弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人垣鍔繁、同森本清一の上告理由について。
 原判決は、被上告人は、昭和三二年一一月頃訴外Dを介してE、F(いずれも第
一審において上告人の相被告)の両名に対し本件土地を売却することにしたが、当
時本件土地は農地であり直ちに売買契約を結べないので、Fにおいて実地検分をし
たうえ、将来宅地となり値上りする可能性があるとして、同年一二月一四日被上告
人を売主、金子両名を買主とし、代金を四五万円とする売買予約が成立したこと、
本件士地は農地法六一条の規定により昭和二九年七月一日被上告人が国から売渡を
受け、開墾完了時を昭和三二年六月三〇日と指定されていたので、右指定開墾完了
時より三年経過前に所有権移転をしようとする場合には同法七三条による農林大臣
の許可を要し、三年後の所有権移転についても県知事の許可を要するものであると
ころ、右予約は右の如き許可を停止条件とするものではないこと、Fは薬局経営を
業とし本件農地を農耕のために買い受けることを目的としたものではなく、将来宅
地に変更した場合の値上りをねらつて予約を結んだにすぎないいわば投機的のもの
であつたこと、以上の事実を認定したうえ、右のような売買予約は、農地法の法意
に反する違法のもので無効であるというのである。
 しかしながら、本件土地のような農地の売買の予約についても、右の如き許可を
停止条件とする旨の付款を要するものではなく、右のような条件を付していないか
らといつて、直ちに右予約が無効となるものではないし(最高裁判所昭和三九年(
オ)第六一四号同四〇年七月六日言渡第三小法廷判決、裁判集民事七九号六九一頁
参照)、農地法六一条の規定により国から農地の売渡を受けた者であつても、指定
開墾完了時より三年を経過した後には、都道府県知事または農林大臣の許可を得た
うえ、当該農地を農地以外のものに転用するためその所有権を他に移転することが
できるから、右期間経過前に、将来所有権の移転が可能となつたときに完結する約
定のもとに、当該農地につき売買の予約をした場合、その買受人が農地取得資格を
有せず、これを農地以外のものにする目的で買い受け、しかも、その真意が当該農
地が宅地に変更された場合の値上りによる利得にあつたとしても、これらの事実を
もつて直ちに右予約が農地法の法意に反し無効であるとはいえない。そして、原審
の確定する前記事実関係によれば、本件売買の予約は、右に説示したような趣旨の
予約と認めるのが相当であるから、原判決には、法令の解釈適用を誤つた違法があ
るというべきである。
 すすんで、原判決は、前記理由に付加して、上告人の売買予約権の譲受けに対し
て被上告人の承諾があつた旨の主張に対し、予約上の買主たる権利義務の承継につ
いては、予約上の売主である被上告人の承諾を要するものと解すべきところ、この
点につき被上告人の承諾があつた旨の一審における証人Dの証言(第一、二回)は
措信できないし、他に右承諾のあつた事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて
一審における証人Gの証言および被上告人本人尋問の結果によれば、上告人の直接
被上告人に対する本件土地所有権移転請求権保全の仮登記の経由されたことは被上
告人において知らなかつた事実が認められると判示して、上告人の主張を排斥して
いるのである。
 しかしながら、成立に争いのない乙第一号証の一(封筒)、二(手紙)には、被
上告人がDに対し本件土地につき仮登記手続をするために要する印鑑証明、委任状
等を交付する旨の記載があり、この書証は、右承諾の有無を認定するにあたり、重
要な証拠と考えられる。ところが、原判決は、これについてなんら首肯するに足り
る理由を示すことなく、承諾の事実を認めるに足りる証拠はないとして、上告人の
主張を排斥したのは、審理不尽、理由不備の違法があるといわなければならず、結
局論旨は理由がある。
 したがつて、原判決は破棄を免れないが、さらに審理を尽くさせるため、本件を
原審に差し戻すのを相当とする。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   田       誠
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三

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