弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人佐々木正泰の上告理由は、末尾に添えた書面記載のとおりである。
 上告理由第一点に対する判断。
 控訴裁判所は、第一審裁判所における訴訟手続に違法があつた場合においても特
に明文のある場合を除き必ずしも原審に事件を差戻さなければならないものではな
く、各場合の情況に応じて或はこれを差戻し或はこれを差戻すことなくそのまゝ審
理を続行して自ら判決をすることを妨げるものでないこと民訴三八九条一項の規定
上疑ないものと言わなければならない(昭和一二年一〇月四日大審院判決参照)。
記録により本件における訴訟手続の経過を見ると、昭和二五年八月一四日同年九月
四日午前一〇時の第一回口頭弁論期日の呼出状は訴状と共に上告人(被告)住所に
送達されたところ右訴状及び期日呼出状は上告人の書面(第一審判決摘示の事実を
記載したもの)と共に上告人から第一審裁判所に返送され、上告人は同年九月四日
の第一回口頭弁論期日に出頭せず、被上告人(原告)代理人は右期日に出頭して請
求の趣旨、原因を陳述し上告人の前記書面が読み聞けられたので甲第一号証を提出
し被上告人(原告)本人の尋問を申出で採用された。そして次回期日は同年九月一
八日午前一〇時と指定告知され、同期日に上告人は不出頭、被上告人代理人は出頭
して被上告人本人の尋問がなされ甲第二乃至第四号証が提出されて弁論が終結され
判決言渡期日は同年九月二五日午後三時と指定告知されて同期日に第一審判決が言
渡された。そして、右判決に対し上告人(被告)から控訴が申立てられ、控訴審に
おいては第一審判決摘示どおりの事実が陳述され、被控訴人(原告)代理人は甲第
一乃至第一〇号証を提出し控訴審証人Dの証言及び第一審及び控訴審における被控
訴人本人の供述を援用し、控訴人(被告)代理人は乙第一乃至第八号証を提出し控
訴審証人E、F、G、Hの各証言、控訴人本人の供述を援用し、双方代理人とも書
証に対する認否等を陳述したことが認められる。以上の経過から見ると、本件にお
ける第一審の訴訟手続は無に等しいものではないから、審級維持の必要上第一審の
訴訟手続からさらにやり直さなければならない場合とは認められない。それ故、控
訴裁判所はその裁量によりそのまゝ審理を続行して自ら判決をすることも妨げない
場合と言うことができる。しかも、控訴審たる原裁判所は第二審として審理を尽し
た上本案の判決をしたのであるから、たとい所論のように第一審の訴訟手続に違法
があつたとしてもその違法は補正せられたものというべきであつて、上告審として
は原判決を破棄する要なきものと解するのが相当である。けだし、第二審で本件の
ように審理を尽し判決をした以上、当事者の訴訟上の利益は実質上十分に保護せら
れているのであるから、さらに上告審において第一審の手続上の瑕疵を理由として
第二審判決を破棄することは全く実益がなく訴訟経済上の本旨にも背くからである
(昭和五年八月四日大審院判決参照)。されば、第一審の訴訟手続に違法のあるこ
とを理由として本件を第一審裁判所に差戻すべきであると主張する論旨は採用する
ことができない。
 上告理由第二点乃至第四点に対する判断。
 論旨は、いずれも「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」
(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、また同
法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない(第一
審における被上告人本人の供述を証拠に引用したこと、上告人がアンゴラ兎商を営
むことを争ない事実としたことは違法であるとしても、右の証拠及び事実を除いて
も原審が引用したその他の証拠及び判示事実によれば原判示の事実を認定し得られ
るから論旨は結局理由がない)。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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