弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主     文
 1 被告明治生命保険相互会社及び被告株式会社明治生命保険代理社は,原告に対し,連帯して7938万1144円
及びこれに対する平成13年9月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告と被告明治生命保険相互会社及び被告株式会社明治生命保険代理社との間で生じた分は,こ
れを3分し,その1を同被告らの,その余を原告の負担とし,原告と被告株式会社横浜銀行との間で生じた分は,原告の負
担とする。
4 この判決は,第1項について仮に執行することができる。
第1 請求
1 被告明治生命保険相互会社(以下「被告保険」という。),被告株式会社明治生命保険代理社(以下「被告代理社」と
いう。)及び被告株式会社横浜銀行(以下「被告銀行」という。)は,原告A(以下,第2における記述を除き,単に「原告」と
いう。)に対し,連帯して2億0490万3595円及びこれに対する平成元年(1989年)11月28日から支払済みまで年5分の
割合による金員を支払え。
2 被告銀行と原告との間で,別紙債権目録記載の各基本取引契約に基づく一切の債務が存在しないことを確認する。
 
3 被告銀行は,原告に対し,別紙物件目録一記載の各不動産についてされた別紙登記目録一記載の根抵当権設定
登記の抹消登記手続をせよ。
4 1につき,仮執行の宣言
第2 事案の概要
 本件は,原告Aが,被告銀行から融資を受けた金員を保険料として,被告保険との間で変額保険契約を締結したが,
保険加入の勧誘に被告らが一体的に関与しているところ,契約には詐欺,錯誤,解除原因,公序良俗違反,不法行為が
あったとして,詐欺による契約取消し,債務不履行による契約解除をした上,不当利得返還,損害賠償,融資契約上の債
務の不存在確認,担保とした根抵当権設定登記の抹消登記手続の各請求をした事案である。
 なお,本訴は,当初原告Aを含め12名が各人の変額保険契約に関し上記と同旨の請求を共同して提起したものであ
るが,11名については既に判決,和解により終了し,唯一残ったのが原告Aの事案である。
第3 前提事実(証拠の記載のない事実は争いがない。証拠の記載のある事実は,主に当該証拠により認められる。書証
の成立は弁論の全趣旨により認められる。)
1 当事者
 原告は,大正7年(1918年)9月20日生まれで,本訴提起当時75歳であった。
2 金銭消費貸借契約
(1) 原告は,別紙債権目録記載1のとおり,平成元年11月25日ころ,被告銀行からパーソナルロ-ン契約名の金銭消
費貸借契約により,6700万円を借り受けた(原告と被告保険及び同代理社[以下,両被告をまとめて「被告保険ら」とい
う。]との関係では,乙2により認められる。この契約を以下「本件パーソナルローン契約」という。)。契約書上,利息は年6
パーセント(以下「%」と表記する。),最終支払期は平成11年11月30日である。
(2) 原告は,別紙債権目録記載2のとおり,平成元年11月28日,被告銀行との間で「〈はまぎん〉カードローン取引約
定書(随時返済・変動金利型)」により,以下の内容の取引契約(以下「本件カードローン契約」という。)を締結した(被告
保険らとの関係では,乙1)。 
3 担保設定契約
 原告は,2(1)(2)の借入れ(以下,貸主側からみて,「本件融資」,契約を「本件融資契約」という。)に際し,その担保と
するために,その所有する別紙物件目録一記載の不動産について,被告銀行に対し下記の内容の根抵当権を設定する
旨の契約(以下「本件根抵当権設定契約」という。)をし,被告銀行は,別紙登記目録一記載の根抵当権登記(以下「本件
根抵当権登記」という。)を経由した(被告保険らとの関係では,乙3)。
(1) 極度額1億2300万円
(2) 被担保債権の範囲 銀行取引・手形債権・小切手債権
4 保険契約
(1) 原告は,平成元年11月27日ころ,被告保険との間で,商品名「ダイナミック保険ナイスONE(終身型)」の以下の
内容の変額保険契約(以下「本件変額保険契約」という。)を締結した(被告銀行との関係では,丙1の1・2)。
ア 記号・証券番号  31-497422
イ 被保険者     原告
ウ 保険金受取人   被保険者の法定相続人
エ 基本保険金の額  1億円
オ 保険料      6672万6176円
カ 保険料払込方法  一時払
キ 保険期間     終身
(2) 変額保険契約は,保険料の多くを上場有価証券等の投資によって運用し,その運用実績により死亡保険金額及
び解約返戻金額を変動させる生命保険契約である。被相続人を被保険者とする場合には,保険事故発生時の変動保険
金額が借入元利金額を上回り,差額を納税資金に充てることができる時に実効的な相続税対策となる。
第4 争点及び争点に関する当事者の主張
1 契約の効力の有無
(1) 詐欺の有無
〈原告の主張〉
ア 変額保険契約の性質と欺罔行為
 変額保険は,第3の4(2)のとおり,相続税対策としての効果をあまり期待できないものである。のみならず,株式な
どによる特別勘定の運用実績次第では払込保険料に見合うだけの利益を得られない危険を伴っている。その上,借入金
により保険料を一時払する場合には,借入金利息が確実に発生していくから,危険は一層大きくなる。
 それにもかかわらず,被告代理社の担当者B(以下「B」という。)及びCは,平成元年9月ころ「銀行借入金利用一
時払終身保険による相続税納税資金繰りシミュレーション」を作成して,原告に対し変額保険の相続税対策としての有効
性を力説した。すなわち,C等は,原告に対し「土地が値上がりしていくので,このままでは相続税が払えない額となるが,
変額保険に加入しておけば,保険金で借金や相続税を支払うことができ,資金も残る。生命保険の運用利率は,9%は間
違いがない。」旨を説明した。
 また,原告は,被告銀行の担当者のEに対し,借入れをしても利息の支払もできないこと,資産としては自宅の土
地建物があるだけの年金生活者であることを述べ,融資を受けた場合の返済は大丈夫であるかを尋ねた。これに対し,E
は,上記のシミュレーション表を示して,間違いない,大丈夫と答えた。
イ 原告の誤信
 原告は,この勧誘及び相談結果を聞くうち,このままでは土地が値上がりし,相続が発生した場合,遺族は相続
税が払えず,自宅を売却しなければならないこと,ところが借入れをして変額保険に加入すれば,万一の場合,保険金で
借金や相続税の支払ができると誤信して,本件変額保険に加入しようとするに至った。そこで,本件融資を受けて,本件変
額保険に加入した。
ウ 契約の効力の一体性
 被告銀行と被告保険らとは原告に対する勧誘を一体的に行い,高額な保険料を支払うために銀行からの借入れ
が事実上不可欠であるから,本件融資契約と本件変額保険契約とは,実質的には一体的な契約であり,効力は一体のも
のとして判断すべきである。
エ 取消しの意思表示
 原告は,本訴訴状をもって本件融資契約及び本件根抵当権設定契約並びに本件変額保険契約を詐欺を理由
に取り消す旨の意思表示を被告銀行及び被告保険に対してした。 
〈被告保険らの主張〉
ア 原告の主張ア前段のうち,変額保険が株式を中心に運用すること,保険金と借入元利金との差額を納税資金と
することができることは認めるが,その余の主張の趣旨は争う。
  同中段のうち,「力説した」,「資金も残る。9%は間違いがない。」旨を述べたとの点は否認し,その余は趣旨とし
ては認める。
 同後段は不知。
イ 同イのうち,原告の内心は不知であり,誤信したとの点は否認する。
ウ 同ウは争う。原告が保険料を支払うための資金をどのように調達したかは知らない。
エ 変額保険について
(ア) 変額保険は,保険料を主に株式や債券等の有価証券に投資し,その運用実績により,保険金額や解約返戻
金額が変動する。その導入は,物価変動により貨幣価値が低下することに対応する生命保険商品が求められたことにあ
る。定額保険に比べて収益性を追求することから投資的要素も兼ね備えており,運用の成果もリスクも契約者が負う。
(イ) 被相続人が契約者かつ被保険者となる本件変額保険のような場合は,死亡保険金が納税資金となる。また,
運用実績が良ければ,一定額が保証されている基本保険金額に変動保険金額が上乗せされる。また,保険金は,法定相
続人一人につき500万円が非課税扱いとなる上,保険料支払のための借入金及びその借入金利息の支払のための借入
金の累計額が相続時には債務控除されるので,相続財産の課税価格を引き下げる効果がある。
オ 被告代理社のBは,同被告のCに依頼し,平成元年10月初めころ,紹介を受けた原告と会い,挨拶をした。場所
は,被告銀行k支店であり,上記3名の他,紹介者のFが集まった。また,被告銀行の担当者も立ち会ったかもしれない。こ
の日は10分程度話をしただけであった。 
  Cは,その数日後の土曜日か日曜日に原告宅を訪問し,変額保険のパンフレットその他資料を用意して,原告を
被保険者とし,借入金で保険料を支払うタイプの変額保険の仕組みについて説明し,保険金と借入元利金との差額を納
税資金とすることができること,借入元利金が保険金を上回る場合もあるので,慎重に検討してほしいと述べた。Cは,その
約1週間後に原告を再訪し,質問を受けながら再度説明をした。その際,原告から株価が下がったらどうなるかという趣旨
の質問があった。そして,原告は,申込みの意向を示し,契約の成立に至った。
〈被告銀行の主張〉
ア 原告の主張アのうち,前段及び中段は認否の要がない。
 同後段は否認する。被告銀行の担当者のD及びEは,原告に対して変額保険の説明も勧誘も行っていない。両
名は変額保険についての知識もなかった。
イ 同イは争う。原告に誤信はなかった。また,保険料を借入金で支払うことが相続税対策になり得ないとはいえない
から,原告の主張の前提が誤っている。ちなみに,原告は,本件融資契約については誤信なしに契約をしている。
ウ 同ウのうち,事実は否認し,法的主張は争う。変額保険と借入れとを一体的に勧誘したとの事実は否認する。両
者は性質上別であり,現実にも,原告は,先に保険契約の申込みを行い,これを前提に融資の申込みをしてきたものであ
る。
エ 被告銀行の関わりの程度
  平成元年10月下旬ころ,原告と被告代理社のCとが被告銀行k支店を訪れ,原告から被告銀行のDに対し,自
宅を担保にした場合,払込保険料として1億円ぐらい借りられるかとの質問があった。Dは,不動産登記簿を用意するよう
に伝え,後日持参された登記簿謄本に基づき,同年11月17日電話で,原告に対し,担保の時価が1億2000万円位であ
るから,保険料支払のための融資が6000万円で,その利息支払のためのカ-ドロ-ン枠が3000万円位で,合計9000
万円位なら検討できる旨を伝えた。Dから事務処理の指示を受けたEは,原告と電話で折衝すると共に,今後とも土地の
値上がりが続くか分からないが,本当によろしいのですねと原告の意思を確認した。その上で,被告銀行は,平成元年11
月24日本件パーソナルローン契約,同月28日本件カードローン契約を締結し,同月27日原告の依頼に基づき払い戻し
た上,被告保険に保険料の振込手続をした。振込額は6672万6176円であった(別に送金手数料が824円)。また,被告
銀行は,同年12月5日原告との間で本件根抵当権設定契約を締結し,本件根抵当権登記を経由した。
オ 仮に万一,被告銀行以外の第三者が原告主張の欺罔行為をしたとしても,被告銀行担当者は本件融資契約時
にそのことを知ってはいなかった。
(2) 錯誤の有無
〈原告の主張〉 
 本件融資を受けてする本件変額保険が,実際には相続税対策とはならず,借入金の返済ができなくなるなど,危
険性の高い商品であるにもかかわらず,原告は,そうでないと誤信して本件融資契約及び本件変額保険契約をした。した
がって,両契約及び本件根抵当権設定契約(この3契約をまとめて,以下「本件各契約」という。)は錯誤により無効であ
る。
 また,錯誤に重大な過失はない。
〈被告保険らの主張〉
原告が誤信したとの点は否認し,錯誤であるとの点は争う。
〈被告銀行の主張〉
 (1)イのとおり,原告には誤信はない。
 また,仮に原告主張の誤信が原告にあったとしても,本件変額保険契約と本件融資契約とは法的には別個独立の
契約であるから,その誤信は本件融資契約には何ら影響しない。
 さらに,仮に原告主張の誤信が原告にあったとしても,その内容は本件融資契約の締結に際して被告銀行になん
ら表示されていない。
 のみならず,仮に原告主張の誤信が原告にあったとしても,原告が自らあるいは紹介者や被告代理社のBやCに
問い合わせることなどができたことからすると,原告が錯誤に陥ったことには重大な過失がある。
(3) 公序良俗違反の有無
〈原告の主張〉
  被告代理社及び被告銀行の担当者は,法律上の義務を積極的に無視し,銀行の信用をも利用した悪質な勧誘行
為をした。本件各契約は,社会的・経済的な倫理秩序に照らして到底容認することのできるものではなく,いずれも公序良
俗に反して無効である。
〈被告保険らの主張〉
 原告主張の事実は否認し,効果は争う。
〈被告銀行の主張〉
  原告主張の事実は否認し,効果は争う。原告の主張は被告銀行による勧誘を前提とするところ,被告銀行は原告
に対して本件変額保険の勧誘をしていないし,本件融資契約の勧誘もしていない。
(4) 解除の効力の有無
〈原告の主張〉
ア 説明義務の存在
  商品やサービスの提供をする側と受ける側との知識の極端な不均衡がある場合には,契約当事者間の信義則か
ら専門的知識を有する側に説明義務が生ずる。変額保険についてはこのような説明義務がある。この点は,保険募集の取
締に関する法律(平成7年法律第105号による廃止前のもの。以下「旧募取法」という。)においても,募集適格者を限定
し,その者に専門家としての説明義務を課している。
イ 説明義務違反とその効果
  ところが,被告代理社及び被告銀行の担当者は,前記のとおり,本件変額保険の仕組み,融資と一体となった危
険性等についての説明をしないばかりか,反対に絶対損はしない等と断定的に勧誘をした。これは,契約の重要な前提と
なる要素である説明義務を怠ったものであり,債務不履行に該当し,解除原因となる。
ウ 解除の意思表示
  原告は,本訴訴状をもって,イの債務不履行を理由に本件各契約を解除する旨の意思表示をした。
〈被告保険らの主張〉
原告の主張イの事実は否認する。
〈被告銀行の主張〉
ア 原告の主張アは,被告銀行に関する限り争う。被告銀行は,銀行法及び旧募取法により,変額保険を含む生命
保険の勧誘をすることを禁止されていた。D及びEは,変額保険募集の資格を有していなかったし,知識もなかった。
イ 同イの事実は否認し,法的主張は争う。被告銀行には説明義務違反はない。   
(5) 契約の効力不存在に伴う請求権の有無
〈原告の主張〉
  本件各契約の取消し,錯誤無効,公序良俗違反,解除により,当初から存在しないか,事後に効力が消滅したか
ら,本件変額保険契約のために原告が被告保険に支払った保険料につき,被告保険は不当に利得していることになる。
そこで,原告は,被告保険に対し不当利得に係る保険料と遅延損害金の請求をする。
  また,本件融資契約及び本件根抵当権設定契約の効力は存在しないので,原告は,被告銀行に対して,本件融
資契約に基づく債務の不存在確認請求及び本件根抵当権登記の抹消登記請求をする。
〈被告らの主張〉
争う。
2 不法行為の有無及び損害の内容
〈原告の主張〉
(1) 不法行為
 ア C 
 (ア) Cは,設計書やパンフレットを使用せず,これらに記載されている変額保険の仕組み,特別勘定の資産の運用
実績例表,変額保険にかかわる資産の管理・運用という項目を取り上げて,変額保険の仕組みや運用実績例,自己責任
原則とその危険性などについて,具体的な説明をしなかった。
  これは,旧募取法16条1項1号の重要事項を告知しなかった行為に該当する。仮に口頭でこれらの項目を説明
したとしても不十分であり,同条項に違反する。また,この行為は,保険金額の増減と基本保険金額,特別勘定の資産運
用方針・投資対象,特別勘定資産の評価方法,モデル(0%,4.5%,9%)に基づく試算例,解約返戻金額及び満期保
険金額が保証されていないことの5項目につき,特に顧客の理解を得ておくことを求めた社団法人生命保険協会(以下
「生保協会」という。)の自主規制に反する。
(イ) Cは,死亡保険金が借入元利金を上回ってこれを返済することができ,差額を納税資金に充てることができる
旨を原告に告げた。
  これは,旧募取法16条1項1号の不実のことを告げることに該当する。全くの虚偽のことではなくても,不確実な
ことを告げて加入者をミスリードすることもこれに該当する。
  また,将来的に運用実績が9%以上になることを強調した点は,大蔵省(現財務省。以下,同じ)通達の禁止す
る「将来の運用成績についての断定的判断の提供」にも該当する。
(ウ) 交付したシミュレーションに被告保険の商号もしくは名称又は生命保険募集人の氏名等が記載されていない
が,これは,旧募取法14条に違反する。
(エ) 交付したシミュレーションが生保協会の自主規制で禁止している私製資料である。また,ここには将来の運用
実績の予想が記載されているが,これは,旧募取法15条2項が禁止する「利益の配当又は剰余金の分配」の記載に該当
する。
(オ) 以上からCは,変額保険の募集時に果たすべき説明義務を尽くしていない。もちろん,原告の理解を確認して
いない。
  また,融資一体型変額保険については,払込保険料が銀行借入金による一時払であり,借入金に必然的に金
利が発生すること,死亡保険金又は解約返戻金が借入元利金を上回らなければ相続税の支払資金が準備できず,有効
でないこと,反対に死亡保険金又は解約返戻金が借入元利金を下回る事態に至った場合には,差額分の損失となり,本
来保全しようとした相続財産まで失う結果となることを顧客の属性に応じて顧客が理解できるように具体的に説明すべきで
ある。Cの行為は到底このような説明義務を満たすものではない。
イ D及びE
(ア) 融資の申込みに訪れた原告が「金利の支払もできない状態であるが,本当にそれでいいのですか」と尋ねたと
ころ,D及びEは,「生命保険金で払えばいいので,大丈夫です。」と返答し,運用実績9%のシミュレーション表を交付し,
その記載どおり,死亡保険金で借入元利金が支払える旨の虚偽の事実を告げた。
  上記の行為は,保険募集の資格を有しない者が保険の内容にわたる説明を行い,保険加入手続を促したこと
を意味し,旧募取法9条に違反する。また,これは,銀行員が営業活動として保険募集に当たる行為をしたものであり,銀
行法12条にも違反する。
 また,D及びEの上記行為は,生保協会の変額保険販売資格制度に違反し,大蔵省通達が禁止する,将来の
運用成績について断定的判断を提供することに該当する。
(イ) 銀行員は,融資一体型の変額保険の保険料の融資申込みを受けた場合,金融取引の専門家として一般に高
い信頼を受けている地位に基づく信義則上の助言義務を負う。そして,変額保険の特異性や危険性,融資一体型の変額
保険において死亡保険金が借入元利金を下回る場合の危険性について顧客が理解の上で融資を申し込んでいるのかを
確認し,理解が認められなければ,警告及び再考を促す義務がある。とりわけ,被告銀行k支店は,被告代理者のC,Bと
普段から提携協力関係にあったから,一層上記の義務が当てはまる。
 ところが,D及びEは,(ア)上段のとおりに述べた以外には,原告に対し,本件変額保険の仕組みと危険性,一時
払保険料の融資契約と抱合わせになった場合の危険性,特に死亡保険金が借入元利金を下回った場合には,相続税対
策どころか,損失のみ発生する可能性があること等を全く説明しなかった。これは説明義務あるいは助言義務に反する。
ウ 違法行為の特色
  本件は,取引型不法行為であり,勧誘と契約とを一体的に判断すべきである。また,過失相殺は,認められるべ
きではない。なぜなら,原告に誤信につき軽率な点はないし,平成元年当時の銀行員の説明を疑うことは常識ではなかっ
たし,銀行の回収可能性の判断には信頼をおくのがやむを得ないところであり,原告は証券や先物取引の経験はなく,71
歳の年金生活者であったから,融資一体型の変額保険という複雑高度なリスクのある契約を締結する適格がなかったから
である。
(2) 損害
ア 未解約で請求することのできる理由
  本件各契約は未解約であるが,原告は相続税対策で本件変額保険に加入しており,保険料,それを借り入れた
銀行利息及び登記費用等を損害として請求できる。損益相殺的な項目は被告側において主張立証すべきである。
イ 損害額
   原告は,被告ら担当者の行為により次のとおりの損害を被った。
(ア) 払込保険料            6672万7000円
(イ) 本件パーソナルローン契約に基づく融資利息 
a 平成5年11月30日まで    1762万6576円
b 平成5年12月1日から平成6年11月29日まで 
                    380万2433円
(ウ) 本件パーソナルローン契約に基づく遅延損害金(平成6年11月30日から平成13年8月28日まで) 6332万
1424円
(エ) 本件カードローン契約に基づく融資利息
a 平成5年11月21日まで   351万5206円
b 平成5年11月22日から平成6年11月29日まで
      88万4535円
(オ) 本件カードローン契約に基づく遅延損害金(平成6年11月30日から平成13年8月28日まで) 2035万63
26円
(カ) 登記費用               54万1500円
(キ)印紙及び手数料12万8595円
(ク) 慰謝料              1000万円
 原告は,不必要な本件変額保険契約に加入することにより,相続税が軽減するどころか,借入債務だけが膨れ
あがり,自宅の価値と変額保険金とをもってしても,借入債務を返還することはできない状態となっている。自宅にすらいつ
まで住み続けられるか分からない状況に追い込まれている。このような精神的苦痛を慰謝する金額としては少なくとも100
0万円が相当である。
(ケ) 弁護士費用            1800万円
(コ) 合計2億0490万3595円
〈被告保険らの主張〉
原告の主張(1)の事実は否認する。同(2)の主張は争う。
〈被告銀行の主張〉
 被告銀行には説明義務違反も違法勧誘行為もない。
第5 争点についての当裁判所の判断(証拠により直接認められる事実を認定する場合には,原則として,認定事実を先
に記載し,当該証拠を後に略記する。第21回口頭弁論調書と一体となる証人Cの証人調書10頁は,証人C[21回p10]
のように表す。一度説示した事実は,原則としてその旨を断らない。認定に用いた書証の成立は弁論の全趣旨により認め
られる。)
1 変額保険の内容・性質等
 まず,争点の判断の前提となる変額保険の内容等について検討する。証拠(甲1から3)によれば,次の事実が認めら
れる。
(1) 変額保険の内容・性質
 変額保険は,保険会社が保険契約者から払い込まれる保険料の一部を積立金として,これを特別勘定として独立に
管理し,主に上場株式,公社債等の有価証券に投資し,その運用成果を保険金額に反映させ,保険金額を変動させる仕
組みの生命保険であり,我が国においては,昭和61年10月ころから発売が開始された。変額保険契約を保険期間の途
中で解約する場合に保険会社から支払われる解約返戻金の額も特別勘定資産の運用実績に基づき変動する。ただし,
被保険者が死亡した場合の死亡保険金については,基本保険金額は支払われることとされ,最低保証を伴ったものとなっ
ている。
 したがって,変額保険の契約者は,特別勘定の資産運用により高い収益を期待できるが,一方で株価の低下や為
替の変動などによる投資リスクも負うことになる。変額保険は,保険契約者から経済的に見ると,保険会社に資産の運用を
一任し,投資収益を期待するという商品ということになる。変額保険は,最低保証はあるものの,運用成果が予定利率を下
回った場合でも給付の保証される定額保険とは反対の商品というべきであり,変額保険の契約者には投資家としての自己
責任を求める必要が生じる。
(2) 変額保険募集についての規制
 変額保険の仕組みの上記のような特殊性に鑑み,生保協会は,保険審議会の答申を受けて,保険の募集に当たる
者に資格を要求し,また,募集人は変額保険の募集に当たっては,保険契約者に対して,①保険金額の増減と基本保険
金額の関係,②資産運用方針,投資対象,③特別勘定資産の評価方法,④特別勘定資産の運用実績が0%,4.5%,9
%の場合の保険金額の試算例,⑤解約返戻金額及び満期保険金額に最低保証がないことの5項目について,確認を取
ることとされた(甲2[p31])。
 また,大蔵省は,昭和61年7月10日付け通達(銀行局1933号)をもって,①将来の運用実績についての断定的判
断の提供,②過去の特定期間の運用実績を恣意的に取り上げて,それによって将来を予想する行為,③保険金額及び
解約返戻金額を保証する行為の各禁止を掲げた(甲3)。
(3) 変額保険による相続税対策の意味
 次に,いわゆる相続税対策と変額保険との関係を検討するが,変額保険による相続税対策といわれるものには,大
別して,①保険契約者を被保険者とする場合と,②保険契約者の子を被保険者とする場合との2つがある。本件は前者の
事案であるので,ここでは前者について検討する。
ア 保険契約者である被保険者が死亡して相続が発生すると,遺族に死亡保険金が支払われる。この金員は,相続税
の支払に充てることができるので,生命保険契約を締結することは納税資金の準備となる。この点は,変額保険でも定額
保険でも変わりがない。
  相続税対策の見地から変額保険に特色が見られるのは,保険金額が変動することで,高額の納税資金が準備で
きる可能性が生ずる点である。すなわち,不動産等の資産が値上がりすれば,将来の相続発生の時に相続税が高額とな
り,それを支払うためには,当該不動産等を売却し,譲渡所得税を支払って残った金額をもって相続税を支払うことにもな
りかねない。そのような場合,納税資金を用意すること自体相続税対策となるが,さらに保険金額が高額にも変動する可能
性のある変額保険は,支払時の金額が定額であるために実質的に支払金額の価値が目減りする定額保険よりも,実効的
な相続税対策となる可能性があるといえる。
 ただし,保有不動産の高騰に伴う高額の相続税の支払資金を用意するためには,変額保険も高額のものが必要と
なり,保険料も高額となる。そこで,そのような高額の保険料を用意できない通常の場合は,当該不動産を担保として保険
料を支払うための金員の借入れをすることになる。その結果,相続発生時には,相続税の支払の他に借入金の返済が必
要となる。このときに保険金で相続税の支払ができても,借入金の返済ができなければ,全体としては相続税対策が実現
したということにはならない。この場合には,相続税対策として何もせず,変額保険契約を締結しなかったという場合に比べ
て,借入金の支払に追われる状態が生じ,相続税対策は結果として失敗したことに帰する。そして,借入金の返済のため
に,担保とされている保有資産の処分をせざるを得ないことにもなりかねない。また,相続発生時までの期間が長期化すれ
ば,保険金額の多寡は変動するが,借入金利だけは確実に膨れあがる。
イ そうすると,相続税対策のために,借入金によって変額保険に加入する場合には,不動産の値上がり傾向の継続
度,被保険者の相続発生時期の見通し,相続税額の予想額,変額保険の資産運用見通し,借入元利金の返済時期と返
済金額等を想定して,判断する必要がある。これらは本来は極めて難しい高度の判断を要する事項というべきであるが,
やや単純化すると,少なくとも特別勘定の資産の運用実績が借入金の利率を相当程度上回れば,一応の成果が得られる
ということができる。
 なお,高額の相続税の支払資金の捻出のために,端的に有価証券取引に投資をするという場合と対比してみる。
有価証券の取引は,自己のした投資の成果あるいは失敗が結果として現れるので,自己責任を自覚することになる上,や
り直し(売買)の規模と期間とに制限はない。それに反し,変額保険の場合には,一度契約をすると,相続発生時までという
比較的短期とはいえない不確定の期間,借入金をもって保険会社に保険料にほぼ相当する資産の運用を任せていること
からくる自己責任の希薄さがある。また,基本保険金額による最低保証制度による安心感がある。しかも,一旦加入した変
額保険を見直すには解約しかないところ,そのためには規模の大きな借入れと解約返戻金との差額を現実化させることに
なる。したがって,一度変額保険契約をすると,事態の変化を認識し,解約する等の方針の修正をする現実的な決断の契
機を逸しがちになると思われる。
(4) 変額保険の勧誘に際しての説明義務の有無・程度
(1)から(3)までのような変額保険の仕組み,内容,特色及び行政上の規制,特にリスクがあり,契約者に自己責任が
要求され,昭和61年10月に販売が開始されたばかりの商品であること,従来,我が国においては生命保険としては定額
保険のみが存在していたため一般に生命保険が安全性のある商品であると認識されていたことを考えあわせると,変額保
険を募集する者は,変額保険契約を締結しようという者に対して同保険を勧誘するに際しては,次のような私法上の法的
説明義務が信義則上要求されているものと解される。 すなわち,①特別勘定の運用の結果により保険金額及び解約返
戻金が変動し,終身保険の場合の基本保険金を除いては最低保証されているものはないこと,②また,借入金によって保
険料を支払う場合には,借入金利をある程度上回る特別勘定の運用利回りがないと,借入金債務が膨張して返済が困難
となり,損失が生ずること,③変額保険はこのようなリスクがあり,基本的には自己責任が要求される投資であること,以上の
事項を説明する私法上の法的義務がある。
 ただし,相手方顧客の職業,年齢,財産状態,株式投資経験の有無及び変額保険についての知識の有無等の具
体的な状況次第で必要な説明の程度に違いがあると解される。
(5) 不動産の値上がり傾向についての見通しと現実との乖離
本件変額保険契約は,平成元年11月27日ころ成立した。このころは,いわゆるバブル経済の絶頂期であり,多くの
者が不動産類は長期的に値上がりを続けると予想し,あるいは信じ,インフレ対策に躍起となり,不動産,株式等の値上が
りが期待できる資産を,場合によっては借入金により購入し,あるいはそのような資産への投資を他人に委託し,さらには,
高額化する資産から生ずるであろう相続税対策に腐心する場合も多かったことは一般に知られている事実である。ところ
が,その後しばらくした平成2年初めから株価が下落を続け,以後バブル経済が崩壊の一途をたどったことは,公知の事
実である。本件変額保険も,その後運用利回りが悪化し,平成13年8月28日現在の被告銀行の計算による借入元利金
(一部は遅延損害金)は1億7690万円(甲101の16)であり,この時点で解約したとした場合の解約返戻金は本件変額保
険の保険料(約6670万円)を相当下回る(弁論の全趣旨)。
2 本件における勧誘の状況 
(1) 原告の経歴
  原告は,大正7年9月20日生まれで,昭和11年3月に旧制中学(f中学)卒業後,百貨店に就職し,翌年退職して石
油会社に勤め,昭和20年まで勤務した。その間2度応召し,復員後はgに就職し,昭和22年hに入社し,昭和38年10月
に資本金100万円で会社(i株式会社)を設立し,重油の販売,ケミカルタンカーの運搬業などをし,昭和63年9月に退職
し,以後無職の年金生活者である。上記の会社は,年商2億円位であったが,原告の退職時は従業員が4人で,原告引
退後は清算された。原告の資産は,自宅の別紙物件目録一記載の土地建物があるだけで,預貯金は600万円程度であ
る。(甲101の14,原告本人)
(2) 保険加入の契機
  原告は,j会という小田原のゴルフクラブの会員で,この当時月1回程度の割合でゴルフをしていたところ,昭和58年
ころ同会の役員である外科医のFと知り合った。Fは,平成元年9月ころ,原告に対し,年々土地の価格が上がるから,それ
に対する相続税対策をしておかないと大変なことになる,そのための有利な保険の話がある,弟が被告保険に勤務してい
るから聞いてみると良い旨を述べた。(甲101の7,原告本人)
(3) 最初の説明
  原告は,主な資産が自宅の土地建物だけであったから,相続税対策についてそれまで問題意識がなかったが,Fを
信頼していたので,(2)の勧めに従って一度話を聞いてみることにした。
 そこで,原告は,平成元年10月初めころ,半日程度ゴルフをした前後に,御殿場にあるFの家に行き,昼食をしなが
ら話を聞いた。F及びその弟のB(被告保険ではなく,被告代理社に勤務)は,その際,原告に対し,「相続税対策をしてお
かないと大変なことになる。その対策となる保険があるので,入ると良い。Fも父親も入っている。保険料は銀行が全部融資
してくれる。B一家と被告銀行のk支店とは取引関係が多く,融資の話はBの方でやっても良い。」と勧めた。
 そして,Bは,原告に対し,被告代理社のCを原告宅に行かせるから,話を聞いて,できたら契約してほしい旨を述べ
た。
(甲101の7,原告本人)
(4) 平成元年10月29日における原告宅での説明
ア Cが,平成元年10月29日の日曜日に原告宅を訪問し,原告と妻に変額保険の勧誘を行った。Cが原告宅を訪問
して説明をしたのはこの日だけである。(原告本人)
イ Cは,上記のとおり原告宅を訪問した10月29日に,
①「相続税対策のための不動産担保ローンと一時払終身保険のセットプラン」(甲101の1)という説明文,
②「銀行借入金利用一時払終身保険による相続税納税資金繰りシミュレーション(A-1)」(甲101の2)という表,
③「納税通信」という記事のコピー(甲101の3),
④「海江田万里のへそクリニック」という題名の記事のコピー(甲101の4)
の4資料を持参した(原告本人)。これらのうち,①及び②は,Cが個人で作成した資料であり,③④は記事のコピー
である。
ウ ①の資料
  ①の資料には,最初の「ご提案の趣旨」の欄に,相続税を支払うための金員を用意することが必要であるが,高額
の保険料を継続的に負担することは困難であるから,被相続人の保有する土地を担保に長期銀行ローンと一時払終身保
険を組み合わせることにより,上記の3つを達成することのできる画期的なプランを紹介する旨が記載されている。しかし,
それ以下の内容は,図式や事項だけを列挙したものであり,内容の難しさもあって,初めての人にとっては,理解すること
はかなり困難で,Cから詳しく説明してもらわないと分からないというべきである。
 そうであるところ,Cは,まず①を用いて,一時払終身保険について簡単に説明するとして,その中の「納税資金準
備プラン」の箇所にカラーペンで○をつけながら,納税資金は保険金の中で準備できること,「評価額引き下げプラン」の
箇所にも同様に○をつけながら,土地評価額が引き下げとなること,さらに「当プランのメリット」欄の「自己資金負担無し」
の箇所にも同様に○をつけながら,保険料については自己資金は不要である旨を述べた。それ以外は,特に説明を加え
なかった。(原告本人)
 この①の資料の図式中の「変額一時払終身保険(または,一時払養老保険)」という記載が2か所小さくあるもの
の,そもそもこの資料が変額保険についてのものかどうかは資料自体からははっきりしない。借入金の返済については,元
金据え置き,保険金支払時一括返済という記載があるが,Cはここには○をつけず,詳しい説明はしなかった。(原告本
人)
エ ②の資料
 (ア) 次に②の資料は,「銀行借入金利用一時払終身保険による相続税納税資金繰りシミュレーション(A-1)」とい
う表題の1枚の表で,マス目の中に黒字で数字がびっしり記載されたもので,相続税額と資金収支につき,保険によるいわ
ゆる相続税対策を実施する前と実施後とを対比している。いわゆる設計書(丙33等)がカラーで,数字だけでなく,グラフも
記載されていることと対比すると,この表は1人ではまず理解することが難しいとみるべきである。
 (イ) ②の表の「相続税額の比較」欄には,細項目として「実施前」の欄があり,その欄の中に,土地,金融資産,課税
価格,基礎控除,課税遺産額,相続税の欄があり,それらにつき1年後から10年後まで及び15年後の金額が記載されて
いる。また,「相続税額の比較」欄の「実施後」の相続税の欄には,現在の課税価格,課税対象保険金,借入金残高,合計
課税価格,基礎控除,課税遺産額,相続税の欄があり,時期については「実施前」と同様の欄が用意され,金額が記載さ
れている。
 「資金収支の比較」欄には,実施前につき,金融資産,相続税,資金収支の欄があり,上記と同一の時期の欄が
用意され,そこに金額が記載されている。また,実施後につき,金融資産,生命保険金,借入金残高,相続税,資金収支
の欄があり,同一の時期について,金額が記載されている。
 そして,それらを総合したプラス効果の欄があり,上記と同一時期につき,金額が記載されている。この金額は,
対策実施後の資金収支を求め,これに対策実施前の相続税額を加算して求めた金額である。
 内容的に見ると,実施後の資金収支及びプラス効果は,下記のとおりとなっている。
  資金収支=金融資産+生命保険金-借入金残高-相続税
プラス効果=資金収支+実施前相続税
(ウ) ②の表は,相続財産として土地1億円,その値上がりが年率7%アップ,金融資産0円,法定相続人妻と子2名,
保険金1億5000万円,保険料として借入金1億0009万円,その借入金利6.3%,「〈生命保険〉特別勘定の運用利率9
%と想定」,とするものである。「運用利率9%」の箇所には鉛筆で下線をつけたあとが残っている。
そのため,プラス効果の欄は,1年後から15年後まで全部プラスとなっている。
(エ) Cは,土地が値上がりするので相続税が増える,金利よりも保険会社による運用利回りの方が高いので,プラス
効果が出ると説明した。特に運用利回りの9%を強調し,相続税,生命保険金,資金収支,プラス効果の欄にカラーのマ
ークをつける等しながら説明し,反対に,運用利回りが4.5%や0%の場合のシミュレーションの表は用意されていなかっ
た。また,この表には変額保険という言葉の記載はなく,Cも変額保険という言葉は用いなかった。また,Cは,勧誘してい
る保険が自己責任を基本とするリスクのあるものであること,保険金で借入元利金を全額返済できないおそれもあるといっ
た事柄は説明しなかった。
 上記のようなことから,原告は,②の表が変額保険の説明のための表とは思わなかった。また,原告は,表に記載
の数字は確定のものではなく,多少は違いはあるとは思いながらも,概ね表に記載のようなものとなり,相続税対策になると
思った。
(原告本人。後記カの証拠判断)
オ 資料の③④については,Cは特に説明をしたわけではなく,読んでおいてくださいと述べただけであった。(原告本
人)
カ 10月29日におけるリスクの説明の有無
(ア) Cが原告宅を訪問した10月29日に,原告は,勧誘されている金融商品が変額保険であること,保険料の運用
の結果その実績がマイナスとなり得ること,変額保険は自己責任を基本としリスクを伴うものであること及び保険金で借入元
利金を全額返済できないおそれもあるという事柄は,知らされなかった旨を供述する。
(イ) 他方で,証人Cは,説明する保険の名称が変額保険である旨,変額保険の保険料が特別勘定で運用され,主
に株式や債券に投資される旨,シミュレーション表にある9%は想定であるが,過去の被告保険の運用実績から見て,長
期的には9%運用は確保できる旨,借入元利金の合計額が保険金を上回ることもある旨,その運用実績に応じて保険金
や解約返戻金が変動するハイリスクハイリターンの商品である旨,ただし,運用がうまくいかない場合でも基本保険金は保
証される旨,変額保険を使った相続税対策には保険料を銀行から借り入れてもらう旨,その借入金の利息支払資金も銀
行借入金による旨,借入れには不動産を担保にする旨,運用実績が悪く,0%の場合には,長期的には効果がない旨を
説明したと供述する。
(ウ) 上記の点についての両者の供述は,このように正反対となる。
  その採否については,まず,資料②(甲101の2)のシミュレーション表が9%の運用利回りの場合だけしか記載し
ていないし,他に持参資料の中に利回りを具体的な数値で示す資料はないこと,したがって,Cは,行政上の要請である
4.5%や0%の場合のシミュレーション表を用意していないこと,以上の点に注意する必要がある。しかも,4.5%や0%の
場合のシミュレーション表を作成すれば,また,9%の場合も20年後の試算をも記載すれば,試算上の運用結果がマイナ
スとなる場合が生じたはずである(証人C[22回p33以下])。また,Cは設計書を作成したと思うとは供述するものの,少な
くともそれを原告に交付したかどうかについては確かな記憶がなく,他方原告は受け取っていない旨を供述する(原告本
人[20回p11])ので,設計書は交付まではされていないと認定するのが相当である。そして,交付された資料①②には変
額保険であることが表題に記載されておらず,変額保険にリスクのあることをうかがわせるような明示的直截な記載もなく,
投資家に好ましい印象を与える情報ばかりが多く記載されている。
  セールスの便宜の観点を多少考慮しても,上記のように使用した資料に公平さや客観性の乏しさがあることは否
めないので,Cの勧誘時の説明も,原告の言い分に近いものであって,リスクの説明の明確性を欠いたものと推認するのが
相当である。逆にいえば,原告は,変額保険のリスクの有無を観念的には感じた可能性がないではないが,明確に意識的
に認識したわけではなかったというのが相当である。また,そもそも原告は,勧誘された保険が変額保険という名称であるこ
とを正確に認識しなかった(以下では,原告の主観に関する記述の際には,特殊の保険という趣旨で,「本件変額保険(特
殊の保険)」という表記をすることがある。)。
(5) 被告らと原告とのその後の交渉の経過
ア 平成元年10月29日後の原告の方針
  原告は,平成元年10月29日に説明を受けたときに,契約をする方向を固めた。
  その主な理由は,Cの説明で概ねそのとおりになるであろうと思ったことであるが,そのように思ったことのさらに理
由となると,被告保険の名前から同被告を信用したということがあったし,変額保険のことについて知らされ,勧めてくれた
医師のFを原告が高く評価し信用していることが背景にあった。なお,その後ころ原告の妻は金額が大きいこと等から不安
がって,原告に大丈夫かと相談した。これに対し,原告は,被告らのような会社と契約するから大丈夫と述べて,妻を安心
させて,手続を進めた。(原告本人[20回p25以下,22回p7以下])
イ 平成元年11月7日の訪問
  Cは,平成元年10月31日に原告に電話をして,同年11月7日の訪問予定を告げた。Cは,予告どおり,同月7日
に原告宅を訪問した。この時は,被告保険の嘱託医を同行した。そして,この日には,Cから新たに保険の説明はなく,原
告の妻が9%間違いないですかと尋ねたら,間違いない旨を答えた(原告本人[20回p30])。そして,原告は,ほぼ契約
することを決めていたため,簡単な身体検査を受けて,契約申込書(丙1の1)に署名した。この署名時の保険金額は1億5
000万円であった。このときに,Cから,原告に対し,パンフレット,契約のしおり,約款といった書類の交付はなかった。(原
告本人)
ウ 融資関係の経緯
(ア)a 借入金の融資関係は,まず,Fが,平成元年10月に,被告銀行k支店の担当者に話をもちかけ,原告が変額
保険契約を締結するようになった場合にはその変額保険の保険料のための融資をするように依頼した(原告本人)。 
 Fが,被告銀行同支店に話を持ちかけたのは,同人の父が同支店のあるkで医院を開設しており,かつ,向かい
にある同支店に駐車場を貸すなどの関係があるためであった(証人D,原告本人)。
b なお,Fが被告銀行k支店にいつころ相談に赴いたかについては,原告は,平成元年10月10日より早い時期
であるかのように供述し(原告本人[23回p17,21]),他方で関係証拠からすると,同月下旬頃であるということも考えられ
る。いずれにしろ,明確でないので,aのとおりと認定する。
(イ)a 同支店からは,原告に対し,電話により,担保とすべき不動産の登記簿謄本を用意するようにとの連絡があっ
た。そのため,原告は,原告の自宅の土地建物についての登記簿謄本を用意してこれを同支店に持参した。これを踏ま
え,同支店では,貸出可能額が1億円程度である旨を原告に連絡した。(原告本人)
  貸出額が1億円ということは,保険料のための借入金とその金利分の貸越分が別途必要となるので,両者の合
計融資額が1億円程度ということであり,保険料分だけだとそのうちの3000万円程度を除いた額となる(証人D)。
b 原告が登記簿謄本を被告銀行k支店に持参した日につき,原告は平成元年10月10日ころであると供述する
(原告本人[23回p21])が,(ア)bと同様に,時期は同年10月ころと認定する。
(ウ) ところが,Cは,保険金1億5000万円,保険料1億0009万円とするシミュレーション表を作成し,原告に話を持
ち込み,前記のとおり,原告は,同年11月7日にその旨の保険契約書の申込書に署名をした。そのため,被告銀行k支店
のDは,このスキームに沿った融資は困難であるとして,同月17日に部下のEをして原告に電話をして,保険料を1億円と
する融資は難しい旨を伝えた。
  そこで,原告とCが相談して,Cが,同月21日,保険金1億円,保険料を約6700万円とするシミュレーション表を
別途作成して,そのシミュレーション表(甲101の5)を被告銀行k支店のE宛にファックス送信した。被告銀行k支店ではこ
のうちの借入金残高の数値を一部手書きで修正したもの(甲101の6)を作成し,これらを原告に交付した。
((ウ)全般につき,証人D,原告本人)
(エ) ついで,被告銀行と原告とは,平成元年11月24日,同月28日,12月5日に,それぞれ本件融資契約及び本
件根抵当権設定契約の3契約(本件各契約)を締結した。(第3の2,同3)
エ 被告銀行担当者の本件変額保険契約への関わりの有無
  被告銀行の担当者であるDやEは,前記ウの機会に原告と交渉を持ったが,Cと同席して,変額保険について勧誘
するとか,その性質について説明するというようなことはなかった(前掲事実及び証人D,原告本人)。
 なお,原告は,被告銀行k支店の担当者に,自分は不動産しかないので,利息を払え,元金を払えと言われても払
えませんよと述べたところ,それに対し,これは,保険金が入ったときに精算することになっているから,それはいりませんよ
と言われた事実がある(原告本人[20回p34])。原告が,現金がないので,利息や元金は払えないが,と尋ねているのに
対し,被告銀行担当者の対応は,保険金で精算することになっているので,保険金の他には要りませんというように理解さ
れかねない説明である。そして,原告は,この発言をもって,安心した可能性もある。しかし,この問答は,保険金が支払わ
れるときに保険金で借入金を返済し,残額が必ずあるから,安心しなさいと明示的に述べたというようにものではなく,その
前後の問答と状況からすると,被告銀行k支店の担当者は,支払期限の問題として捉え,かつ,原則的な場合について,
答えたものと認めるのが相当である。もともと,融資をする被告銀行の立場からすると,原告に現金がなくても,保険金と担
保とした不動産とがあるので,融資金の回収は容易であるから,原告が懸念して融資を受けることを止めるようなことは言わ
ずに,原則的なことを答えたと思われる。融資を受ける原告の側からすると,やや,不親切な対応ともいえる。 
(6) (1)から(5)の認定事実と異なる証拠についての判断
ア (3)に関し,この時にBの同僚のCが同席していたかどうかについて,Cは,同席していない旨を供述し,原告は同席
していた旨を供述する。このように供述が分かれるが,Cが同席していたという原告も,Cが説明したとまで供述するわけで
はなく,その点の判断がいずれでも他の事実や結論には影響しないので,認定はしなかった。 
イ (4)アに関し,証人Cは,原告宅を訪問した回数が2回で,10月29日は2回目のときである旨,同イに関し,②の資
料は2回目の訪問時に持参した旨を供述するが,他方で,訪問時期,回数の記憶の確かさの程度が弱いことを自認もして
いる。それに対し,原告夫婦にとっては1度しか経験していない事柄であり,その点に関する原告の供述は一貫しているの
で,原告供述に従い,Cは10月29日に説明のために1度だけ原告宅を訪問した(それ以外に11月7日の訪問があるが,
これは身体検査のためのもの)と認めるのが相当である。
ウ (5)イに関し,Cは,契約のしおり,約款等を渡した旨を供述するが,前記のとおり設計書,シミュレーション表等の交
付が不十分であり,反対の趣旨の原告の供述がある以上,ここでの書類の交付も不十分であったというのが相当である。
エ (5)ウに関し,証人Dは,「平成元年の10月下旬に原告とCが被告k支店の上司の紹介ということでDのところを訪ね
てきた。そして,原告が変額保険の保険料として自宅を担保に1億円の融資をお願いしたいと述べた。変額保険という言
葉も使用した。」旨を供述する(21回p3,22回p22)。
  この供述中,時期の点は正しいと思われるが,それ以外の点で,一部不正確な点があると思われる。まず,Dの証
言は,不確かさを含んでおり,D自身,訪問してきたのは,Bであるかもしれないとの供述もしている(証人D[21回p21以
下])。また,原告は,前記のとおり,変額保険という名称を認識していなかったから,Dの供述中,変額保険という言葉を使
用して,融資の申込みをしてきた旨の部分は採用しがたい。
 なお,被告銀行は,Dから事務処理の指示を受けたEが,原告と電話で折衝すると共に,今後とも土地の値上がり
が続くか分からないが,本当によろしいのですねと原告の意思を確認したと主張するが,その旨の証拠はない。
3 詐欺の有無(争点(1))
 そこで,2の事実の経緯を踏まえて争点について検討する。
 (1) 欺罔の有無
ア 原告の主張
  原告は,Cらは,原告に対し「土地が値上がりしていくので,このままでは相続税が払えなくなるが,変額保険を契
約しておけば,保険金で借金や相続税を支払うことができ,資金も残る。生命保険における資産の運用利回りは,9%は
間違いがない。」旨の欺罔行為をした旨を主張する。
 本来,土地の値上がりの有無・程度,相続税の支払の可否,保険金による借金と相続税の支払の可否,運用利回
率は,客観的にはいずれも可能性の問題であるところ,原告は,Cがこれを断定的に述べたとして,欺罔行為である旨を主
張するものである。
イ 判断基準
  ところで,一般に可能性の事実が誇張されて断定的に述べられても,対象となる可能性の事実の性質とこれを聞く
相手方の理解力次第で,言葉どおりに断定的には理解されず,可能性が誇張されたことが自ずと判明するという場合もあ
る。
 土地の値上がりの有無・程度,相続税の支払の可否は,可能性の問題であり,これにつき断定的な言い方がされ
ても,それは,誇張と理解されるものである。
 これに対し,変額保険の性質,保険料支払のための借入金と相続税とを,変額保険の保険金により支払うことがで
きるか,及び保険料の運用利回率がどのくらいかといった事柄は,前記1(4)のとおり,変額保険の勧誘をする担当者には
説明をすべき信義則上の義務がある。変額保険の特色を説明されずに,アのとおりに断定的にいわれた場合には,顧客
がそのとおりに信じたとしても,その信じたことが無理もないとされる場合も多いと考えられる。
 また,顧客が変額保険への加入の意向を決めている場合においても,内容を正確に知らない限り,また説明が不
要であると強く拒絶されない限り,勧誘者は顧客に変額保険の特色,殊にリスクのある点を分かりやすく説明する必要性が
ある。
ウ 本件における事実関係
(ア) 前記のとおり,Cの説明は,商品の内容やそれに関する事項を正しく過不足なく説明するものとはいえなかっ
た。特に,変額保険であるのか,変額保険の特色がどの点にあるのか,保険金で相続税及び借入元利金を確実に返済す
ることができるのかについて,明確に説明するものではなかった。また,Cは,原告に対して被告保険が発行したカラーの
図入りの分かりやすいパンフレットや設計書を持参して交付することはしなかった。
  しかし,Cは,数字が記載されたシミュレーション表を持参し,それに基づいて説明をしたので,原告に対し税額
が上昇することや,保険金がいくら支払われる見込みで,相続税対策となるかどうかを,金額で具体的に示したとはいえ
る。そのシミュレーション表の下部には,借入金という記載があり,その利率が6.3%とされ,その横の欄に「生命保険金
(特別勘定の運用利率9%と想定)」,「土地(年率7%アップ)」と記載され,鉛筆で下線を引いたりしているから,原告は,
これらが予測値であって,確定値ではないことは理解したものと思われる。
(イ) 原告は,昭和11年に商業高校を卒業後,石油会社等に勤務し,昭和38年には資本金100万円の会社を設立
して,昭和63年までその会社を経営してきた。本件における本件変額保険(特殊の保険)契約時は,原告が退職後1年目
の71歳の時であり,特に心身に健康上の問題を抱えていたということもなく,ゴルフを楽しむ余裕もあった(前記2(2))。この
ような経歴を有する原告は,社会的な常識と判断力を有する者ということができる。したがって,金融商品の勧誘の場合に
も社会通念上の許容限度内でいわゆるセールストークがあり得ることを認識し得たというべきである。
(ウ) 原告は,一緒にゴルフをしている知人で医者のFが相続税対策としての変額保険を勧め,自分も既に契約して
いる旨を述べていたところ,日頃から同人を信用し,高く評価していたので,変額保険の詳しい内容をわからなくても変額
保険契約(原告にとっては,特殊な保険という認識のもの)を締結する意向があった。
(エ) (イ)からすれば,原告は,一定の社会的常識を有しており,(ア)のような運用利回りの不確実性を,Cの説明が不
十分であるものの,容易に理解したと解される。
 すなわち,契約者には年1回の割合で,運用利回りの状況を示した報告書が被告保険から送付されることとされ
ており(丙47),原告にも当然ながら送付されたとうかがわれ,これにより原告は,運用実績を知ったものと推認されるが,
原告がこれを受領して,当初の説明と異なるといった質問や抗議を被告保険らの担当者にした旨を認めるに足りる証拠は
ない。また,原告は,本件変額保険(特殊の保険)契約時から下ること4年余りした平成6年1月6日に被告銀行k支店から
金利分の融資枠をほぼ全部消化し一杯となった旨の通知を受けたことがあるが,それに対して,当初の約束と違うといった
疑問や不服を述べてはいない(原告本人[23回p2以下],C[22回p71以下])。このような点から見ても,原告は,運用利
回りが9%を超えることが絶対に間違いがないと誤解したとまでは認められない。すなわち,9%を例外なしに超えること,あ
るいは9%を下回ることが絶対にないと誤解して本件変額保険(特殊の保険)を契約したとまでは,認められない。したがっ
て,原告は,まず9%を超えるであろう,あるいは9%を下回ることがまずないであろうという程度の見通しをもって,契約をし
たと認められる。その意味では,原告は,運用利回りについて,結果として見通しを誤ったとはいえるが,誤解があったとま
ではいえない。可能性の見通しを有していたということは,見通しと違った結果が生じても,そのこと自体も可能性の見通し
の問題のうちに含まれるからである。
 なお,Cは,平成元年11月7日の原告宅訪問時に,原告の妻から9%間違いないですかと尋ねられ,間違いない
旨を答えた事実が認められるが(前記2(5)イ),これは,いわゆるセールストークであり,まず間違いがないでしょうという程
度を意味することは,原告には分かったと解される。
(オ) しかも,本件変額保険契約時は,未だいわゆるバブル経済が華やかなころで,株価が右上がりの基調を続けて
いたころであり,地価の値上がりこそ気になるものの,株価や地価の下落からバブル経済が崩壊するような状態に入り込む
ことは多くの者が現実の事態としては予想していなかった。そのころの被告保険の直近1年内の運用利回り(特別勘定資
産の伸び率)は,昭和61年12月契約分から平成元年12月契約分までの平均で9.0%であった(甲104の19・20)。した
がって,Cがその時点以降も同様に推移すると考えることはあり得ることで,その意味で,変額保険にリスクが伴うこと,保険
金で借入元利金及び相続税を支払えない可能性もあること,保険料の運用利回りが低下する可能性があるということ等の
悲観的予測をあくまで抽象的にはしても,具体的に切迫したものとしては予測しなかったものとうかがわれる。したがって,
Cから説明を受けた原告は,大丈夫であると思ったわけであるが,性質上は絶対に安全なものというわけではないことを知
っていたというべきである。
エ 本件における欺罔の有無
 以上をまとめると,次のようにいうことができる。
(ア) まず,Cは,原告に対し,変額保険の仕組みについて,運用利回りがおよそ借入元利金を下回ることがあり得な
いというような虚偽の事実を勧誘に際して用いたというわけではない。したがって,Cに作為的な故意に基づく欺罔行為は
認められない。
(イ) 次に,不作為的態様の欺罔行為の有無を検討する。
  Cは,原告に対し,本件変額保険の特性,運用利回りの具体的内容,メカニズムをきちんとは説明しなかった。た
だし,Cが想定9%と記載されたシミュレーション表を示して説明をしているので,その数値が確定数値ではないことは相応
の判断力を有していた原告には理解できた。また,原告は,ある程度契約する意向を有しており,疑問点をくま無く解消す
るためにCに質問をしようとする気配がなかった。しかも,当時は,土地及び株価の上昇基調は継続中であったので,加入
する意向を有することにはもっともな面がある。
  したがって,変額保険にリスクがあること及び運用利回りが借入元利金を下回る可能性があることを,Cが原告に
具体的,詳細に説明しなかったものの,原告が理解力のある者でCのこのような不十分な説明によって,その本質的な性
質を全く誤解し,結果的に騙されることになったというわけではない。そうすると,上記のCの説明をもって,Cの原告に対す
る不作的な態様の欺罔行為があったとまでいうことはできない。
(ウ) なお,Cの説明が十分でなかった点については,別途不法行為の成否の論点で問題となる。
(2) 被告らの詐欺による責任の有無
ア 被告保険ら関係
  以上のとおりであり,Cに欺罔行為は認められないから,被告保険らに詐欺の責任は生じない。
イ 被告銀行関係
  また,被告銀行の担当者のD及びEは,前記認定のとおり,原告に対して,融資について,質問に答えることを含
め,必要な説明を行ったことがあるだけである。しかも,被告銀行の担当者のD及びEは,前記認定のとおり,原告に対し
て変額保険の説明及び勧誘を行っておらず,被告銀行の担当者がCと共同してあるいはCに指示して勧誘を行ったという
ものではない。
  なお,融資申込みがあると,その使途及び返済の確実性を確認するのが金融機関の通常の事務であろうから,被
告銀行は,原告の申込金額が多額なことからも,融資金が変額保険の保険料に使用されることを承知し,本件融資をした
ものである(手続が素早く行われていること,担保設定のための電話連絡等の機会に原告と話をしたことがあった事実等か
ら,推認することができる。)。しかし,そのことで,被告銀行に詐欺の責任が生ずるものではない。
4 錯誤の有無
(1) 原告の主張
  原告は,「本件融資を受けてする本件変額保険が,実際には相続税対策とはならず,借入金の返済ができなくなる
など,危険性の高い商品であるにもかかわらず,原告は,そうでないと誤信して本件融資契約及び本件変額保険(特殊の
保険)契約をした。したがって,本件各契約は錯誤により無効である。」旨を主張する。
(2) 誤信の有無
ア 上記の誤信の主張は,運用利回りの誤信の有無に基礎をおく議論であるので,まず,その点を検討する。
  前記のとおり,原告は,運用利回りについて,9%を常に例外なく上回るわけではないことを,可能性としては認識
したというべきである。その結果,変額保険が全く危険性のない商品であると誤信したものではなく,保険会社による資産
運用次第では不都合が生ずることを,明確にではないにしても,可能性のレベルでは認識したということができる。運用利
回りの実績につき予想が外れたのは事実であるが,運用利回りは見込み,見通し,可能性の問題であり,原告も上記のと
おり見通しがはずれることの認識の可能性はあったわけであるから,予想どおりに行かなくても,そのこと自体が予想の一
部であるから,錯誤にはならない。
イ 次に,原告の主張は,変額保険が相続税対策にならないのに,そうなると誤信したというものであるが,変額保険は
相続税対策になることもあり,絶対に相続税対策とならないとまではいえない。原告の上記の主張は前提事実が正確でな
い。加えて,前記3(1)ウの認定のとおり,原告は,変額保険につき,メカニズムは詳細には分からないものの,まずは相続
税対策として有効であろうと蓋然性のレベルで考えたのであり,常に相続税対策となるというように,絶対のレベルで安心
なものであると誤信したとまでは認められない。
  また,原告は,変額保険は,借入金の返済ができなくなるなど,危険性の高い商品であるところ,そうでないもので
あると誤信した旨を主張する。しかし,変額保険はリスクはあるものの,変額保険金をもって,その保険料のための借入金
の返済が常にできないものとまではいえないから,原告主張の前提が一面的であって,正確ではない。加えて,前記の認
定のとおり,原告は,保険料のための借入金につき,蓋然性のレベルではまずまずこれを保険金で返済できると判断した
ものというべきで,例外なく,返済できると誤信したとまではいえない。
ウ 原告は,錯誤の有無は契約における重要事項についての誤信の有無に左右されると主張するところ,このような解
釈論を採用した場合であっても,また,契約締結に際し原告の動機が少なくとも黙示的には表示されているとしても,いず
れにしろ,ア及びイのとおり,原告には,見通しや程度についての誤信はあったものの,変額保険が絶対に安全なもので
あるというような誤信までは認められない。その意味で,原告には,本件変額保険契約における契約の効力の有無につな
がる重要事項の誤信は認められないので,錯誤の主張は理由がない。
5 公序良俗違反の有無
(1) 原告の主張
  原告は,「被告代理社及び被告銀行の担当者は,悪質な勧誘行為をした。本件各契約は,社会的・経済的な倫理
秩序に照らして到底容認することのできるものではなく,公序良俗に反して無効である。」旨を主張する。
(2) 判断
  しかし,もともと,変額保険自体は有効な金融商品であり,その契約を締結すること及び契約締結を勧誘することは,
不当な法律行為ではない。そして,Cは,原告に対する説明に十分でない点があったものの,原告を欺罔しようとする意思
を有していたものではなく,原告もリスクが全くないというように大きく誤解したわけではない。これらからすれば,本件各契
約が公序良俗に反して無効というものではない。
6 解除の効力の有無
(1) 原告は,被告代理社及び被告銀行の担当者が説明義務を怠ったもので,債務不履行に該当し,解除原因となる
ので契約を解除した旨を主張する。しかも,原告は説明義務を契約の要素たる債務又は契約の付随的債務であるとし,後
者の場合には付随的債務が解除原因となるべき特段の事情もある旨を主張する。
(2) しかし,原告が説明義務と呼ぶものは,前記のとおり,被告保険又は被告代理社に存在すると認めるべきではある
が,本件各契約成立に向けてのものであり,契約成立前の事柄である。契約成立前の説明義務の違反を契約成立後の債
務不履行と捉えることは困難である。したがって,上記の説明義務は,契約成立後の債務の履行の有無の問題に影響を
及ぼすことはなく,成立した契約の解除原因とはならないというべきである。
 また,仮に,信義則上,勧誘時の説明義務の違反の問題が契約解除の原因となり得るという解釈を採用すべきであ
ると想定しても,同じく信義則上から,説明義務違反があることを認識後相当期間内に解除の意思表示をしたことが要求さ
れるというべきである。ところが,本件において原告が解除の意思表示をしたのは契約締結時から5年余を経過後の本訴
状(平成6年10月19日送達)をもってであり,原告は,その間契約をした者として地位を享受していたのであり,かつ,前記
のとおり,本件変額保険の特別勘定の運用実績内容を被告保険から年1回の割合で送付される通知により知り,運用実績
が悪化したことにより,変額保険のリスクの一端をその間に知ったと認められるから,それにもかかわらず,解除の意思表示
又はそれに類する行為に及んでいない以上,本訴状をもってする解除権の行使は認められない。
7 不法行為の成否
(1) 金融商品としての変額保険の特性・複雑さ
  前記のとおり,変額保険は,保険会社が保険契約者から払い込まれる保険料の一部を特別勘定として運用し,運用
成果により保険金額を変動させる仕組みの生命保険であり,変額保険の契約者は,運用により高い収益を期待できるが,
投資リスクも負うことになる。また,そのいわゆる相続税対策は,不動産等の資産が値上がりにより将来の相続発生の時に
相続税が高額となり,それを支払うためには,当該不動産等を売却することになりかねないのを防止しようとするもので,高
額の相続税の支払資金を用意するために,高額の変額保険契約を締結し,事実上は借入金により高額の保険料を用意
し,相続発生時には,変額保険金で相続税の支払の他に借入金の返済をしようとするものである。
 したがって,変額保険には,性質上,支払保険金額が低額に変動し,最悪の場合には基本保険金額しか受領でき
ないことになるというリスクがあり,また相続税対策の観点から利用する場合には,変額保険金で相続税と借入元利金とを
確実に返済できなくなるかもしれないというリスクがあり,これらのリスクが現実化するかどうかは,単純化すると,保険料の
運用利回りが借入金利をある程度上回るかどうかに依存している。
(2) 説明義務の有無と不法行為の成否
 変額保険を勧誘する場合に,保険会社の担当員に説明義務があることは,前記1(4)のとおりである。この点を本件
に則して,より具体的に確認すると,次のとおりである。
 変額保険が,これまでの定額保険とは性質が異なり,(1)のように保険料の運用次第で支払われる保険金額が増減
するという特別な性質を有し,昭和61年に販売が開始されたばかりであり,顧客は販売当初(本件は平成元年10月の事
案である。)は簡単にはその内容を理解することが難しかったというべきであること等に照らすと,保険会社又はその代理社
の担当員が変額保険を顧客に勧誘する場合には,変額保険の性質を十分に説明する信義則上の義務があったというべ
きである。もちろん,顧客が変額保険について全く知らないか,少しは知っているか,顧客の職業,年齢,社会経済上の事
柄に対する知識,経験等によって,理解力が異なるのは当然であるから,その理解力の程度によって,説明すべき義務の
程度は異なることは当然であるが,その程度に応じたふさわしい説明をすべき信義則上の義務がある。
 そして,その説明義務に反した場合には,不法行為責任が生ずるというべきである。
(3) 本件における説明義務違反の有無
ア Cについて
  原告は,被告らの担当員に上記の説明義務違反がある旨を主張する。そこで,上記の点を本件についてみる。ま
ず,Cについて検討する。
  Cは,まず,平成元年10月29日に原告宅を訪問して原告に説明しただけであり,説明内容は簡単なもので,多く
の時間をかけてされたものではなかった。持参した資料は,私製資料であり,被告保険の発行しているパンフレット,また
原告個人に関するデータを基礎とした設計書は,持参していない。私製資料は,保険料の特別勘定の運用利回りを9%と
したものだけが記載され,4.5%や0%のものは記載されていない。この点は,前記1(2)のとおりの資産運用実績例の説明
に関する業界の自主的な規制及び大蔵省通達に反することである。また,試算表上では契約後の期間は15年後までは
記載されていたが,20年後の想定については記載されていなかった。しかも,原告は,変額保険について十分な知識が
ないのに,当時地価及び株価が上昇基調にあり,知人から勧められていたこともあって,予め相当程度契約締結意向を有
していたところ,Cは,原告がそのような状態にあることを知り,あるいは容易に知り得たのに,また,原告から詳しい説明は
不要であるとして説明を拒否されたというわけでもないのに,Cとしては短い説明と偏った資料とにより,容易に原告に契約
締結方針を固めさせ,変額保険のリスク部分を含めた本質的部分の説明をしなかった。その結果,Cは,結果的に変額保
険契約の長所面を強調する結果となり,変額保険の特性,何の額が変わるのか,そのメカニズム,相続税対策として利用
する場合の変額保険の機能,特にリスクがあること等について,過不足なく説明したわけではなかった。ちなみに原告は,
変額保険という言葉を認識もしておらず,特別の保険といった言葉でしか認識しなかった。
  このようなことからすると,Cの原告に対する勧誘に際しての説明は,生保協会の規制,大蔵省の通達,旧募取法
(16条1項等)の規定に反し,信義則上必要な説明義務に反したものといわざるを得ない。
イ D及びEについて
(ア)a 原告は,D及びEが,融資の申込みに訪れた原告に対し,「生命保険金で払えばいいので,大丈夫です。」と
返答し,運用実績9%のシミュレーション表を交付し,その記載どおり,死亡保険金で借入元利金が支払える旨の虚偽の
事実を告げたとして,これをもって,旧募取法9条及び銀行法12条に反する不法行為である旨を主張する。
b 一般に,金融機関は,特段の事情がない限り,変額保険の支払保険料のための金員の融資に当たり,変額保
険の特性等を説明する義務がないことはいうまでもない。説明すると,かえって禁止されている保険業務をしたことと誤解さ
れかねないからである。したがって,特段の事情があるかどうかが問題となる。
  そこで,原告のaの主張について,まず事実関係を検討するに,前記のとおり,原告が,現金がないので,利息
や元金は払えないが,と尋ねたのに対し,被告銀行担当者が,保険金で精算することになっているので,それは要りませ
んと答えたものである。また,シミュレーション表の経緯は,まずCが当初原告に交付したシミュレーション表が保険金を1億
5000万円とするものであったところ,それでは担保が不足するので,保険金を1億円とするものに変更する必要が生じ,そ
の旨を被告銀行のDらから指摘されたCが内容を変更したシミュレーション表をDらに送付したという事実があり,その変更
後の表をDらが原告に交付したものであり,Dらが自身で作成したものや,頼まれもしない表をDらの判断で原告に交付し
たというものではなかった。(甲101の5・6,原告本人[20回p33以下],前記2(5)ウ,同エ)
c 以上の事実に基づいて検討するに,原告は,被告銀行担当者の上記の対応は,保険金以外には返済資金は
要らないというように理解されるもので,この発言をもって,安心した旨を主張する。
  しかし,この問答は,保険金が支払われるときに保険金で借入金を返済し,残額が必ずあるから,安心しなさい
と明示的に述べたというようなものではない。被告銀行k支店の担当者は,支払期限の問題として捉え,かつ,原則的な場
合について,答えたものと認めるのが相当である。もともと,融資をする被告銀行の立場からすると,原告には仮に現金が
なくても,保険金と担保とした不動産とがあるので,融資金の回収は容易であるから,融資をすることにとって障碍となるよう
なことは言わずに,原則的なことを答えたということであったと思われる。(前記2(5)エ)
  融資を受ける原告の側にとっては,被告銀行の担当者の上記の対応は,やや不親切なきらいもあるが,融資側
は回収を考えるのであり,融資を受ける方の返済方法までを確認する義務はない。そうである以上,被告銀行のDやEの
上記の対応に不法行為に該当するような違法はない。
d また,上記の被告銀行担当者の対応は,保険の内容にわたる説明を行ったとか,保険加入手続を促したという
ものではないから,無資格者による保険の勧誘を禁ずる旧募取法9条や銀行員による保険募集を禁じた銀行法12条に違
反するということになるものではない。
  したがって,上記行為が,旧募取法等の取締法規に違反するとの観点から,それ自体として原告に対する不法
行為となるとはいえない。
(イ) また,原告は,「銀行員は,融資一体型の変額保険の保険料の融資申込みを受けた場合,信義則上の助言義
務を負う。変額保険の特異性や危険性について顧客が理解していると認められなければ,警告及び再考を促す義務があ
る。とりわけ,被告銀行k支店は,被告代理者のC,Bと普段から提携協力関係にあったから,一層上記の義務が当てはま
る。」旨を主張する。
 しかし,一般的には,銀行員は,変額保険の保険料のための融資の申込みを受けた場合に,変額保険の特異性
や危険性について顧客が理解の上で融資を申し込んでいるかを確認し,理解が認められなければ,警告及び再考を促す
義務があるとまではいえない。扱いを間違えると,保険の勧誘をすることにもなりかねないからである。そのような点は,保
険会社の担当者が保険の勧誘に際して商品特性を説明する中で果たされるべきものである。
 また,被告銀行k支店は,被告代理社のC,Bと連絡を取ることがあったとは認められる(証人D[21回p22])が,
本件変額保険の勧誘に関して共同して計画し,その加入を実現するための連携をしていたとまでの事実は認められない。
本件変額保険(特殊の保険)は,Fに勧められた原告が,被告代理社のCから説明を聞き,加入を決定して,その実現のた
めの融資を被告銀行k支店のD及びEに申し込んだというものである。そうすると,原告が保険料の支払資金の融資の申
込みに訪れた際に,DやEが保険会社の担当者と同様な説明義務又は質問確認の義務を負うべき特段の事情はない。
(4) 過失相殺の有無・程度
 Cの説明には上記のとおり説明義務違反が認められるが,原告も,小規模ながら会社を経営するなど,社会的経験
の豊富な者であり,株式取引をしたことがなくても,何もかも例外なく絶対的に有利な金融商品が簡単には存在しないこと
は容易にわかり得たはずである。また,地価の値上がり傾向から相続税が高額化するという話自体は承知もし,容易に理
解もしていたというべきである。そして,信用している知人のFから相続税対策としての変額保険について,事前に勧められ
ていたことから,対策をしないと,将来相続が発生したときに相続税が支払えずに妻の住むべき住居が残らなくなるという
事態が発生するというようなことをも意識するようになっていたため,Cに詳しい説明を求めることをせずに,Cによる簡単な
説明をもって,契約締結の意向を固めた。しかも,Cの持参した資料には,運用利回りについて「想定9%」という表示があ
るので,利回りが確定不動のものでないことは分かったはずである。また,妻が借入額の大きさに不安を抱いた際にも被告
らのような著名な企業が行うのであるから間違いがないであろうとして,翻って契約の内容,締結の要否等を検討すること
なく,契約締結方針をやや安易に実行に移した。なお,原告は,被告銀行が回収できる前提で本件融資をしたはずである
から,本件変額保険に加入することは心配ないと考えた旨を供述する。しかし,金融機関としては,最終的には担保とした
原告の自宅をも考慮するであろうから,被告銀行が本件融資をしたという一事で完全に安心と考えるのは,原告には酷な
面もあるが軽率であろう。
 このような原告側の事情に照らすと,原告にも,3割の過失があり,これを相殺すべきである。
(5) 損害額
ア 概要
  Cの説明義務違反の不法行為により生じた損害が原告の請求できるものであるところ,Cから原告に対し適切な説
明があれば,原告は,保険料相当の金額を借入れ,本件変額保険の締結を安易にしなかったであろうから,借入金及び
その利息の支払等の本件変額保険契約を締結するのに要した費用は,説明義務違反の不法行為と相当因果関係にある
損害ということができる。そこで,内訳を個別に検討する。
イ 財産的損害
(ア) 保険料
  原告が本件変額保険(特殊の保険)の保険料として被告銀行から借り入れて被告保険に支払った保険料額は,
不法行為と相当因果関係のある損害である。その価格は,6672万6176円である。原告主張の6672万7000円は送金
料が含まれた金額である(弁論の全趣旨)が,それは相当因果関係のある金額と認められる。
(イ) 融資利息
  原告は,保険料を被告銀行から融資を受けて支払った。この融資に伴う利息は,原告が被告銀行に支払わなけ
ればならないことは疑いようがない上,この利息債権には担保権が設定されているので,これは現実に支払済みとなって
いるわけではないものの,この段階で原告に既に生じた損害と判断するのが相当である。なお,原告は本件において債務
不存在確認請求もしているところ,前記のとおり錯誤等により本件変額保険契約をなかったものとして債務が発生していな
いとはいえないので,債務の発生を前提に損害が発生していると判断するのが相当である。
  その金額は,次のとおりである(甲101の16)。すなわち,
  本件パーソナルローン契約に基づく融資利息 
a 平成5年11月30日まで    1762万6576円
b 平成5年12月1日から平成6年11月29日まで 
                    380万2433円
 本件カードローン契約に基づく融資利息
a 平成5年11月21日まで   351万5206円
b 平成5年11月22日から平成6年11月29日まで
      88万4535円
(ウ)遅延損害金
 a 被告銀行は,原告が平成6年11月30日に期限の利益を喪失したとして,それ以降は利息請求債権ではなく,
遅延損害金請求債権が存在するとしている。そのため,原告はそれが損害である旨を主張している。
b ところで,本件融資における支払期限は,自動的に延長されることとされており,現実には本件融資の支払時期
は保険金の支払われる時である(乙1・2)。被告担当者が原告にその旨を述べたこともある(前記2(5)エ)。そして,利率は
変動金利であり(本件パーソナルローン契約の方は契約時年6%),本件融資上の債務の履行を怠った場合にはいずれも
年14%の割合による遅延損害金支払債務が発生する(乙1・2)。
  そして,被告銀行は,原告が平成6年11月30日に期限の利益を喪失したと扱っているが,その理由は,本件カ
ードローン契約に予め設定されていた極度額3000万円を利息支払のために使い切り,利息の貸出しがそれ以上できなく
なり,債務不履行となったからであるとうかがわれる。ちなみに,原告は,前記のとおり,平成6年1月6日に被告銀行k支店
から金利分の融資枠をほぼ全部消化し,一杯となった旨の通知を受けているところである。
c そうすると,原告は,利息を支払うことができなくなり(被告銀行が原告において利息分の支払をしたとの扱いを
しなくなり),期限の利益を喪失し,その後は約定の割合による遅延損害金を支払うことになった。これも,説明義務違反の
不法行為と相当因果関係があると認められる。この遅延損害金債務の内容は,次のとおりである(甲101の16)。すなわ
ち,
本件パーソナルローン契約に基づく遅延損害金(平成6年11月30日から平成13年8月28日まで) 6332万
1424円
  本件カードローン契約に基づく遅延損害金(平成6年11月30日から平成13年8月28日まで) 2035万63
26円
(エ) 損益相殺
a (ア)から(ウ)は,Cの説明義務違反の不法行為により原告に必要となったもので,原告の損害である。ただ,これに
より,原告は本件変額保険という財産権を取得したから,これを損益相殺の見地から控除する必要がある。
b 原告は,損益相殺事由はその主張立証責任を負う被告らが主張立証しない限り考慮することはできない旨を主
張するが,対価を伴う双務契約である本件変額保険契約の締結時の説明義務違反の損害賠償請求において,加入者が
負担した支出だけではなく,加入者が得た保険契約上の地位という財産的価値も事実としては説明されているので,それ
を損益相殺の見地から処理するのが相当である。基礎となる事実の主張はされているので,損益相殺すべきである旨の法
的主張までが被告側から明示的にされていないことの一事で,損益相殺ができないというのは相当ではない。c 
そこで,本件変額保険契約について損益相殺を検討するに,損益相殺をすべき本件変額保険の財産的価値は,時間と
共に変化するので,一定の時点でなければその価値を正確には確定できない。したがって,一般的にいえば,変額保険
の価格が判定できないので,損害も判定できないとならざるを得ないことも多いが,保険の現在価格が正確には判定でき
ないとしても,それが社会通念上概ね判定できるような場合にまで,およそ常に損害が確定できないというのは相当ではな
く,保険の価格を概ね判定できるような特段の事情がある場合には,損害も判断できることになると解するのが相当であ
る。本件では,損害は明らかに発生しているが保険の価格が正確には判明しないというに近いので,上記のような特段の
事情がないかどうかをさらに検討する。
d 原告が本訴の最終段階でまとめた平成13年8月の状況によると,本件変額保険金額は,運用利回りの低迷に
より,基本保険金額を大幅に下回り,その時点で保険事故が発生するとすれば,支払額は基本保険金額(最低保証金額)
とならざるを得ないし,仮に解約した場合の解約返戻金額は保険料すらも下回る。そして,原告は解約をしても損失が確
定するだけであるため,解約をする予定もない。(甲101の16,弁論の全趣旨)
  そうすると,本件は,保険の価格を概ね判定できるような特段の事情がある場合に該当するというのが相当であ
る。そして,原告は口頭弁論終結時点で82歳であるところ,82歳の男子の平均余命は6.59年である(厚生省[当時の名
称]大臣官房統計情報部編の平成11年簡易生命表)から,本件変額保険の本件口頭弁論終結時の価値を金銭に換算
すると,死亡時に支払われる1億円の基本保険金額から中間利息を控除した7521万6246円とするのが相当である。そこ
で,原告主張の損害額からこれを控除する必要がある。
  なお,原告は,保険契約上の地位を保有してきたことで利益を享受してきたといえるが,その利益を損益相殺す
ることは,その必要もないし,現実にも困難であるので,結論的には消極とするのが相当である。
(オ) 登記費用
  次に,本件根抵当権の設定登記費用54万1500円(弁論の全趣旨)は,説明義務違反の上記の不法行為によっ
てもたらされたもので,不法行為と因果関係のある損害と認めるのが相当である。
(カ) 印紙及び手数料
 また,本件変額保険締結のための印紙及び手数料12万8595円(弁論の全趣旨)は,不法行為と因果関係のあ
る損害である。
(キ) 財産的損害の合計額
  (ア)から(ウ),(オ)及び(カ)の合計額から(エ)の7521万6246円を控除した1億0168万7349円が原告の財産的損害
となる。
  なお,(ウ)の損害金は,利息債務のための融資枠が一杯となりそれ以上利息を融資できないということにより発生
するというものであるが,被告銀行としては,このような場合に直ちに利息の融資をせずに,本件融資債務につき期限の利
益が到来すると考えていたとは思われない。地価が値上がり,追加担保を取って追加融資をするつもりであったと思われ
る。その意味で,被告銀行すら見込みが違ったということであろう。しかし,原告に遅延損害金が発生すると扱われることが
誤りであるとまではいえない。
ウ 精神的損害
(ア) 次に,原告は精神的な損害があったと主張するところ,精神的損害は,それがあるならば,上記のような説明義
務違反の不法行為が認められる場合には,その不法行為と因果関係のある損害ということができ,損害賠償請求の原因と
なる。そこで,損害の有無及び額を決定する考慮要素を検討する。
(イ) 口頭弁論終結時の原告の状況
  慰謝料の金額の算定に関しては,次のような事情を考慮すべきである。すなわち,口頭弁論終結時,原告は,本
件変額保険(特殊の保険)契約をしたことにより借入債務だけが膨れあがり,本件融資契約に基づく被告銀行の貸金債権
については平成6年11月30日に期限の利益を喪失し,それ以降は約定により年14%の割合の遅延損害金が発生してい
るとして扱われている。そして,変額保険は運用利回りの実績が低迷し,この時点で保険事故が発生したとした場合の変
額保険金は基本保険金額を下回るため,支払われるのは基本保険金額の1億円である。また,仮に,この時点で本件変
額保険契約を解約しても解約返戻金は基本保険金額及び契約時の保険料すらを下回り,解約返戻金で被告銀行に返済
しても,返済不能金が1億数千万円残る(甲101の15・16,弁論の全趣旨)。ちなみに,仮に被告銀行が本件融資契約に
基づく貸金債権の回収のために原告の自宅について担保権を実行をすると,原告は,担保となっている自宅の土地建物
を失い,病気(心臓疾患で外出ができない。)療養中の妻(甲101の15)を居住させる住居の手当すらつかなくなる状況に
ある。
(ウ) (イ)の状況に陥った客観的な原因
  原告が(イ)のような結果を招来したのは,第1次的には,原告が本件変額保険に加入したことにあるが,その原因
としては,Cの説明不足及び原告の対応が影響している。
  そして,原因をもっと絞り込むと,株価や地価の値上がり傾向に関する見通しが違ったことにある。
(エ) 説明不足がもたらす精神的苦痛
  (ウ)後段の将来の経済見通しという問題は,正解のない問題であり,その見通しの誤りの原因は,本来的には誰か
に帰せしめることが困難な問題であろう。
  そのため,これを不確実な事柄として扱わずに,確実な事柄として扱えば,虚偽となる。しかも,本件変額保険の
特別勘定の運用利回りというと,その商品特性を理解しない限り,経済見通しにほぼ連動することなのか,運用の技術で差
が出るのか,どの程度なのか,といったことすらも分からない。
  そして,Cが,保険料の運用利回率につき9%と想定したシミュレーション表しか持参せず,これを前提とした簡単
な説明をするだけであったから,原告は,保険料の運用利回率の決定要素がどのようなもので,景気や地価の値上がり傾
向が利回率に連動するかどうか,連動する場合のその程度,保険会社によって運用利回りが異なるのか等について,きち
んと理解できなかった。その点をきちんと説明されていれば,原告は,これを理解し,自身の余命を何年と見積もるか,そ
の間地価及び相続税が値上がり続けるか,利回りが9%でなく,4.5%になったら,リスクが顕在化するか,といった具体的
な数値を前提に検討した上,将来の経済見通し及び被告保険による運用利回りの見込みについて,自己の責任において
自ら判断し,本件変額保険契約を締結するかどうか,締結するとして保険金額をどの程度の規模のものとするか,また,見
通しがはずれ,運用利回りが悪化してきた場合に,どの程度の損失を覚悟して解約するかといったことを,事前に考慮する
こともできたものと思われる。それができなかったことが精神的苦痛につながる。
  のみならず,原告に交付されたシミュレーション表によっても,契約時点で仮に相続が発生した場合の相続税は3
59万円と算定されている(甲101の2)が,原告が後日税理士に相談したところ,上記の場合なら相続税は発生しないとい
う検討結果もある(甲101の14)。したがって,本件変額保険(特殊の保険)契約締結時に変額保険のリスクをきちんと掌握
したら,上記の経済状況の将来見通しと並んで,そもそも相続税対策の必要性があるかどうかについてきびしい検討をす
ることにもなり,原告は変額保険契約の締結を控えておくという判断に至ったかもしれない。その意味で変額保険の特色に
ついて,また相続税対策としての変額保険の利用を考える場合の考慮要素について,Cからきちんとした説明がなかった
ことが原告の精神的苦痛につながる。
  もちろんそのような説明を受け,そのような検討の機会を得ると,原告が本件変額保険契約を締結しなかったであ
ろうということではない。原告は,十分な説明を受けていても結果的には同じように本件変額保険契約を締結したかもしれ
ないが,それでもその生じた結果に対する精神的な苦痛の状態が異なるのである。自己決定をするだけの適正な情報を
得ていれば,運用利回りの低下といった不測の結果が生じても,原告はそのことを甘受することになろうが,きちんとした情
報を与えられずに安易に契約をした場合には,不測の結果は自己だけで甘受できる苦痛ではなく,原因をもたらした他の
要素に対しても原告としては不満のはけ口をもっていかないと,その精神の苦痛は癒されない。原告としては,十分な検討
過程を経ず,あるいはその機会を逸したことに,現時点では後悔と,憂慮の念を抱いていると認められる(甲101の15)。
 (オ) 以上を総合考慮すると,原告の精神的苦痛を慰謝する金額としては600万円が相当である。本件各契約がな
かったことにされないと,苦痛は完全には瘉されないであろうが,財産的な損害も一部は賠償を認めることは前記のとおり
であり,Cの説明の不十分さと原告の結果的な被害の大きさに注目し,当初保険料の約1割を基礎として,上記の金額を
相当とするものである。
エ 過失相殺後の金額
  イの財産的損害及びウの精神的損害の双方の合計額は,1億0768万7349円である。これについて,原告に3割
の過失があるとして過失相殺をすると,過失相殺後の金額は7538万1144円となる。
オ 弁護士費用
  本件についての諸般の事情を総合すると,説明義務の不法行為と因果関係のある弁護士費用として400万円を
認めるが相当である。
カ 合計額
そうすると,原告は,損害賠償金として,7938万1144円を請求することができる。
キ 遅延損害金請求
  なお,原告は,上記の賠償金について不法行為の時からの支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を請求
している。
  しかし,融資についての損害は,被告銀行が,利息及び遅延損害金を債権として区分したときに,原告がその支
払債務を負担する関係にあるので,その都度発生する性質のものである。また,慰謝料も説明時に直ちに生じたものでは
なく,事後に変額保険金の運用利回りが低調となって,借入元利金ばかりが膨張したときに,決定的に生じたものである。
このように,原告の損害中には,変額保険についての説明時でも起訴時でもなく,原告が最終的に損害を整理して主張し
た口頭弁論終結時点に内容的に形成されたものもあり,損害の内容はこの時点で金額として確定したというべきである。そ
して,その時期は,行為時から約12年経過している。なお,不法行為時から遅延損害金を発生するという考え方もあるが,
その場合には,行為後に発生した損害については中間利息を控除して行為時に損害が発生したと想定した場合の損害
額に減額した上で,その減額後の損害額について不法行為時からの遅延損害金を付すということにしなければならない
(最高裁昭和58年9月6日第三小法廷判決・民集37巻7号901頁参照)。したがって,そのような損害額元金から中間利
息を控除することの主張もない本件において,そのような計算をするのは実際問題としても困難が伴う。以上のような諸事
情を総合すると,損害賠償請求権についての民法所定の割合による遅延損害金は,口頭弁論終結時点からその支払義
務を認めるのが相当である。
8 被告らの責任の有無
 Cの説明義務違反の行為については,被告代理社は民法715条の使用者責任を負う。また,被告保険は,Cを自己
の代理人として利用する法律関係を承認して,Cにより本件変額保険契約を原告との間に締結させているので,民法715
条の関係ではCの使用者に該当し,同様に使用者責任を負う。
第6 結論
 よって,原告の請求は,損害賠償請求を第5の7の限度で認容し,その余の請求は理由がないからこれをいずれも棄却
することとし,認容部分については仮執行の宣言を付すこととし,主文のとおり,判決する。
 
横浜地方裁判所第1民事部
  裁判長裁判官    岡光民雄      
  裁判官 窪木 稔           
  裁判官    村上誠子           
           
・別紙    債権目録
1 パーソナルロ-ン契約
(1) 契約日 平成元年11月25日ころ
(2) 貸付額 6700万円
2 〈はまぎん〉カードローン取引契約(随時返済・変動金利型)
 (1) 契約日 平成元年11月28日
 (2) 借入極度額  3000万円
(3) 利率  取引約定に定める基準金利に0.5%を加えた利率
(4) 返済指定口座  被告銀行k支店 普通預金 

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