弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告は原告に対し,92万5525円及び内80万5525円に対する平
成13年9月26日から支払済みまで,内12万円に対する平成14年11月17
日から支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用はこれを4分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担
とする。
4この判決は,1,3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は原告に対し,120万5525円及び内80万5525円に対する平
成13年9月26日から支払済みまで,内40万円に対する平成14年11月17
日から支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が被告に対し,過払い弁済金が不当利得であるとしてその返還
とこれに対する遅延損害金の支払いを求めると共に,被告が原告との取引経過を開
示しないことが不法行為に該当するとして,不法行為に基づく損害の賠償とこれに
対する遅延損害金の支払いを求める事案である。
1前提事実(末尾に証拠の標目の記載のない事実は当事者間に争いがない)
被告は貸金業者である。
原告は被告から,昭和54(1979)年4月25日に10万円を借りたの
を皮切りに,以後,平成13(2001)年9月25日の完済に至るまで,借金と
その返済を繰り返した。
原被告間の取引は,旧債務について分割弁済を続けた後,新債務の借入時
に,旧債務の未払分を清算するといういわゆる借換えの繰り返しであった。
平成6(1994)年11月7日の30万円の借入れ以降,平成13(20
01)年9月25日に全債務を完済するまでの借金及び返済の金額,年月日につい
ては,別紙「原告主張過払金計算表」の同期間の年月日欄,借入金額欄,弁済額欄
記載のとおりである。
上記の取引以前の取引,すなわち昭和54(1979)年4月25日の第1
回目の10万円の借入れ以降,平成6(1994)年11月7日までの取引につい
ては,借入れ金額と年月日は,別紙「過去借入額一覧表」記載のとおりであること
が認められるものの(乙3,4),個々の弁済金額と年月日については,これを記
録した証拠がない。しかしながら,平成6(1994)年11月における年利が3
4.31パーセントであって(乙4)それ以前も同率の年利であったと推認される
こと,原告が,借換えまでの間,概ね毎月1万5000円の分割弁済を行っていた
と認められること(乙4,弁論の全趣旨)を総合すると,上記の期間の内,昭和6
2(1987)年9月11日から平成6(1994)年11月7日までの取引につ
いては,別紙「昭和6
2年から平成6年までの貸借一覧表」記載のとおりであると推認することができ
る。
なお,原告は,平成14年10月10日に裁判所に対して自己破産の申立て
をした(甲7,弁論の全趣旨)。
2争点
本件の争点は,(ア)利息制限法に引き直して計算した結果生じた原告の過払金
不当利得返還請求について消滅時効が成立するか,(イ)被告が原告に対し,取引経過
の情報を開示しなかったことについて不法行為の成立が認められるかである。
(1)不当利得返還請求権についての消滅時効の成否
ア原告の主張
原被告の,昭和62(1987)年9月11日から平成13(200
1)年9月25日までの取引について,利息制限法による引き直し計算を行うと,
別紙「原告主張過払金計算表」記載のとおり,過払金額は80万5525円とな
る。
よって,原告は,被告に対し,80万5525円及びこれに対する平成
 13年9月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の
支払いを求める。
イ被告の反論
元利充当計算は,各弁済が利息制限法違反であって,その都度過払い金
が生じ,これを相殺して元利充当計算するものであるから,その相殺を行う意思表
示は本訴提起の中に含まれていると考えざるを得ない。本訴は平成14年11月1
2日に提起されており,これを10年遡る平成4年11月12日以前の弁済による
過払い金返還請求権は,それぞれ10年を経過した時点で時効が成立しているの
で,被告はこれを援用する。よって,平成4年11月12日より前の弁済に関して
は,元利充当計算は認められない。
そこで,平成4年11月12日以降の元金額を求めると,別紙「被告主
張残元金計算表」のB記載のとおり36万6669円となる。そして,それ以後の
各支払について過払金の充当計算を行うと,別紙「被告主張過払金計算表」記載の
とおり,過払金額は28万0866円となる。従って,これを超える原告の不当利
得返還請求は失当である。
ウ原告の再反論
原被告の貸借においては,新たな貸付けの際,前の貸付の未返済分があ
れば,これを新たな貸付けの額から差し引いて残金の交付を受ける,いわゆる借換
えがなされることにより,複数の債権債務関係が残らない取扱いがなされていた。
このような借換えは,債務者が新たな信用を得ると共に,新旧両債務を併存させる
ことなく二つの債務を一本化するものであるから,旧債務の残額と現実の交付額の
合計額について準消費貸借が成立したものとみるべきである。
ところが,借換えの際までに既に過払いとなっており,過払金について
不当利得返還請求権を有するに至っている場合には,旧債務は存在しないのである
から,そのような借換えについてまで準消費貸借契約とみることはできない。
このような場合,過払金の返還請求権と現実に交付した貸金との返還請
求権が対立併存するに至るものとみれば,現時点での相殺の可否の問題となる。
しかしながら,旧債務について過払金が生じている場合であっても,借
換えをした当事者は,旧債務の貸借関係を清算することを目的として新たな消費貸
借契約を締結したものと認められるから,当事者は,旧貸付けについて貸主から借
主に返還すべき過払金があるときは,それを清算する趣旨で新たな貸付金を交付し
たものと解することができる。そうすると,過払金の生じている旧債務について借
換えがされた場合には,準消費貸借が締結されたものとみることはできないが,新
たな貸付金として借主に交付された金員のうち,旧貸付けにおける過払い額に達す
るまでの金員は,旧債務の過払金の返還として借主に交付され,その残額が新たな
貸付けの元金として交付されたものと解すべきである。
このような考え方に基づけば,改めて相殺するまでもなく,借換えのた
びに発生していた過払金は当然に次の貸付金に充当され,清算がなされていくこと
になる。
従って,昭和62(1987)年9月11日に遡る原告の元利充当計算
は正当である。
(2)被告の不法行為の成否
ア原告の主張
被告は,利息制限法の制限を超える高利の約定で貸付を行っていること
を知っていたのであるから,上記過払金の発生については悪意であった。
しかも,被告は,原告代理人からの再三の取引明細の開示請求を無視し
て,一部の取引明細しか開示しなかった。
そのため,原告は,債務整理の事務処理などの支障を生じ,その間,経
済的再生を阻害され,余計な精神的苦痛を受けたのであり,その苦痛は30万円に
相当する。また,過払い金返還を求めるため本訴を提起せざるを得なくなり,代理
人弁護士に弁護士費用10万円の負担を余儀なくされ,同額の損害を被った。
被告の上記行為は不法行為を構成する。
よって,原告は被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求として40
万円及びこれに対する平成14年11月17日(訴状送達日の翌日)から支払済み
まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
イ被告の認否
原告の主張は否認する。
被告は,原告代理人から,平成13年7月10日付の書面で取引経過の
開示を求められた際も,貸借の内容を記載した書面を直ちに原告代理人に送付して
おり,取引経過の情報は開示している。
第3争点に対する判断
1不当利得返還請求権の消滅時効の成否
被告は,本訴提起の10年前である平成4年11月12日より前の弁済によ
る過払い金返還請求権は,それぞれ10年を経過した時点で時効が成立していると
いうことを理由に,平成4年11月12日以前の弁済に関しては,元利充当計算は
認められないと主張する。
しかしながら,債務の借換えをした当事者は,旧債務の貸借関係を清算する
ことを目的として新たな消費貸借契約を締結したものと認められるから,旧債務に
ついて過払金が生じている場合,当事者としては,それを清算する趣旨で新たな貸
付金を交付したものと解することができる。そうすると,過払金の生じている旧債
務について借換えがされた場合には,新たな貸付金として借主に交付された金員の
うち,旧貸付けにおける過払い額に達するまでの金員は,旧債務の過払金の返還と
して借主に交付され,その残額が新たな貸付けの元金として交付されたものとみる
ことができる。
このような考え方に基づけば,改めて相殺するまでもなく,借換えのたびに
発生していた過払金は当然に次の貸付金に充当され,清算がなされていくことにな
るから,被告の主張する消滅時効の抗弁は理由がないということになる。
もっとも,上記のような事実認定は,現に,借主が,新債務の弁済の際に,
旧債務の過払分の返還として交付された分を含めて再度弁済していること,貸主
も,これを当然のこととして受け取っていることに照らすと,当事者の合理的意思
解釈としてはやや難があることは否めない。しかしながら,貸金業を営む貸主とし
ては,自らの貸金が利息制限法の制限を超えるものである場合,同法の制限を超え
る利息部分については元本に充当されていき,元本消滅後は過払いになり得ること
は認識していると認めることができるし,借主としても,借換えのたびに過払金の
清算としてこれを受領しても,借り手としての立場の弱さから,新たな借換えの際
に再度これを貸主に交付しているに過ぎないと認めることができることに照らす
と,上記のような考え方も
当事者の合理的意思解釈として許されないものではないというべきである。
以上の次第で,原告は,平成4年11月12日以前の弁済に関しても元利充
当計算をすることができる。そして,昭和62(1987)年9月11日に遡る原
告の元利充当計算は別紙「裁判所計算過払金計算表」記載のとおりであって,過払
金は83万9157円であると認められる。そうすると,原告の請求額はこれを下
回る80万5525円であるから,原告の不当利得返還請求の主張は理由がある。
2被告の不法行為の成否
弁護士が行う多重債務者の債務整理は,経済的困窮に端を発する犯罪の発生
や家庭の崩壊の防止という意味で,単なる債務者の利益にとどまらない公共性を有
する業務というべきであるところ,これを行うためには,債権者から取引経過につ
いての情報開示を受けることが必要不可欠であることに照らすと,金融業者として
は,弁護士から取引経過に関する情報の開示を求められた場合,可能な限りこれに
応じるべき義務を負っていると解される。そうすると,金融業者が,多重債務者の
債務整理を行う弁護士から,取引経過に関する情報の開示を求められたにもかかわ
らずこれを開示しないことは,債務者の債務整理を阻害するものであって,特段の
事由なき限り不法行為を構成するというべきである。
本件についてみるに,証拠(甲3,7,乙1)及び弁論の全趣旨によれば,
原告は,本件借金を含むサラ金からの借金の返済を続けていたが,次第に給料では
払いきれなくなり,借金のための借金を繰り返すようになって借金が雪だるま式に
膨れ上がり,任意整理を試みたが払いきれず,兵庫県弁護士総合法律センターのサ
ラ・クレ被害者救済センターへ相談した結果,原告訴訟代理人弁護士に委任して,
再度の債務整理か破産申立てをすることになったこと,そこで,原告訴訟代理人弁
護士が被告に対し,平成13年7月10日付の書面(乙1)によって,契約当初か
らの取引経過の開示を求めたところ,被告は,平成10(1998)年6月2日借
入れの30万円の借用証書(甲2)及び同借入れの返済状況を記した顧客元帳(甲
1)のみを送付したこ
とが認められる。
しかしながら,原被告の実際の取引の期間及び回数に照らすと,被告の上記
取引経過の開示は,原被告間の長年にわたる取引の内,最後の借換分についてのみ
取引経過を明らかにしたものであって,甚だ不十分な内容である。そして,被告
が,現に本訴提起後には,昭和54年からの一連の取引について記された乙3,4
号証を提出していることに照らすと,本訴提起前の上記情報開示請求に対しても,
同様の情報を開示することは被告にとって格別困難なことではなかったと認められ
る。そうすると,上記のとおりの甚だ不十分な情報開示は,原告に対する不法行為
に該当すると認めることができる(なお,原告訴訟代理人弁護士は,平成14年4
月19日付書面(甲3)においても,再度,取引経過を明らかにするよう被告に対
して求めたと主張するの
に対して,被告は同書面が被告に到達したことを争う。しかしながら,上記のとお
り,原告が,平成13年7月10日付書面において既に取引情報の開示を求めてい
る以上,この点は上記の結論を左右するものではない)。
そして,被告が取引経過を明らかにしなかった結果,原告は,被告から過払
金の返還を受けて他の債権者に配当することが早期に実施できず,破産手続に遅延
が生じた結果,経済的再生を阻害され,精神的苦痛を受けたことが認められる。上
記の精神的苦痛に対する慰謝料としては,本件不当利得返還請求の認容額の約1割
である10万円をもって相当と認める。
また,上記慰謝料請求の難易,認容額など諸般の事情を総合すると,本訴提
起遂行のために原告が訴訟代理人弁護士に支払うべき弁護士費用のうち,2万円の
範囲で上記不法行為と相当因果関係のある損害であると認める。
3結論
以上の次第で,原告の不当利得返還請求を全部認容し,不法行為に基づく損
害賠償請求については一部認容する。
神戸地方裁判所第4民事部
裁判官太田敬司

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