弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人東野俊夫の上告理由一について。
 原判決は、つぎの諸事実を適法に確定している。すなわち、被上告人は、昭和三
三年一月一日訴外(第一審被告)D産業株式会社(以下、D産業という。)に対し、
本件宅地を、建物所有の目的で、期間を定めず、賃料一か月三・三平方メートル(
一坪)当たり金五〇円、毎月一〇日かぎり前月分支払の約で賃貸し、D産業は、右
宅地上に本件建物を所有していた。しかるに、D産業が昭和三九年一月以降全く賃
料を支払わなくなつたため、被上告人において、右賃貸借契約の解除を求め、その
結果、双方協議のうえ、昭和四〇年三月二七日右賃貸借契約を合意解約し、D産業
は、被上告人に対し、昭和四一年三月末日かぎり本件建物を収去して本件宅地を明
け渡すこと等を約するに至つた。一方、訴外E工業株式会社は、昭和三九年七月二
九日、D産業から本件建物につき根抵当権の設定を受け、同年一〇月一三日その登
記を経由したのであるが、その後、右根抵当権に基づいて和歌山地方裁判所に本件
建物の競売を申し立て、昭和四〇年一二月一八日競売開始決定があり、昭和四二年
七月二〇日の競落期日に至つて、上告人が右建物を競落し、同年一〇月二〇日その
所有権移転登記を了した、というのである。
 そうすると、原判決が説示するように、右賃貸借契約の合意解約は、賃借人であ
るD産業に一年余にわたる賃料の延滞があつたため、被上告人において賃貸借契約
の解除を求めた結果、合意解約という形式をとることになつたものであつて、その
原因は、もつぱら賃借人の債務不履行にあり、また、上告人が本件建物を競落取得
したのは、右合意解約により本件宅地の賃借権が消滅したのちであつて、原判決に
よれば、上告人は、右賃借権の消滅の事実を知悉しながら、本件建物を競落したこ
とが窺い知られるというのである。
 かような事実関係のもとにおいては、右賃貸借契約の合意解約が信義則に反する
ものとはいえず、被上告人は、右合意解約をもつて上告人に対抗することができる
というべきであり、これと同趣旨の原審の判断は、正当として是認することができ
る。
 所論引用の大審院判決は、土地の賃貸人が、賃借人との間で賃貸借契約を合意解
約した場合に、その合意解約をもつて、同地上の建物の抵当権者ひいて競落人に対
抗することができない旨判示したにとどまり、前記諸事情が認められる本件には適
切でないというべきであり、原判決もこのことを説示しているのである。
 原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。
 同二について。
 原審の適法に判示するところによれば、被上告人とD産業との間の本件賃貸借契
約は、合意解約によつて、昭和四〇年三月二七日かぎり終了しており、被上告人は、
右終了の事実を上告人に対抗することができるというのである。したがつて、その
後、上告人が、本件建物を競落取得するとともに、D産業から本件宅地の賃借権の
譲渡を受け、ついで、借地法九条ノ三第一項所定の承諾に代わる許可の裁判を求め
る申立をしたから上告人の本件宅地の占有は不法占有ではない旨の上告人の主張は、
所論原判示の当否を論ずるまでもなく、理由がない。論旨は、いずれにしても、原
判決の当否に影響がないものであるから、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    天   野   武   一
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    関   根   小   郷

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