弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原告の請求を棄却する。
     訴訟費用は原告の負担とする。
         事    実
 原告訴訟代理人は、「昭和四四年一月一五日執行のA町長選挙の効力に関する原
告の審査申立について、被告が同年五月二一日なした裁決を取り消す。右選挙は無
効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その
請求原因として次のとおり述べた。
 (一)、 昭和四四年一月一五日執行された宮城県A町長選挙において原告と訴
外Bの二名が立候補し、投票の結果、Bが当選者として決定された。原告は、同月
二二日A町選挙管理委員会に対し右選挙の効力に関して異議の申出をしたところ、
同選挙管理委員会は同年二月二〇日異議申出棄却の決定をしたので、さらに法定の
期間内に被告委員会に対し審査の申立をしたところ、被告委員会は同年五月二一日
原告の審査申立を棄却する旨の裁決をなし、同月二五日右裁決書を原告に交付し
た。
 (二)、 しかし、本件選挙は次の理由により無効である。
 (1)、 本件選挙には、原告と現職の同町長であるBの二名が立候補したもの
であるところ、A町選挙管理委員会は、選挙期日の告示の日(昭和四四年一月八
日)に、立会演説会を同月一三日午後二時よりC公民館において開催する旨を告示
し、かつ原告に対して立会演説会への参加を申し込むよう通知したので、原告は、
即日、右参加の申込をした。しかるに、同選挙管理委員会は、同月一一日、立会演
説会に参加申込をした者が原告一人であることを理由にA町長選挙立会演説会条例
第三条第二項の規定により立会演説会は開催しない旨原告に通知し、結局、立会演
説会を行わないまま本件選挙を執行した。
 (2)、 ところでA町長選挙立会演説会条例は、その第一条において、「A町
長の選挙について公職選挙法第百六十条の二及びこの条例の定めるところによつて
公営の立会演説会を開催するものとする。」と規定し、その第三条において「立会
演説会に加わろうとする候補者は、A町選挙管理委員会に対し、その指定する期日
までにその旨を申し出なければならない。2前項の規定によつて申し出をした者が
一人である場合(死亡又は候補者たることを辞したため申出をした者が一人となつ
た場合を含む)においては当該立会演説会は開催しないものとする。」旨規定して
いるところ、A町選挙管理委員会は右条例第三条第二項に基づいて前記のとおり立
会演説会を開催しなかつたものである。
 (3)、 公職選挙法(以下、単に「法」ともいう。)第一六〇条の二第一項
は、「市町村長の選挙については市町村は、第百五十五条から第百五十八条の二ま
での規定に準じて、条例の定めるところにより、公営の立会演説会を行うことがで
きる。」旨規定し、市町村長の選挙については公営の立会演説会を行うか否かを任
意制としているが、市町村が条例を制定して右立会演説会を行うこととする場合に
は、その条例は法第一五五条から第一五八条の二までの規定に準じて定められなけ
ればならず、法第一五八条の二に規定する場合以外には必ず立会演説会を行わなけ
ればならないのである。したがつて本件選挙における如く立会演説会の参加申込を
した候補者が一人であるからといつて立会演説会を行わないことは許されないもの
というべきである。けだし、公営の立会演説会制度が設けられた趣旨は、第一に、
各候補者の人物、識見、政見等を公正にすべての選挙人に周知させ、有権者が候補
者を自主的に選択する機会を得ることができること、第二に、候補者は各自で聴衆
を集める必要がなく労力と費用を節減しうること、以上の点にあり、この意味にお
いて立会演説会の制度は、選挙権および被選挙権を実質的に保障する重要な制度で
あると考えられるので、この趣旨目的に徴すれば、前記のように解釈すべきことは
明らかである。殊に本件選挙におけるごとく、現職の町長と原告との二人のみが立
候補した場合において、相手方候補者が立会演説会に参加申込をしないからといつ
て立会説演会を開催しないとすれば、現職で資力もある相手方候補者のみが選挙に
おいて有利であり、原告のように資力もなく(原告は公明な選挙運動をなすべく、
運動員も雇わず最低の費用で選挙運動に臨み、公営立会演説会の開催に期待をかけ
て参加申込をしたのである。)、知名度も低い候補者は決定的に不利となり、町民
に広く自己の政見等を訴える機会を全く封じられ、選挙人も立会演説会に出席して
候補者の意見を聞く権利を奪われる結果となる。それ故、A町長選挙立会演説会条
例第三条第二項の規定は、法第一六〇条の二第一項、第一五八条の二の各規定に違
反し、無効であるといわなければならず、右条例の規定に依拠して立会演説会を開
催することなく行われた本件選挙は公職選挙法の右規定に違反するものというべき
である。
 (4)、 仮りに、A町長選挙立会演説会条例第三条第二項の規定が法第一六〇
条の二第一項、第一五八条の二の各規定に違反しないとするも、市町村長の選挙に
ついて立会演説会の開催に関する条例の制定を市町村に委ねている法第一六〇条の
二の規定は憲法第一四条第一項、第一五条第一項、第三項、第九三条第二項に違反
し無効というべきである。けだし、公営立会演説会制度は、民主政治の根幹をなす
選挙において、選挙権および被選挙権を実質的に保障する最も重要な制度であり、
選挙人にとつては、右制度が候補者の人格、政見を適確に把握するうえで最も有効
な手段であり、特に市町村長選挙のような狭い領域における地方選挙では、立会演
説会のほかに候補者の政見等を知る機会は少ない反面、買収饗応などの金力による
選挙運動が多い実情にかんがみ、国会議員の選挙にも増して立会演説会の必要性は
大きいのであり、また、候補者にとつては、個人演説会の開催は労力、経費の面で
非常な負担であり、特に本件のような町長選挙で無資力の原告が個人演説会を行う
ことは不可能であるので、もしも立会演説会が開催されないとすれば、財力のある
対立候補者を不当に利する結果となるのである。従つて、法第一六〇条の二の規定
は、選挙権の適正な行使を著しく阻害するので憲法第一五条第一項・第三項、第九
三条第二項に違反するといわなければならず、他面、金力のある候補者に不当な利
益をもたらし候補者間に著しい不平等を来たすので憲法第一四条第一項に違反する
ものといわなければならない。したがつて、A町長選挙立会演説会条例第三条第二
項の規定は無効であり、A町選挙管理委員会は法第一五八条の二に規定する場合以
外は立会演説会を開催すべきであつたところ、右条例第三条第二項の規定に基づい
て立会演説会を開催することなく本件選挙を執行したのは、法第一五八条の二の規
定に違反するものといわなければならない。
 (5)、 しかして、本件選挙においては、原告は得票数四七九票で落選し、B
が得票数三八四五票で当選したのであるが、もしも立会演説会が行われていたなら
ば、町政に批判のあつた折から、選挙の結果に影響を及ぼし原告がむしろ有利とな
つたことは明らかである。
 (6)、 以上の如く、本件選挙においては、上記のような選挙の管理執行に関
する規定違背が存し、右の違法は本件選挙の結果に異動を及ぼす虞があることが明
らかであるから、本件選挙は、無効であるといわなければならない。よつて請求趣
旨記載のとおりの判決を求める。
 被告代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。
 原告主張の請求原因(一)の事実、同(二)の(1)、(2)の各事実、および
同(二)の(5)の事実中、Bおよび原告がそれぞれ原告主張の得票数で当選およ
び落選したことは認めるが、その余の事実は争う。立会演説会はその字句の示すと
おり二人以上の候補者が参加して演説することを想定されたものであり、参加申出
人が一人の場合は立会演説会は成立しないと解される。A町長選挙立会演説会条例
第三条第二項の規定は右の点につき疑義を残さないようにしたでであつて、法第一
六〇条の二第一項、第一五八条の二の規定に違反するものではない。市町村長の選
挙についての立会演説会は、法第一六〇条の二第一項の規定により市町村の条例の
定めがある場合に行われるもので、原告主張のように法第一五八条の二に規定する
場合以外には必ず行われなければならないものではない。また、法第一六〇条の二
の規定が法の下の平等に違反するとか公務員選定の国民固有権を無視するとか地方
公共団体の条例制定権に違反するものと解することはできない。
 証拠として、原告訴訟代理人は、甲第一ないし第一一号証(ただし甲第一号証は
写で)を提出し、被告代理人は、甲第一号証は原本の存在およびその成立を認め
る、同第二ないし第一一号証はいずれも成立を認めると述べた。
         理    由
 一、 原告主張の請求原因(一)の事実は当事者間に争がない。
 二、 原告は本件選挙につき無効原因が存する旨主張する。ところで、公職選挙
法第二〇五条第一項にいう選挙の無効を来すべき「選挙の規定に違反する」とは、
主として選挙の管理執行に関する明文の規定に違反するとき、または直接かような
明文の規定はないが、選挙法の基本理念たる選挙の自由公正が著しく阻害されると
きを指すものと解するのが相当である。そこで当裁判所は右のような見解を基礎と
して、本件において原告が選挙無効の原因として指摘する点について判断する。
 (一)、 本件選挙において原告とBの二名が立候補したものであるところ、A
町選挙管理委員会は選挙期日の告示の日(昭和四四年一月八日)に、立会演説会を
同月一三日午後二時よりC公民館において開催する旨を告示し、かつ原告に対して
右立会演説会への参加を申し込むよう通知したこと、原告は、即日、参加の申込を
したが、Bにおいて参加の申込をしなかつたので、同選挙管理委員会は同月一一
日、立会演説会に参加申込をした者が原告一人のみであることを理由にA町長選挙
立会演説会条例第三条第二項の規定により右立会演説会は開催しない旨原告に通知
し、結局立会演説会を行わないまま本件選挙を執行したことは当事者間に争がな
い。しかして、成立に争のない甲第六号証の記載によれば、本件選挙当時施行のA
町長選挙立会演説会条例(昭和三〇年条例第三四号)には、その第一条に、「A町
の選挙について公職選挙法第一六〇条の二およびこの条例の定めるところによつて
公営の立会演説会を開催するものとする」旨、第三条には、「立会演説会に加わろ
うとする候補者は、A町選挙管理委員会に対し、その指定する期日までにその旨を
申し出なければならない」旨(第一項)、「前項の規定によつて申し出をした者が
一人である場合(死亡又は候補者たることを辞したため申出をした者が一人となつ
た場合を含む)においては当該立会演説会は開催しないものとする」旨(第二
項)、各規定されていることが明らかであるところ、本件選挙においては、前示の
とおり、二名の立候補者のうちB候補において立会演説会への参加の申出をせず、
参加の申出をしたのは原告一人のみであつたのであるから、A町選挙管理委員会が
右立会演説会を開催しなかつたことは、右条例第三条第二項の規定に準拠する措置
であつたものと認められる。
 (二)、 原告は、前記条例第三条第二項の規定は法第一六〇条の二第一項、第
一五八条の二の各規定に違反し無効である旨、および然らずとするも法第一六〇条
の二の規定は憲法第一四条第一項、第一五条第一項、第三項、第九三条第二項の規
定に違反し無効であるがら前記条例第三条第二項の規定は無効である旨各主張する
ので、以下この点について検討する。
 公営立会演説会の制度は選挙人に対する関係では各候補者の人物、政見等を直接
的に見聞してこれを比較判断しもつて候補者の選択をなしうる利便を与えると共
に、他方候補者に対する関係においても選挙運動の費用および労力の節減に役立つ
ばかりでなく、自己の政見等を選挙人に周知せしめるについて利便をもたらすもの
であるところから、公職選挙法は、選挙の規模の大きい衆議院議員、参議院(地方
選出)議員および都道府県知事の選挙について公営の立会演説会の開催を義務制と
する一方(法第一五二条以下)、市町村長の選挙については、それぞれの市町村が
法第百五十五条から第百五十八条の二までの規定に準じて、条例の定めるところに
より、公営の立会演説会を行うことができる旨規定し(法第一六〇条の二第一<要
旨>項)、いわゆる任意制の公営立会演説会制度を採用している。しかして、公職選
挙法が市町村長の選挙について任意制公営立会演説会の制度を採用すること
としたのは、公営立会演説会の制度は選挙人および候補者にとつて前記のような利
便をもたらすものではあるが、これを行う市町村にとつては相当の費用を負担せし
める結果となるので、当該市町村自身が、それぞれの財政事情、選挙区の広狭、選
挙人および候補者の数の多寡等諸般の事情を勘案のうえ、自主的な意思によつてそ
の採否を決定するのが適当であるとの趣旨によるものと解される。市町村が公営の
立会演説会を行うには条例をもつて法第一五五条から第一五八条の二までの規定に
「準じて」その手続・内容を定めなければならないことは法第一六〇条の二第一項
の規定するところであるが、同項にいう「準じて」とは必ずしも「準用」の意味に
限定して解すべきではない(この点は同条第二項の規定と対比すれば明らかであ
る)。市町村が公営の立会演説会を行う以上、候補者の政見を公正かつ平等に選挙
人に周知せしめるべき選挙公営制度の本旨に反するが如き手続・内容の条例を定め
ることはもとより許されないところであるけれども、右の本旨に反しない限りは、
法第一五五条から第一五八条の二までの規定と異なる内容を条例に定めることも、
任意制公営立会演説会制度の設置の趣旨にかんがみ、許されるものと解するを相当
とする。しかしてA町長選挙立会演説会条例第三条第二項は、前示のとおり、立会
演説会への参加を申し出た者が一人である場合(死亡又は候補者たることを辞した
ため申出をした者が一人となつた場合を含む)においては立会演説会は開催しない
旨規定し、立会演説会に参加申込をした候補者が一人である場合をも立会演説会の
開催の中止事由としているのであるが、右の如き定めが公正かつ平等を旨とする選
挙公営制度の本旨に反するとは認められないし、また公職選挙法において市町村長
の選挙につき法第一五八条の二の規定を準用すべき明文の規定は存しないから、右
条例第三条第二項の規定は法第一六〇条の二、第一五八条の二の各規定に何ら牴触
しないものと解すべきである。右と見解を異にし立会演説会の開催を中止しうる場
合は法第一五八条の二の規定する場合のみに限られるべきであるとする原告の主張
は採用しがたい。公営立会演説会の制度が現行の選挙公営制度の中で最も重要な役
割を有することは原告主張のとおりであるけれども、市町村長の選挙について任意
制の立会演説会制度を採用した法第一六〇条の二の趣旨に照らすときは、右条例の
規定が法第一六〇条の二、第一五八条の二の各規定に違反するとはいえない。ま
た、市町村長の選挙について公営の立会演説会の開催に関する条例の制定を市町村
の自主的判断に委ねている法第一六〇条の二の規定が合理的な根拠を有すること
は、すでに説示したところによつて明らかであるから、同条の規定が憲法第一四条
第一項、第一五条第一項、第三項、第九三条第二項の各規定に違反し無効であると
する原告の主張も採用することはできない。
 三、 そうすると、A町長選挙立会演説会条例第三条第二項の規定は有効であつ
て、本件選挙において、A町選挙管理委員会が右条例第三条第二項の規定に準拠し
て立会演説会を開催しなかつた措置は、なんら選挙の管理執行に関する規定に違反
するところはないというべきであるがら、被告が右選挙の効力に関する原告の審の
管査申立を棄却したのは相当である。したがつて右裁決の取消と本件選挙の無効宣
言を求める原告の本訴請求は理由がなく、失当として棄却すべきである。
 よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決
する。
 (裁判長裁判官 兼築義春 裁判官 井田友吉 裁判官 桜井敏雄)

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