弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原告等の請求を棄却する。
     訴訟費用は原告等の負担とする。
         事    実
 原告等訴訟代理人は、「昭和四二年四月二八日施行のa村長選挙及びa村議会議
員選挙に関し、訴外A、同B、同C、同Dの四名からなした審査申立について、昭
和四二年八月二五日被告がなした右各選挙を無効にするとの裁決はこれを取り消
す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因および被告
の主張に対する答弁として、つぎのとおり述べた。
 一、 原告等は、昭和四二年四月二八日施行のa村長選挙およびa村議会議員選
挙(以下本件選挙という。)の選挙人であり、同時に原告Eは、右村議会議員選挙
における当選人である。
 二、 訴外A、同Bの二名および訴外C、同Dの二名から、それぞれ本件選挙に
関し、a村選挙管理委員会に対し、選挙の効力に関する各異議申立がなされたが、
昭和四二年五月二六日右選挙管理委員会において、右申立人等の各異議申立は棄却
された。
 三、 ところが、右申立人四名はこれを不服として、被告岐阜県選挙管理委員会
に本件選挙の効力および当選の効力に関する審査申立をなしたところ、被告は、右
申立人等の請求を容れ、昭和四二年八月二五日、「昭和四二年五月二六日a村選挙
管理委員会のなした決定は取消し、昭和四二年四月二八日施行のa村長選挙及びa
村議会議員選挙は無効とする。」との裁決をなした。
 四、 本件裁決は、要するに、a村役場における不在者投票は立会人を欠いてい
たこと、本件不在者投票につきa村選挙管理委員会はほとんど不在者投票事由の審
査を行わず、機械的に投票用紙および投票用封筒を交付して漫然と不在者投票をさ
せたこと等、公職選挙法(以下単に「法」という。)、同法施行令(以下単に
「令」という。)に定める不在者投票の管理執行に関する規定違反があり、これが
選挙の結果に異動を及ぼす虞があることを理由とするものであるが、つぎに述べる
ごとく、本件不在者投票に関してはなんら被告主張のごとき違法の廉はなく、本件
裁決が前記のごとく選挙無効の原因ありとなしたのは、法の誤解か認定の誤りに出
でたものにほかならず、取消を免れないところである。以下、被告主張の違法事由
につき、原告等はつぎのとおり陳述する。
 (一) 不在者投票管理者が管理していない場所で不在者投票がなされたとの点
について。
 被告主張にかかる、後掲二、(一)の事実中、本件選挙における不在者投票数お
よびa村における不在者投票数、同村選挙管理委員会委員長F1が不在者投票管理
者であつたこと、ならびに同村における不在者投票のなされた期間の点は、いずれ
も認めるが、その余の点は否認する。
 本件不在者投票は選挙管理委員会委員長F1が管理し、書記F2、同F3の補助
執行によつて管理されていたものであり、仮りにしからずとするも、選挙管理委員
会より委任された書記F2の管理と役場職員の補助によつて管理されていたもので
あつて管理者不在との主張は当らない。
 しかして、「管理」とは物理的である必要はなく、選挙管理委員会委員長または
F2が村役場二階の投票記載場所に現存していなくても、役場の規模、構造に照ら
し、たとえ管理者が一階にいても、その管理は二階の投票記載場所に及ぶものと解
すべきである。本件不在者投票に当つては、役場職員二名以上が二階に同行するの
を原則としたが、そのうち一名は管理者またはその補助者であり、一名が立会人で
あつた。
 (二) 投票立会人を欠いたとの点について。
 被告主張にかかる、後掲二、(二)の事実中、投票記載場所の設備については争
わないが、その余の主張事実はすべて否認する。
 a村役場における本件不在者投票については、選挙人の申出に応じ、一階受付に
おいて担当書記または選挙事務従事者が選挙人名簿の対照を行い、不在者投票証明
書または疎明書を徴した後、甲第一号証の一ないし一四中、立会人欄記載の者(こ
れらの者はa村選挙人名簿に登録されている。)が立会人となつて投票に立会つた
ものであり、被告主張のごとき違法はない。
 また、役場職員一名のみが立会つたという被告の主張に対しては、常に二名が立
会つていた(一名は不在者投票管理者または管理補助者として)と反論するほか、
仮りに一名の立会いであるとしても(一)に記述した趣旨における管理が存在する
以上、役場職員一名が立会つたのみでも、不在者投票は無効ではないと解するのが
相当である。
 (三) 不在事由の証明ないし疎明に関する違法があるとの点について。
 被告主張にかかる、後掲二、(三)の事実中、別紙「不在者投票者一覧表」記載
の九五名が不在証明書を提出せず、疎明書をもつて投票用紙および投票用封筒の交
付を受け、不在者投票をなしたことは認めるが、その余はすべて否認する。
 被告主張にかかる、不在事由の記載がないとされる者については、すべて口頭に
よる不在事由の説明があつたものであり、担当者が右事由を確認の上、投票用紙等
を交付していたものである。特に、8G1については、同人より選挙事務従事者F
4に対し東京へ旅行するため不在となる旨口頭および不在者投票用紙及び同封筒交
付請求書に記載して申出がなされたところ、当時右F4の手元には疎明書用紙が品
切れとなつていたので、疎明書は後日作成することとして、不在者投票を許可した
ことが明らかになつている。そして、爾余の不在事由の記載のないものは、いずれ
も出稼を不在事由とするものである。
 その他法定の不在事由に該当しないとされる者および選挙当日a村にいたことが
明白であるとされる者については、いずれも、法四九条に該当する事情があり、し
かも疎明書上の記載に不備な点があるものについては、すべて口頭により不在事由
の確認がなされたものである。
 なお、a村のごとき僻地にあつては、不在投票者に対し証明書の提出を求めるこ
とは事実上行い難いことであり、むしろ投票を拒否するにひとしいこととなること
を付言する。
 (四) 投票権のない者に不在者投票をさせたとの点について。
 被告挙示の者等は、選挙当日いずれもa村内に住所を有していたものであり、被
告のこの点に関する主張は理由がないが、仮りに選挙当日右の者等がa村内に住所
を有していなかつたとしても、選挙管理者としては選挙人名簿に登載されている以
上、投票を拒絶しえないから、右のような瑕疵をもつて選挙全体の無効原因となる
との主張は、明らかに失当である。
 (五) 「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合」に当るとの点について。
 (1) 被告主張にかかる、後掲二、(五)の事実中、村長選挙および村議会議
員選挙についての各得票数は認めるが、その余は争う。
 (2) 原告等の前記(一)ないし(四)の各主張が失当であるとしても、被告
主張にかかる理由に基づいて無効とされるべき投票は僅少にとどまるところ、本件
裁決は右無効投票が九票以上あるものと認め、選挙の結果に異動を生ずるとしてい
るのであつて、右認定は失当である。
 (3) 仮りに九票以上の無効投票があつたとしても、a村議会議員の選挙につ
いては、当選人中、最多得票を得た訴外H1の得票数は一九五票であり、落選人
中、最多得票を得ている訴外H2の得票数は一一四票であつて、その差は八一票で
あるから、一部無効投票が存在しても、選挙の結果に異動を生ずる当選人はごく一
部であり、相当数の当選人の地位に影響を与えないことが明らかであるから、前記
無効投票の存在は、一部当選人についての当選無効の原因たるにとどまり、a村議
会議員選挙全体を無効ならしめるものではない。本件裁決には、右判断を誤つた違
法が存在することは明らかである。
 五、 本件選挙については、なんら選挙の公正自由を害する事情はない。
 (一) 本件選挙、特に村長選挙は、その投票数において明らかなとおり極めて
激烈なものであつたが、これがH3新村長の当選によつて終了するや、反H3派た
るAほか三名の者よりa村選挙管理委員会に対して選挙無効等の申立がなされたの
である。
 その申立の要旨は、被告のなした裁決書中の記載に明らかなとおり、村選挙管理
委員会等が特定候補者(H3を指すことは明らかである。)と結託し、意識的に違
法行為を敢行したというものであつた。その点本件紛争はH4派対H3派の争いで
あつた。
 (二) しかるに、被告のなした裁決中にも明らかなとおり、右申立人等が力説
した不正行為は何一つ立証されなかつた。のみならず、選挙後の捜査によつて、H
4派には多数の選挙違反が発覚し、多数関係者が刑事処分を受けたのであり、これ
に反し、H3派には刑事処分を受けたものはなかつたのである。
 (三) ところで、被告のなした裁決の理由は、もつぱら村選挙管理委員会の不
在者投票に関する手続上の不備を責めるものであるが、a村における不在者投票
は、過去すべての選挙につき今回と全く同様に施行されてきたのであつて、村選挙
管理委員会は従前の方式に従つて本件選挙を執り行つたもので、何等特別の故意は
なかつたものである。ここにおいて本件紛争は、従来のものを含めた選挙の方法が
正当であるかどうかに関する村選挙管理委員会対被告との紛争に転化したのであ
る。
 (四) 以上のしだいで、本件不在者投票については、村選挙管理委員会および
H3派とも、何等の故意はなかつたのであるから、仮りに本件不在者投票の手続・
方式に何らかの欠点があつたとしても、それは何等選挙の自由公正を害するところ
はなかつたのである。この点からいうも、本件選挙の結果は維持せられるべきであ
る。
 六、 以上の理由により、被告のなした本件選挙を無効とするとの裁決は不当で
あるから、原告等はその取消を求めるため本訴請求に及んだしだいである。
 と述べた。
 証拠(省略)
 被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁としてつぎのとおり述べた。
 一、 請求原因事実中、(一)ないし(三)の事実は認める。その余の事実は争
う。
 二、 本件不在者投票に関する管理執行手続にはつぎのごとき違法が存する。
 (一) 不在者投票管理者が管理していない場所で不在者投票がなされた違法に
ついて。
 不在者投票は、「不在者投票管理者の管理する投票を記載する場所」において行
われなければならない(法四九条)。不在者投票管理者は、令五五条に規定されて
いるが、本件選挙における不在者投票者一二二名のうち、同条二項二号に該当する
者九名を除いて、一一三名についてはa村において不在者投票がなされたから、同
条一項一号の規定により同村選挙管理委員会委員長F1が不在者投票管理者であ
る。不在者投票は昭和四二年四月二一日、二二日、二三日、二四日、二五日、二六
日、二七日の七日間行われたが、委員長が投票所に充てられた同村投場に出勤した
のは四月二六日午後のみであつた。
 本来、法において「管理」とは物理的管理をいう(法六一条、六五条参照)。す
なわち、管理者は投票所または開票所に臨席し、その監視のもとに行なうことによ
り投票または開票の公正を期しているのである。不在者投票が選挙管理委員会の委
員長の管理がなされないで行われることは、法四九条、令五五条、五六条等の諸規
定に違反し、当該不在者投票の無効となることは既に判例の指摘するところであ
る。
 もつとも、委員長に事故があるときは、地方自治法一八七条三項の規定により、
委員長の指定する委員が代理をして不在者投票管理者となることができるが、本件
選挙における不在者投票においては他の選挙管理委員会委員が委員長の代理として
管理した事実はない。
 よつて、本件不在者投票のうち、右一一三票は不在者投票管理者の管理しない場
所において投票された違法がある。
 (二) 投票立会人を欠いた違法について。
 不在者投票者が選挙人として登録されている選挙人名簿の属する市町村において
投票しようとする場合においては、不在者投票管理者は、当該市町村の選挙人名簿
に登録された者を立ち合わせなければならない(令五六条二項)。およそ、選挙に
おいて資格ある定数の投票立会人の立会がなくしてなされた投票は無効票であり、
かかる無効票を当選人の得票数から控除した結果を次点者の得票数と比較し選挙の
結果に異動を生ずる虞があるときは選挙は無効となる。また、不在者投票に関し同
一人が管理者と立会人とを兼ねた場合の投票は無効である。
 本件選挙における前記不在者投票一一三票の投票方法をみるに、不在者投票記載
場所は村役場二階の会議室の片隅に設けられており、選挙人から申出があつたつ
ど、一階において選挙管理委員会書記または選挙事務従事者が選挙人名簿の対照を
行い、不在者投票証明書または疎明書を徴した後、書記または従事者一名が二階の
投票記載場所に案内し、そこで投票用紙に記入をさせた上封筒に入れて封をし封筒
に署名させ、二階で封筒を受けとつた。右のごとく、本件不在者投票においては、
令五六条二項所定の立会人を欠いていたものである。かくのごときは、投票用紙の
すり替え、投票の勧誘等の選挙の公正を害する不正行為が容易に行われる可能性が
あるため、かかる投票は無効と解すべきであつて、右一一三票は無効とされるべき
ことは明らかである。
 特に、本件においては、証拠調の結果、証人として出廷した不在者投票者三五名
のうち、左記二〇名の投票の際には、村役場二階に設けられた投票所(および投票
所のある広い会議室を含めて)には、役場職員一人が立会つたのみであつた。その
管理手続違反は、きわめて重大であつて、かかる不在者投票の公正を害する虞があ
ることは多言を要せずして明らかである。
<記載内容は末尾1添付>
 (三) 不在事由の証明ないし疎明に関する違法について。
 不在者投票者のうち、別紙「不在者投票者一覧表」記載の九五名については、法
定の証明書の提出がなく、もつぱら疎明書のみによつて不在者投票用紙および封筒
が交付されている。
 止むを得ない理由で法定の不在者証明書を提出することができない者に対して
は、疎明によつて不在者投票を許すことは差し支えない。しかしながら、令五二条
三項の疎明は、不在証明書を提出できない事由の疎明と不在事由についての疎明と
を含むものであり、また不在事由が法律所定の場合にあたらないときは、選挙人が
口頭によつて補充(疎明)したからといつて不適法な証明書が適法な証明書となる
ものではない、とされている。
 本件においては、村役場係員が不在者投票者に対して、「不在証明書を提出でき
ない事由」を質問しなかつたことは、証人として出廷した不在者投票者三五名が一
致して証言するところである。
 つぎに、「不在事由」の疎明については、「疎明書」と題する書面(乙第二ない
し第九六号証の各二)を不在者投票者に交付し、各自に記入させて受理したのみで
あつて、ことさらに不在事由について、果して記載事項が真実であるかどうか、四
月二八日の投票日にはどうしても投票に行くことができないかどうか、さらに選挙
当日には転出によつて選挙権を失つており、ないしは失う見込であるかどうか等、
不在者投票に必要不可缺の要件について何らの質問もなされていないことは、これ
またすべての証人の一致して証言するところである。
 このように、漫然たる疎明により、ないし疎明を全然行なうことなく、請求着す
べてに不在者投票を許したことが管理手続の瑕疵に該当し、選挙の自由公正を傷付
けたことは言をまたない。ことに、原告が自ら主張し、且つ証人の証言によつて窺
われるとおり、本件選挙にあつては候補者間に激しい対立があり、悪質な選挙違反
行為が行なわれたことを考えるならば、管理規定違反の明白な不在者投票を無効と
判定すべきことは当然のことである。
 なかでも、左記に掲げるものについては、その違法は一目瞭然である。
 (1) 不在事由の記載が全然ないもの
 8 G1 16 G2 17 G3 18 G4 92 G5
 (2) 不在がやむをえない用事または事故によるものに該当しないもの、およ
び選挙当日不在であることが明らかでないもの
 5I1 9 I2(なお同人の疎明事由欄には一旦「岐阜市に居住の為」と書い
た後「居住の為」を抹消して「出稼ぎのため」と加筆してある。) 11 I3
(同上) 19 I4
 20 I5 23 I6 24 I7 30 I8 89 I9
 54 I10 55 I11 57 I12 67 I13 68 I14
 69 I15 70 I16 71 I17 77 I18 79 I19
 81 I20 84 I21 85 I22 87 I23 88I24
 89 I25 90 I26 91 I27 92 G5
 (3) 選挙当日a村にいることが明白であるもの
 6 J1(四月一日から四月三〇日岐阜市出稼ぎと書きながら四月二三日には在
村して投票している。)
 10 J2 12 J3(6J1と同じ。) 15 J4 20 I5
 21 J5(6J1と同じ。) 25 J6(6J1と同じ。) 26 J7
(同上)
 27 J8(同上) 33 J9 43 J10 52 J11
 59 J12 60 J13 61 J14 62 J15 60 I26
 (四) 投票権のない者に不在者投票をさせた違法について。
 市長、町長または議会議員の選挙権者たるには、選挙の当日当該市町村内に住所
を有することを必要とし(最高裁判所昭和二七・一・二五大法廷判決、民集六巻一
号四〇頁)、不在者投票をした者が選挙期日において選挙権を失つているときは、
その投票は無効である。
 不在者投票管理者は、(1)不在者投票当日、すでに村内に住所を有していない
者には不在者投票を拒否しなければならない。(2)不在者投票当日には投票権が
あつても、選挙期日までに村外へ転出した投票者の不在者投票は破棄すべきであ
る。このため、封筒の表紙に不在者投票者氏名を記載することとされているのであ
る。(3)不在者投票の請求をする者に対して、投票の基本である選挙権の有無に
ついては、不在事由の疎明にあたつてはまず充分なる審査を尽すべく、万一これを
怠つたため、容易に発見できたであろうところの選挙権の不存在を発見できない
で、そのまま不在者投票を許したことは、管理手続の瑕疵に該当する。
 本件において、右(1)(2)(3)に違反した無効投票は、つぎのとおりであ
る。
 (1)に違反するもの   六票
 28 K(乙第二九号証の二) 47 L(乙第九七号証) 59 J12(乙
第九八号証)
 79 M(乙第八〇号証の二) 83 N(乙第八四号証の二) 89 I25
(乙第九九号証)
 (2)に違反するもの   一票
 47 L(乙第九七号証)
 (3)に違反するもの  一二票
<記載内容は末尾2添付>
 (五) 本件選挙においては、村長選挙の当選人H3の得票数は一、三六三票、
落選人H4の得票数は一、三五六票で、その差は七票であり、村議会議員選挙にお
ける各候補者の得票数は別紙「a村議会議員選挙得票数一覧表」のとおりである。
よつて、前示(一)ないし(四)の無効投票が、法二〇五条所定の「選挙の結果に
異動を及ぼす虞ある場合」に該当するものというべく、本件選挙の無効であること
は明白である。
 と述べた。
 証拠(省略)
         理    由
 一、 原告等は、昭和四二年四月二八日施行のa村長およびa村議会議員選挙の
選挙人であり、同時に原告Eは、右村議会議員選挙における当選人であること、訴
外A、同Bの二名および訴外C、同Dの二名から、それぞれ本件選挙に関し、a村
選挙管理委員会に対し、選挙の効力に関する各異議申立がなされたが、昭和四二年
五月二六日右選挙管理委員会において、右申立人等の各異議申立は棄却されたこ
と、ところが、右申立人四名は、これを不服として被告岐阜県選挙管理委員会に対
し、本件選挙の効力および当選の効力に関する審査申立をなしたところ、被告は、
右申立人等の請求を容れ、昭和四二年八月二五日、「昭和四二年五月二六日a村選
挙管理委員会のなした決定は取消し、昭和四二年四月二八日施行のa村長選挙及び
a村会議員選挙は無効とする。」との裁決をなしたことは、いずれも当事者間に争
いのないところである。
 二、 本件の争点は、もつぱら本件選挙における不在者投票の違法管理の有無に
関するが、被告は、右不在者投票が選挙の管理執行に関する規定に違反する旨主張
するので、順次これについて判断を加えることとする。
 (一) まず、被告は、本件選挙においては、不在者投票管理者が管理していな
い場所で不在者投票がなされた旨主張する。
 <要旨第一>不在者投票は、法四九条に基き「不在者投票管理者の管理する投票を
記載する場所」において行わせることができる旨定められているのであ
つて、右にいう「管理」とは、不在者投票管理者たる市町村選挙管理委員会の委員
長の管理権が、社会通念上、時間的、場所的に不在者投票記載場所に及んでいなけ
ればならないことは言をまたないが、必ずしも不在者投票管理者が常時投票記載場
所に臨席し自ら不在者投票事務の執行に当る要はなく、不在者投票管理者の右のご
とき管理のもとにおいて選挙管理委員会の書記をして右投票事務の補助執行をなさ
しめれば足りる趣旨と解すべきである。
 けだし、不在者投票については、当日選挙に関し「投票管理者及び投票立会人の
面前において……」と定める令三七条のごとき規定が設けられていないのみなら
ず、実際上、不在者投票は通例連日にわたり、しかも投票時間中散発的に行われる
こと、また複数の投票記載場所が設置される場合があり得ること等に鑑みれば、右
のごとく解するを相当とするからである。
 証人F5、同F3、同F2、同O、同F1の各証言および弁論の全趣旨を総合す
れば、本件選挙の不在者投票管理者はa村選挙管理委員会の委員長たるF1であ
り、また同村役場吏員たるF2が右選挙管理委員会より同委員会書記に任ぜられ、
不在者投票事務の補助執行に当つていたこと、不在者投票管理者たる右F1は、不
在者投票の期間たる昭和四二年四月二一日より二七日までの間、同村役場に設置さ
れた投票記載場所に終始臨席していたということはなかつたが、右期間中選挙期日
の告示のあつた四月二一日には朝より午後三時頃まで、立候補締切りの二四日には
午後から同五時過ぎまで、投票管理者との打合せ会議の開かれた二六日には午前九
時より午後二時頃まで、二七日には朝より午前一〇時頃まで同村役場に在席してい
たほか、ほとんど連日のごとく同村役場に赴いて不在者投票の状況を聴取したりな
どして村委員会の書記等との連絡を保持し、常時不在者投票の緊急事務の処理に当
り得る態勢にあつたこと、そして同委員会書記F2が、同村役場吏員F3等の協力
を得て不在者投票事務の補助執行をなしていたことを認めるに足り、他に右認定を
覆えすに足りる証拠はない。右認定事実によれば、不在者投票管理者たるF1は、
同村役場に設置された不在者投票記載場所をその管理のもとにおいていたものとみ
るのが相当であるから、被告のこの点に関する主張は採用することができない。
 (二) つぎに、被告は、本件不在者投票においては投票立会人を欠いていた旨
を主張するので、この点につき判断する。
 本件選挙における不在者投票者一二二名のうち、令五五条二項二号に該当する者
九名を除く一一三名がa村において不在者投票をなしたことは、当事者間に争いの
ないところ、各成立につき争いのない甲第一号証の一ないし六、八および九、乙第
一〇九、一一〇号証、第一一二号証、第一一四号証、第一一六号証、証人P、同G
1、同Q、同R、同S、同J11、同J13、同J14、同J15、同I14、同
I16、同I17、同T、同N、同I21、同I22、同I23、同I24、同
U、同F6の各証言によれば、選挙人たるPは四月二一日、G1、R、Sは同月二
三日、J11は同月二四日、J13、J14、J15、I14、I16、I17は
同月二五日、T、Nは同月二六日、I21、I22、I23、I24、Uは同月二
七日、a村役場における不在者投票記載場所において不在者投票をなした者である
が、右の不在者投票者等は、いずれも同村役場の一階受付で、選挙人名簿の対照に
より登録者であることの確認を受け、不在投票事由を疎明した上、同役場二階の投
票記載場所に案内され、同所において投票用紙および不在者投票用封筒の交付を受
け、所定の手続に従つて投票用紙に候補者氏名を記載しこれを投票用封筒に入れて
封をしその表面に署名して、直ちにその場に待機していた同村選挙管理委員会の職
員に対してこれを提出したものであるが(右の選挙人等が登録されている選挙人名
簿の属するa村において不在者投票をなしたものであることは当事者間に争いがな
い。)、同投票記載場所においては、右職員として臨席していたのは、同選挙管理
委員会の書記F2、選挙事務従事者F7、F8、F6、F9等のうちいずれか一名
にすぎず、この者によつて前記のごとき投票用紙および封筒の交付以下の投票事務
が執り行われたこと、そして他に法定の立会人が実在せず、この者が投票立会人を
兼ねていた事実を認めるに足りる。もつとも、証人F7、同Vの各証言によれば、
右不在者投票者のうちPについては、その投票当時教育長たるVが右投票記載場所
を通りかかり、選挙事務従事者のF7と共に、右Pの投票の状況を傍観していたこ
とを認め得るが、不在者投票事務処理簿(甲第一号証の四)上右Pの投票立会人と
して記載されているF7の立会のもとに、右Vが投票事務を執行したとみるべき事
跡は全く存しないので、右事実をもつて前記認定の妨げとなすに当らない。証人F
8、同F4、同F9、同F7、同F2の各証言中、前記認定に反する各供述部分は
たやすく措信しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
 <要旨第二>ところで、令五六条第二項によれば、不在者投票管理者は、当該市町
村の選挙人名簿に登録されている者を投票立会人に選任して立合わせな
ければならないと定められているが、かかる不在者投票立会人をおくゆえんは、同
立会人が公益の代表者として独立不覇の立場において投票事務の一部に参与し、主
として投票事務の執行を監視し、選挙の自由公正を確保せんとするにあることは多
言を要しないところである。従つて、投票管理者が立会人を兼ねることを得ないの
はもちろんであるが、その補助執行者たる書記ないし選挙事務従事者が当該投票事
務の執行に当りつつ同時に立会人を兼ねるがごときは許されないところとしなけれ
ばならない。けだし、これらの者が投票の管理執行と立会を兼ねることは、実質的
には立会人を全く欠く結果をきたし、立会人を選任して投票事務に立ち会わせるこ
とを定めた法の前記趣旨に全く背馳することとなるからである。前記認定のごと
く、村選挙管理委員会の書記または選挙事務従事者が投票立会人を兼ねて不在者投
票事務の執行に当つたものとみられる以上、少くとも前記認定にかかる不在者投票
者一八名の不在者投票手続に関しては、これが公職選挙法、同施行令の定める不在
者投票の管理執行に関する規定に違反し、選挙の自由公正を疑わしめるに足りるも
のであつて不正行為が行われ得る可能性を有することは明らかであり、かかる違法
管理の事実は、現実に不正行為が存したと否とを問わず、後掲得票数の比較と相ま
つて選挙の結果に異動を及ぼす虞れあるものと解すべきである。
 なお、原告等は、村選挙管理委員会の書記F2が不在者投票の行われた際、同村
役場の一階に在席し管理権を及ぼしていたものであるから違法ではない旨主張する
が、右F2が同役場の一階に在席していたという一事をもつてしては、適法な投票
立会人を欠いたという前記違法管理の治癒されないことは論をまたないところであ
る。
 しかして、本件村議会議員選挙における最下位当選人H5の得票数は一一七票で
あり、落選人の最多得票数(次点者H2)は一一四票であつて、その差は三票であ
り、また本件村長選挙における当選人H3の得票数は一、三六三票、落選人H4の
得票数は一、三五六票であつて、その差は七票であることは当事者間に争いのない
ところであるから、前記認定のごとく少くとも一八件に及ぶ違法管理が存する以
上、右は選挙の結果に異動を及ぼす虞れありとしなければならない。
 原告等は、仮りに本件裁決のいうごとく九票以上の無効投票があつたとしても、
これが下位当選人の当落に影響を及ぼすに止まる場合には選挙全体の無効をきたす
ものではなく、単に当該下位当選人の当選無効をきたすにすぎない旨を主張する
が、当裁判所は、前記説示したごとく、法四九条による不在者投票に関する違法は
選挙の管理執行に関する規定違反として選挙の無効をきたすものと解するのであ
り、かかる投票事務の違法管理が単に下位当選人の当落に影響があることが確定さ
れたとしても、選挙の人的一部無効が認め得ない以上、本件選挙全体の無効をきた
すものと解するもやむを得ざるところとしなければならない(最高裁判所昭和二九
年九月一七日第二小法廷判決、民集八巻九号一六四四頁)。
 以上のとおりであるから、被告主張にかかるその余の違法事由を判断するまでも
なく、被告が、a村選挙管理委員会の決定を取り消し、本件選挙を無効とする旨の
裁決をしたのは相当であつて、右裁決の取消を求める原告等の本訴請求はその理由
がない。
 よつて原告等の本訴請求を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民訴法八
九条、九三条、九五条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 伊藤淳吉 裁判官 井口源一郎 裁判官 土田勇)
不在者投票者一覧表
<記載内容は末尾3添付>
根尾村議会議員選挙得票数一覧表
<記載内容は末尾4添付>

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