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平成16年11月29日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成16年(ハ)第4044号 立替金請求事件
口頭弁論終結日 平成16年11月8日
判         決
主         文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請 求
 被告は,原告に対し,金83万5200円及びこれに対する平成16年3月12日か
ら支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 請求の原因
 (1)原告は,被告との間で平成13年7月25日次の内容の立替払契約 (以下「本件
立替払契約」という。)を締結した。 
 原告は,被告と販売店訴外株式会社A(以下「A」という。)との間の売買契約
(以下「本件販売契約」という。)の商品(国立理科系コース(書籍))購入代金
を立替払いする。
    立替金 75万4000円
    手数料 18万8500円
    合計  94万2500円
支払方法 上記合計金を分割して毎月27日限り支払う。
期限の利益喪失 被告が上記支払を怠り,原告から20日間以上の相当な
期間を定めた書面により支払を催告されたにもかかわら
ずその支払を履行しないときは,期限の利益を失い,残
額を一時に支払う。
(2)原告は,平成13年8月10日立替払をした。
(3)被告は,平成13年11月27日を最後に10万7300円を支払ったのみで,残金
を支払わない。 
(4)原告は,被告に対し,書面をもって支払を催告し,平成16年2月20日に同書面
が到達している。
(5)よって,原告は,被告に対し,立替金残金83万5200円及びこれに対する催告し
た日から20日間以上経過した平成16年3月12日から支払済みまで商事法定
利率である年6パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
 2 争点
(1)割賦販売法30条の4の抗弁の成否
(被告)
 被告は,完全な日本語を話したり理解ができない中国人であり,本件の訪問
販売の目的物たる教材(以下「本件教材」という。)を使用しようとする訴外B(以
下「B」という。)は,契約当時まだ15歳の未成年者で,被告と2人暮らしの母子
家庭である。
 平成13年7月初旬頃,Aの販売員C(以下「C」という。)が被告宅を数回訪問
し,留守番中のBに対し,他に成人者がいないことをよいことにあることないこと
を言いくるめ本件教材を買わせようと接近し,Bをしてその気にさせ,さらにたま
たま帰宅していた被告に対し,子供をして説得させ,クレジット契約書に記名押
印させたものである。
 しかし,教材使用上不明なときは,担当の販売員Cがすぐ説明に来るといいな
がら来ないということ,教材の内容が不明のときはファックスで質問すればすぐ
返事する,さらに不明な点は家にまで先生が来て教えてくれるという約束であっ
たが全く返事がなく,自分の考えでやれといわれたこと,学校の教科書の勉強
に沿った教材であり問題ないということであったが,まったく学校の教材と違って
いたこと等の事実があり,騙されたと気づき何度か販売員に電話したが,教材
を売った後は説明等に来ることは一切なかった。
 被告は,平成13年11月頃,Cを通じて本件販売契約の解約を申し入れたが
聞き入れられず,やむなく知人に依頼して,平成13年12月初旬頃東京都目黒
区所在のA東京オフィスを訪れ,所長と面談し,途中解約の申入れをした。同年
12月10日頃新宿区西新宿所在の喫茶店で2度目に会ったときは,Aの東京オ
フィスの所長もこれを認めて,合意解約し,被告がそれまで支払った10万730
0円で終わりにし,商品も返品して,すべてが終了していたものである。
   (原告)
    被告は,日本語をよく解しないというが,息子のBは日本語が堪能で,被告に通
訳している。被告としては,Bが本件教材を使用したいとの考え方であれば自分
もがんばって働くという考えであり,本件教材の購入の点,本件立替払契約の
支払額等いずれの契約内容についても十分理解していた。契約書の控えもそ
の場で貰い,その直後に文句も言わず,さらにCが教材の説明に来たときも文
句を言っていない。
 本件販売契約において,販売担当者にすぎないCが家庭教師として教えに来
てくれるなどということ自体信じがたいことであり,そうした事実を裏付ける具体
的なものもない。仮にCがそのようなことを約束したにしても,それはCと被告と
の個人的契約であり,本件販売契約に何ら影響を及ぼさない。また,本件販売
契約の中には「聞いてNE T」というファックス,電話等による問合せができる契
約によるサービスがあり,他の苦情についても何ら根拠のないものである。
 また,合意解約については,そのような書面が取り交わされておらず,Aにお
いて検討するという意味にすぎない。
仮に,Aとの間で合意解約されていたとしても,その原因は,本件販売契約上
の「販売店に生じている事由」ではなく,むしろ,顧客側である被告の自己都合
によるものであって,割賦販売法30条の4の支払停止の抗弁に該当しない。
(2)消費者契約法4条1項,同5条による取消の有無
(被告)
 仮に,上記解除が無効であるとしても,本件販売契約はAのCが,契約しても
らうためにいいことばかりを並べてその気にさせ,教材費も1か月1万2000円
位で3か年で,そんなに負担にならないという話を被告が信じて契約させられた
が,実際は,1回目2万9000円,2回目~35回は毎月2万6100円であること
が分かった。このため,被告は,Cを通じて平成13年11月頃契約を解約したい
という表現で取消の意思表示をしている。 
(原告)
仮に,解約の申入れがあったとしても,被告は本件立替払契約を追認してい
るものである。
第3 判 断
1争点(1)について
証拠及び弁論の全趣旨から,次の事実が認められる。
① 本件販売契約の対象となる商品は,書籍となっているが,単に書籍販売というこ
とに留まらず,通信添削指導,入試情報の提供,フリーダイヤルによる学習・教
育相談等を内容とした大学入試対策セミナーシステムを内容とするもので役務
提供契約を包含していること(甲1ないし 3)。
  ② 販売員Cは,被告の留守中,当時15歳の高校1年生であった被告の息子Bの所
へ度々足を運び,D社の本件教材が被告本人にとって有益であり,契約すべき
だという気持ちを持たせるために,教材使用上不明なときは,担当のCがすぐ説
明に来るということ,教材の内容が不明のときはファックスで質問すればすぐ返
事する,さらに不明な点は家にまで先生が来て教えてくれるという話をしていた
が,契約後はCから聞かされていたような役務提供は受けられなかったこと(証
人B)
③ 本件立替払契約は,販売員Cがクレジット契約書を被告宅に持参しての契約であ
ったが,契約書に被告の署名捺印を貰う前に明確な金額を示していないのみな
らず,CはBに対し月々1万2000円位くらいであると負担の少ないことをことさら
に具体的金額で示しており,それを信じたBは被告にそのとおり伝えていたこと
(証人B)
④ 被告及びBは,本件契約書を手渡され,Cが帰った後で上記金額が倍額以上の
金額となっていることに気づいたこと(証人B)
  ⑤被告は,契約を途中で止めることもできると思っていたので,平成13年11月頃C
を通じて本件販売契約及び本件立替払契約の解約を申入れた。さらに知人に
依頼して販売会社の東京オフィスを訪れ,所長と面談して中途解約ないし契約
取消の申入れをし,同年12月10日頃,被告がそれまで支払った10万7300
円で終わりとし,商品も返品して終わりにするという内容での話合いが成立して
いること(乙1ないし10,被告本人)
以上の認定事実を基礎として次のとおり判断する。
 本件立替払契約は,原告が割賦購入あっせん業者として行為したもので割賦販
売法の適用になる事案であり,平成13年12月10日頃販売店の東京オフィス所
長を通して本件販売契約の解約が成立しているものとみるのが相当であるから,
この事由をもって原告に対抗できるのか否かが問題になる。しかるに,本件合意
解約が割賦販売法30条の4の抗弁事由となりうるのかについては,その合意解
約が購入者である被告の一方的に作出された事由であるとすれば,これを認める
ことは一般的には困難であろう。
 しかしながら,本件は,被告の申し出によるものではあっても次のような事情の
下に行われたものであると認められる。すなわち,Cは被告とBとは母子家庭で母
親が毎日働いて生計を立てている生活状況を十分認知していながら当初から分
割払金額において月々1万2000円位であると実際の半額以下の金額を示してい
たこと,契約させる重要な動機として販売員から提示された役務提供がなかったこ
と,そして全体としてこの販売行為は,Cが商品を売りつけるために15歳の少年を
籠絡し,その母親は子供の教育のためならばという気持ちだけが強く日本語もよく
解せない,即ち,契約の相手方として,契約内容をよく理解しえていないという実態
を十分承知しながら,金額等重要事項の正確な説明をことさらしなかったものであ
り,これらの事実から本件販売契約及び本件立替払契約は,その締結に際し信義
則に反する特段の事情があったとみるのが相当である。よって,販売業者に帰責
事由があるものであるから,抗弁事由に該当するものと解する。
 仮に,上記合意解約に問題があったにせよ,本件は,特定継続的役務提供契約
として特定商取引に関する法律の適用を受ける事案でもあり,特別の理由を要せ
ずして将来に向かって契約の解除ができるものであるから,解約の意思表示が役
務提供業者である販売店に到達したと解される遅くとも平成13年11月頃(平成1
3年11月分までの合計10万7300円は支払済み)から将来に向かってその効力
を失っているもので,この事由をもって割賦販売法30条の4の抗弁事由に当たる
ものと解することもできる。
 なお,本件契約後,被告が騙されたと気づいた後,速やかに解約の申し出もせ
ず,自分ががんばって働くからと思っていたとしても,その意思が相手方に意思表
示されたものではないし,たとえ黙示の追認とみたとしても,その後の合意解約あ
るいは解約の意思表示には影響はない。
 2 争点(2)について
販売員Cが月々の支払が1万2000円位であると説明していたにも関わらず,契
約時になるとクレジット契約書に引落し銀行口座等の記載及び被告の署名捺印を
求め,金額の数字は最後にCが勝手に記入して,控えを渡すとさっと帰った(証人B
)という手口は,実際は月々の支払額が倍額以上の金額であること及び全体の金
額も秘匿して相手方をその気にさせる詐欺的手法で,結局,金額という重要事項
について事実と異なることを告げていたということ(不実告知)であり,消費者契約
法第4条第1項に該当する取消事由となるものである。また,C個人が教えに来る
ということはAのシステムとしてはありえないにもかかわらず契約内容の役務提供
であるかの如く誤認せしめる等の言動があり,それによって消費者が誤認するよう
な仕方での勧誘行為が介在していた本件販売行為についても不実告知と解され
る。
 被告は,法律的な知識はむろんのこと日本語もよく解せない中国人であることは
当法廷において明らかであり,平成13年11月頃にCを通じて解約申入れをしたと
いっても,解約とか取消とかの意味が理解できていたわけではなく,「契約を止め
たい」という意思を表示したものと解され,解約又は契約を取り消すことができるの
であれば取り消したいとの意思のもとに同年11月頃その意思表示をしたのである
から,遅くとも同年11月末日までに取消の意思表示をしているものと認めるのが
相当である。即ち,騙されたと気がついたのが契約書を交わした平成13年7月25
日の当日であったとしても同年11月末日は6か月を経過していないから取消権の
行使として有効である。そして,本件クレジット契約は,事業者たる原告が販売店
に消費者契約の締結につき媒介をすることを委託したものであるから,消費者契
約法5条の適用のあるものであり,本件立替払契約は取り消されているものと認
める。被告が追認したという反論が何ら影響しないことは前述のとおりである。
3 以上から,いずれの事由によっても被告の抗弁は認められるものであり,原告の請
求は理由のないものとして棄却を免れない。
東京簡易裁判所民事第4室
   裁 判 官  野  中  利  次

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