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裁判例


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       主   文
一 被告が平成九年三月一二日付けで原告に対してした林道使用不許可処分を取り
消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
 主文同旨
第二 事案の概要
 本件は、被告が、産業廃棄物運搬のための林道使用許可申請をした原告に対し、
林道使用を不許可としたことから、原告が右不許可処分の取消しを求めた訴訟であ
る。
一 争いのない事実等
 以下の事実は、当事者間に争いがないか、括弧内掲記の証拠により容易に認める
ことができる。
1 原告は、産業廃棄物の収集、運搬、処理及び再生に関する事業等を目的とする
有限会社であるところ、筑紫野市α一〇二四番四一〇山林九八一八平方メートルの
土地の所有権を平成七年一〇月四日売買により取得し、同所に産業廃棄物最終処分
場(以下「本件処分場」という。)を設けた(甲一三)。
2 筑紫野市(以下「市」という。)は、昭和五〇年度から昭和五一年度までの継
続事業として、筑紫野市β九九三番地二を起点とし、同所一〇二四番地一一九を終
点とする、総延長三六四八メートル、幅員四メートルの林道高原線(以下「本件林
道」という。)を開設した。本件林道は、筑紫野市林道台帳に登載され、被告によ
って管理されている(甲二〇)。
3 筑紫野市林道台帳に登載された林道の維持管理に関する事項を定める筑紫野市
林道維持管理規程(筑紫野市昭和五八年一月五日規程第一号。以下「本件規程」と
いう。)では、林産物、土石その他の物品を運搬するため、林道を使用する者は、
被告の許可を受けなければならないものとされ(本件規程三条一項)、被告は、使
用者が、(1)本件規程に違反したとき、(2)林道の使用方法が適正を欠き、林
道の維持に支障をきたすおそれがあると認められるとき、(3)林道の維持修繕の
ため必要があるとき、のいずれかに該当する場合には、右使用許可を取り消し、ま
たは、林道の使用を停止することができるものとされている(本件規程九条)。な
お、右使用許可の規程は、(1)林道沿線等の居住者の日常生活のための林道利
用、(2)公共事業等のための林道利用及び占用、(3)併用林道協定に係る国有
林野の産物の買受人及び国有林野事業の請負人の併用林道利用及び占用、(4)不
特定の一般利用者のいずれかに該当する場合には、適用しないとされている(本件
規程一二条)。また、使用者は、林道の設置、補修、林道の維
持管理等の経費に充てるため、分担金を納付しなければならないとされている(本
件規程一一条)(甲一五)。
4 原告は、平成九年二月二八日、被告に対し、本件処分場に産業廃棄物を搬入す
るために使用する目的で、運搬物の種類を産業廃棄物(安定五品目)及び重機と
し、一箇月当たり一五トンないし二〇トンをダンプカーにより運搬することとし、
使用区間を本件林道の起点付近から二キロメートル(筑紫野市β九九三番地二から
同所一〇二四番地三三六までの区間)とする林道使用許可申請書を提出した(甲
一)。被告は、同年三月一二日、原告に対し、本件林道の使用を不許可とする処分
(以下「本件不許可処分」という。)をした。
二 争点
 本件不許可処分は、被告の裁量権を逸脱した違法なものか。
三 原告の主張
1 本件林道は公共用物に該当するので、被告が本件林道の使用を許可するかどう
かの判断は自由裁量ではなく、本件林道の本来的機能を害する場合又は他人の共同
使用を妨げるおそれがある場合等にのみ規制ができる覊束裁量である。
2 本件不許可処分は、原告の本件林道使用目的が林産物の搬出という林道の開設
目的に合致しないという理由でされたが、このような理由で不許可とすることは許
されない。
3 原告の本件林道使用は、以下の理由から、本件林道の本来的機能を害すること
も、他人の共同使用を妨げることもまったくない。
(一) 本件処分場が環境に及ぼす影響の有無は、福岡県知事の判断に委ねられた
事項であるところ、原告は、本件処分場において産業廃棄物を最終処分することに
ついて、福岡県知事の許可を得ている。
(二) 本件処分場において処分される産業廃棄物の種類は、安定五品目と呼ばれ
るもので、健康被害等の危険がない。
(三) 本件処分場は、埋立面積七七五平方メートル、埋立容量一三八〇・五六立
方メートルと比較的小規模である。
(四) 原告は、筑紫野市近郊で自ら行った解体工事から搬出される産業廃棄物の
みを、月平均三六トン本件処分場に搬入する予定であり、四トントラックが月平均
一二台本件林道を通行するにすぎない。なお、簡易舗装であることをもって、一般
交通の用に供されている他の道路に比して損壊しやすいとは言い切れない。
4 右実態に照らせば、本件不許可処分は、被告の裁量権を逸脱してされたもので
あり、違法である。
四 被告の主張
1 本件林道は、一般の通行の用に供する道路ではないから、開設に当たり道路法
に基づく道路開設の手続はとられていない。本件林道は、山の斜面を削り、谷を埋
め立てて造られたもので、クラッシャラン(小石)三センチメートルを敷き、その
上に四センチメートルの簡易舗装がされているにすぎず、現在はクラックが生じて
いる箇所がある。また、本件林道は、山の斜面と谷の間を通るカーブの多い道路で
あるが、カーブミラーは少なく、ガードレールはほとんど設置されていない。
2 本件林道は、森林法に基づき、林産物の運搬、林業経営及び森林管理のために
必要な交通の用に供する趣旨で開設されたものであるところ、産業廃棄物が搬入さ
れると、山林は破壊され、汚水は浸透して地下水を汚染し、下流住民の健康を蝕む
ことになるし、トラックが日常進入するようになると、道路が破壊され、林産物の
搬出や森林管理のための車両の通行にも支障を来すことになるのであって、原告の
使用許可申請は右趣旨に反するものであるから、本件不許可処分は、被告の適正な
裁量に基づくものであり、違法ではない。
第三 判断
一 本件林道の利用状況等
 証拠(甲一四、二六、乙二、一六、一七、一八の1、2、証人A)及び弁論の全
趣旨によれば、次の事実が認められる。
1 本件林道は、全区間が簡易舗装(下層路盤三センチメートル、表層四センチメ
ートル)されており、起点側において国道二〇〇号線に接続し、終点は行き止まり
になっている。
2 本件林道は、森林法五条一項に基づいて福岡県知事が定めた地域森林計画及び
同法一〇条の八に基づいて市が作成した森林整備計画により、市が事業主体となっ
て、林産物の運搬、林業経営及び森林管理のために必要な交通の用に供する趣旨で
開設したものであり、その開設工事は、筑紫野市森林組合により昭和四七年度に着
工され、平成元年度に完成されたものである。
 本件林道の敷地は、当初は私人の所有地であったが、本件林道開設工事の際、土
地所有者が受益者負担として無償で土地所有権を市に提供し、現在は、市が本件林
道の全区間の敷地を所有するに至っており、本件林道の敷地及びその従物は、市の
財産管理事務上、行政財産として扱われている。
 本件林道は、筑紫野市林道台帳に登載され、被告が本件林道を管理している。な
お、本件林道については、道路法に基づく道路開設手続はとられていない。
3 日本電信電話公社(以下「電電公社」という。)は、昭和五四年、無線中継所
建設工事
のために本件林道を通行する必要が生じたので、同年六月七日、筑紫野市森林組合
との間で協定書を交わした。その内容は、電電公社は本件林道の起点から無線中継
所道路起点までの区間を工事着手時から施設の存続する間使用できること、電電公
社は林道建設分担金一〇〇〇万円及び無線中継所建設工事期間中の本件林道使用料
を支払うこと、ただし無線中継所完成後の使用料は無償とすること等であった。
4 本件林道の起点には、鉄製の大きな門扉が設置され、右門扉にはかんぬきがか
けられているが、施錠はされていない。なお、右門扉及びその周辺には、市作成名
義の「林道につき産業廃棄物搬入車輌の通行を禁止します。」との掲示、市及び地
元管理会作成名義の「林道につき育林及び林産物の搬出等以外の車輌の侵入を禁止
します。」との掲示、γ地区開発委員会作成名義の「自然と環境を破壊する土砂、
産廃搬入絶対反対!」との掲示及び同委員会作成名義の「γ地区の自然と環境を守
るため土砂及び産業廃棄物等搬入絶対反対!」との掲示がされている。
 本件林道の交通安全対策上の施設としては、一三箇所にカーブミラーが、一二箇
所にガードレールが設置されている。
 本件林道沿いに人家は一軒もなく、現在の本件林道の通行状況は、前記協定書に
基づき西日本電信電話株式会社の自動車が定期点検のために通行する他は、財産区
所有林手入れのために、年間に数日間、軽トラックが数台通行する程度である。
二 本件不許可処分に至る経緯
 証拠(甲八、二七、乙一○、原告代表者)によれば、次の事実を認めることがで
きる。
1 原告代表者は、平成六年から平成八年五月まで原告の取締役であったが、家屋
解体業を営む原告にとって、自社の廃棄物処理場を持つことが、コスト面及び信用
面の両方において有利であるとの考えから、候補地を物色し、福岡県廃棄物対策課
や市農政課を訪ね、右意向を伝えて、手続等の指導を受けた。市農政課は、伐採届
の提出を指示したが、本件林道の使用については言及しなかった。
2 原告は、平成七年一〇月土地を購入し、本件処分場の建設を進める一方で、隣
地所有者の同意書を得たり、本件林道の起点付近の居住者やγ地区区長らに口頭で
説明する等した。右過程で、原告は、本件処分場建設反対の意向には接しなかっ
た。なお、同年一一月二四日、γ地区区長会、γ財産区議会、γ地区開発委員会か
ら市に対し、産業廃棄物処理場に関する陳
情書が提出されたが、平成八年六月一○日時点で、市の担当者は、地域住民の反対
の意向が欠けているように見受けられるとの認識を有しており、前記一4のような
反対運動の存在をうかがわせる掲示にもかかわらず、反対運動の主体、規模、具体
的活動等は明らかでない。
3 原告は、平成八年三月ころ、市に対し、口頭で本件林道使用許可を申し入れ、
申請書用紙の交付を求めたが、市の回答は、地元の同意を得れば申請書用紙を交付
するというものであったので、原告は、γ地区の区長宅等を何度も訪れて理解を求
めた。しかし、地元民は、明確な態度を表明しなかった。
 そこで、原告は、弁護士の指導に基づき、市に対し、申請書用紙を交付できない
理由を文書で明らかにするよう求めたところ、直ちに、原告に申請書用紙が交付さ
れたので、原告は本件林道の許可申請書を提出したが、被告は、同年七月一五日付
けで不許可決定をした。
4 福岡県知事は、同年一二月一七日、原告に対し、次の内容での産業廃棄物処分
業を許可した。
(一) 事業の区分
 最終処分(埋立)
(二) 産業廃棄物の種類
 埋立-廃プラスチック類、金属くず、ガラスくず等(以上三品目について自動車
等破砕物を除く)、ゴムくず、建設廃材
(三) 設置場所
 福岡県筑紫野市α一〇二四番四一〇
(四) 処理能力
 埋立面積 七七五平方メートル
 埋立容量 一三八〇・五六立方メートル
5 原告は、右許可を踏まえて、平成九年二月二八日、再度本件林道使用許可申請
をしたが、被告は、同年三月一二日付けで本件不許可処分をした。
6 原告は、自ら行った家屋等解体により発生する廃材の処理だけのために本件処
分場を使用する予定であり、具体的には、1箇月平均で四トンダンプカー五台ない
し七台位、多いときで一箇月一二台位が本件林道を通行することになる。
三 本件不許可処分の適法性について
1 林道は、林産物の運搬、林業経営及び森林管理のために必要な交通の用に供す
ることを目的として開設し管理されるものであるところ、行政主体によって管理さ
れる道路ではあっても道路法上の道路ではないから、一般公衆の通行の用に供さな
ければならないものではなく、管理者は、その管理権限に基づいて、当該林道の設
置開設目的に照らし、使用の範囲を限定することができると解される。
 もっとも、地方自治法二三八条の四第四項が「行政財産は、その用途又は目的を
妨げない限度においてその使用
を許可することができる。」と規定しているのは、行政財産の効率的利用の見地か
ら、その本来の用途又は目的を妨げない限り、右以外の用途又は目的による使用を
認めることが適当であることがあるので、その使用許可を管理者の裁量に委ねたも
のであると解されるところ、林道が前記のような特定の目的で設置管理されたもの
であるとしても、一応公共の用に供する物であることにかんがみれば、林道の管理
者は、その使用許否の判断に当たっては、林道の用途又は目的を妨げないかどうか
の要件の判断に際してはある程度の裁量を有するものの、右目的を妨げないとの要
件が充足される場合には、使用を許可するかどうかを恣意的に決めることは許され
ないと解すべきである。
2 被告は、産業廃棄物が搬入されると、山林は破壊され、汚水は浸透して地下水
を汚染し、下流住民の健康を蝕むことになると主張する。しかし、証拠(甲三六、
原告代表者)によれば、原告が本件処分場に搬入することを許可された廃棄物は、
変化しない安定な廃棄物であり、土壌、砂礫等とほとんど同じで、何ら環境を汚染
しないものとして処分することができるとされていることが認められ、前記のとお
り原告が福岡県知事の許可を得ていることも勘案すれば、被告の主張は科学的根拠
を欠いたものである。
 次に、被告は、原告の車両通行は本件林道の舗装を破壊し、本来の目的のために
通行する車両の運行に支障を来すと主張する。しかし、前記認定の原告が予定する
通行量の程度でどのような道路の損傷が生じるかは明らかでないし、また、被告は
原告に分担金を課すことができるところ、損傷道路の修復費用が原告の分担金を大
幅に超えるものかどうかについても明らかでない。なお、原告の廃棄物搬入量や車
両通行量が申請内容を超えるに至った場合は、許可を取り消すことができること
は、本件規程から明らかである。
3 右によれば、原告による本件林道の使用が「本件林道の本来の用途又は目的を
妨げない」との要件を充たさないとした被告の判断は、合理的根拠に基づかないも
のであり、被告の裁量権の行使は、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものであ
るから、本件不許可処分は被告の裁量権の範囲を逸脱したものというべきである。
四 以上によれば、本件不許可処分は違法であり、原告の請求は理由があるから、
主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所第一民事部
裁判長裁判官 古賀寛
裁判官 金光健

裁判官 秋本昌彦

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