弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を免訴する。
         理    由
 弁護人徳田禎重の上告趣意は末尾添付のとおりである。
 職権により調査すると、本件公訴事実は、
 一、被告人はAを社長とする鹿児島市a町所在B物産株式会社の専務取締役であ
るが、同会社は鹿児島県下の旧軍用飛行場跡の埋没金属類を発掘処分することを主
たる業務の目的として創立されたところ、会社の苦境を打開する方便として北緯三
〇度以南である南西諸島方面から非鉄金属類を密輸入して利得を図ることを企図し、
被告人は右A外数名と共謀の上、昭和二五年九月二三日頃税関の検査と免許を受け
ることなく前記諸島口之島において被告人の所有にかかる機帆船C(一八、七九屯)
に非鉄金属真鍮屑二〇屯(この原価合計二四〇万円)を積み込み、同船によつて同
県熊毛郡bc村d港まで航行運搬し更に同所において他船に積み替え同年一〇月一
〇日頃大阪港内e川岸に到着して右金属類を同所に陸揚げし、よつて貨物の輸入を
遂げ、
 二、被告人は前同様同会社の苦境打開策として、同年九月二五日頃前記d港内に
おいて、氏名不詳者から非鉄金属真鍮屑銅屑等一四、〇二四屯(この原価合計八六
万四五三六円相当)を、それが税関の検査と免許を受けないで前記諸島方面から本
邦へ密輸入しようとして同所まで運搬してきたものである情を察知しながら、屯当
り八万円の割合でこれを買い受け、よつて密輸入せんとした貨物の故買をした、と
いうのである。
 しかるところ、公訴事実一の口之島は、右犯行当時以降昭和二八年一二月二四日
までは旧関税法(昭和二四年五月一四日法律六五号により改正された明治三二年法
律六一号)一〇四条、昭和二四年五月二六日大蔵省令三六号により右関税法の適用
については、外国とみなされていたのであるが、昭和二六年一一月二九日法律二七
一号により改正された旧関税法一〇四条、昭和二七年四月七日政令九九号により平
和条約発効の日たる昭和二七年四月二八日以降本邦の地域とせられることとなつた。
また、公訴事実二について考えるに、関税法上外国とみなされる地域は、昭和二六
年一一月二九日法律二七一号により改正された旧関税法一〇四条、昭和二七年四月
七日政令九九号による改正を経て、昭和二八年一二月二四日政令四〇七号「奄美群
島の復帰に伴う関税関係法令の適用の暫定措置に関する政令」附則八項により、同
月二五日以降は、北緯二七度以南の南西諸島に限られることになり、北緯二七度以
北の南西諸島から輸入された貨物を買受けることは可罰性を失つたものであるとこ
ろ、公訴事実二の南西諸島というのは、記録によつてみるも、北緯三〇度以南の南
西諸島方面から密輸入した判示非鉄金属屑を被告人が判示場所において氏名不詳者
から買受けたことが認められるだけで、その地域が北緯三〇度以南二七度以北の南
西諸島からであるのか、北緯二七度以南の南西諸島からであるのかを確定するに由
ないところ、かように訴訟条件の存否が疑わしくなるにいたつた場合もまた訴訟条
件を欠くものとみて行為の可罰性は失われたものというべきである。されば本件は、
刑訴三三七条二号にいう刑の廃止に該当することになる(昭和二六年(あ)第五〇
二七号同三二年一二月一〇日第三小法廷判決、昭和二五年(あ)第二七七八号同三
二年一〇月九日大法廷判決、昭和二七年(あ)第二四五六号同三二年一〇月九日大
法廷判決参照)。
 よつて弁護人の上告趣意に対する判断をするまでもなく、刑訴四一一条五号によ
り原判決を破棄し、同四一三条、四一四条、四〇四条、三三七条二号により、被告
人を免訴すべきものである。
 この判決は、裁判官島保の少数意見、同小林俊三の補足意見があるほか裁判官一
致の意見によるものである。
 裁判官島保の少数意見は、昭和二五年(あ)第二七七八号同三二年一〇月九日大
法廷判決に示されたとおりである。
 なお裁判官小林俊三は、前示理由のほか補足意見として昭和二七年(あ)第四三
四号同三〇年二月二三日大法廷判決集九巻二号三五七頁以下に示した意見をここに
引用する。検察官 山内繁雄出席。
  昭和三三年三月一一日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    河   村   又   介
            裁判官    島           保
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    垂   水   克   己

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