弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由第一点について。
 論旨は、所論別件建物収去土地明渡請求事件の一審判決が確定したと判断した原
判決に違憲違法があるというが、いずれも原審で主張判断を経ない事項を主張し、
これを前提として原判決の違法をいうにすぎないものであつて、採用するに足りな
い。
 同第二点ないし第四点について。
 論旨は、原判決の借地法一〇条の解釈適用を誤つた違法をいうが、借地上の借地
人所有の建物について借地人が借地法一〇条に基づく買取請求権を行使したときは、
その時に右建物につき売買契約が成立し、同時に所有権移転の効力を生ずるととも
に両当事者は互に同時履行の抗弁権を有するものと解すべきである(昭和二八年(
オ)第七五九号同三〇年四月五日当裁判所第三小法廷判決民集九巻四号四三九頁参
照)。論旨は、これと異なる独自の見解に立つて原判決を非難するものであつて、
採用できない。
 また、論旨は、本件登記が登記原因を欠くことを理由にその抹消を求める主張に
つき、原判決の判断遺脱の違法をいうが、原審は、本件登記のなされた当時すでに
上告人の買取請求権の行使によつて本件建物の所有権が被上告人に移転していたの
であるから、右登記をもつて登記原因を欠くものとはなし得ないと判断しているの
であり、従つて、原判決には所論違法はなく、論旨は採用できない。
 さらに、論旨は、原判決の不動産登記法の解釈適用を誤つた違法をいう。原判決
は、原判示の事実認定をしたうえ上告人に対して右建物につき所有権移転登記手続
をなすべき旨命じたのではなくて、単に右建物の明渡を命じたにすぎない判決に基
づき被上告人の単独申請によりなされた右所有権移転登記は、上告人の意思を全く
無視してなされたものであつて、右手続は違法たるを免れないと判断していること
は、所論指摘のとおりである。しかし、原審はさらに、本件登記が実体的権利関係
に合致しているのみならず、被上告人において買取代金三〇万円をすでに適法に供
託したことが認められる以上、上告人が所有権移転登記義務履行について有する同
時履行の抗弁権も消滅に帰したものというべく、しかも本件登記当時本件建物の帰
属につき利害関係を有する第三者が存在したことが認められないと判断し、そして、
本件登記が登記義務者の意思に基づかないでなされたにせよ登記義務者にはその抹
消を求める利益がないものとして、本件請求を棄却しているのである。原審の確定
した事実関係に照らせば、原審の右判断はまことに正当であり、所論引用の各判例
は、本件に適切ではない。論旨は、右と異なる独自の見解に立つて、原判決の判断
を非難するものであつて、採用できない。
 同第五点および第六点について。
 被上告人が上告人に対して本件建物の買取代金の支払のため小切手を持参した旨
の原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯でき、その認定はその他の
原判示部分となんら矛盾するところはない。被上告人が右買取代金の支払を免れる
ため司法書士らと謀議した事実は、原審の認定しないところであり、上告人が本件
登記の抹消登記請求権を有しないことについては、前記論旨第二点ないし第四点に
対する判断に説示したとおりであるから、原判決には所論違法は存しない。論旨は、
ひつきよう、原判決を正解せず、原審の適法にした証拠の取捨判断、事実認定を非
難するに帰し、いずれも採用できない。
 同第七点について。
 原判決によれば、上告人の本件建物買取請求権は昭和三三年一一月二一日に行使
されたというのであるから、右買取請求権は同日その目的達成により消滅したとい
うべきであり、その後被上告人が本件登記をしたことによつて右買取請求権が消滅
する理由がない。また、右買取請求権の行使により上告人および被上告人間に成立
したと認められる本件建物売買契約について、上告人の本訴提起により解除の意思
表示がなされたものとは、到底認められず、所論引用の判例は本件と事案を異にし
適切でなく、上告人の前記解除により本件建物買取請求権が消滅したことを前提と
する論旨は、理由がない。さらにまた、原審の確定した事実関係に照らせば、被上
告人の原判示金三〇万円の供託によつて上告人の有する同時履行の抗弁権が消滅し
た旨の原審の判断は、相当である。その他、違憲の主張もその内容明確を欠き、判
断遺脱の主張も、前記説示に照らして理由のないことは明らかである。従つて、論
旨はすべて採用できない。
 同第八点について。
 論旨は、ひつきようするに、原審の認定しない事実または判決に影響のない事項
を主張して、原審の適法にした事実認定判断に違法不当があるというに帰するから、
採用するに足りない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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