弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     原判決の主文を次のとおり更正する。
     原判決主文に第二項として次の一項を加える。
     「第一審判決主文第一項を、『控訴人は被控訴人Bに対し、第一審判決
別紙物件目録記載の土地および建物につき、それぞれ所有権移転登記手続をせよ』
と変更する。」
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人磯崎良誉の上告理由第一点について。
 論旨は、訴外D同郷連合会(以下「連合会」という。)のような法人格のない社
団、すなわち、いわゆる権利能力なき社団の資産たる不動産につき、その公示の方
法として社団の代表者個人の名義による登記が経由された場合に、登記名義人とな
つた代表者がその地位を失い、新代表者が選任されたため、登記の名義を旧代表者
から新代表者に移転することを求める訴訟において、何ぴとが原告となるのが相当
かは、訴訟におけるいわゆる当事者適格の問題であることを前提として、原判決の
判断遺脱をいい、また、原判決がその判断を加えたものであるとしても、理由不備
の違法があるというのである。
 よつて検討するに、第一審判決および原判決によると、上告人は、第一審におい
て、本案前の申立として、本訴における原告としての適格は、民訴法四六条により、
訴外連合会がこれを有するのであつて、その代表者にすぎない亡E(被上告人によ
る訴訟承継前の原告、被控訴人)はこれを有しないから、訴の却下を求める旨を主
張したところ、第一審判決は、右申立に対する判断として、権利能力なき社団は、
その構成員の総有に属する不動産につき登記簿上権利者となることは許されず、し
たがつて登記申請人となることもできないこと、権利能力なき社団の資産たる不動
産の権利主体を公示する方法としては、社団の代表者個人の名義をもつて登記をす
る以外に適当な手段がないこと、かかる公示の手段によつた場合において、代表者
に交代があつたときは、新代表者は、特約に基づく登記請求権に類似する権利とし
て、旧代表者に対し所有権移転登記請求権を有することを説示して、訴の却下を求
める上告人の主張を排斥した。しかるに、原判決は、その理由中の「本案前の申立
につき」と題する項においては、「被控訴人Eが昭和四三年三月一三日に死亡した
ことにより本件訴訟は当事者を欠くにいたつたので、終了した」旨の上告人の主張
に対する判断として、新たに訴外連合会の代表者に選任された被上告人が本訴訟の
当事者たる地位を承継したものであつて当事者を欠くにいたつたものではないとし
て、上告人の右主張を排斥したにとどまり、上告人の前示当事者適格に関する本案
前の申立に対しては明示の判断を示さず、また、右の点に関する第一審判決の説示
をも引用していないことは所論のとおりである。しかるところ、原判決は、その理
由中の「本案につき」と題する項において、「当裁判所の判断は、次の点を附加補
充するほか、原判決理由記載と同一であるからこれを引用する」と説示しているの
であるが、同項において付加された判断は、訴外連合会の代表者Eの死亡によつて
新たにその代表者に選任された被上告人に対する右選任手続の適法性に関すること
に限られていることにかんがみれば、原判決は、むしろ、第一審判決が本案前の申
立に対する判断としてなした前記説示を本件訴訟の本案である被上告人の上告人に
対する登記請求権の有無に関する判断として引用することによつて、現に訴外連合
会の代表者の地位にある被上告人はすでに代表者の地位を失つた上告人に対し訴外
連合会の資産たる本件不動産につき所有権移転登記請求権を有する旨の判断を示し
たことを窺い知るに十分である。
 しかして、本件訴訟において権利能力なき社団たる訴外連合会がみずから原告と
なるのが相当であるか、その代表者の地位にある者が個人として原告となるのが相
当であるかは、権利能力なき社団の資産たる不動産につき公示方法たる登記をする
場合に何ぴとに登記請求権が帰属するかという登記手続請求訴訟における本案の問
題にほかならず、たんなる訴訟追行の資格の問題にとどまるものではないのである。
 してみれば、原審が、第一審判決によつて本案前の申立に対する判断としてなさ
れた説示部分を原判決理由中の「本案前の申立につき」と題する項において引用す
ることなく、「本案につき」と題する項において本案に対する判断として引用した
ことはかえつて正当として是認できるのであつて、原判決には、なんら所論判断遺
脱の違法はない。そして、原判決の引用にかかる第一審判決の判断がその結論にお
いて正当であることは、論旨第二点に対し、のちに説示するとおりである。したが
つて、原判決に理由不備の違法があるとする論旨も理由がない。論旨は、いずれも
採用することができない。
 同第二点について。
 論旨は、権利能力なき社団に登記申請の資格を認めるべきことを前提とし、訴外
連合会のような権利能力なき社団の資産たる不動産につきその公示方法として登記
をするにあたつては、社団であることの実体に即し、法人が登記申請人となる場合
に関する不動産登記法三六条一項二号および三号の規定を準用して、登記簿に社団
の名称、事務所を記載し、かつ権利能力なき社団であることを示すため社団代表者
の氏名住所を併記する方法を認めるべきであつて、代表者個人名義の登記を許すべ
きではないから、代表者個人の名義による登記の申請を認める原判決(その引用す
る第一審判決を含む。以下同じ。)には、同条の解釈適用を誤つた違法があるとい
うのである。
 しかしながら、権利能力なき社団の資産はその社団の構成員全員に総有的に帰属
しているのであつて、社団自身が私法上の権利義務の主体となることはないから、
社団の資産たる不動産についても、社団はその権利主体となり得るものではなく、
したがつて、登記請求権を有するものではないと解すべきである。不動産登記法が、
権利能力なき社団に対してその名において登記申請をする資格を認める規定を設け
ていないことも、この趣旨において理解できるのである。したがつて、権利能力な
き社団が不動産登記の申請人となることは許されず、また、かかる社団について前
記法条の規定を準用することもできないものといわなければならない。
 ところで、右のように権利能力なき社団の構成員全員の総有に属する社団の資産
たる不動産については、従来から、その公示方法として、本件のように社団の代表
者個人の名義で所有権の登記をすることが行なわれているのである。これは、不動
産登記法が社団自身を当事者とする登記を許さないこと、社団構成員全員の名にお
いて登記をすることは、構成員の変動が予想される場合に常時真実の権利関係を公
示することが困難であることなどの事情に由来するわけであるが、本来、社団構成
員の総有に属する不動産は、右構成員全員のために信託的に社団代表者個人の所有
とされるものであるから、代表者は、右の趣旨における受託者たるの地位において
右不動産につき自己の名義をもつて登記をすることができるものと解すべきであり、
したがつて、登記上の所有名義人となつた権利能力なき社団の代表者がその地位を
失つてこれに代る新代表者が選任されたときは、旧代表者は右の受託者たる地位を
も失い、新代表者においてその地位を取得し、新代表者は、信託法の信託における
受託者の更迭の場合に準じ、旧代表者に対して、当該不動産につき自己の個人名義
に所有権移転登記手続をすることの協力を求め、これを訴求することができるもの
と解するのが相当である。
 所論は、右の場合においても、登記簿上、たんに代表者個人名義の記載をするに
とどめるのは相当でなく、社団の代表者である旨の肩書を付した記載を認めるべき
であつて、判決においてもその趣旨の登記をなすことを命ずべきものと主張する。
 しかしながら、かりに、そのような方法が代表者個人の固有の権利と区別し社団
の資産であることを明らかにする手段としては適当であるとしても、かような登記
を許すことは、実質において社団を権利者とする登記を許容することにほかならな
いものであるところ、不動産登記法は、権利者として登記せらるべき者を実体法上
権利能力を有する者に限定し、みだりに拡張を許さないものと解すべきであるから、
所論のような登記は許されないものというべきである。
 してみれば、被上告人の本訴請求を認容した原判決は、結論において正当であり、
論旨は理由がないから排斥を免れない。
 なお、本件訴訟は、上告人に代つて訴外連合会の代表者に就任したEが原告とな
つて提起されたものであるところ、同人は、第一審において勝訴したが、上告人の
控訴によつて訴訟が原審に係属中に死亡したため、新たに訴外連合会の代表者に選
任された被上告人において同人の被控訴人としての地位を承継したことは原判決の
説示するとおりである。しかして、原審が上告人の控訴を棄却した判断が正当であ
ることは前示のとおりであるが、被上告人による訴訟の承継によつて、第一審判決
が上告人から第一審原告Eに対してなすべき旨を命じた本件土地および建物につい
ての所有権移転登記手続は、上告人から新当事者である被上告人に対してなされる
べきものとなつたから、原審が上告人の控訴を棄却するにあたつては、その旨を原
判決の主文において明記するのが相当であつたといわなければならない。しかるに、
原判決はこれを遺脱しているので、民訴法一九四条に則り、当審において、本判決
主文第二項、第三項のとおり原判決を更正し、このことを明らかにすることとする。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    村   上   朝   一
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    小   川   信   雄

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