弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成12年(ワ)第12193号 特許権侵害差止請求事件
口頭弁論終結日 平成13年11月19日
            判        決
      原         告     日亜化学工業株式会社
      訴訟代理人弁護士        品   川   澄   雄
      同               山   上   和   則
      同               吉   利   靖   雄
      同               野   上   邦 五 郎
      同               杉   本   進   介
      同               冨   永   博   之
      補佐人弁理士          豊   栖   康   弘
      同               青   山       葆
      同               河   宮       治
      同               石   井   久   夫
      同               豊   栖   康   司
      同               田   村       啓
  被         告     豊田合成株式会社
      訴訟代理人弁護士        大   場   正   成
      同               尾   崎   英   男
      同               嶋   末   和   秀
      同               黒   田   健   二
      同               吉   村       誠
      補佐人弁理士          平   田   忠   雄
      同               樋   口   武   尚
      同               糟   谷   敬   彦
      同               岡   本   芳   明
            主        文
        1 原告の請求を棄却する。
        2 訴訟費用は原告の負担とする。
            事実及び理由
第1 原告の請求
   被告は,原告に対し,金1億円及びこれに対する平成13年10月16日
(同月15日付け請求の趣旨変更の申立書送達の日の翌日)から支払済みまで年5
分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の特許権を有する原告が,被告が
製造・販売していた別紙物件目録1記載の発光ダイオードチップ(以下「被告チッ
プ」という。)及び同チップを組み込んだ別紙物件目録2記載のLED製品(以下
「被告LED製品」といい,被告チップと併せて「被告製品」と総称する。)は,
原告の上記特許権に係る発明の技術的範囲に属しており,その製造・販売は同特許
権を侵害すると主張して,被告に対し,特許法102条2項に基づく損害賠償金合
計135億9708万9666円の,それぞれの一部請求として,被告チップにつ
き5000万円,被告LED製品につき5000万円の合計金1億円の支払を求め
ている事案である。
1 争いのない事実
(1) 原告は,下記の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。
            記
 特許番号    第2770720号
 発明の名称    窒化ガリウム系化合物半導体発光素子
 出願日    平成5年10月8日
 登録日    平成10年4月17日
(2) 本件特許権に係る明細書(以下「本件明細書」という。本判決末尾添付の特許
公報(甲2。以下「本件公報」という。)参照。)の特許請求の範囲請求項1の記
載は,次のとおりである(以下,この発明を「本件特許発明」という。)。
 「基板上にn層とp層とが順に積層され,同一面側にn層の電極とp層の電極と
が形成されて,それら電極側を発光観測面側とする窒化ガリウム系化合物半導体発
光素子において,前記p層の電極が,p層のほぼ全面に形成されたオーミック接触
用のAu合金を含む透光性の第一の金属電極と,前記第一の金属電極の表面の一部
に形成されたボンディング用の第二の金属電極とからなり,前記第二の金属電極
は,第一の金属電極と共通金属としてAuを含み,前記p層とのオーミック接触を
阻害するAlもしくはCrを含まないことを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導
体発光素子。」
(3) 本件特許発明の構成要件を分説すれば,次の①ないし④記載のとおりである
(以下,分説した各構成要件をその番号に従い「構成要件①」などのように表記す
る。)。
① 基板上にn型窒化ガリウム系化合物半導体層とp型窒化ガリウム系化合物半導
体層とが順に積層されている発光素子である。
② 同一面側にn型窒化ガリウム系化合物半導体層のn電極とp型窒化ガリウム系
化合物半導体層のp電極とが形成されて,それら電極側が発光観測面側とされてい
る。
   ③ 前記p層の電極は,p層のほぼ全面に形成されたオーミック接触用の 
Au合金を含む透光性の第一の金属電極と,前記第一の金属電極の表面の一部に形
成されたボンディング用の第二の金属電極からなっている。
   ④ 前記ボンディング用の第二の金属電極は,前記透光性の第一の金属電極
と共通金属としてAuを含み,前記p層とのオーミック接触を阻害するAl若しく
はCrを含まない。
(4) 本件特許発明は,次のような作用効果を有する。
ア p層の上に形成する第一の電極(透光性電極)をp層のほぼ全面に形成した全
面電極とし,p層とオーミック接触可能なAu合金を使用しているために,電流を
p層全体に均一に広げ,p-n接合界面から均一な発光を得ることができる。しか
も,前記第一の金属電極を透光性としていることにより,電極側から発光を観測す
る際に,電極によって発光が妨げられることがないので,発光素子の外部量子効率
が格段に向上する。
イ 第二の電極(ボンディング電極)は,第一の金属電極との共通金属としてAu
を含有しているので,第一の金属電極と接着性がよく,ワイヤーボンディング時に
用いられる金線からできるボールとも接着性がよい。また,Auは素子通電中に第
一の電極へのマイグレーションが少なく,第一の電極を変質させることが少ない一
方で,Auの中にAl若しくはCrを含有させた合金を第二の電極とすると,通電
中,比較的短時間でマイグレーションが発生して第一の金属電極を変質させてしま
う。そこで,第二の電極をAu単体,またはAuを含みAl若しくはCrを含まな
い合金とすることにより,第一の電極及びボールとの接着性がよく,通電中にマイ
グレーションを引き起こしにくい電極を実現できる。
(5) 被告は,平成12年2月1日ころから平成13年4月30日ころまで,被告製
品を製造し,販売していた。
(6)被告チップは,構成要件①ないし③を充足する。
2 争点
 被告チップが構成要件④を充足し,本件特許発明の技術的範囲に属するかどう
か。
 すなわち,被告製品のボンディング用電極17が構成要件④を充足するかどう
か。
3 原告の主張
ア 本件明細書の【発明の詳細な説明】欄には,「第二の電極は第一の金属電極と
の共通金属としてAuを含有することにより,第一の金属電極と接着性が良く,ワ
イヤーボンディング時に用いられる金線よりできるボールとも接着性がよい。また
Auは素子通電中に第一の電極へのマイグレーションが少なく,第一の電極を変質
させることが少ない。ところが,Auの中にAl若しくはCrを含有させた合金を
第二の電極とすると,これらの金属は,通電中,比較的短時間(例えば500時
間)でマイグレーションが発生して,第一の金属電極を変質させてしまう。従って
第二の電極をAu単体,またはAuを含みAl若しくはCrを含まない合金とする
ことにより,第一の電極,およびボールとの接着性が良く,通電中にマイグレーシ
ョンを引き起こしにくい電極を実現できる。」との記載がある(本件公報第4欄4
3行ないし第5欄7行)。
    この記載からわかるとおり,本件特許発明においては,第一の電極とp層
とのオーミック接触が阻害されないように,第二の電極に「Au単体」または「A
uを含みAl若しくはCrを含まない合金」が用いられるべきで,Al若しくはC
rを合金成分として含むAu合金を用いることは避けなければならないということ
が,要件として開示されている。したがって,構成要件④の「p層とのオーミック
接触を阻害するAl」における「Al」とは,金又はバナジウムとの合金を形成す
るアルミニウムのことである。
  イ ところで,平成13年(2001年)1月10日付けMST(財団法人材
料科学技術振興財団分析評価事業部)作成の分析結果報告書(甲9)によれば,被
告チップについて,深さ方向分析及び各層中あるいは各層界面近傍で定性分析を行
ったところ,電極17の表面が露出した部分(平面図で見れば内側。甲9の「Ph
oto.1」及び「Photo.3」各参照。)の最表面部分及びケイ素酸化物の
保護膜で被覆された部分(同外側。前同「Photo.2」及び「Photo.
4」各参照。)のSiOX/Au界面において,微量のAlが検出された一方で,
電極17の深さ方向のほぼ中心部及び半導体層との界面近傍にそれぞれ相当するス
パッタータイムの分析データをみると,Alは全く検出されていない。また,平成
12年(2000年)12月25日付けMST作成の分析結果報告書(甲10)に
よれば,ESCA(X線光電子分光法/XPS)により定性分析及び定量分析を行
ったところ,被告チップにおけるAlは,O(酸素)と結合してAl2O3(酸化ア
ルミニウム)の状態で存在するとされている。
    以上のとおり,被告チップにおけるAlは,酸化アルミニウムの状態で電
極17の最表面に微量存在するにすぎず,金又はバナジウムとの合金を形成するア
ルミニウムとして検出されたわけではない。
  ウ そうすると,被告製品の電極17に存在するAlは,構成要件④における
「p層とのオーミック接触を阻害するAl」に該当しないというべきであり,被告
チップは構成要件④を充たすことになる。したがって,同チップは本件特許発明の
構成要件をすべて充足し,本件特許発明の技術的範囲に属することになる。
4 被告の主張
ア 本件明細書の段落【0005】には,発明が解決しようとする課題に関し,
「パッド電極の金属材料の一部が通電中に透光性電極中に拡散することにより,透
光性電極が変質し透光性が失われると共に,p型層とのオーミック性が悪くな
る。」との記載があり,また,同段落【0007】には,課題を解決するための手
段として,「パッド電極に特定の元素を含まず,Auを含む電極金属を使用するこ
とにより,上記問題が解決できることを見出し,本発明を成すに至った。」との記
載があって,問題の解決手段として,「ボンディング用の第二の金属電極」に特定
の元素,すなわち,Al若しくはCrを含まないことが明記されている。さらに,
同段落【0016】には,「Cr,Alは第一の電極11に対し,マイグレーショ
ンが発生しやすく,これらの金属を第二の電極12に含有させると,たとえAuを
含んでいても第一の電極11の特性が失われてしまう。」との記載がある。
    上記に照らせば,本件明細書に開示されている技術思想は,「ボンディン
グ用の第二の金属電極」に「Auを含み」,かつ,オーミック接触の阻害の原因と
なる「Al若しくはCrを含まない」ようにすること以外にない。したがって,構
成要件④の「前記p層とのオーミック接触を阻害するAl若しくはCrを含まな
い」との文言は,「Al若しくはCr」が「p層とのオーミック接触を阻害する」
との発明者の認識を記載したものであり,これら特定の元素(すなわちAl及びC
r)を含むものを本件特許発明の技術的範囲から積極的に排除した趣旨と解すべき
である。
    そうである以上,現にAlが検出された被告チップが本件特許発明の技術
的範囲に属しないことは明らかである。
  イ 原告は,前記のとおり,構成要件④の「p層とのオーミック接触を阻害す
るAl」とは,金又はバナジウムとの合金を形成するアルミニウムのことであり,
被告製品から検出されたAlは,金又はバナジウムとの合金を形成していない酸化
状態のAlであるから,上記「Al」には該当しないと主張する。
    しかしながら,①原告が拠り所とする前記甲9(MST作成の分析結果報
告書)においては,分析方法としてAES(オージェ電子分光法)が用いられてい
るところ,原告が別件訴訟で提出した証拠である平成10年(1998年)2月1
2日付けMST作成の分析結果報告書(乙4)におけるAESの実験条件に比し
て,試料電流が10分の1に減少し,スパッタ速度が2倍に速まった上,測定領域
が100分の1に縮小されており,その検出感度は低いといわざるを得ない。②現
に,甲9においては,被告チップのMgドープp型AlGaN層に含まれているは
ずのAlが検出されておらず(甲9の「Fig.6」及び「Fig.7」各参
照),不自然な実験結果であるばかりか,上記乙4においては,被告チップの電極
17における表面露出部分に相当する箇所につき,Alが検出されたとの実験結果
が示されている。③また,甲10における分析方法であるESCA(X線光電子分
光法/XPS)は,もともと,試料の最表面を分析する分析手法である上に,Al
は空気中の酸素により酸化されやすい金属であるから,その最表面が酸化状態(A
l2O3)であったとしても別段不思議ではなく,そのことが直ちに内部まですべて
酸化状態であることを示すものではない。④それどころか,平成13年8月1日付
け株式会社松下テクノリサーチ作成の分析・解析報告書(乙11)によれば,被告
チップにつきSIMS(二次イオン質量分析)解析を行ったところ,同チップのボ
ンディング用電極(すなわち電極17)表面に高濃度のAlが存在し,また,電極
内部には,その10分の1程度の濃度のAlが深さ方向に対して一定濃度で存在す
る上に,この電極内部のAlのほとんどはO(酸素)とは結合せず,Auと合金化
しているとの結果が示されている。
    以上によれば,被告チップの電極17には,酸化状態のAlにとどまら
ず,金との合金を形成するAlが存在するというべきであって,同チップが構成要
件④を充足しないことは明らかである。
  ウ 仮に,構成要件④の「Al」を,原告主張のように「金又はバナジウムと
の合金を形成するAl」と限定的に解したとしても,「合金」という言葉の通常の
用語例からすれば,構成要素の少なくとも1つが金属元素であれば「合金」である
と考えられるから,「金又はバナジウムとの合金を形成するAl」とは,金属であ
ることに争いのない金又はバナジウムと混在するAl元素であれば足り,当該Al
元素の存在状態が酸化アルミニウムであるか,金属たるアルミニウムであるかは関
係ないことになる。
    したがって,仮に構成要件④について原告主張のような解釈を採ったとし
ても,被告チップが構成要件④を充足しないことに変わりはない。
第3 当裁判所の判断
 1 平成12年(2000年)12月26日付けMST作成の分析結果報告書
(甲8)においては,被告チップについてEPMA(電子線マイクロアナリシス)
による定性分析及び定量分析を行ったところ,定性分析の結果では,被告チップの
電極17の露出部及びSiO2部(ケイ素酸化物で被膜された部分)にいずれもA
lが存在することが示されており,定量分析の結果では,電極露出部にはSiO2
部に比して重量比で約6倍強,原子濃度比で約2.7倍近くのAlが存在すること
が示されている。また,平成12年11月13日付け株式会社松下テクノリサーチ
技術部長作成の分析・解析報告書(「報告書番号 No.A1204431」と記載されたも
の。乙1。)においては,XMA(X線マイクロ分析)による定性分析及び面分析
を行ったところ,被告チップの電極17のボンディング用ボール以外の部分からA
lが検出されたことが示されている。さらに,同日付け松下テクノリサーチ技術部
長作成の分析・解析報告書(「報告書番号 No.1204430」と記載されたもの。乙
2。)によれば,AES(オージェ電子分光法)による定性分析等を行ったとこ
ろ,被告チップの電極表面から少なくとも約3nm(ナノメートル)までの深さの
間にAuの約3分の1から4分の1程度の量のAlが検出されたことが示されてい
る。
   以上のとおり,原告・被告双方から提出された書証によれば,それぞれ原理
の異なる実験手法を用いた複数の実験結果において,少なくとも被告チップの電極
17の最表面といってよい部分からAlが検出されたことが示されており,定量分
析における細かな精度の問題を除けば,定性分析の結果それ自体(すなわち,Al
が存在すること)に疑問を差し挟むべき事情も見当たらないから,本件において
は,証拠上,少なくとも被告チップの電極17の最表面(とりわけ電極が露出して
いる部分)にAlが存在する事実が認められるというべきである。
   また,甲10においては,X線照射により放出される光電子のエネルギー分
布を測定し,数10Å程度の深さの試料表面における元素の種類,存在量,化学状
態等を分析する手法であるESCA(X線光電子分光法/XPS)を用いて定性分
析及び定量分析を行ったところ,被告チップにおけるAlは,主として,O(酸
素)と結合してAl2O3(酸化アルミニウム)の状態で存在していると考えられる
旨の結果が示されており,その実験手法や測定精度に特に疑問を差し挟むべき事情
も見当たらないから,被告チップの電極17最表面に存在する上記Alは,酸化状
態で存在する蓋然性が高いと認められる。
 2 原告は,前記認定事実を前提にしても,これらのAlは酸化状態(Al2O3
)のAlであり,本件特許発明が排除する「金又はバナジウムとの合金を形成して
いるアルミニウム」(前記第1の3ア)ではないから,構成要件④の充足性には影
響がない旨主張する。
   しかしながら,本件明細書の【発明の詳細な説明】欄の記載によれば,そも
そも,本件特許発明がされるに至った前提には,基板側を発光観測面とするp-n
接合型の発光素子は,電気的ショートを避けるために電極とリードフレームの間隔
を大きくする必要があり,したがって,自然とチップサイズが大きくなって高コス
トになるという欠点があること,これに対し,被告チップのように電極側を発光観
測面とする発光素子は,1チップを1つのリードフレーム上に載置できるためチッ
プサイズを小さくできるが,その反面,発光観測面側の電極により発光が阻害され
やすい欠点があること,その欠点を克服するため,従来,p層側を発光観測面とす
る発光素子のp層に形成する電極を金属よりなる透光性の全面電極(第一の電極)
とし,その全面電極の上にボンディング用のパッド電極(第二の電極)を形成する
技術が提案されていたこと,しかしながら,このような構造の電極を有する発光素
子においては,通電中にパッド電極の金属材料によるマイグレーション(金属内部
又は異種金属接触部を原子が移動すること)が発生し,透光性電極の透光性が失わ
れるとともに,p層と透光性電極とのオーミック接触性が悪くなるという問題のあ
ったことが認められる(本件公報第3欄12行~第4欄5行)。
   そして,本件明細書には,このような問題を解決する具体的手段として,
「パッド電極の材料について数々の実験を重ねた結果,パッド電極に特定の元素を
含まず,Auを含む電極金属を使用すること」(同第4欄15行以下)が見出され
た旨の記載がある。また,本件明細書には,Ni及びAuで形成した透光性電極を
第一の電極とし,その上に様々な材料でボンディング用の第二の電極を形成した
後,通常の発光ダイオードとして発光させ,500時間連続して点灯させた後に,
第一の電極の状態を調べた結果が記載されているところ,そこでは,上記第二の電
極の,①第一電極と接触する側の電極材料,及び,②ボールと接触する側の電極材
料として,それぞれ,Au,Ni,Ti,In,Pt,Al及びCrの7種類の金
属が,少なくとも,層を形成(積層)する時点においては,単体の金属として存在
することを前提にした記載がされている(同第6欄12行目以下)。
   以上のような本件明細書の記載からすると,本件特許発明の発明者ないし出
願人は,ボンディング用電極におけるAl若しくはCrの存在がp層とのオーミッ
ク接触を阻害する原因になるとの認識に立った上で,元素としてのAl及びCrそ
のものを本件特許発明の構成要素から排除することを意図したとみるのが自然であ
り,したがって,構成要件④においてAlについて付された「オーミック接触を阻
害する」との文言は,Alの属性についての発明者ないし出願人の認識を表したも
のであって,「Al」に特段の限定を加える趣旨のものではない(すなわち,構成
要件④における「Al」は元素としてのAlそのものを指す。)と解するのが相当
である。
   そうであれば,最表面に酸化状態で微量存在することが認められるにとどま
るとはいっても,被告チップに現にAlが存在することが認められる以上,被告チ
ップは,構成要件④を充足せず,本件特許発明の技術的範囲に属しないというほか
はない。したがって,被告チップを組み込んだ被告LED製品も,また,本件特許
発明の技術的範囲に属しない。
 3 以上のとおり,本件においては,構成要件④における「Al」は元素として
のAlそのものを指すものと解するのが相当であるから,被告チップは本件特許発
明の技術的範囲に属せず,原告の本訴請求はいずれも理由がないというべきであ
る。
   もっとも,付言するに,仮に構成要件④のAlについて,原告の主張するよ
うに,「オーミック接触を阻害する」Alすなわち「金又はバナジウムとの合金を
形成するアルミニウム」に限定されるとの解釈を採ったとしても,原告の本訴請求
は,理由がない。
   すなわち,上記のような本件明細書中の各記載を総合すれば,本件特許発明
の発明者ないし出願人が,同明細書の記載当時,第二電極に存在するAl若しくは
Crが第一電極に移動することが同電極の透光性を失わせる原因であり,これを防
ぐため,第二電極の組成要素からAl及びCrを排除することが必要であると考え
ていたことは間違いない。そうすると,仮に構成要件④について原告の主張する解
釈を採ったとしても,上記発明者ないし出願人は,Al及びCrの存在形態につい
てまで特に意識していたわけではなく,これらが電極に存在することがあるとすれ
ば,単体の金属として,あるいは他の金属と合金を形成して存在することが多いと
いう事情を前提に同明細書を記載したにすぎないとみるのが相当である。
   したがって,仮に被告チップの電極17中にAlが存在するとして,現に存
在するAlが,例えば,時間の経過とともに空気中の酸素と結合して酸化された状
態になったとしても(金属であるアルミニウム(Al)が,時間の経過とともに空
気中の酸素と結合して酸化アルミニウム(Al2O3)になりやすいことは,技術常
識である。),それで構成要件充足性が左右されるものではない。
   そうすると,一般に,特許権侵害訴訟においては,特許権者が原告として対
象物件の各構成要件充足を主張・立証することを要するものであるから,原告が自
ら本件明細書の【特許請求の範囲】を上記のように記載し,本件訴訟において,構
成要件④の「p層とのオーミック接触を阻害するAl」における「Al」につい
て,金又はバナジウムとの合金を形成するアルミニウムを意味すると主張するので
あれば,被告チップが本件特許発明の技術的範囲に属するというためには,被告チ
ップの電極17の最表面から検出されたAlが検出の時点において酸化された状態
であったことを主張・立証するだけでは足りず,このAlが当初から,単体の金属
又は他の金属との合金として電極17に存在したものではなく,金又はバナジウム
との合金を形成する可能性のないAlであったことをも,主張・立証しなければな
らないというべきである。
   しかるところ,前記認定のとおり,本件において証拠上認定できるのは,被
告チップの電極17の最表面にAlが存在する事実,及び,このAlは酸化された
状態で存在している蓋然性が高い事実にとどまるものであって,このAlが当初か
ら単体の金属又は他の金属との合金としては存在していなかったことまでも認定し
得るものではない。したがって,本件では,原告において,被告チップが構成要件
④を充足することを立証し得たということはできない。
 3 以上によれば,いずれにせよ,本件においては,被告チップが構成要件④を
充足していると認めることはできないから,被告チップ及び被告LED製品は,い
ずれも,本件特許発明の技術的範囲に属すると認めることができない。したがっ
て,原告の請求は,理由がない。
   よって,主文のとおり判決する。
  東京地方裁判所民事第46部
        裁判長裁判官 三村量一
           裁判官 村越啓悦
           裁判官 青木孝之
            (別紙)物件目録1
 下記のとおりの発光ダイオードチップ
[図面符号の説明]
  1 窒化ガリウム系化合物半導体発光ダイオードチップ
  2 サファイア単結晶からなる基板
  3 AlNからなるバッファ層
  4 SiがドープされたGaN層
  5 InGaN層
  6 GaN層
  7 InGaN層
  8 GaN層
  9 InGaN層
 10 GaN層
 11 InGaN層
 12 GaN層
 13 MgドープAlGaN層
 14 MgドープAlGaN層
 15 n電極
 16 透光性電極
 17 ボンディング用電極
[構成の説明]
  図面A及び図面Bに示す発光ダイオードチップは,サファイア単結晶からなる
基板2の上に,AlNからなるバッファ層3が形成され,このバッファ層3の上
に,SiドープのGaN層4,InGaN層5,GaN層6,InGaN層7,G
aN層8,InGaN層9,GaN層10,InGaN層11及びGaN層12を
形成している。さらに,GaN層12の上に,MgドープAlGaN層13及びM
gドープAlGaN層14を順次積層している。
  上記層14の上には透光性電極16及びボンディング用電極17が形成されて
おり,その一方,前記層4~層14の1部がエッチング除去され,露出したSiド
ープGaN層よりなる層の表面には,n電極15が形成されている。
  n電極15,透光性電極16及びボンディング電極17は図面Aに示す位置関
係にあり,n電極15とボンディング電極17との間に電流を流すことにより,4
30nm~530nm付近の青~緑色を発光する。
(別紙)
図面A図面B品番物件目録2

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛