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裁判例


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○ 主文
一 被告は、原告に対し、金二〇四万五一八三円及びこれに対する昭和五三年八月
二九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は五分し、その四を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告は、原告に対し、金六五〇〇万円及びこれに対する昭和五三年八月二九日
から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 請求認容の場合、担保を条件とする仮執行免脱宣言
第二 原告の請求原因
一 被告は、昭和四六年七月九日都市計画事業認可の告示があつた多摩都市計画道
路事業一等大路第三類第一号稲城・多摩線築造事業(以下「本件事業」という。)
の起業者である。
二 原告は、別紙一記載の土地及びその地上に別紙二記載の建物(以下「本件建
物」という。)を所有し、本件建物に居住して酒類販売業を営んでいる。
三 被告は、本件事業のために別紙一記載の土地のうちの別紙三記載の土地(以下
「本件土地」という。)を取得すべく、昭和五二年八月二六日、東京都収用委員会
(以下「収用委員会」という。)に対し、本件土地についての土地収用法(以下
「法」という。)三九条一項の規定による権利取得裁決及び法四七条の二第三項の
規定による明渡裁決の申立てをなした。なお、本件土地については、昭和五一年九
月一七日、法三四条の三の規定による収用手続開始の告示がなされた。
四 収用委員会は、昭和五三年六月二九日、本件土地を収用し、原告に対する損失
補償額を次の1及び2の合計六二七六万七三一九円とし、権利取得の時期及び明渡
しの期限を同年八月二八日とする旨の収用裁決(以下「本件裁決」という。)をし
た。
1 土地に対する損失補償      三四六八万八四二七円
2 土地に対する補償以外の損失補償 二八〇七万八八九二円
(一) 建物移転   一三八三万二六七七円
(二) 工作物等    二二二万二一四〇円
(三) 動産移転    一〇五万一二一六円
(四) 仮住居     五一七万〇四七四円
(五) 移転雑費    二〇七万八四八一円
(六) 営  業    三七二万三九〇四円
五 しかしながら、本件裁決の損失補償額は、以下のとおり適正な額より過少であ
つて不当である。
1 土地に対する損失補償
本件土地に対する損失補償額は、収用手続開始の告示の時における一平方メートル
当たりの価格を、四五万四五四六円に二パーセントの側道加算をしたものとし、こ
れに面積一七五・八〇平方メートルと、法七一条の規定による修正率一・〇八〇六
を乗じた八八〇七万六八七九円とすべきである。
2 土地に対する補償以外の損失補償
(一) 建物移転補償
本件建物は移転不可能であるから、代替地に同程度の建物を新規に取得するための
費用を補償すべきである。本件建物が移転可能であることを前提としてなされた本
件裁決の建物移転補償額の算定は根本的に誤つている。そうすると、建物移転補償
額は、次のとおり二四一八万九一一七円とすべきである。
1m2当たりの補償額×建物床面積m2(浴室6.61m2は居住部分に含め
る。)=損失補償額
(1) 店舗部分    130、304円×81.99=10、683、624

(2) 居住部分    136、364円×95.60=13、036、398

(3) 倉  庫     45、455円×10.32=   469、095

合 計  24、189、117円
(二) 工作物等補償
本件土地上に定着した工作物等(以下「本件工作物等」という。)は、コンクリー
ト、コンクリートブロツク、浄化槽、下水溝、鉄組アーケード等の移転不可能なも
のが多数を占めているほか、看板類、下水蓋等の移転可能なものも移転によつて本
来の効用を失うものが大部分であるから、移転が可能であることを前提としてなさ
れた本件裁決の工作物等補償額の算定は根本的に誤つている。工作物等補償額は、
前記建物損失補償額の二五パーセントに相当する六〇四万七二七九円とすべきであ
る。
(三) 動産移転補償
動産移転補償額は、本件裁決の動産移転補償額の二倍の二一〇万二四三二円とすべ
きである。
(四) 仮住居補償
仮住居補償額は、本件裁決の仮住居補償額をもつて相当とする。
(五) 移転雑費補償
移転雑費補償額は、次のとおり五〇四万四二二七円とすべきである。
(1) 移転先の選定に要する費用として、土地に対する損失補償額の三パーセン
ト相当額 二六四万二三〇六円
(2) 登録免許税相当額として、土地に対する損失補償額の二分の一に対する一
〇〇〇分の五〇に相当する額
二二〇万一九二一円
(3) 上棟式費用 二〇万円
(六) 営業補償
営業補償額は、本件裁決の営業補償額の約三五パーセント増しの五〇〇万円とすべ
きである。
(七) 雑補償
以上に述べた損失補償のほかに、
(1) 本件土地の収用による譲渡所得について原告が負担することになる所得税
(2) 建物に関する登記手続費用
(3) 登記手続及び住民登録手続の手数、転居による心労・不安、子供の通学区
域の変更による不便等に対する損失補償額として一五〇〇万円が相当である。
3 損失補償額の合計
以上のとおりであるから、原告に対して支払われるべき損失補償額は、土地に対す
る損失補償として八八〇七万六八七九円、土地に対する補償以外の損失補償として
六二五五万三五二九円の合計一億五〇六三万〇四〇八円とすべきである。
六 よつて、原告は起業者たる被告に対し、適正な損失補償額一億五〇六三万〇四
〇八円と本件裁決の損失補償額六二七六万七三一九円との差額である八七八六万三
〇八九円のうち金六五〇〇円及びこれに対する収用による権利取得の日及び明渡し
の期限の翌日である昭和五三年八月二九日から支払済みに至るまで民法所定年五分
の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第三 請求原因に対する認否
一 請求原因一ないし四は認める。
二 同五のうち、本件土地の側道加算の割合が二パーセントであり、法七一条の規
定による修正率が一・〇八〇六であることは認めるが、その余は争う。
三 同六は争う。
第四 被告の主張
本件裁決の損失補償額は、以下のとおり相当であり、原告の主張は理由がない。
一 土地に対する損失補償について
1 被告は、収用手続開始の告示の時である昭和五一年九月一七日における本件土
地の正常な取引価格については、路線価式評価法により算出することとし、路線価
を一七万九〇〇〇円とし、これに二パーセントの側道加算を行い一平方メートル当
たりの単価を一八万二六〇〇円とし、面積一七五・八〇平方メートルを乗じて三二
一〇万一〇八〇円と見積つた。これに対し収用委員会は、現地を調査し、鑑定結
果、基準地価格、付近の取引事例、世評等を考慮して、被告の見積額を相当とし、
これに修正率一・〇八〇六を乗じて得た三四六八万八四二七円を損失補償額として
本件裁決をなした。
2 被告が昭和五一年九月一七日における本件土地の一平方メートル当たりの価格
を一八万二六〇〇円としたのは正当である。すなわち、被告は、本件裁決の申請に
当たり被告の諮問機関である東京都財産価格審議会の評定を得て右同日における本
件土地の価格を決定したが、その際以下に詳述するとおり付近の基準地価格、付近
の取引事例、鑑定結果等を考慮して、前叙のとおり路線価式評価法によつて算定し
た。
(一) 評価の対象地
評価の対象地は、次のとおりである。
(二) 評価の資料
また、使用した評価の資料は、次表のとおりである(なお、本件土地の近傍地域、
類似地域内には規準とすべき公示地が存在しないので、公示地の価格を評定資料に
は用いなかつた。)。
(三) 路線価の設定
被告は、別紙六及び七表示のとおり、前記評価の対象地中、整理番号[1~1]の
土地の東面に接する市道を(A)路線、同(3)の土地の東面に接する市道路を
(B)路線及び同[1~1]の土地の南面に接する川崎街道を(C)路線としたう
え、各路線にそれぞれ路線価を設定することとした。そして、(A)路線を基準路
線とし、前記の基準地、取引事例(ア)、(イ)鑑定価格等を勘案のうえ以下の方
法により各路線価を設定した。
(1) 時点修正について
稲城市の公示地(住)の昭和五一年対前年比変動率は、一〇地点で平均約一・三パ
ーセントの上昇であり、また、国土庁発表によれば、昭和五一年第一・四半期(一
月~三月)は、東京圏住宅地〇・二パーセント、商業地〇・一パーセントあつて、
いずれも微上昇である。鑑定士も三者とも、昭和五〇年以降ほぼ横ばいとしてい
る。以上のことから、当時の経済動向、不動産取引状況等を勘案し、価格は横ばい
と判断し時点修正は行わなかつた。
(2) (A)路線価(基準路線価)について
本路線は、幅員約五メートルの市道で、小売店舗の連坦する川崎街道寄りの地域で
ある。
(1) 基準地との比較
前記基準地は、(A)路線の北東方約五〇メートルにあり、(A)路線と同一市道
沿いの逆L形のやや不整形な画地である(別紙六参照)。よつて、(A)路線価の
比準価格算出に当たつては、基準地価格に五パーセントの画地補正を行うことと
し、時点修正は前述のとおり行わず、また、品等差は同等と判断した。以上により
比準価格を次のとおり定めた。
〔画地補正〕165、000円÷(1+0.5)=173、684円●173、7
00円
〔時点修正〕  なし
〔品等補正〕173、700円×1.0=173、700円
(2) 取引事例(ア)との比較
前記取引事例(ア)は、(A)路線と同一市道に接面する角地であつて、小売店舗
に使用するため、本件事業用地として買収した残地を東京都の買収した単価で売買
したものである。よつて、取引は正常なものと判断し三パーセントの角地補正をし
たうえ、時点修正は行わず、品等差は同等と判断した。以上によつて比準価格を求
めると次のとおりとなる。
〔画地補正〕201、700円÷(1+0.03)=195、825円●195、
800円
〔時点修正〕  なし
〔品等補正〕195、800円×1.0=195、800円
(3) 取引事例(イ)との比較
前記取引事例(イ)は、(A)路線の西方約二八〇メートルにあり、本件事業の計
画道路に接面する間口約二五・〇メートル、奥行約四一・〇メートルのほぼ整形の
画地である(別紙六参照)。取引は、計画道路に面することからの買進みと事業の
失敗による売急ぎの事情が見られたが、相殺して正常取引と判断した。また、本画
地は、面積やや広大(一〇二三・三七平方メートル)であるが、裏側に側道(約六
メートル)があるので相殺し、画地補正は九四・三パーセントの奥行逓減を行つた
うえ、時点修正は行わず、品等差については(A)路線価が四二パーセント優位と
判断した。以上によつて比準価格を求めると次のとおりとなる。
〔画地補正〕128、600円÷0.943=136、373円●136、400

〔時点修正〕  なし
〔品等補正〕136、400円×(1+0.42)=193、688円●193、
700円
(4) (A)路線価の設定
以上の比較により求められた価格において、前記基準地とは開差を生じたが、
(A)路線に同一で類似の前記取引事例(ア)の比準価格及び鑑定価格の二者が近
値している価格をもとに、(A)路線価を一九万五〇〇〇円と設定した。
(3) (B)路線価について
(1) (A)路線との比較
本路線は、幅員約四メートルの市道であり、稲城長沼駅(以下「駅」という。)か
ら市役所に通ずる商業地の延長であるが、川崎街道をはさんで繁華性のやや劣る商
業地である。これを(A)路線と比較すると、収益性でやや劣り、駅・商店街等か
らの接近性でわずかに劣り、道路その他の条件はほぼ同等で、総合的に(B)路線
が八パーセント程度劣るものと判断し補正を行つた。
195、000円×(1-0.08)=179、400円
(2) (B)路線価の設定
(B) 路線価については、右によつて求められた価格に、鑑定価格等を勘案し、
一七万九〇〇〇円と設定した。
(4) (C)路線価について
本路線は、幅員約九メートルの川崎街道に接面する中央商店街(市道)の影響を受
け、近年金融機関の進出も見られ利用状況がわずかに変わりつつある地域である。
(1) (A)路線との比較
本路線は、(A)路線に比較すると、収益性でかなり劣り、接近性でやや劣り、街
路条件でややまさり、総合的に一六パーセント程度劣るものと判断し補正を行つ
た。
195、000円×(1-0.16)=163、800円
(2) (C)路線価の設定
(C) 路線価については、右によつて求められた価格に、鑑定価格等を勘案し、
一六万三〇〇〇円と設定した。
(四) 画地評価
被告は、(三)によつて設定した各路線価に基づき、前記評価の対象地について別
紙四記載のとおり評価した。
(五) 以上のとおりであるから、本件土地の近傍類地の取引価格を考慮して、収
用手続開始の告示の時における本件土地の価格を一平方メートル当たり一八万二六
〇〇円とし、これに基づいて本件土地の損失補償額を算定した本件裁決は相当とい
うべきである。
二 土地に対する補償以外の損失補償について
1 建物移転補償
本件裁決の建物移転補償額一三八三万二六七七円は、被告の見積額を採用したもの
である。被告は、本件建物を他に移転することとし、そのために標準的移転工法の
一つである移築工法(建物を解体して残地外の他の土地に従前どおり再築する工
法)を採用してその損失補償額を次のとおり算定した。
1m2当たり推定再建設費×移築補償率×建物の延べ面積m2
(1) 店舗部分 94、900円×0.715×88.60=6、011、77
5.8円
(2) 居住部分 112、200円×0.749×88.99=7、478、4
52.63円
(3) 倉  庫 49、900円×0.665×10.32=342、448.
56円
合 計  13、832、676.99円●13、832、677円
推定再建設費とは、建物を現時点で新たに建築した場合に必要な推定費用であり、
建物の基礎、軸部、内壁、天井、造作、床、建具、設備等を各別に検討して評定し
た額に基づいて決定した。移築補償率とは、移築に要する費用を推定再建設費に対
する割合で表わしたもので、東京都が建物の格付け及び経過年数を考慮して一般的
な基準を定めており、これに基づいて移転補償率を決定した。建物の延べ面積中、
店舗部分八八・六〇平方メートルは本件建物の一階の店舗と浴室部分六・六一平方
メートルの合計面積である。浴室部分を店舗部分に含めたのは、構造上店舗部分と
同程度と認められたことによる。
2 工作物等補償
本件裁決の工作物等補償額二二二万二一四〇円は、被告の見積額二〇六万九四七九
円に一部補償すべき工作物等を追加したものと考えられる。被告は、本件工作物等
の補償については、建物移転補償額に準じてその移転に要する費用を算定した(な
お、コンクリート浄化槽、下水管等移転の困難なものは、新設を前提として算定し
た。)。内訳は別紙五記載のとおりである。
3 動産移転補償
本件裁決の動産移転補償額一〇五万一二一六円の内訳は次のとおりである。
(1) 住居用家財   二四万九四一六円
(2) 店頭商品ほか  七二万五〇〇〇円
(3) ピ ア ノ    七万六八〇〇円
4 仮住居補償
本件裁決の仮住居補償額五一七万〇四七四円の内訳は次のとおりである。
(1) 一時借入費相当額  四一七万七五一四円
(2) 家 賃       九三万六九六〇円
標準家賃(二三万四二四〇円)×仮住居期間(四か月)
(3) 自動車保管料      五万六〇〇〇円
5 移転雑費補償
本件裁決の移転雑費補償額二〇七万八四八一円の内訳は次のとおりである。
(1) 基本額  二四万一〇〇〇円
(2) 加算額
移転先選定に要する費用  一二三万三八八一円
登録免許税相当額      四六万一六〇〇円
上棟式等に要する費用    一三万円
移転旅費           一万二〇〇〇円
6 営業補償
本件裁決の営業補償額三七二万三九〇四円の内訳は次のとおりである。
(1) 収益減補償   一六三万五〇〇八円
一 か月当たり平均収益額(四〇万八七五二円)×四か月
(3) 得意喪失補償  一六三万五〇〇八円
一 か月当たり平均収益額(四〇万八七五二円)×四か月
(3) 固定的経費補償  四五万三八八八円
一 か月当たり平均固定的経費(一一万三四七二円)×四か月
第五 証拠関係(省略)
○ 理由
一 請求原因一ないし四は、当事者間に争いがない。
そこで、原告に対し支払われるべき損失補償額について検討する。
二 土地に対する損失補償額について
1 本件土地については、昭和五一年九月一七日、法三四条の三の規定による収用
手続開始の告示がなされたから、法三四条の五及び七一条の規定により、本件土地
に対する損失補償額は、右の日における近傍類地の取引価格等を考慮しで算定した
相当な価格に、権利取得裁決の日である昭和五三年六月二九日までの物価の変動に
応ずる修正率(それが、一・〇八〇六であることについて、当事者間に争いがな
い。)を乗じて得た額とすべきである。そして、右の相当な価格とは、正常な取引
価格(客観的な市場価格)をいうと解される。
なお、法三四条の五及び七一条は、補償額算定の時期を収用手続開始の告示の時と
することにより補償額の固定を図つているが、これは、同一事業同一価格の原則の
下に関係権利者の公平を期するもので、合理性を有するものと解される。そして、
法が、権利取得裁決時までの物価の変動に応ずる一定の修正率を乗ずることとして
いること(法七一条)、土地所有者等に告示後収用又は使用の裁決以前に補償金の
支払請求権を付与し(法四六条の二)、起業者に右請求のあつた日から原則として
二月以内に見積額の支払義務を課し(法四六条の四)、見積額が不当に低い等の時
には、収用委員会の裁決において高率の加算金を加えるものとしている(法九〇条
の三)ことを考慮すると、法三四条の五及び七一条の規定が憲法二九条三項の規定
に違反するとはいえない。
2 以上の見地から本件土地の昭和五一年九月一七日における正常な取引価格につ
いて検討する(この項において、価格は一平方メートル当たりの単価で表示す
る。)。
(一) 収用委員会の認定額について
成立に争いのない乙第一ないし第七号証(第六号証については原本の存在も争いが
ない。)、証人A及び同Bの各証言並びに弁論の全趣旨によれば、
収用委員会は、本件土地の昭和五一年九月一七日現在の価格を、被告見積りのとお
り一八万二六〇〇円と認定したこと、被告は、被告主張一2記載のとおりの方法で
右の見積りをしたことが認められる。
(二) 原告主張の価格について
これに対し、原告は、本件土地の価格は四五万四五四六円に二パーセントの側道加
算をしたものであると主張する。しかし、右主張の価格を立証するに足りる資料は
何ら存在しないから、原告の主張は採用できない。
(三) 鑑定人C及び同Dの鑑定結果(以下「C・D鑑定」という。)について
C・D鑑定は、本件土地の価格を二一万二六二三円と評価している。同鑑定は、本
件土地の標準画地の標準価格を求めるため、取引事例一の取引価格一〇万六〇六〇
円に時点修正率(一〇〇分の一〇〇・五)及び地域格差修正率(五〇分の一〇〇)
を乗じた二一万三一八〇円、取引事例二の取引価格九万八二四四円に時点修正率
(一〇〇分の一〇〇・六)、個別的要因の標準化補正率(九八分の一〇〇)及び地
域格差修正率(五〇分の一〇〇)を乗じた二〇万一七〇〇円、並びに取引事例三の
取引価格一〇万三六〇〇円に時点修正率(一〇〇分の一〇〇・四)、個別的要因の
標準化補正率(九〇分の一〇〇)及び地域格差修正率(六〇分の一〇〇)を乗じた
一九万二六一九円の三者を平均し、本件土地の標準価格を二〇万二四九九円と試算
している。そして、これに角地補正率(一〇〇分の一〇五)を乗じ、本件土地の価
格を二一万二六二三円と評価している。しかし、右の個別的要因の標準化補正の理
由が判然としない上、何よりも、五〇分の一〇〇又は六〇分の一〇〇といつた地域
格差の激しい土地の取引価格からのみ比準価格を求めている点において、C・D鑑
定は妥当性を欠くといわざるを得ない。地域格差は、その精密な数値を客観的に求
めることが本来困難なものであり、しかも、個々の土地ごとに判定されるものでは
なく、一定の広がりをもつた地域ごとに判定されるものである。現に、C・D鑑定
でも、五〇分の一〇〇とか六〇分の一〇〇といつて大まかな数値を使用しており、
しかもその数値は一定の広がりをもつた地域の格差を示すものとしてとらえている
のである。したがつて、地域格差の激しい土地の取引価格を使用すれば、大幅な主
観の介在により大きな誤差の発生する危険があり、また、各土地のもつ細かな環境
要因が無視される危険が存するのであり、そのような取引価格のみから比準価格を
求めたC・D鑑定は、大幅な主観の介在を許し、本件土地のもつ個別的環境要因を
無視するものとして合理性を欠くものといわなければならない。ちなみに、C・D
鑑定は、取引事例四として、<地名略>外一筆の取引を取り上げながら、右比準価
格の基礎資料からは除外している。C・D鑑定によると、取引事例四の取引価格に
時点修正を加えると二〇万二九一〇円になるとのことである。この価格は、C・D
鑑定による本件土地の価格である二一万二六二三円を下回つている。しかし、前掲
乙第三号証によると、右の取引事例四の土地は、本件土地から約二〇メートルの距
離にあり、本件土地よりも駅に近く、しかも駅を中心とした場合に川越街道を横断
しなくてもよい点において、本件土地より評価の高い土地であることが認められ
る。しかるに、C・D鑑定は、本件土地の価格を取引事例四の取引価格より逆に高
く評価する結果となつており、ここにおいて同鑑定の右に指摘した不合理性が現れ
ているといえる。よつて、C・D鑑定による本件土地の評価価格を採用することは
できない。
(四) 不動産鑑定士Eの評価について
不動産鑑定士Eは、前掲乙第三号証において、昭和五一年六月二八日現在の本件土
地の価格を一八万六〇〇〇円と評価している。しかし、不動産鑑定士による土地の
価格の評価については、その基礎資料及び当該不動産鑑定士の主観の相違により、
各不動産鑑定士ごとに若干の誤差が生ずることは避け難いのであるから、できる限
り複数の不動産鑑定士に評価を求め、その結果を平均化することが望ましいといえ
る。しかるところ、前掲乙第二及び第四号証によると、不動産鑑定士A及び同F
は、右時点の本件土地の価格をそれぞれ一七万五九〇〇円、一八万二一〇〇円と評
価していることが認められ、三不動産鑑定士の評価を平均すると一八万一三三三円
となるのである。また、被告の見積りは、前叙のとおり路線価式評価法によるもの
で、それなりの合理性を有するものといえる。以上を総合勘案すれば、不動産鑑定
士Eの評価のみで、本件土地の画格が被告の見積額を超えるものと認めることはで
きない。
(五) 以上のとおり、昭和五一年九月一七日における本件土地の正常な取引価格
が一八万二六〇〇円を超えるものと認めることができないから、結局、本件土地に
対する損失補償額が本件裁決の三四六八万八四二七円を超えるものと認めることは
できない。
三 土地に対する補償以外の損失補償について
1 建物移転補償及び工作物補償
(一) 本件裁決内建物移転補償額は一三八三万二六七七円であり、工作物等補償
額は二二二万二一四〇円である。
このうち建物移転補償額について、収用委員会は、被告の見積額を採用したもので
あり、被告は、本件建物の一平方メートル当たり推定再建設費に、被告が建物の程
度及び経過年数に応じ一般的に定めている移築補償率と、本件建物の延べ面積とを
乗じて算定したことが、被告の主張から明らかである。また、工作物等補償額につ
いては、収用委員会は、本件工作物等の一つごとに、移転可能なものは移設費、移
転困難なものは新設費(一部については新設費及び除却費)を見積つて算定したこ
とが、被告の主張からうかがえる。
(二) これに対し、原告は、本件建物及び本件工作物等はすべて移転が不可能で
あるから新築費又は新設費を補償すべきであり、本件建物の新築費は二四一八万九
一一七円、本件工作物等の新設費は本件建物新築費の二五パーセントに相当する六
〇四万七二七九円であると主張する。
しかし、本件建物及び本件工作物等が移転不可能であること並びにその新築費又は
新設費が原告主張額であることを認むべき証拠は何ら存しない。したがつて、原告
の主張は採用できない。
(三) ところで、C・D鑑定は、明渡裁決の時である昭和五三年六月現在の本件
建物及び本件工作物等の解体及び移築費を合計一八一〇万円と評価している(な
お、同鑑定は、右の額を本件建物の解体及び移築に要する費用の額と表現している
が、その内に本件工作物等の解体及び移築費が含まれることは、同鑑定の内容から
明らかである。)。
収用委員会の本件建物及び本件工作物等の移転料に関する前記算定は、一応の合理
性を有するものといえるが、本件建物の移転料の算定については、建物の程度及び
経過年数に応じ一般的に定められている移築補償率を使用しているから、ある程度
大まかな概算の域を出るものではない。これに対し、C・D鑑定は、本件建物の各
部分ごとの費用及び各作業段階ごとの費用を算出したうえで全体の費用を積算して
いるから、収用委員会の算定より精度において勝るものということができる。な
お、本件工作物等の移転料については、収用委員会も各工作物等ごとに費用を算出
していることがうかがえ、その精度においてC・D鑑定に劣るものとは直ちにいう
ことができないが、同鑑定は本件建物と本件工作物等の移転料を一体として評価し
ていて両者の分離が困難であり、両者の中では本件建物の移転料が額からして主の
地位にあることからすれば、本件建物及び本件工作物等の移転料については、同鑑
定の前記評価額を採用するのが相当である。
したがつて、建物移転補償及び工作物補償は、合計で一八一〇万円とすべきであ
る。
2 動産移転補償
本件裁決の動産移転補償額は一〇五万一二一六円であるところ、原告は、動産移転
補償額は本件裁決額の二倍が相当であると主張するが、これを認めるに足りる証拠
はない。したがつて、原告の主張は採用できない。
3 仮住居補償
本件裁決の仮住居補償額は五一七万〇四七四円であるところ、この額が相当である
ことについては、当事者間に争いがない。
4 移転雑費補償
本件裁決の移転雑費補償額は二〇七万八四八一円であるところ、原告は、移転雑費
補償額は五〇四万四二二七円が相当であると主張するが、これを認めるに足りる証
拠はない。したがつて、原告の主張は採用できない。
5 営業補償
本件裁決の営業補償額は三七二万三九〇四円であるところ、原告は、営業補償額は
五〇〇万円が相当であると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。したが
つて、原告の主張は採用できない。
6 雑補償
原告は、雑補償として、本件土地の収用による譲渡所得について原告が負担する所
得税相当額を補償すべきであると主張するが、個人が所有地を収用され損失補償金
を取得したとき、その時点で当該収用土地の値上り益に係る譲渡所得の実現があつ
たものと考えられるから、これについて所得税の課税が行われるのは当然である。
ただ、この譲渡所得は所有者の意思にかかわりなく強制的に実現されるという特別
の事情があり、また、公共事業を円滑に施行する必要があることに鑑み、特例制度
として、租税特別措置法三三条以下において一定の要件の下に特別控除等を行うこ
ととしているにすぎない。したがつて、この特例制度を適用してもなおかつ負担す
ることとなる所得税あるいは特例制度の要件に該当しないため負担することとなる
所得税は、そもそも損失補償の対償となるべき「損失」には当たらない。また、原
告は、登記手続費用をいうが、これは前記4の移転雑費補償額に含まれている(こ
のことは、前掲乙第一及び第七号証並びに弁論の全趣旨から明らかである。)。更
に、原告は、登記手続・住民登録手続の手数、転居による心労・不安、通学区域変
更による不便等に対する補償をいうが、これらは土地収用に伴う受忍義務の範囲内
に属し、「通常受ける損失」(法八八条)に当たらないというべきである。したが
つて、原告の雑補償の主張はすべて理由がない。
四 結び
以上の次第であつて、原告に対する損失補償額は合計六四八一万二五〇二円が相当
であり、原告の本訴請求はこれから本件裁決の損失補償額六二七六万七三一九円を
控除した二〇四万五一八三円及びこれに対する明渡期限後の昭和五三年八月二九日
から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める
限度において理由があるのでこれを認容し、その余の請求は理由がないのでこれを
棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九
条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。なお、仮執行宣言の申立てに
ついては、相当でないから、これを却下する。
(裁判官 泉 徳治 大藤 敏 立石健二)
別紙一~七(省略)

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