基づく合理的配慮の提供として喀痰吸引器具を取得する義務があるという5
ことはできない。
以上のことからすれば,原告らが,同項に基づいて,喀痰吸引器具の取得等
を請求することはできないというべきである。
なお,原告らは,原告子が被告の設置する中学校に通学していることから原
告らと被告の間に在学関係ともいうべき関係が存在すると主張しているとこ10
ろ,原告らの請求が,このような公法上の関係に付随する配慮義務に基づいて
喀痰吸引器具の取得等を請求するものと解し得るとしても,原告子に対する配
慮には多種多様なものがあり得るのであり,その内容が一義的に定まるもので
はない上,後記3に説示するところからすれば,被告が喀痰吸引器具を取得す
る義務を負うということはできない。そうすると,仮に,被告に前記の配慮義15
務を観念し得るとしても,そのことから直ちに被告に対して喀痰吸引器具の取
得等を請求することができるものではない。
3争点2(町教委が原告子の登校の条件として喀痰吸引器具の準備及びその経
費を原告父母の負担とするとともに,原告父母に喀痰吸引器具及び連絡票を原
告子の登校日に持参するよう求めたことが国賠法上違法といえるか)について20
⑴町教委が原告父母に喀痰吸引器具を取得することを義務付けたことにつ
いて
原告らは,町教委が本件要綱等において原告子の登校の条件として原告父
母に喀痰吸引器具を取得することを義務付けたことは,障害者基本法4条及
び障害者差別解消法7条に反し,国賠法上違法である旨主張する。25
町教委の策定した本件要綱等では,保護者は医療的ケアの実施に必要な医
療器具等を準備するものとされ,本件要項に基づいて保護者が提出する確認
書では,保護者は,医療的ケアを実施するための器具等を負担し,医療的ケ
ア実施日に必要な医療器具等を持参できないときは医療的ケアの実施を依頼
しないものとされていることが認められる(前記認定事実⑵イ)。そして,
地方公共団体の設置する学校において医療的ケアを実施する場合に当該医療5
的ケアの実施方法等をどのように定めるかについては当該学校を管理する権
限を有する教育委員会に一定の裁量が認められるものの,その内容が障害者
基本法又は障害者差別解消法に違反するものであるときは,教育委員会がそ
のような定めをすることは,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用す
るものとして違法となるものと解される。そうであるところ,①喀痰吸引器10
具は,カテーテルをカニューレ等に挿入して気管内の喀痰を吸引瓶に吸引す
るものであり(前記認定事実⑶イ),その器具の性質上,不特定多数の児童
が共用することは想定し難く,専ら原告子の個人的使用に供されるものと考
えられること,②原告父母には原告子に普通教育を受けさせる義務があり(憲
法26条2項,教育基本法5条,学校教育法16条),原告子が学校生活に15
使用する物品の費用を保護者の負担とすることも不合理とはいえないこと,
③喀痰吸引器具は数万円で購入することが可能なものである上(乙13〔1
69頁〕),その取得については,平成17年2月21日厚生労働省雇用均
等・児童家庭局長通知「新たな小児慢性特定疾患対策の確立について」に基
づく事業により一定額の補助を受けることができること(乙2)などからす20
ると,原告子が医療的ケアを受けるために必要な喀痰吸引器具を原告父母に
おいて取得すべきであるとすることが不合理であるということはできない。
以上のことからすれば,町教委が本件要綱等において原告父母が喀痰吸引
器具を取得すべきであるとしたことが,障害者基本法4条及び障害者差別解
消法7条の不当な差別的取扱いや合理的配慮の不提供に当たるということは25
できず,町教委がその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものとし
て国賠法上違法であるということはできない。
⑵町教委が本件要綱等において原告父母に喀痰吸引器具及び連絡票を原告
子の登校日に持参することを義務付けたことについて
原告らは,町教委が本件要綱等において,原告子の登校の条件として原告
父母に喀痰吸引器具及び連絡票を持参することを義務付けることは障害者基5
本法4条及び障害者差別解消法7条に違反し,国賠法上違法である旨主張す
る。
町教委の策定した本件要綱等では,保護者は,医療的ケアを受ける児童生
徒の医療的ケアの実施日に連絡票及び医療的ケアの実施に必要な器具を持参
するものとされ,本件要項に基づいて保護者が提出する確認書では,保護者10
は,医療的ケア実施日に連絡票及び必要な医療器具等を学校に持参し,これ
らを持参できないときは医療的ケアの実施を依頼しないものとされており,
原告子については,平成●年12月まで本件要綱等に従って,原告父母が登
校日に喀痰吸引器具及び連絡票を学校に持参していたことが認められる(前
記認定事実⑵イ,⑶ウ及びエ)。そして,前記のとおり,教育委員会が地方15
公共団体の設置する学校における医療的ケアの実施方法等を定める場合にお
いて,その定めが障害者基本法又は障害者差別解消法に反するものであると
きは,教育委員会がそのような定めをすることは,その裁量権の範囲を逸脱
し,又はこれを濫用するものとして違法となるものと解される。
そこで,検討するに,学校が安全かつ適切な医療的ケアを実施するために20
は,学校が医療的ケアを受ける児童生徒の健康状態等に関する的確で十分な
情報が必要となるが,学校関係者は学校内での限られた時間に児童生徒と接
触するにすぎず,その過程で児童生徒の健康状態等に関する十分な情報を得
ることは困難である。また,保護者が児童に連絡票を持参させるなどして児
童の健康状態等に関する情報を学校側に提供することとした場合には,連絡25
票の記載内容が具体性に欠けたり,簡潔に過ぎたりするなどのために学校に
おいて医療的ケアの実施に必要な情報を得られないことが想定されるし,小
学校の児童に連絡票の記載内容や自らの健康状態等を説明させることにより
必要な情報を取得することにも限界があることは明らかである。そうである
ところ,保護者は,日常的に当該児童生徒の監護養育に当たっている者とし
て当該児童生徒の障害の内容,程度,日常生活上の身体状況等を最もよく知5
悉しているのであるから,このような保護者が学校関係者と直接対話するこ
とにより当該児童生徒の健康状態等に関する具体的で詳細な情報が学校側に
提供されることを十分に期待することができる。特に,原告子については,
2年次の途中までは発声が困難で,会話は筆談で行うことを要する状態であ
り,3年次以降は発声することは可能となったものの,声が小さく,具体的10
で分かりやすく短い言葉で話しかけることを要するなど,会話能力は必ずし
も十分でなかったのであるから(前記認定事実⑴ア),原告子に安全かつ適切
な医療的ケアを実施するため,原告父母が直接に原告子の日々の健康状態等
に関する情報を学校側に提供する必要性が高かったということができる。
また,学校が安全かつ適切な医療的ケアを実施するためには,不具合のな15
い衛生的な医療器具が必要となるが,医療的ケアに必要な医療器具を学校で
保管することとした場合には,学校の人的物的な制約から当該医療器具を安
全かつ適切な保管環境の下で管理することができない事態が生ずる可能性が
否定できない一方で,保護者が医療的ケアを実施するごとに当該医療的ケア
に必要な器具を持ち帰る場合には,安全かつ適切な保管環境の下で当該医療20
器具を管理することや,保護者による洗浄や保守点検によって当該医療器具
が衛生的で不具合のない状態とすることを十分に期待することができる。
さらに,医療的ケアは,児童の生命・身体の安全に関わる措置を学校が実
施するものであるから,その実施に当たっては,学校と保護者との信頼関係
の形成及び維持が不可欠であり,特に,原告子に対する喀痰吸引は,一回的25
なものではなく,原告子が小学校に在籍する間,継続的に必要となるもので
あるから,原告子に対する安全かつ適切な医療的ケアの実施のためには,学
校と原告父母との間に信頼関係が形成及び維持される必要が高いものと解さ
れる。そして,保護者が,学校関係者と日常的に交流し,直接の人格的接触
を積み重ねることを通じて,相互理解が深まり,高い信頼関係が醸成される
ことを期待することができる。5
加えて,保護者に対して医療的ケアの実施日に連絡票及び必要な医療器具
等を学校に持参することを求めることは,保護者の一定の負担の下で医療的
ケアを必要とする児童生徒の教育を受ける権利を実現するものであり,保護
者には子女に普通教育を受けさせる義務があること(憲法26条2項,教育
基本法5条,学校教育法16条)からすれば,学校生活において医療的ケア10
が必要な児童生徒の保護者に対し,その医療的ケアの実施に必要な一定の助
力を求めることも不合理ということはできない上,原告子の使用する喀痰吸
引器具は,おおむね30㎝四方の重さ約2㎏程度のものであるから(甲7,
弁論の全趣旨),原告父母に対してこれを持参することを求めることが,原
告子に安全かつ適切な医療的ケアを実施しその教育を受ける権利を実現する15
ための負担として過大なものとまではいえない。
以上の諸点を総合すると,町教委が本件要綱等において原告子に対する医
療的ケア実施の条件として原告父母に原告子の登校日に喀痰吸引器具及び連
絡票を学校に持参することを義務付けることが,障害者基本法4条及び障害
者差別解消法7条の不当な差別的取扱いや合理的配慮の不提供に当たるとい20
うことはできず,町教委がその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用する
ものとして国賠法上違法であるということはできない。
4争点3(乙小学校校長らが原告子の校外学習に原告父母の付添いを求めたこ
とが国賠法上違法といえるか)
⑴原告らは,乙小学校校長らが原告子の校外学習に際して原告父母の付添い25
を求めたことが障害者基本法及び障害者差別解消法に反するものであり,国
賠法上違法である旨主張する。
⑵乙小学校校長は,原告子の校外学習のうち,1年次の春と秋の校外学習,
2年次の春と秋の校外学習,3年次の春の校外学習,4年次の春の校外学習
及び5年次の夏の野外学習について原告父母に付添いを求めたことが認め
られる(前記認定事実⑷イ)。そして,学校教育における教育内容及び指導5
方法の決定には,教育専門家であり当該学校の事情にも精通する学校設置者
や教師に一定の裁量が認められるものの(最高裁平成20年(受)第284
号同21年12月10日第一小法廷判決・民集63巻10号2463頁参
照),その決定が障害者基本法又は障害者差別解消法に反するものであると
きは,学校設置者や教師の裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するもの10
として違法となるものと解される。
そこで,検討するに,原告子のカニューレ等は,その一部が前頚部から突
出しているため何かに引っかかるなどして外れる可能性があり,カニューレ
等が外れた場合には次第に呼吸ができなくなるため速やかに気管カニューレ
を挿入し気道を確保する必要があるところ(前記認定事実⑴イ),小学校の15
児童の校外学習においては,日常と異なる場所での学習に気分が高揚するな
どして児童が不測の行動に出る可能性が高くなり,特に,原告子は,入学当
初から,行動に落ち着きがなく,教職員の指示に従って行動したり,決めら
れた行動をしたりすることができない,突発的・衝動的な行動に出るなどの
傾向が見られたのである(前記認定事実⑴エ)。そして,教職員側も日常と20
異なる不慣れな場所で児童の行動に対応することを余儀なくされることとな
る。これらのことからすれば,原告子の校外学習においては,カニューレ等
が外れることのないよう特段の注意を要する上,喀痰吸引等の場面において
原告子が支援員の指示に従いにくくなるなど,原告子の対応には通常以上の
身体的,精神的負担がかかることが想定される。そうすると,原告子の校外25
学習において,原告子に対応するために高齢の支援員1人以外の者の同行を
求めることも合理的な措置であるということができる。そして,原告父母は
日常的に原告子の監護養育に当たっていることから原告子の障害の内容,程
度,日常生活上の行動特性等を最もよく知悉している上,喀痰吸引は医療行
為であるため,これを実施することができる者は看護師等に限られるところ,
原告母は喀痰吸引を行うことができること(原告母本人)からすれば,原告5
父母が校外学習に付き添うことにより,原告子の生命・身体の安全を確保し,
安全かつ適切な医療的ケアを実施することを期待することができる。また,
原告子の校外学習に原告父母の付添いを求めることは,原告父母の一定の負
担の下で原告子の教育を受ける権利を実現するものであり,保護者には子女
に普通教育を受けさせる義務があること(憲法26条2項,教育基本法5条,10
学校教育法16条)からすれば,学校生活において医療的ケアが必要な原告
子の保護者である原告父母に対し,その医療的ケアの実施に必要な一定の助
力を求めることも原告子の教育を受ける権利の実現のための措置として不合
理ということはできない。
そして,前記認定事実⑷イによれば,乙小学校校長らが原告父母に対して15
付添いを求めた理由は,①原告子が入学して間もない時期で,原告子の状況
を十分に把握することができておらず,当初支援員も初めての校外学習であ
ったこと(1年次春),②校外学習の場所が当初支援員との雇用契約上の就
業範囲の外であったこと(1年次秋),③移動に公共交通機関を使用するこ
となどから高齢の支援員1人が原告子に対応することは負担が大きいと考え20
られたこと(3年次春,4年次春),④宿泊を伴う野外学習において2人の
支援員のうち1人が参加することができなくなった場合には1人の支援員が
昼夜連続して長時間原告子に対応することはできないと考えられたこと(5
年次夏)などであり,校外学習の目的地まで貸切りバスで移動する場合(3
~6年次秋)や2人の支援員を確実に確保することができる場合(6年次修25
学旅行)には,原告父母に付添いを依頼していないことからすれば,乙小学
校校長らが原告子の校外学習に原告父母の付添いを求めたのは,一定の合理
的な理由がある場合に限られているということができる。また,町教委は,
原告子が乙小学校に入学するに当たり,愛知県教育委員会に対して国又は愛
知県の事業として看護師の配置を要請したものの,これは実現しなかったた
め,被告独自の予算で看護師を配置せざるを得なくなり,給与等の勤務条件5
から当時65歳の元看護師1人を雇用することができるにとどまったのであ
って(前記認定事実⑷ア),支援員として高齢の元看護師1人しか雇用する
ことができなかったこともやむを得ないものといえる。
さらに,原告父母は,原告子の校外学習に付き添うよう求められたのに対
して,1年次の秋の校外学習以外はこれに応じていないこと(前記認定事実10
⑷イ),乙小学校は原告父母から付添いを断られたのに対して,原告子のみ
を校外学習としないなどの措置は執らず,乙小学校や町教委の職員が同行し
て当初支援員の負担を軽減することにより原告子についても校外学習を実施
していることなどからすると,乙小学校校長が原告子の校外学習において原
告父母に付添いを求めたことは,強制にわたるものとまでいうことはできず,15
原告子の生命・身体の安全を確保し,安全かつ適切な医療的ケアを実施する
ために原告父母に付添いを打診したものにとどまるものということができる。
この点,乙小学校校長らが付添いを依頼するに際し原告母が付き添わない場
合には原告子が校外学習に参加することができなくなる旨を告げたことが認
められ上に説示したところからする20
と,これらの発言をもって原告父母に対する付添いを強制する趣旨のもので
あったとまでいうことはできない。
加えて,証拠(甲44)によれば,児童生徒の自立を促す観点からは保護
者の付添いの協力を得ることは限定的に考えられるべきであるとされている
ことは認められるものの,保護者の付添いにより児童生徒の自立が阻害され25
るか否かは,保護者と児童生徒との関係,保護者の付添いの理由や態様等に
よっても異なり得るものと考えられ,本件において原告父母が原告子の校外
学習に付き添うことによって直ちに原告子の自立が具体的に阻害されること
を認めるに足りる証拠はない。
⑶以上の諸点を総合すると,乙小学校校長が原告子の校外学習に際して原告
父母の付添いを求めたことが障害者基本法4条及び障害者差別解消法7条5
の不当な差別的取扱いや合理的配慮の不提供に当たるということはできず,
甲町小学校校長らがその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものと
して国賠法上違法であるということはできない。
5争点4(乙小学校校長らにおいて原告子が原告父母の付添いなく通学団に参
加することができるよう通学団の保護者に働き掛けを行わなかったことが国10
賠法上違法といえるか)
⑴原告らは,通学団の保護者は,正当な理由なく,原告子が通学団に入るた
めに原告父母が通学時に付き添うことを求めて原告子を通学団から排除し
ていたから,乙小学校校長らは,学校保健安全法27条に基づいて,原告子
が通学団に入ることができるよう通学団の保護者に働き掛ける義務があっ15
たとして,そのような働き掛けを行わなかったことは国賠法上違法である旨
主張する。
⑵しかしながら,学校保健安全法は,児童生徒等の安全の確保を図ること等
を目的として学校における安全管理等に関し必要な事項を定めるものであ
り(1条),同法27条は,学校においては,当該学区の施設及び設備の安20
全点検,児童生徒等に対する通学を含めた学校生活その他の日常生活におけ
る安全に関する指導その他学校における安全に関する事項について計画を
策定し,これを実施しなければならない旨規定する。このような同条の規定
内容に照らせば,学校は,同条に基づいて,通学路の選定や児童生徒に対し
て登下校の際の交通安全指導を実施する義務を負うということはできるも25
のの,通学団による登校など特定の登下校の方法を実施すべき一般的な義務
を負うということはできず,他に学校がそのような義務を負うと解すべき法
的根拠は見当たらない。そうすると,同条をもって直ちに,乙小学校校長ら
において原告子が通学団により通学することができるようにするための措
置を執るべき義務があるということはできない。
⑶また,この点を措いて,原告子が通学団に参加するために原告父母の付添5
いを求める正当な理由の有無について検討すると,通学団の保護者は,原告
子の入学前,原告母に対し,原告子が通学団で登下校する際に原告父母の付
添いを要求し,原告母からこれを拒否されたことなどから,原告子を通学団
に参加させないこととしているが(前記認定事実⑸イ通学団の保
護者としては,原告子のカニューレ等が外れる可能性があり不安であること,10
原告子には,急に横断歩道に飛び出したり,急に人の間に割って入ったりす
るなどの突発的・衝動的な行動や他の児童のランドセルを引っ張るなどの行
動が見られたことなどから,原告子が通学団に入る際に原告父母の付添いを
求め,付添いがない限り原告子を通学団に参加させないこととしたのである
(前記認定事実⑸イ)。そして,原告子のカニューレ等はその一部が前頚部15
から突出しており(前記認定事実⑴イ),原告子には前記のような突発的・
衝動的な行動等が見られたことからすると,登校途中にカニューレ等が何か
に引っかかるなどして外れる具体的可能性が存することは否定することが
できず,その場合には次第に呼吸ができなくなるため速やかに気管カニュー
レを挿入して気道を確保する必要がある(前記認定事実⑴イ)。通学団によ20
る通学途中に前記のような事態が生じた場合に通学団の児童に動揺や混乱
が生ずることは明らかであって,通学団の児童のみで適切に対応することは
実際上困難である。また,通学団の児童が前記のような事態が生ずるかもし
れない緊張の中で通学することは,それ自体相当な精神的負担を強いられる
ことになると考えられる上,適切な対応ができなかったために原告子の生25
命・身体に危険が生じたときには保護者に法的責任が生ずる可能性もある。
さらに,原告子に前記のような突発的・衝動的な行動等が見られたことから
すると,原告子が通学団に参加した場合には原告子の不注意によって他の児
童が危害を受けるおそれもある上,原告子の乙小学校までの通学路は1㎞以
上あり,その間に信号機により交通整理のされた交差点が2か所存在してい
るのであるから(乙18,原告父本人,弁論の全趣旨),原告子の他の児童5
に対する行動により当該児童が集団から外れて事故に遭遇する可能性もあ
る。これらの事情に照らすと,通学団の保護者が,原告子が通学団に参加す
るに際して原告父母の付添いを求め,これがないとして原告子を通学団に参
加させないものとしたことには,具体的かつ合理的な根拠が存在するという
べきである。他方,原告子が単独で登下校した場合に安全を確保することが10
できないなどの事情を認めるに足りる証拠はなく,かえって,原告子は,4
年次までの間に原告父母の付添いなく1人で通学していることが認められ
また,前記4⑵において説示したとおり,児童
生徒の自立を促す観点からは保護者の付添いの協力を得ることは限定的に
考えられるべきであるとされていることは認められるものの,保護者の付添15
いにより児童生徒の自立が阻害されるか否かは,保護者と児童生徒との関係,
保護者の付添いの理由や態様等によっても異なり得るものと考えられ,本件
において原告父母が原告子の登下校に付き添うことによって直ちに原告子
の自立が具体的に阻害されることを認めるに足りる証拠はない。
以上の諸点を総合すると,通学団の保護者が原告子が通学団に参加する際20
に原告父母の付添いを求め,原告父母の付添いがない限り通学団に参加させ
ないこととしたことに正当な理由がないということはできない。そして,他
に本件において学校に原告子が通学団に参加できるよう働き掛けるべき義務
があったことをうかがわせる事情は見当たらない。
6争点5(乙小学校校長らが原告子を水泳の授業に参加させず,又は原告子の25
水泳の授業に高学年用プールを使用しなかったことが国賠法上違法といえる
か)
⑴水泳の授業に参加させなかったことについて
ア原告らは,乙小学校の校長らが1年次から3年次まで原告子を水泳の授
業に参加させなかったことが障害者基本法及び障害者差別解消法に反し,
国賠法上違法である旨主張する。5
イ乙小学校校長らは,1年次から3年次まで原告子を水泳の授業に参加さ
せなかったことが認められ(前記認定事実⑹ア~ウ),学校教育における
教育内容及び指導方法の決定については,教育専門家であり当該学校の事
情にも精通する学校設置者又は教師に一定の裁量が認められるものの(前
記平成21年12月10日第一小法廷判決参照),その決定が障害者基本10
法又は障害者差別解消法に反するものであるときは,学校設置者又は教師
の裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものとして違法となるもの
と解される。
そして,原告子は,カニューレ等を挿入しており,カニューレ等が留置
されている気管切開部から水を吸い込んだ場合には直ちに肺に水が入って15
生命に関わる危険な状態となるため(前記認定事実⑴イ),原告子を水泳
の授業に参加させる場合には,気管切開部から水が入らないようにして原
告子の安全確保に万全を期する必要があるところ,水泳の授業はプールを
使用して夏季に行われる特別な授業であるため児童が興奮し教職員の指示
が通りにくくなったり,児童が不測の行動に出たりするおそれがある上,20
特に,原告子は,乙小学校入学当初から,行動に落ち着きがなく,教職員
の指示に従って行動したり,決められた行動をすることができない,突発
的・衝動的な行動に出るなどの傾向が見られたこと(前記認定事実⑴エ)
などからすれば,原告子を水泳の授業に参加させた場合は,水中で姿勢が
保持できなかったり,誤ってプールに転落するなどして気管切開部から水25
が入ることが想定される。このことは,原告子の主治医である医師Gが,
3年次の原告子について,通常の3年生の児童と比較してもなかなか指示
に従えない状況にあるとした上で,原告子を水泳の授業に参加させても絶
対に大丈夫だとはいえないとする意見を述べていること(前記認定事実⑹
からも裏付けられる。
以上のことからすれば,乙小学校校長らが1年次から3年次まで原告子5
を水泳の授業に参加させなかったことが障害者基本法4条及び障害者差別
解消法7条の不当な差別的取扱いや合理的配慮の不提供に当たるというこ
とはできず,乙小学校校長らがその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫
用するものとして国賠法上違法であるということはできない。
ウこれに対して,原告らは,①原告子のカニューレ等は,故意に水をかけ10
たり,水に沈んだりしない限り,気管切開部に水が入る可能性は非常に低
く,気管切開部に水が入る危険は,医師等の意見を聴いたものでもなく,
プールでの活動を試行したことによるものでもないこと,②気管切開の専
門医の意見には,Tチューブが留置されている喉の部位が水中に入ること
がないように注意すれば医学上プールでの運動が一切禁忌とされていると15
いうことはないとするものがあること,③現に名古屋市のある小学校では,
気管切開を受けている児童が水泳の授業に参加していることなどからする
と,気管切開部に水が入ることは原告子に水泳の授業を受けさせない正当
な理由となるものではないと主張する。
しかしながら,①については,既に説示したとおり,原告子については,20
突発的・衝動的な行動に出る傾向が見られたことなどの客観的状況から,
誤ってプールに転落するなどして気管切開部から水が入ることが具体的に
想定されたのであり,原告子の気管切開部に水が入る可能性が低いという
ことはできないし,乙小学校校長らが,医師等の意見を聴いたり,プール
での活動を試行したりせずに,原告子の気管切開部に水が入る可能性があ25
るとして原告子を水泳に参加させなかったことが不合理であるということ
もできない。
また,②については,原告子の外科の主治医が,平成●年12月14日,
Tチューブが留置されている喉の部位が水中に入ることがないよう,安全
配慮を怠らなければ,医学上プールでの運動が一切禁忌とされることはな
く,喉の下の胸部から上部が水中に水没しないように指導者が観察するな5
どの安全配慮を怠らなければ特別な危険はない旨の意見を述べていること
は認められるが(甲22),同医師の意見は,その内容からして,気管切
開部に水が入る具体的可能性がある場合には水泳の授業は回避すべきとす
るものであることは明らかである。
さらに,③については,気管切開を受けている児童が水泳の授業に参加10
している小学校が存在することは認められるが(前記認定事実
気管切開を受けた児童が水泳の授業に参加することができるか否かは,児
童の個別的な状況により異なるところ,前記の水泳の授業に参加している
児童は,教師の指示で行動することができていたのに対し(前記認定事実
原告子は,落ち着きがなく,教職員の指示に従って行動したり,15
決められた行動をしたりすることができないなどの傾向があること(前記
認定事実⑴エ)からすると,前記の児童の存在をもって原告子が水泳の授
業に参加することができるということはできない。
以上のことからすると,原告らの前記主張は採用することができないと
いうべきである。20
⑵原告子の水泳の授業において4年次の当初から高学年用プールを使用し
なかったことについて
原告らは,乙小学校の校長らが原告子の水泳の授業において4年次の当初
から高学年用プールを使用しなかったことが障害者差別解消法7条に反し,
国賠法上違法である旨主張する。25
乙小学校校長らは,4年次から原告子を水泳の授業に参加させたものの,
5年次の途中まで低学年用プールのみを使用し高学年用プールを使用してい
なかったことが認められ(前記認定事実⑹エ~カ),学校教育における教育
内容及び指導方法の決定については,教育専門家であり当該学校の事情にも
精通する学校設置者又は教師に一定の裁量が認められるものの(前記平成2
1年12月10日第一小法廷判決参照),その決定が障害者基本法又は障害5
者差別解消法に反するものであるときは,学校設置者又は教師の裁量権の範
囲を逸脱し,又はこれを濫用するものとして違法となるものと解される。
そこで,検討すると,①前記⑴において説示したとおり,原告子は,気管
切開部から水を吸い込んだ場合には生命に関わる危険な状態となるため,原
告子を水泳の授業に参加させる場合には,気管切開部から水が入らないよう10
原告子の安全確保に万全を期する必要があったこと,②原告子が3年次まで
水泳の授業を受けていないことなどからすると,原告子の水泳の授業を,水
深が浅く,気管切開部から水が入る危険の少ない低学年用プールを使用して
開始することも合理的な措置であるということができる。そして,乙小学校
校長らは,⒜原告子の水泳の授業を低学年用プールから開始したものの,そ15
の後,高学年用プールにおいて安全に活動することができることが確認され
たことから,高学年用プールでの学年全体の活動の状況を見て安心して安全
に活動できる状況である場合には高学年用プールを使用することもあるとの
方針の下,低学年用プールに併せて高学年用プールも使用し始めたが,他の
児童と同時に活動した場合には他の児童と交錯する危険性があることなどか20
ら,あらかじめ学年全体の活動内容を確認して高学年用プールの使用の可否
を判断するものとしたこと,⒝しかし,その後,原告父母の強い要請を受け
て,原告子の安全確保措置を講じつつ高学年用プールを使用するに至ったこ
と(以上につき,前記認定事実⑹エ及びオ)などからすれば,乙小学校校長
らは,高学年用プールを使用した場合の危険性の程度,原告子の習熟度等を25
総合考慮して,段階的に高学年用プールに移行することを企図していたと推
認され,このような措置は原告子の個別的な状況等に応じた水泳指導を指向
するものとして合理的なものということができる。
以上のことからすれば,4年次の当初から水泳の授業で高学年用プールを
使用しなかったことが障害者基本法4条及び障害者差別解消法7条の不当な
差別的取扱いや合理的配慮の不提供に当たるということはできず,乙小学校5
校長らがその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものとして国賠法
上違法であるということはできない。
第4結論
以上の次第で,原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく,
いずれも理由がないからこれらを棄却することとして,訴訟費用の負担につき,10
行訴法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官角谷昌毅
裁判官後藤隆大20
裁判官佐藤政達は,転補につき署名押印することができない。
裁判長裁判官角谷昌毅
(別紙)
指定代理人目録
(略)
以上5
(別紙)
物件目録
1電動式吸引器
2吸引器充電池5
3充電器
4キャリーバッグ
5手動式吸引器
6吸引カテーテル
7手指消毒液10
8カテーテル保管容器
9塩化ベンザルコニウム(消毒液)
10カット綿(消毒綿)
11カット綿容器
以上15

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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