弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一 控訴人(附帯被控訴人)の本件控訴を棄却する。
     二 被控訴人(附帯控訴人)の附帯控訴(請求の拡張)及び請求の減縮
に基づき、原判決主文第二、三項を次のとおり変更する。
     控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し、金三九六万
八、九三五円及び内金二一万九、二九〇円に対する昭和四二年一二月一日から、内
金一五七万二、七三五円に対する昭和四六年一月九日から、内金一八万六、七六〇
円に対する同年七月一四日から、内金一九九万〇、一五〇円に対する同年一二月一
〇日からそれぞれの支払ずみに至るまで年六分の割合による金員並びに同年同月か
ら雇傭契約終了に至るまで毎月二〇日限り毎月金六万五、三五〇円宛をそれぞれ支
払え。
     三 訴訟費用は第一、二審とも控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。
     四 この判決第二項は仮に執行することができる。
         事    実
 一 控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)代理人は、「原判決を取
消す。被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)の請求を棄却する。訴
訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決、附帯控訴につき棄却
の判決を求め、被控訴人代理人は、控訴棄却の判決、附帯控訴及び請求の減縮によ
り、主文第二、三項と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求めた。
 二 当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加、訂正するほか、原判決事実摘
示のとおり(ただし、原判決四枚目表一〇行目に「同年八月一日」とあるのを「昭
和四一年八月一日」と、同七枚目裏五行目に「同号証」とあるのを「乙号各証」と
それぞれ訂正する。)であるから、ここにこれを引用する。
 1 控訴人の主張
 (一) 従前の主張の補足
 (本件転勤命令と業務上の必要性及び被控訴人を転勤の対象者に決定した理由)
 (1) 控訴人が本件転勤を命じたのは、従前の主張のとおり、a支店の欠員補
充と新たに増大する事務量を処理するため、業務上の合理的必要性があつたからで
あるが、昭和四一年七月三日とくに被控訴人を二本松支店からa支店に転勤させる
こととしたのは、従業員数の多い本店営業部、福島、平、若松の各支店には転出さ
せる程人員の余裕がなく、常時二〇名以上の従業員を配置している二本松、須賀
川、bの三支店のうち、須賀川、bの二支店は業務の関係から減員が困難であり、
二本松支店のみは取引量の約三〇パーセントがその管内にある岳温泉地区に集中さ
れている関係で比較的事務量にも余裕があると考えられたこと、二本松支店とa支
店の従業員の年齢の平均化を期するため、A1、A2、A3、B及び被控訴人の五
名が対象となつたが、前三者はそれぞれ全相銀連大東相互銀行従業員組合(以下
「従組」という。)の中央委員、中央執行委員、二本松支店分会の分会長であり、
Bは結婚予定のため転勤させないとの了解を与えていたため、いずれも異動の対象
から除外し、結局独身であり家庭事情について別段支障のない被控訴人が適任であ
ると思料されたことによるものである。控訴人は被控訴人が従組の青婦人部の書記
長をしていることを後日知つたものであつて、右異動が被控訴人の組合活動を嫌悪
した結果によるものでは断じてない。
 (転勤発令までの手続)
 (2) 控訴人は昭和四一年七月四日当時従組との間に存した大東相互銀行労働
協約(以下「協約」という。)四六条一項労働協約に関する覚書(以下「覚書」と
いう。)二条の規定に基づき、従組に対し被控訴人をa支店に転勤させたい旨申入
れて協議したが、従組は何ら首肯するに足りる理由も開示することなく、控訴人に
対し再検討すべきことを求め、かつ、実質調査のため二、三日の猶予を求めながら
何らの回答もしなかつたのみでなく、被控訴人も控訴人が直接事情を聴取するため
同月九日本店に出頭するよう連絡したにかかわらず出頭しなかつた。そこで控訴人
は同日従組及び被控訴人に対し同月一八日付で被控訴人の異動を発令する旨通知し
たところ、従組は同月一一日控訴人に対し被控訴人の異動を拒否する旨通告したの
で、控訴人は右異動を発令した。
 (懲戒解雇に至るまでの経緯)
 (3) 被控訴人は赴任期限である同月二一日までに赴任しないばかりでなく、
同月二三日控訴人の労務担当常務取締役Iが特別の配置のもとに言葉をつくして勧
告、説得をしたにもかかわらず、従組に一任したことを理由としてこれに応ずるこ
となく、福島県地方労働委員会に対し右異動が不当労働行為であるとして救済の申
立をした。控訴人としては事態を円満に解決するため同月二九日被控訴人の父及び
身元引受人に対して出頭を要請したがいずれも出頭しなかつた。そこで控訴人は同
月三〇日付をもつて被控訴人に対し同年八月三日までに赴任するよう命ずるととも
に、同日までに赴任しないときは解雇する旨をも併せて通告し、従組に対してもそ
の旨通知した。控訴人は同日の団体交渉において、従組の要請により右赴任期限を
同月一〇日まで延期することを承諾し、従組に対し同日までに赴任しないときは被
控訴人の解雇につき同意を得たい旨申入れたが、従組は同月四日開催の中央執行委
員会において、また、同月一〇日開催の第七回中央闘争委員会において、被控訴人
の転勤を拒否しその解雇をも辞することなく断固闘う趣旨の決議をし、同月一一日
被控訴人の解雇についての同意を拒否し、被控訴人自身も赴任しなかつたので、控
訴人は企業経営における秩序維持、業績高揚の目的に即応するため、同日被控訴人
を正当な理由なく業務命令に従わないものとして懲戒解雇し、被控訴人に対しその
旨口頭で告知した。
 (本件懲戒解雇が協約に違反しない理由)
 (4) かかる事情のもとにおいては、控訴人が懲罰委員会を開催しても従組側
の委員は従組の右決議に反して議決権を行使し、被控訴人を懲戒解雇することに同
意しもしくは賛成することはあり得ないし、これにつき従組の同意を求めてもこれ
を得ることが期待できないことは必定であるから、懲罰委員会の議を経ることな
く、かつ、従組の同意を得ることなく被控訴人を懲戒解雇したものであつて、この
ことをもつて協約五二条、五六条に違反するものということはできない。けだし、
控訴人がいかなる場合にも協約の右条項によらなければ、その従業員を解雇するこ
とができず、その効力が否定されると解することは、私有財産としての企業の保有
責任を所有者である使用者に帰している現行法制のもとにおいては、とり得ない見
解といわなければならないからである。しかも被控訴人に懲戒解雇に値する前記の
ような業務命令違反行為かあることが明らかであるのに対し、従組が何ら首肯でき
る理由なく徒らに反対している本件のごとき場合には、なおさらである。
 (不当労働行為の不成立)
 (5) 本件転勤命令及び懲戒解雇は不当労働行為を構成するものではない。
 ア 福島県地方労働委員会及び中央労働委員会が被控訴人主張の救済命令をした
ことは事実であるが、これらの命令書において不当労働行為と認められたのは、本
店総務課長C、経理課長D、c支店長E、平支店長F、d支店G、e支店長Hらの
行為であり、これを控訴人の行為であるとして控訴人にいくつかの不当労働行為の
あつたことを認めたものである。しかし従組が分裂した主たる要因は従組内部に存
したもので、右六名らの支配介入のごときは、わずかに数名を第二組合(大東相互
銀行職員組合、以下「職組」という。)に加入せしめるのに役立つたにすぎず、右
六名らの言動は控訴人代表者、常務取締役その他の常勤取締役、人事担当の部課
長、その関係者らとは全く連絡なしになされ、これらの者の全く関知しなかつたこ
とであり、しかも不当労働行為であると認めているのは、いずれも大東同志会、職
組への加入及び従組からの脱退に関するもので、被控訴人に転務を命じたこと及び
被控訴人を解雇したことに関するものでないから、救済命令が指摘するいくつかの
行為を不当労働行為と認めても、これをもつてただちに、控訴人が業務上の合理的
必要性によつて被控訴人に対してした本件転勤命令及び懲戒解雇を不当労働行為と
することはできない。
 イ 企業の経営についてもつとも重要なものの一つは、特段の事情のない限り、
企業の内外における労働事情をできるだけ正確に把握し、かかる把握の上に立つて
企業内における労務管理の適正を期し、労使関係における紛争をできるだけ最少限
にくいとめ、従業員の協力を得て生産性を高めることである。したがつて控訴人が
直接労務管理の衝に当つている本店部課長及び支店長らの管理職に対し、命令書の
いうように、「連合通信」の記事及びI常務取締役の文書を送付し、同文書の中で
右命令書の指摘するようなことをI常務取締役の言葉として述べられてあつても、
労務管理の面において右のような立場にある控訴人としては当然なすべきことをし
たもので、従組内部に批判派の醸成をはかつたものであるなどということはできな
い。仮に控訴人が右命令書にいうような意図をもつて、「連合通信」の記事及びI
常務取締役の文書を送付したものであるとしても、これのみで不当労働行為が成立
するいわれがない。
 また、右命令書の指摘する本店部課長、支店長を除く役席員八四名は、もともと
従組がその組合員たる資格を有するものとして従組に加入することを許し、その組
合員として認めてきたものであり、したがつてこれらの者が新たに職組を結成しこ
れに加入することは、憲法二八条、労働組合法七条一号等によつて保障されている
ところであるから、使用者たる控訴人において反対することは同法同条三号に違反
して許されないところであり、右命令書のいうように、控訴人がこれらの者が職組
に加入することに反対しなかつたことをもつて、不当労働行為意思があつたという
ことはできない。
 不当労働行為が成立するためには、その要件が具備されていることが必要であ
り、職組結成活動が使用者の意に沿うものであるかどうかは不当労働行為の成立要
件とは関係がない。したがつて右命令書のいうように職組結成活動が控訴人の意に
沿うものであつても、控訴人に不当労働行為の成立を認めるに由ないものである。
 ウ 職組が何びとを執行委員に選任するかは、職組自体が決定すべきことで控訴
人の介入の許されないところであり、職組のJ初代執行委員長、K副委員長、L執
行委員らが新たに設けられた統括室長又はその室員に任ぜられたのは、同人らがそ
れらの職種に適するためにすぎず、また、M、A2らを転勤させたのは、義務上同
人らを転勤させるべき合理的な必要性があつたからにすぎない。歓送迎会、旅行
会、忘年会、新年会、慶祝、家族会等に従組の組合員やその家族を参加させなかつ
たことは、これらがすべて職組の主催にかかるものであり、職組の関係者の決定す
るところであるから、控訴人のいかんともし得なかつたところである。被控訴人主
張の事実をもつて控訴人に不当労働行為意思のあつたことを推定することはできな
い。
 エ 被控訴人は本件解雇に至るまで集金業務を担当しており、しかも控訴人の転
勤命令に肯ぜず、後任者に対する事務引継をしなかつたため、控訴人の検査室長N
が昭和四一年七月二九日引継検査をしたところ、同日現在において、同年三月前任
者A1から現金不足不符合分を補償すべきものとして預つていた金一、六〇〇円を
着服したのをはじめ、同月一五日Oから集金した金一、〇〇〇円について、同人所
持の通帳には金一、〇〇〇円と記入しながら元帳には金五〇〇円入金と記入し、同
日の集計合計額が金四万〇、八五〇円であるのに金三万九、八五〇円を入金し、金
一、〇〇〇円を入金しなかつたこと、同年七月六日Pから集金した金一、五〇〇円
のうち金五〇〇円を入金しなかつたこと、翌七日Qから集金した金二〇〇円を元帳
に記入しなかつたことが明らかになつた。そこで控訴人は従来どおり被控訴人が集
金し、事情を知らない得意先に迷惑をかけることがあつてはならないと思料し、こ
れを回避しようとして被控訴人を解雇したことを知らせるため、新聞公告をしたに
すぎず、被控訴人に対する報復、従組組合員に対する見せしめのためになしたもの
ではない。かかる公告をすることは、信用を第一とする控訴人としてはもとより好
ましいことではないが、万一解雇後において得意先に迷惑をかけることがあれは、
控訴人の信用を失墜すること公告の場合に比較すべくもないと考えたからにほかな
らない。
 オ 被控訴人主張の期間に控訴人の重役、役席者が二本松支店に行つたのは七名
程度であり、そのうちI常務取締役及びR1総務部長は二本松所在の菅野繊維に招
待された際に同支店に立寄つたものであり、その余の五名は一斉ランチの際に金銭
や書類の保安のため応援に行つたにすぎず、従組分会の切崩しや同分会員の弱点を
捜し求めるため、また従組と地域の共闘会議との連絡の衝に当たつていた被控訴人
の言動を監視するため行つたものではない。
 いずれにしても控訴人は被控訴人の組合活動を嫌悪し、これを抑圧する意図のも
とに被控訴人を転動させ、解雇したものではない。
 (二) 当審における新たな予備的主張
 (1) 仮に控訴人が被控訴人に対してなした懲戒解雇が協約五二条、五六条に
違反する無効なものであるとしても、協約は昭和四二年九月七日の満了と同時に失
効したから、右条項の解雇同意約款もまた効力を失つたものである。そこで控訴人
は昭和四三年二月二九日、同年三月一日被控訴人到達の内容証明郵便をもつて被控
訴人に対し、昭和四一年八月二日になした懲戒解雇が無効であることを条件とし
て、就業規則に違反する行為、すなわち、(ア)被控訴人の前記業務命令違反行為
(就業規則四条、一七条、一八条に違反)、(イ)被控訴人が同年三月その前任者
からの事務引継に当り、現金不突合分に充当するため引渡を受けた金一、六〇〇円
を着服横領した行為、(中)被控訴人が二本松支店在勤中、しばしば就業時間中に
従組の業務その他の私用を行ない、上司から注意されてもこれを改めず、その他上
司の指示命令に違反し、かつ、理由もなく上司に反抗した行為(就業規則四条、一
三条に違反)が就業規則四三条一、二号、四、五号に該当することを理由としてあ
らためて被控訴人を懲戒解雇する旨の意思表示(以下「二次解雇」という。)をし
た。したがつて被控訴人は右書面到達の翌日である昭和四三年三月二日から満三〇
日を経過した同年四月一日以降控訴人の従業員たる身分を失つたものである。よつ
て本訴請求のうち、被控訴人が控訴人の従業員たる雇傭契約上の地位を有すること
の確認を求める部分及び同日以降の賃金等の支払を求める部分は、いずれも理由が
なく棄却を免れない。
 (2) もともと協約五二条、五六条のごとき解雇同意約款は、組合が組合員に
とつて最も重要な待遇の変更である解雇に関する使用者の意思決定に参与すること
により、組合員の地位を使用者の専断な人事権の行使から保護することに、その存
在の理由があるものであり、本来は使用者の経営権の範囲に属する事項についての
組合の経営参加条項たる性質を有するものと理解すべきである。経営参加は企業の
営み方に関する全体的な制度であり、かつ、主体は組合自体であつて個々の組合員
自体ではないから、協約中の個々の条項は個々の労働契約の内容たり得べき労働条
件の基準を定めた、いわゆる規範的部分とは異なるものである。したがつてかかる
解雇同意約款は、協約失効後は、その効力を認めるに由なく、いわゆる余後効を有
するとの見解又はこれと同趣旨の見解は全く理由がないものというべきである。
 (3) 昭和四一年八月一一日になした懲戒解雇が、仮にその手続に尽さざるも
のがあるとしても、すでに協約が失効し、その失効と同時に協約五二条、五六条及
び協約に附属する懲罰委員会規則等も失効したものであり、しかも被控訴人に前記
業務命令違反行為がある以上、予備的に重ねて二次解雇をしても、労使関係のあり
方を無視した信義則に反するものもしくは解雇権の濫用であるということはできな
い。前記解雇理由(イ)及び(ウ)は単に事情として加えたにとどまり、主たる理
由はあくまでも(ア)の業務命令違反行為であるがら、これをもつて被控訴人に対
する解雇理由があいまいであるとか、権利濫用の程度が極端であるなとどいうのは
当らない。
 (三) 被控訴人の後記請求の追加的変更(請求の拡張)原因事実中、控訴人と
従組との間に本人給、加給金及び一時金について控訴人主張の日時頃、その主張の
内容の協定が成立したこと、住宅手当につき控訴人から従組に対し被控訴人主張の
ような内容の申入れがなされたこと、被控訴人主張のように給与規程改正の結果、
控訴人の従業員に対する食事手当が金二、〇〇〇円に改訂されたこと、控訴人が被
控訴人主張の仮処分決定により被控訴人に対し毎月その主張の金員を支払つている
ことはいずれも認めるが、その余はすべて否認する。
 本件懲戒解雇は、従前から主張してきたように有効であるから、控訴人と従組と
の間に前記のような協定が締結され、給与規程が改訂されても、控訴人に対し被控
訴人はその主張するような請求権を取得するいわれがない。
 2 被控訴人の主張
 (一) 従前の主張の補足、訂正(請求の減縮)
 (協約違反による解雇無効)
 (1) 懲戒解雇は労働者の死にも等しい重大事であるから、その手続が慎重に
規定されることは当然のことであり、協約五六条に定められた懲罰委員会の決議に
より懲戒が議決されたときでも、解雇については協約五二条三号により、さらに従
組と協議することを義務づけていることは、その意味で正当である。けだし、従組
から懲罰委員会に出る委員はその組合員であり、従組により選出された者ではある
が、委員としての行動は、従組自体の意思によりなすものではなく、したがつて右
委員会の決議が従組選出の委員の参加したものであつても、あらためて従組として
協議することは次元を異にする問題で何ら矛盾しないからである。
 懲戒解雇をなすに当つては、まず懲罰委員会を開催し、その決議を得ることが必
要で、その手続を履践することなく、従組に同意を求めることは、協約五二ないし
五六条の規定からもなし得ないものといわねばならない。すなわち、労働者の身分
を保障する規定としてこれら協約を解する限り、懲戒解雇しようとするときは、ま
ず懲罰委員会により審議され、その後従組と協議するという手続がとられなければ
ならず、軽々に処理されてはならない手続なのであり、その過程で本人は充分に弁
明の機会を与えられなければならないものと解される。したがつてこれら協約の定
めを一顧だにせずになされた本件一次解雇が無効であることは明白である。
 (不当労働行為の成立)
 (2) 本件懲戒解雇は不当労働行為である。
 (控訴人の従組及びその組合員に対する不当労働行為の意思)
 ア 昭和四一年一二月八日福島県地方労働委員会は、「控訴人は従組に対し、会
社職制等を通じ、その組合員の脱退を勧誘するなど介入してはならない。控訴人は
本命令書を受領した日から七日以内に別紙確約書を縦五〇センチメートル、横七〇
センチメートルの板に墨書して、本店において従業員の見易い場所に七日間掲示す
ると共に、同文の文書を従組に交付しなけれはならない。」との命令を出し、これ
は昭和四四年一一月五日中央労働委員会においても支持され、控訴人はこれに従つ
て確定させた。右中央労働委員会の命令書によると、大要次のような判断がなされ
ている。
 (ア) 昭和二八年四月従組の全相銀連加盟を契機に管理職(本店課長、支店
長)は従組を脱退し大東会を結成、爾来大東会は控訴人、従組間にあって管理職組
合的な活動もしてきた。また、従組は漸次全相銀連の統一闘争に参加する等控訴人
と対抗的姿勢をとるようになつていた。
 (イ) 昭和三七年から三九年にかけて協約改訂問題が表面化し、とくに非組合
員の範囲の問題をめぐつて、昭和三八年四月従組の役席者から非組合員化の要望書
が従組に提出されると、大東会と控訴人はこれを積極的に支持する声明を行なつた
が、結局従組内部で調整できず、役席者約六〇名は同年七月従組を脱退するに至つ
た。このようなこともあり、協約の改訂については、ユニオン・シヨツプ制の廃
止、就業時間中の組合活動についての許可制問題など、ほぼ控訴人原案に沿つて改
訂された。
 (ウ) 控訴人は昭和四〇年一二月の総務レポート掲載の「連合通信」の記事及
びI常務取締役の文書を本店部課長、各支店長に送付し、この中で全相銀連及び従
組を批難し、他社の事例(和歌山相互銀行)を引用して従組内部の批判派につき、
良識ある勇気あるもので正しい姿勢だとして賞賛推奨し、各管理職に対して総務レ
ポートを良く読んで理解し、職員に啓発するように指示しているところからみて、
控訴人は全相銀連傘下組合としての色彩を濃くしていつた従組のあり方を嫌悪し、
役席組合員の脱退、さらに協約改訂の実現後従組内部に批判派の醸成をはかつたも
のと認められる。
 (エ) 事実、昭和四一年春季闘争の中で、従組批判派は従組を脱退し、大東同
志会を結成したところ、大東会の本店課長、支店長を除く役席者八四名は直ちに大
東同志会支持を表明し、遂に大東同志会と大東会(本店課長、支店長を除く。)は
合流して同年六月職組を結成するに至つたが、控訴人は非組合員化した筈の役席者
が職組に加入することについて何ら反対していない。
 (オ) 昭和四一年春季闘争における従組の時限ストライキ戦術が従組内部の批
判派を刺激したということがあつたとしても、職組結成に至るまでの経緯をみると
き、従組批判派及び大東会の職組結成活動は、会社の意に沿う行動であつたと認め
ざるを得ない。
 職組の執行部に選ばれた者の中心メソバーは、すべて職組結成の時の脱退組では
なく、昭和三八年七月脱退し大東会に入つていた役席者であり、しかも職組の初代
のS中央執行委員長は新たに機構改革により作られた専務取締役直属の管理統括室
長になり、K副委員長、L執行委員らもこれに入室し、これらの人々が控訴人の全
体の企画経営にたずさわるという形で非常に密着した関係が形成され、一方従組及
びその組合員に対する控訴人の態度は一貫して非人道的、非近代的な労務管理であ
ることが明らかであり、歓送迎会、旅行会、新年会、日々の慶祝、家族会にすら従
組組合員やその家族を参加させないなど、これ程はつきりした不当労働行為の意思
はない。
 (控訴人の被控訴人に対する不当労働行為)
 イ 控訴人は昭和四一年八月一七日付で福島民報、民友新聞に被控訴人の解雇公
告を出した。対外的信用を最も重視し福島県を中心として営業している控訴人が、
福島県民の最も多く購読する新聞に解雇公告を出すことは、被控訴人に対する報
復、従組組合員に対する見せしめ以外の何物でもなく、しかも被控訴人は金銭上の
トラブルを得意先との間で惹起したことは全くなかつたから、控訴人の不当労働行
為の真意をこれ程明白にしているものはないといえる。
 従組破壊攻撃の中で頑強に抵抗する従組の中心分会であつた二本松支店分会を攻
撃の中心にすえた控訴人は、経営上全く関連のない者をも含め、多数の重役、役席
者を二本松支店に派遣し、種々の調査や懇談と称しての切崩し、弱点を捜し求める
検査などを行なつた。経営の系統をこえたこのような支店訪問自体がすでにその意
図が奈辺にあつたかを端的に示している。従組組合員はかかる職制の訪問攻撃にも
めげず、依然として従組にとどまり、支店の半数以上の従組組合員を擁し地域の労
働者、住民の支持を得て闘つていたが、そのような中で地域に支援共闘会議も結成
され、同会議が独自に支店長と交渉をもつなど活発に支援活動を行なつていた。同
会議との連絡はすべて地区労の組織部長であつた被控訴人の仕事であり、したがつ
て右のような交渉には常に被控訴人が関与したが、R2支店長は同支店内における
被控訴人の言動を控訴人本店に報告していたから、被控訴人の同会議に関連する活
動も報告していたことは明らかである。本件懲戒解雇は被控訴人の組合活動を嫌悪
してこれを抑圧するための意図によつたものであつて、不当労働行為であることは
いうまでもない。
 (請求の減縮)
 (3) 昭和四二年六月から同年一一月までの在宅手当金一万三、八〇〇円の請
求(原審で棄却された分)は、これを取下げ、解雇後同月末日までの賃金等金二一
万九、二九〇円(原審で認容された分)に対する附帯請求の始期を同年一二月一日
からと減縮する。したがつて原判決五枚目表一〇行目に「同月二七日」とあるのを
「本訴において昭和四二年一一月三〇日被告会社到達の同年一二月一日付請求の趣
旨変更申立書をもつて、」と、同末行に「訳であり、」とあるのを「訳であるか
ら、同月」とそれぞれ訂正し、同行「昭和四二年一一月」から同裏五行目の「同年
一二月」までを削除し、同六枚目裏四行目に「六二八、二九〇」とあるのを「六一
四、四九〇」と同九行目及び同末行に「二三三、〇九〇」とあるのを「二一九、二
九〇」と、同七枚目表二行目に「一〇月一三日付訴変更」とあるのを「一二月一日
付請求の趣旨変更」と、同三行目に「同年一〇月一五日」とあるのを「同日」とそ
れぞれ訂正する。
 (二) 控訴人の前記予備的主張に対する答弁
 (1) 控訴人主張事実中、協約が昭和四二年九月七日失効したこと、控訴人が
その主張の日、主張の内容の二次解雇の意思表示をしたことは認めるが、右二次解
雇の意思表示は労働契約に違反し無効である。すなわち、労働協約は締結当事者間
の合意からなる契約的法律行為であるのみならず、当事者である労使の自主的立法
行為でもあり、当事者を規制する点においては法規範的であり、当事者の合意に基
づく点においては自主的である。一方労働契約は社会法上の契約として契約の締
結、内容、終了について労働保護法によつて規制され、確定されているところに私
法的契約と異なるゆえんがある。
 そこで労働協約に労働条件その他労働者の待遇に関する基準が定められていると
きは、組合員の個別的労働契約は協約に定める基準によらなければならない。換言
すれば、たとえ労働契約が協約で定めた労働条件その他待遇関係の基準以下で締結
されたとしても、協約の基準によつて当事者間に労働契約が締結されたものとみな
されるわけである。したがつて協約の有効期間中に労働契約が成立した以上、労働
契約の内容としてはその契約内容の基準となつた協約の規範的部分の存否とは関係
なく、それと同じ内容の労働契約が存続することになる。すなわち、協約が失効し
た以上、その後においてまで協約が労働契約の内容を支配する作用を有し得なくな
ることは当然のこととしても、労使関係は、労働条件の基準について明確なものを
要請する関係であり、また慣行的な事実関係が尊重されるべき継続的関係である特
質からみて、その継続的法律関係の特定という意味から、協約により規律された部
分が無になるのではなく、一応、従来の労働契約の内容が基準となるものと解され
る。したがつて労働者としては、従来保障された身分の安定に関する利益は、労働
契約の内容として主張しうるものといわなければならない。
 本件についてみるに、被控訴人は控訴人との労働契約の内容として、協約五三条
以下の規定により、その所属する従組の同意なしには解雇されない等のいわゆる解
雇同意約款の内容にあるとおりの保障された地位を有していたのであり、それは協
約が消滅した後といえども変りなく、その労働契約上の利益をすべて奪つた形で、
一度の弁明の機会も与えられず、何らの審議もなしになされた二次解雇の意思表示
は、労働契約に違反するものとして無効といわねばならない。
 また、労働条件についての労働者と使用者の共同決定の原則(労働基準法二条一
項)は、近代的な労働関係を規律する大原則であり、労働組合が結成された場合に
は団体交渉を通じての共同決定方式に移行することを意味するものである。したが
つて使用者が従前の労働条件を変更しようとする場合には、団体交渉を経るべきで
ある。このような見地からすれば、余後効理論を持ち出すまでもなく、一旦定めら
れた転勤、解雇についての基準ないし手続については一方的に変更できないという
べきである。この点においても本件配転、これを前提とする解雇は無効である。
 (2) 二次解雇の意思表示は信義誠実の原則に反し、解雇権の濫用にわたる無
効なものである。すなわち、右意思表示は控訴人が従組を敵視し、数々の不当労働
行為を重ねる中で、たまたま協約が期間満了により失効したことを奇貨として、協
約上履践すべき手続をなさずにした違法、無効の懲戒解雇(以下「一次解雇」とい
う。)をことさらに合法化しようとし、あらためてしたものにすぎず、一次解雇の
無効を反省して正規の手続を履践し、あらためてしたものではなく、明らかに解雇
同意約款の趣旨を潜脱しこれを否定する形でなされたものであるから、これ程労使
関係のあり方を無視し、信義誠実の原則に反するものはなく、このようなことが許
される理由は全く存しない。かかる意味においても、右意思表示は解雇権の濫用に
わたる無効なものといわざるを得ない。控訴人は一次解雇の意思表示の内容を特定
する解雇通知書を所持しながらこれを提出せず、ただ前と同じ理由で解雇すると主
張して解雇の理由を次々と変更しているのは、いかにその理由があいまいなままな
されたかを物語るもので、濫用の程度は極端である。
 (三) 当審における請求の追加的変更(請求の拡張)
 (1) 被控訴人の所属する従組と控訴人との間に締結された次のような協定及
び取決め等により、被控訴人は次のような請求権を取得した。
 ア 本人給、加給金(職能給)
 (ア) 昭和四二年六月二一日の賃金引上げについての協定(実施期日は同年四
月一日、昇給金額(定期昇給込み、以下同じ。)は一人平均金四、九八〇円、二五
歳の従業員については金三、七一〇円から金四、六〇〇円の配分をするものという
もの)により、殆んどの者が金四、六〇〇円であつたから、被控訴人も右と同額の
請求権を取得し、本人給は金二万四、九〇〇円から金二万九、五〇〇円となつた。
 (イ) 昭和四三年九月二五日の前同様の協定(実施期日は同年四月一日、昇給
金額は一人平均金五、一三三円、本人給と加給金に分けて支給し、二六歳のものに
ついては、本人は金二、九〇〇円、高卒六年以上九年未満勤続のものに対する加給
金は金一、六〇〇円を支給するというもの)により、被控訴人も右と同額の請求権
を取得し、本人給は金二万九、五〇〇円から金三万二、四〇〇円となり、加給金は
新たに金一、六〇〇円となつた。
 (ウ) 昭和四四年七月五日の前同様の協定(実施期日は同年四月一日、昇給金
額は一人平均金六、一三〇円、二七歳のものについては、本人給は金二、九〇〇
円、加給金は職能等級基準を前年度の勤続年数と学歴等による分類を用い、そのう
えで人事考課によりA、B二コースに分け、高卒六年以上九年未満のものはAコー
ス金二、〇〇〇円、Bコース金二、四〇〇円を支給するというもの)により、被控
訴人も本人給について右と同額の請求権を取得し、加給金についてはA、Bいずれ
のコースに評価されるか不明になつたが、それは控訴人の責に帰すべき本件解雇処
分によるものであるから、Bコースの金二、四〇〇円の請求権を取得したものとい
うべく、本人給は金三万二、四〇〇円から金三万五、三〇〇円、加給金は金一、六
〇〇円から金四、〇〇〇円となつた。
 (エ) 昭和四五年六月一七日の前同様の協定(実施期日は同年四月一日、昇給
金額は一人平均金七、八二五円、二八歳のものについては、本人給は金二、五〇〇
円、被控訴人と同様の経歴のものの加給金(職能給)は金四、四五〇円、同年一〇
月からはさらに金七〇〇円を支給するというもの)により、被控訴人も右と同額の
請求権を取得し、本人給は金三万五、三〇〇円から金三万七、八〇〇円となり、加
給金は金四、〇〇〇円から金八、四五〇円、同年一〇月からは金九、一五〇円とな
つた。
 (オ) 昭和四六年六月八日の前同様の協定(実施期日は同年四月一日、昇給金
額は一人平均金一万〇、二六一円、二九歳のものについては、本人給は金三、七〇
〇円、被控訴人と同様の経歴のものの加給金(職能給)は金四、九〇〇円とさらに
資格手当金二、〇〇〇円を支給するというもの)により、被控訴人も右と同額の請
求権を取得し、本人給は金三万七、八〇〇円から金四万一、五〇〇円、加給金は金
九、一五〇円から金一万六、〇五〇円となつた。
 イ 家族手当
 被控訴人は昭和四三年六月二六日第一子(長男T1)の出生の時から金二、〇〇
〇円の請求権を取得し、昭和四六年三月七日第二子(長女T2)の出生の時から金
一、〇〇〇円の請求権を取得した。
 家族手当は結婚、子の出生等の事実の発生により請求権を取得するものであるこ
とは規程上明確であり、使用者の裁量にかかるものではない。被控訴人は本件解雇
のため家族手当を請求しても控訴人が受付けず正規の手続をとれなかつたが、手続
が不備であるとの理由は控訴人の責に帰すべきものであるから、これによつて被控
訴人の家族手当請求が左右されることは正しくなく、控訴人に規程どおり家族手当
の支給義務あることは明らかである。
 ウ 住宅手当
 昭和四四年一〇月九日控訴人から従組に対する申入れとこれに対する従組の応諾
により、住宅手当の支給については、同月から二本松市を含む福島県内一〇市は金
八、〇〇〇円を最高限度として家賃の八〇パーセンートを支給することとなつた。
したがつて被控訴人は同月から家賃金三、五〇〇円の八〇パーセントに相当する金
二、八〇〇円の住宅手当請求権を取得した。
 エ 食事手当
 食事手当は従来金一、〇〇〇円であつたが、昭和四五年一二月一四日給与規程の
改訂についてと題する通知書により、昭和四六年一月から金二、〇〇〇円となつ
た。したがつて被控訴人は同月から右と同額の食事手当請求金を取得した。
 オ 一時金(賞与金)
 (ア) 昭和四二年一二月一二日の協定(本俸の三三〇パーセントを下期賞与金
として支給するというもの)により、被控訴人は金九万七、三五〇円の請求権を取
得した。
 (イ) 昭和四三年五月一四日の協定(同月二〇日に基本給料に家族手当の合計
額の三七パーセントを成果配分ということで支給するというもの)により、被控訴
人は金一万〇、九一五円の請求権を取得した。
 (ウ) 同年六月一三日の協定(夏期一時金として本俸と家族手当の合計額の三
三〇パーセントを支給するというもの)により、被控訴人は金九万七、三五〇円の
請求権を取得した。
 (エ) 昭和四三年一二月九日の協定(本俸と加給金の合計額の三三〇パーセン
トに家族手当二か月分を年末賞与金として支給し、別に成果配分として本俸、加給
金、家族手当の合計金額の三一パーセントを支給するというもの)により、被控訴
人は金一二万七、三六〇円の請求権を取得した。
 (オ) 昭和四四年七月五日の協定(夏期一時金として、新本俸の二九〇パーセ
ントに家族手当二か月分を支給するというもの)により、被控訴人は金一一万七、
九七〇円の請求権を取得した。
 (カ) 同年一二月一五日の協定(年末一時金として、本俸、加給金の合計額の
三一〇パーセントに家族手当二か月分を支給するというもの)により、被控訴人は
金一二万五、八三〇円の請求権を取得した。
 (キ) 昭和四五年六月一七日の協定(上期賞与金として、本人給と職能給の合
計額の三一〇パーセントに家族手当一か月分を支給するというもの)により、被控
訴人は金一四万五、三七五円の請求権を取得した。
 (ク) 同年一二月一日の協定(下期賞与金として、本人給と職能給の合計額の
三三〇パーセントに家族手当一か月分を支給するというもの)により、被控訴人は
金一五万六、九三五円の請求権を取得した。
 (ケ) 昭和四六年六月一九日の協定(夏期賞与金として、本人給と職能給の合
計額の三二〇パーセントに家族手当、資格手当及び役付手当各一か月分を支給する
というもの)により、被控訴人は金一八万二、七六〇円の請求権を取得した。
 以上の詳細は別紙賃金未払分計算表のとおりである。
 (2) 被控訴人は従来請求賃金総額の計算に当つて、被控訴人が福島地方裁判
所郡山支部昭和四一年(ヨ)第五一号仮処分決定により昭和四一年八月から昭和四
五年一二月分まで(五三か月分)控訴人から毎月二〇日金二万四、七〇〇円の支給
を受けていたので、賃金総額から右金額を差引いた金員を未払賃金として請求して
いたが、これはあくまでも仮の支払であるから、当審において請求を拡張し右金二
万四、七〇〇円の五三か月分金一三〇万九、一〇〇円を追加して請求する。
 (3) よつて被控訴人は控訴人に対し、(A)原審において認容された金二一
万九、二九〇円、(B)昭和四二年一二月から昭和四五年一二月までの本人給(金
一二七万〇、六〇〇円)、加給金(金一四万五、三五〇円)、家族手当(金六万
二、〇〇〇円)、食事手当(金三万七、〇〇〇円)、住宅手当(金九万二、六〇〇
円)、一時金(金八七万九、〇八五円)、合計金二四八万六、六三五円から金九一
万三、九〇〇円(仮処分による支給分)を差引いた金一五七万二、七三五円、
(C)昭和四六年六月支給の一時金(金一八万二、七六〇円)、同年一月から三月
分までの食事手当の差額金(金三、〇〇〇円)、第二子出生による同年三月分の家
族手当(金一、〇〇〇円)、合計金一八万六、七六〇円、(D)昭和四六年一月か
ら同年一一月までの本人給(金四四万五、四〇〇円)、加給金(金一五万五、八五
〇円)、家族手当(金三万円、前記金一、〇〇〇円を除く。)、食事手当(金一万
九、〇〇〇円、前記金三、〇〇〇円を除く。)住宅手当(金三万八、〇〇〇円)、
合計金六八万一、〇五〇円、(E)前記(2)の金一三〇万九、一〇〇円、以上合
計金三九六万八、九三五円及び(A)の金員に対する昭和四二年一二月一日から、
(B)の金員に対する訴の変更の申立送達の翌日である昭和四六年一月九日から
(C)の金員に対する訴の変更の申立送達の翌日である同年七月一四日から、
(D)、(E)の金員に対する同年一二月九日付準備書面送達の翌日である同月一
〇日からそれぞれその支払ずみに至るまで、商事法定利率年六分の割合による遅延
損害金の支払を求め、(F)同年同月から雇庸契約終了に至るまで毎月二〇日限り
毎月金六万五、三五〇円宛の支払を求める。
 3 証拠関係(省略)
         理    由
 一 控訴人が被控訴人主張のような相互銀行業務を営む株式会社であり、被控訴
人がその従業員として控訴会社二本松支店に勤務し、従組に所属していたこと、控
訴人が昭和四一年八月一一日被控訴人を解雇したことはいずれも当事者間に争いが
ない。
 二 そこでまず本件一次解雇の効力について判断する。
 協約五二条に、控訴人が従業員を解雇する場合は、(1)停年に達したとき
(2)本人の意思によるとき(3)懲戒処分を受け従組と協議が整つたときを除
き、予め従組の同意を得て行なう旨の規定が存し、また、同五六条に、控訴人が従
業員を懲戒に付する場合は、控訴人、従組、同数の委員で構成された懲罰委員会の
決議により行なう旨の規定が存すること、控訴人が一次解雇をなすについて従組の
同意を得ておらず、また、懲罰委員会の議を経ていないことはいずれも当事者間に
争いがない。
 <要旨第一>ところで解雇同意約款に違反してなされた解雇処分の効力について
は、右約款が労働協約の規範的部分に属するかどうかの点をめぐつて従
来から見解の分れるところであるが、従業員の解雇は労働関係の終了という従業員
にとつては最もきびしい処遇であつて、それが使用者の独断により不適正に行なわ
れる場合には、当該従業員の利益が不当に侵害されるばかりでなく、その従業員の
所属する労働組合の利害にも重大な影響を及ぼすことはいうまでもなく、右約款の
趣旨は、労働組合が使用者の人事権の行使に介入する意味では経営参加条項たる性
質を有するけれども、これら従業員及びその母体である労働組合の利益を擁護する
ため、労働組合が使用者の行なう解雇に関与してこれを規制することを保障したも
のであり、労働協約締結の主体は労働組合ではあるが、その効果を受ける権利義務
の主体はあくまでも個々の組合員であつて、解雇される者は組合員であることに鑑
みれば、労働組合法一六条にいわゆる「労働者の待遇に関する基準」に該当し、直
接個別的に労使関係を強行的に規律したものとしていわゆる規範的効力を有し、こ
れに違反する解雇は効力を生じないものと解するのが相当である。
 したがつて従組の同意を得ることなく、懲罰委員会の議を経ることなくなされた
一次解雇は、他に特段の事情の認められない限り無効というべきである。
 三 控訴人は、この点に関し、私有財産としての企業の保有責任を所有者である
使用者に帰している現行法制のもとにおいて、被控訴人に懲戒解雇に値する業務命
令違反行為があることが明らかであるのに、従組が何ら首肯できる理由なく徒らに
反対してきた本件一次解雇に至るまでの経緯に照らすと、従組の同意もしくは懲罰
委員会の決議を得ることは到底期待できない状態であつたから、このような場合に
は、同意もしくは決議なくして解雇を行なつたとしても、協約違反ということはで
きないと主張する。
 使用者の行なおうとする解雇が客観的に判断して正当であり、かつ、やむを得な
い緊急の必要性があり、しかも使用者側において労働組合側に十分納得させるだけ
の手段、方法を講じて誠意を尽くしたにもかかわらず、労働組合側において何ら正
当な理由なく拒否するような場合には、労使間の信頼、協力の趣旨に反するものと
いえるから、使用者が労働組合の意思を無視して一方的に解雇を行なつたとして
も、これをもつて労働協約違反の責任を問われないと解すべきこと控訴人主張のと
おりである。そこでこの観点に立つて本件一次解雇がなされるまでの経緯について
検討する。
 成立に争いのない甲第五号証(乙第三一号証)、甲第六号証(乙第三二号証)、
甲第九、一〇号証、第一四号証、第二四号証、乙第二〇ないし二七号証、第二九、
三〇号証、第三四ないし四九号証、当審証人R3の証言により成立を認めうる乙第
一、二号証、第四号証、第五四号証の一ないし三、同R1の証言により成立を認め
うる乙第三号証、第五ないし七号証、第一七ないし一九号証、第五〇号証、第五五
号証、同R2の証言により成立を認めうる乙第九ないし一一号証、第五二号証の
一、二、同R4の証言により成立を認めうる甲第一号証、第一三号証、当審におけ
る被控訴人本人尋問の結果により成立を認めうる甲第一一号証、当審における証人
R1(後記措信できない部分を除く。)、同R2(前回)、同R3、同R4、同R
5、同R6(後記措信できない部分を除く。)の各証言及び被控訴人本人尋問の結
果を総合すると、
 1 控訴会社a支店は昭和四一年三月当時行員一〇名であり資金量は金三億円余
(一人当り金三、〇〇〇万円余)であつたが、同月末Uが依願退職し、同年四月一
日新入行員一名が配属されたものの、他の同規模の支店と比較して事務量の割合に
人員不足(最も規模の小さいf支店ですら行員一〇名であつた。)であり、そのう
え同年五月末頃Vが副鼻腔炎の手術のため一か月の休暇を申出たので、a支店長R
3はその頃控訴会社本店に行員二名の増員ないし応援者の派遣を要請した。これに
加えて、かねて郵政省に申請していた同支店と鹿島郵政局との間の取引が同年六月
頃認可となり、同年七月二〇日頃から開始されることとなり、事務量がさらに増大
することとなつたので、控訴人は同支店に一名の増員の必要を認めた。
 2 控訴人は二本松支店が同規模の須賀川、bの両支店と比較して集金係一人当
りの相当件数も下廻り、その担当区域内の岳湯泉に事務量の約三分の一が集中して
いた関係で割合に人員の余裕があると考え、二本松支店の行員のうちから転出者を
人選し、同年七月三日頃異動について従組の同意を要する役員でなく、健康状態、
家庭の状況についても問題がないと思われた被控訴人を適任者と決定した。
 3 被控訴人は当時従組青婦人部書記長であり、また二本松地区労の組織部長を
しており、A2、A1、A3、A4とともに従組二本松支店分会における中心的な
活動家であり、同分会は従組の分会の中でも最も結束の固い中心的な分会の一つで
あり、このことは控訴人側では十分知つていた。
 4 従組三役であるR4執行委員長、W副委員長、R5書記長は昭和四一年七月
四日控訴人側R1総務部長、R6人事課長と賃金カツトの問題について団体交渉を
していたが、同日午後交渉再開の冒頭に、右R1部長から協約四六条一項、覚書二
条の規定に基づき従組に対し、被控訴人をa支店に転勤させたいとして、協議の申
入れがなされた。控訴人側は転勤の理由として同支店に人員が不足しており補充の
必要があることのほか、被控訴人が組合活動と業務を混同しており、二本松支店長
その他の役席者との間にトラブルがあり、日常の行動にも問題があるので解職する
こともできるが、若いから本人の反省を求める意味で転勤させたいと発言し、
(1)勤務時間中にステツカーを書いていたこと、(2)控訴人が配布した資料
(民青シリーズ)を思想信条の自由を侵害するものとして外勤一同で役席に突き返
したこと、(3)顧客から依頼された国民金融公庫の掛金の払込みが遅れたこと、
(4)定期積金の払戻しを顧客から請求されて応じなかつたこと、(5)二本松支
店に応援にきていたX調査役に対する態度が反抗的であつたことを指摘したが、従
組側としては一名だけの臨時の異動は異例のことであるから定期異動の際に考えて
ほしいこと、被控訴人が従組青婦人部の書記長であり今異動させられては困るとし
て再検討を求め、控訴人指摘の被控訴人の行動については、実情調査のうえあらた
めて協議したい旨申入れたので、控訴人側もこれに応じ協議を続行することとし
た。同月八日第二回目の協議の際、従組側は実情調査の結果右(2)、(3)を除
いてはすべて事実と相違しており、(5)についてはX調査役の方が挑発的であつ
たと主張し、控訴人側の主張と食い違つたため協議が進まず、控訴人側としても後
日直接被控訴人を呼んで事情を調査することとなり、異動の件については一応棚上
げにすることとして協議は中断することとなつた。
 5 右R1部長は翌九日被控訴人に対し控訴会社本店に出頭するよう命じたの
で、これを知つたR4委員長は電話で調査に立会わせてほしい旨申出たところ、右
R1部長はその時点ではすでに控訴会社幹部で従組との協議を打切り被控訴人の異
動を発令することに決定していたため、「T3(被控訴人)はもう二本松を出ただ
ろうか。あれは転勤して貰うことになつたからこなくてもよかつたんだ。実行する
だけだ。」との返答をした。被控訴人は本店に出頭するため従組事務所に立寄つた
が、話合う必要がなくなつた旨の右電話の内容を告げられたため、二本松支店に引
返した。控訴人は同日従組に対し同月一八日付で被控訴人の異動を発令する旨通知
するとともに、同月一一日被控訴人に対し異動の発令(赴任期限同月二一日)を内
示した。そこで従組としては同月一一日第七回中央闘争委員会を開いて態度を決定
し、転勤に値する理由がないこと、従組に対する弾圧であること、協議中であるに
もかかわらず協約を無視し強行したと、控訴人が現在従組組織破壊攻撃を行なつて
いる中での異例の転勤であり、また唯一人だけの異動であることを理由として、控
訴人に対し被控訴人の人事異動を拒否する旨の回答をしたが、控訴人は同月一八日
被控訴人の異動を正式に発令した。
 6 従組としては同月一八日控訴人に対し団体交渉を申入れ、被控訴人の転勤命
令の撤回を求めて交渉したが、控訴人はこれに応ぜず、話合いは平行線をたどり進
展するに至らず、被控訴人は同月二一日までに赴任しなかつた。控訴人は同月二三
日被控訴人に対し控訴会社本店に出頭することを命じ、労務担当のI常務取締役か
ら赴任するよう勧告説得させたが、被控訴人としては従組に一任したことを理由と
してこれに応じなかつた。また、控訴人は同月二九日被控訴人の父T4、身元引受
人Y1、同Y2の協力を得て説得しようとし、同人らに来行を求めたが来行を得ら
れなかつた。被控訴人は同月二三日福島県地方労働委員会に対し右異動が不当労働
行為であるとして救済命令の申立をした。そこで控訴人は同月三〇日赴任命令と題
する書面をもつて被控訴人に対しあらためて同年八月三日までに赴任することを命
ずるとともに期限までに命令を履行しない場合は、解雇することを申添える旨通告
した。従組は控訴人に対し同月一日午前八時五〇分から指名ストに入つたことを通
告してこれを対処し(同月三日午前〇時をもつて解除)、転勤撤回を申入れ、控訴
人は同月三日の団体交渉において従組から再検討したい旨の要請をいれて右赴任期
限を同月一〇日まで延期することを承諾し、従組に対し同日までに赴任しない場合
には被控訴人を業務命令違反行為を理由として解雇するについて、協約五二条に基
づいて、同意を得たい旨、行員解雇に関する同意要請申入をしたが、追伸として、
期間内に赴任した場合でもその処分についてはあらためて通知する旨(始末書程度
の処分であるとの説明はなかつた。)通告した。従組側は右交渉の際、被控訴人個
人の責任を追及するのは問題であると抗議したが、控訴人は従組の同意がなくとも
解雇に踏み切る意向を伝え、新しい判例を作ると言明した。従組は同月四日開催の
中央執行委員会において、また同月一〇日開催の従組支援六者共闘会議において
も、被控訴人の転勤命令は不当であり、解雇に関する同意要請申入に応じられない
旨決議し、同日控訴人に対しa支店に増員しなければならない理由はなく、従組の
二本松分会の活動家である被控訴人を異動の対象とするのは不当労働行為であり、
赴任しても処分するという控訴人の態度は威嚇行為であり厳重に抗議するとして、
被控訴人の解雇については同意できない旨回答し、右会議の成り行きいかんによつ
ては赴任することもありうるものとして、a支店に待機させていた被控訴人にその
旨連絡したので、被控訴人は赴任するに至らなかつた。そこで控訴人は翌一一日業
務命令違反行為を理由として被控訴人を懲戒解雇し、その旨口頭で告知したが、解
雇辞令、解雇通知書は交付されなかつた。控訴人は同月一七日付福島民報、民友新
聞朝、夕刊に解雇公告を出した。
 叙上認定に反する前記証人R1、同R2、同R6の各証言は前掲他の証拠と対比
してたやすく措信することができず、他にこれをくつがえすに足りる証拠はない。
 以上認定の事実によると、本件一次解雇、さらにその前提となつた転勤命令が客
観的にみて正当であり、直ちに解雇する以外に経営維持の方法がないという程事態
が切迫していたことは到底認めがたいばかりでなく、控訴人が従組に対し十分納得
させるだけの手段、方法を尽し、隔意のない意見を交換して誠実に協議をしたもの
ということはできず、むしろ被控訴人の異動及び解雇を絶対的に正当なものとして
無条件同意を要求する態度に終始したものとみるのが相当であるから、従組の同意
拒否は正当というべく、控訴人は協約違反の責を免れるものではない。
 四 控訴人は金銭上の不正行為があつた場合には協約の条項いかんにかかわら
ず、直ちに無条件で解雇できる慣例があつた旨主張するが、控訴人は一次解雇当時
被控訴人の義務命令違反行為を解雇の理由としていたにすぎず、金銭上の不法行為
をその理由としていなかつたこと前認定のとおりであるばかりでなく、右のような
慣例があつた点については、これを認めるに足りる的確な証拠はないから、右金銭
上の不正行為の存否について判断するまでもなく右主張は採用できない。
 五 次に二次解雇の効力について判断するに、協約が昭和四二年九月七日失効し
たこと、控訴人が昭和四三年二月二九日その主張の内容の二次解雇の意思表示をし
たことはいずれも当事者間に争いがない。
 <要旨第二>ところで労働協約が失効して新協約がいまだ締結されない場合に、そ
れまで協約の規範的効力によつて規制されていた労働契約の内容、すな
わち労働条件は何によつて定められるか、自由にこれを変更修正できるものか、あ
るいは何らかの制限に服すべきものかといういわゆる労働協約の余後効の問題につ
いては、見解の分れるところであるが、労働協約が失効しても、その有効期間中に
締結された労働契約は、継続的法律関係としての性質上、その後とくにこれを変更
する行為が行なわれない限り、右協約における労働条件その他待遇に関する基準を
内容としたまま存続し、その内容が空白となるものではなく、したがつて労働協約
に解雇同意約款が定められている場合には、協約失効後も、労働組合の同意なしに
は解雇されないという従前からの労働契約上の地位は保障されるべきものであると
解することが相当である。
 本件についてみるに、解雇同意約款が労働協約の規範的部分に属することは前判
示のとおりであるところ、控訴人の本件二次解雇の意思表示は、協約の有効期間中
に締結された労働契約により被控訴人が保障されている従組の同意なしには解雇さ
れないという地位を踏みにじり、被控訴人に対し何ら弁明の機会を与えず、しかも
従組に対して何らの協議もせず諒解を得ることもなしに一方的、抜打的になされた
ものであるから、労働契約に違反し無効といわなければならない。控訴人としては
一次解雇の効力が争われており、原審において一応その無効が判断されている段階
なのであるから、懲罰委員会の議に付することはできないとしても、少くとも従組
の諒解を得るか従組との交渉の段階で協議して真摯な態度で臨むのが当然であり、
予備的であるとはいえ、解雇という重大な利害関係のある事項を通一遍の内容証明
郵便に託して処理したのは、何としても行き過ぎであり、軽率姑息のそしりを免れ
るものではない。
 六 以上の次第で本件一次解雇及び二次解雇は、被控訴人主張の爾余の点につい
て判断するまでもなく、いずれも無効であるから、被控訴人は控訴人の従業員とし
てなおその地位を有するものというべく、その確認を求める被控訴人の請求は理由
がある。
 七 そこで進んで被控訴人の賃金等の請求(当審における請求の拡張部分を含
む。)について考察する。
 1 本人給、加給金(職能給)、食事手当、一時金(賞与金)について
 (一) 被控訴人が一時解雇の意思表示を受けた当時、控訴人から毎月二〇日支
払の約で賃金として月額本人給金二万二、二〇〇円、食事手当金一、〇〇〇円、合
計金二万三、二〇〇円の支給を受けていたこと、その後控訴人と被控訴人の所属す
る従組との間に被控訴人主張(原判決事実摘示請求原因三項及び当審における請求
の追加的変更原因ア、エ、オ)のような内容の本人給、加給金(職能給)の賃金引
上げ及び一時金の支給についての協定が成立し、食事手当の増額についての給与規
程の改正がなされたことはいずれも当事者間に争いがない。
 (二) 本件一次解雇及び二次解雇がいずれもその効力を有しないことは前認定
のとおりであるから、被控訴人は特段の事情のない限り控訴人に対し、他の一般従
業員と同一の基準に従い、同一年齢、同一経歴の者と同額の本人給、加給金(職能
給)、食事手当、一時金(賞与金、成果配分、決算手当を含む。以下同じ。)の支
払を請求する権利を失わないものというべきである。ただ右のうち従業員の勤務成
績いかんにより増額又は支給すべき金額に差異を設けているもの(この点は被控訴
人の自認するところである。)、すなわち(1)昭和四二年四月一日増額の本人給
(ア(ア))、(2)昭和四四年四月増額の加給金(ア(ウ))、(3)昭和四一
年一二月及び昭和四二年六月支給の一時金に関しては、その評価が困難ではある
が、弁論の全趣旨によると、控訴人の全従業員の殆んとがその最高額を受けた(右
(1)、(3)について最高額の支給を受け得なかつたものが全従業員の五パーセ
ントであることは当事者間に争いがない。)ことが認められ、被控訴人の勤務成績
を評価できないのは控訴人の責に帰すべき解雇処分によるものであるから、控訴人
において特段の事情を主張、立証しない以上、被控訴人に対しても右最高額の基準
に従つて支給する義務があるものというべきである。
 (三) 成立に争いのない甲第二五ないし三八号証、第四五ないし四七号証と当
審証人R4の証言及び原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果によると、被
控訴人は控訴人に対し昭和四一年八月分から昭和四六年一一月分まで、別紙賃金未
払分計算表記載のとおり、本人給、加給金(職能給)、食事手当、一時金(賞与
金)の支払請求権を有することを認めることができる。
 2 家族手当について
 成立に争いのない甲第四〇ないし四二号証、第四四号証と当審における証人R6
の証言及び被控訴人尋問の結果によると、控訴会社における家族手当の請求につい
ては、戸籍謄本を添付して控訴会社所定の正規の申請書に記入し、支店長を経由し
て本店人事部に提出し承認を得る手続がとられなければならない取扱になつていた
こと、被控訴人は昭和四三年六月二六日長男T1(第一子)、昭和四六年三月七日
長女T2(第二子)がそれぞれ出生したことをその都度控訴会社に申出たが、家族
手当請求についての正規の手続はとられていなかつたことを認めることができる。
しかしながら、もともと家族手当は婚姻、子の出生等の事実の発生によつてその請
求権を取得するものであつて使用者の裁量によつて拒否できる筋合のものではな
く、書面による請求は事務処理の明確を期するためのものとみるのが相当であり、
本件において被控訴人が正規の手続がとれなかつたのは、控訴人の責に帰すべき解
雇処分により訴訟が係属中であつたことによるものであるから、被控訴人の家族手
当請求がこれによつて否定される理由はなく、被控訴人は控訴人に対し、前記計算
表記載のとおり家族手当の支払請求権を有するものというべきである。
 3 住宅手当について
 控訴人がその給与規程に基づき、従業員が借家をした場合、由請によりその家賃
の三分の二相当額を住宅手当として支給することになつていたこと、昭和四四年一
〇月九日控訴人から従組に対する申入れにより住宅手当を同月から家賃の八〇パー
セント相当額を支給することに改訂されたことはいずれも当事者間に争いがなく、
原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果によると、被控訴人が昭和四二年五
月末頃訴外Zから肩書住所地所在の家屋を住居として家賃月金三、五〇〇円で賃借
したことが認められ、また、本訴において昭和四二年一一月三〇日控訴人に到達の
同年一二月一日付請求の趣旨変更の申立をもつて住宅手当金の支払を求めたことが
記録上明らかであるから、被控訴人は控訴人に対し、前記計算表記載のとおり、同
月以降右家賃金の三分の二相当額以内である金二、三〇〇円、昭和四四年一〇月以
降右家賃金の八〇パーセンート相当額である金二、八〇〇円の住宅手当請求権を取
得したものというべきである。
 4 支払期未到来の賃金等について
 被控訴人が昭和四六年一二月以降の賃金等についてみるに、被控訴人が主として
控訴人から支給される賃金によつてその生計を維持してきたことは、原審における
被控訴人本人の供述により認めることができ、事案の性質上、支払期の到来したと
きに支払をなすことを予め請求するにつき利益を有することは当然であり、前掲各
証拠によると、同月以降前記計算書記載のとおり、金六万五、三五〇円の支払を受
くべきものであることが認められる。
 5 仮処分による支給額について
 被控訴人主張の仮処分決定により、控訴人が被控訴人に対し毎月金二万四、七〇
〇円を支払つていることは当事者間に争いがなく、被控訴人が昭和四一年八月から
昭和四五年一二月分まで(五三か月)に被控訴人から仮処分により支給を受けた金
員、合計金一三〇万九、一〇〇円については、本訴において請求していなかつたこ
とが記録に徴し明らかである。ところで仮処分による支給はあくまでも仮の支払で
あるから、(これについて後日清算の問題は生ずる。)これを追加して請求できる
のは当然である。
 6 以上のとおりであるから、控訴人は被控訴人に対し、(A)昭和四一年八月
から昭和四二年二月までの本人給、食事手当、一時金、合計金六一万四、四九〇円
から仮処分による支給分金三九万五、二〇〇円を差引いた金二一万九、二九〇円、
(B)同年一二月から昭和四五年一二月までの本人給、加給金、家族手当、食事手
当、住宅手当、一時金、合計金二四八万六、六三五円から仮処分による支給分金九
一万三、九〇〇円を差引いた金一五七万二、七三五円、(C)昭和四六年六月支給
の一時金、同年一月から三月までの食事手当の差額金、第二子出生による同年三月
分の家族手当、合計金一八万六、七六〇円、(D)同年一月から一一月までの本人
給、加給金、住宅手当、食事手当((C)の食事手当の差額金を除く。)、家族手
当((C)の家族手当を除く。)、合計金六八万一、〇五〇円、(E)仮処分によ
る支給分として差引いた金員の合計金一三〇万九、一〇〇円、以上合計金三九六万
八、九三五円及び(A)の金員に対する前記請求の趣旨変更の申立送達の翌日であ
ること記録上明らかな昭和四二年一二月一日から、(B)の金員に対する昭和四六
年一月四日付訴の変更の申立送達の翌日であること記録上明らかな同月九日から
(C)の金員に対する同年七月一三日付訴の変更の申立送達の翌日であること記録
上明らかな同月一四日から、(D)、(E)の金員に対する同年一二月九日付準備
書面送達の翌日であること記録上明らかな同月一〇日から、それぞれその支払ずみ
に至るまで商事法定利率年六分(控訴人は株式会社であることが当事者間に争いが
ないから、商法上の商人であり、その行為は特に反証のない限り一般にその営業の
ためにするものと推定されるので、控訴人と被控訴人との間で締結された雇傭契約
に基づく本件債務は、特に反証のない本件においては、商行為により生じたものと
認められる。)の割合による遅延損害金を支払い、(F)同月から雇傭契約終了に
至るまで毎月二〇日限り毎月金六万五、三五〇円宛を支払う義務があるものという
べきである。
 八 よつて被控訴人の本訴請求を正当として認容した(一部棄却した昭和四二年
六月から同年一一月までの住宅手当の支払を求める部分は、被控訴人において、こ
れを取下げた。)原判決は相当で、本件控訴は理由がないから、これを棄却すべ
く、被控訴人の附帯控訴(請求の拡張)及び請求の減縮により原判決主文第二、三
項を変更することとし、民訴法九六条、八九条、一九六条一項を適用して主文のと
おり判決する。
 (裁判長裁判官 田坂友男 裁判官 佐々木泉 裁判官 小林隆夫)
(別 紙)
<記載内容は末尾1添付>
資金未払分計算表
<記載内容は末尾2添付>

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